Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Case Report
A Case of Lung Cancer: Malignant Pericardial Effusion Which Was Drained by Subcutaneously Placed Port System
Hisashi WakayamaYuto HiramatsuJunji TanahashiDaisuke SuenagaYusuke TakagiMihoko ImaiKaoru MurotaYukihiko Yoshida
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2019 Volume 14 Issue 3 Pages 215-219

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Abstract

【背景】癌性心膜炎に伴う心囊水貯留はドレナージを要することが多いが,心囊穿刺は心囊水が少量の場合は危険を伴い,繰り返し行うことは困難である.【症例】71歳男性.2012年に非小細胞肺がんと診断.術後再発をきたし化学療法を繰り返した.癌性心膜炎を合併し2018年6月に心囊ドレナージを施行した.化学療法を再開したが2018年8月に再度心囊水の貯留をきたし,呼吸困難が増悪した.頻回の排液を要すると予想され,心囊内に皮下埋込型ポートを留置した.それ以後,心囊水を適宜排液して呼吸困難に対処した.次第に心囊水を排液しても循環動態が保てなくなり,術後36日で死亡に至った.【考察】癌性心膜炎の心囊穿刺を繰り返すのは困難であり,心囊ドレーンを皮下埋込型ポートとして留置し,適宜排液すれば安全に呼吸困難の緩和が続けられ,患者のQuality of Life(QOL)維持に有用と思われる.症例数を蓄積してさらなる検討が望まれる.

緒言

癌性心膜炎は,がんの進行に伴い心囊内に腫瘍細胞が浸潤,播種することによって生じる奬膜炎の一つで,胸部に原発する肺がんや乳がんに由来することが多い.心囊水貯留が高じれば心臓の動きを制限して心タンポナーデに至ることも多く,呼吸困難の緩和のためしばしば心囊ドレナージが必要となる1).心囊ドレナージを行って心囊水が排液されればドレーンを抜去することになるが,再度心囊水が貯留すれば再び心囊ドレナージを考慮することになる.しかし,心囊穿刺は心囊水が少量の場合は心臓を傷つける危険を伴い,癒着の形成も懸念されるため,繰り返し施行することは困難である.

心囊ドレーンを持続的に留置すれば排液を繰り返すことが可能となるが,心囊ドレナージを続けた状態では退院することは難しく,一般に患者のQuality of Life(QOL)を保つことはできない.一方,中心静脈内にカテーテルを留置し,皮下に穿刺を繰り返すデバイスを埋め込んで,必要なときにのみ静脈ルートを確保して薬剤投与などに利用する手技(皮下埋込型中心静脈ポート)が確立されている2)

われわれは,心囊ドレーンに皮下埋込型ポートを接続し,患者のQOLを保ちながら心囊水の排液を繰り返した肺がんの症例を経験した.癌性心膜炎の症状緩和の方法の一つとして貴重な症例と考え,ここに報告する.

症例提示

71歳,男性.2012年に非小細胞肺がんと診断し,左肺上葉切除術施行.2013年3月に縦隔リンパ節腫大が出現,術後再発として以降化学療法を繰り返した.

2018年6月に徐々に心囊水の増加を認め,癌性心膜炎として循環器内科で心囊ドレナージを施行.心囊水の全排液が得られたのち,ドレーンは抜去した.心囊水の細胞診では腺癌細胞陽性と報告され,EGFR,EML4-ALKの遺伝子変異を検索したがいずれも陰性であった.殺細胞性抗がん剤の投与を再開したが効果は得られず,心囊水は再度増加の傾向となった.

2018年8月18日ごろから労作時の呼吸困難の増悪あり,平地を歩くことも困難となってきた.心囊水の著明な増加を認め,8月27日循環器内科に入院となった(図1).今後も頻回の心囊水排液を要すると予想されたが,長期間心囊ドレーンを留置したのでは患者のQOLの妨げになるため,心囊ドレーンを皮下埋込型ポートに接続し,適宜穿刺,排液を繰り返す方針とした.事前に循環器内科と皮下埋込型中心静脈ポートの留置に習熟している外科が相談し,8月28日,循環器内科医がエコーガイド下で心窩部よりマイクロパンクチャー法にて穿刺し淡血性の心囊水が排液されるのを確認,透視下にてワイヤリングし造設用のシースを挿入,ANTHRON P-U catheter(ソフトタイプ,単孔,6.0 Fr,30 cm)(東レ・メディカル,東京)を心囊内に挿入,次いで外科医が皮下ポケットを作成し,皮下埋込型ポートP-U Celsite port(large size)(東レ・メディカル)をドレーンと接続して心窩部皮下に留置,皮膚を閉鎖した.手技は局所麻酔のみで終了することができ,鎮静剤などの投与は不要であった.8月30日退院,それ以後は呼吸困難の増悪があったときには適宜ポートに穿刺して心囊水を用手排液,呼吸困難を緩和した(図2).

ペメトレキセドによる化学療法を再開し,呼吸困難が増悪すると外来受診し心囊水を適宜排液することを繰り返していたが,次第に心囊水の貯留速度が速まり,外来通院もままならない状態となった.

9月23日に呼吸器内科に入院.心囊水を適宜排液しても呼吸困難の緩和は得られず,塩酸モルヒネ5 mg/日の投与を開始した.心囊水は最後まで排液されていたと思われるが,癌性胸膜炎,肝転移の増悪から多臓器不全に陥り,術後36日の10月3日,死亡に至った(図3).

図1 2018年8月27日入院時の胸部X線写真

著明な心陰影の拡大を認める.

図2 2018年9月7日の胸部X線写真

心陰影の拡大は軽減している.矢印は皮下埋込型ポート,矢頭はドレーンを示す.

図3 経過表

術後病日と排液量を示す.

考察

癌性心膜炎は胸部に原発する肺がんや乳がんの進行期に生じることの多いがん合併症であり,心囊水貯留をきたす.心囊水は少量であれば無症状のことも多いが,高じれば心臓の動きを制限して心タンポナーデに至る.癌性心膜炎の合併はがん患者のQOLを大きく制限し,ときには生命予後を決める1)

呼吸困難の緩和のためしばしば心囊ドレナージが必要となり,心囊ドレナージを行って心囊水が排液されれば自覚症状は緩和され,循環動態も回復する.心囊内に薬剤を注入して心囊水の再貯留を防ぐ方法が報告されているが2),その有効性についてはいまだ確立されておらず,排液を済ませて症状が改善すればドレーンを抜去することが一般的である.心囊水を全排液しただけで,物理的に接触した心膜が癒着をきたして再貯留してこないときもあるが,癌性心膜炎の状態は変わった訳ではなく,再度心囊水が貯留することも少なくない3).しかし,心囊穿刺は心囊水が少量の場合は心臓を傷つける危険を伴い,心膜癒着の形成も懸念されるため,繰り返し施行することは困難である.心膜開窓術が考慮されるときもあるが,心臓外科医によって行われる全身麻酔が必要な心膜開窓術は,予後の限られているがん患者で,とりわけ循環動態にリスクのある癌性心膜炎の患者では実際に適用できる症例は少ないと思われる.

心囊ドレーンを持続的に留置すれば排液を繰り返すことが可能となるが,心囊ドレナージを続けた状態では退院することが難しく,一般に患者のQOLを保つことは困難となる.また,経皮的にカテーテルを留置する以上,細菌感染のリスクも懸念される.

一方,中心静脈内にカテーテルを留置し,皮下に穿刺を繰り返せるデバイスを埋め込んで,必要なときにのみ静脈ルートを確保して薬剤投与などに利用する手技が確立されている4).心囊ドレーンに皮下埋込型ポートを接続すれば,患者のQOLを保ちながら心囊水の排液を繰り返すことが可能となる.

今回われわれは,肺がんに伴う癌性心膜炎に対し心囊ドレーンを皮下埋込型ポートとして留置し,適宜排液した症例を経験した.2度目の心囊穿刺となるため心膜癒着の形成も懸念され穿刺自体に初回よりも合併症のリスクが高いと思われたが,循環器内科医が心囊ドレナージの手技を行い,次いで皮下埋込型ポート留置を中心静脈内に行っている外科医がポート留置の手技を担当,安全に心囊内皮下埋込型ポートの留置が可能であった.それぞれの手技自体は確立されており,同様な条件を備えた全国のがん診療連携拠点病院等の医療施設では同手技の実施が可能と思われる.留置直後に1950 mlを排液し,以後は約1週の間隔で3回外来にて排液を繰り返した.その間は安全に呼吸困難への対応が可能であり,患者のQOL維持に有用であった.しかし,次第に心囊水貯留の速度が速くなり,術後第26病日に再入院,隔日で約400 mlの排液を繰り返しても,胸水の増加,肝転移の増悪があって全身状態の悪化を招き,比較的短期間で死亡に至った(図3).

こうしたがんに伴う奬膜炎のドレナージに皮下埋込型ポートを用いた報告は,われわれが調べた限りでは,肺がんによる癌性胸膜炎に対して胸腔内にポートを留置した症例5),癌性心膜炎に対して心膜開窓術を行い胸腔内と交通させて胸腔内にポートを留置した症例6)の報告が認められた.われわれの症例と同様に心囊ドレナージにポートを用いた症例報告は1例7)のみで,カテーテル留置から原病死する術後79日までに計8回の随時排液を行ったと報告されていた.われわれの症例では,それより頻回の術後36日までに計11回の随時排液を行った.有用性,安全性について,症例数を蓄積してさらなる検討が望まれる.

結論

癌性心膜炎の心囊穿刺を繰り返すのは困難であり,心囊ドレーンを皮下埋込型ポートとして留置し,適宜排液すれば安全に呼吸困難の緩和が続けられ,患者のQOL維持に有用と思われる.症例数を蓄積してさらなる検討が望まれる.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

若山は研究の構想およびデザイン,原稿の起草に貢献;平松,棚橋,末永,高木,今井,室田,吉田は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

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