Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Clinical Practice Report
The Peer Support Experience of AYA Hiroba: A Get-together for Adolescents and Young Adults with Cancer
Takatoshi HirayamaRebekah KojimaChisato IkedaRyoko UdagawaMariko KobayashiAkie ShindoMoeko TanakaYuko YanaiHiroto IshikiKen ShimizuEriko Satomi
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2019 Volume 14 Issue 3 Pages 221-226

Details
Abstract

思春期若年成人(Adolescent and Young Adult: AYA)世代のがん患者は,院内で同世代の患者と交流する機会が乏しいため,2016年よりAYA世代のがん患者の交流の場「AYAひろば」を月1回開催している.その満足度と効果を調べるため行ったアンケート調査(延べ130名中97名)の結果は,男性/女性 38/59名,年齢中央値29(14~39)歳,外来/入院 31/66名,初回/2回目以上 42/55名,がん診断は肉腫45名,悪性リンパ腫11名,脳腫瘍9名,胚細胞腫瘍7名,白血病6名,悪性黒色腫5名,乳がん3名,神経芽細胞種3名,ウィルムス腫瘍2名,肺がん・子宮頸がん・咽頭がん・舌がんがそれぞれ1名(無記入2名)であった.参加者は「とても満足」(61.7%), 「とても役立った」(65%)と回答し,感想から,同世代との交流・気分転換・情報の獲得の3つの点で効果が示唆された.

背景・目的

思春期若年成人(Adolescent and Young Adult: AYA)世代は,就学・就労・恋愛・結婚・出産などさまざまなライフイベントに直面する年代である.また,子どもから大人への移行期であり,変化や成長の著しい不安定な時期である1).したがって,疾患や治療のことに加えてライフイベントや思春期ならではの心性に関する個別性の高い悩みや不安を抱きやすく2),希少がんが多いため情報が不足しやすい3).AYA世代のがん患者は疾患の精査,がん告知,初回治療など治療経過において最も重要で不安を抱きやすい時期を病院で過ごさなければならない.しかし,AYA世代のがん患者は院内で同世代の患者と交流する機会が乏しいのが現状である.

国立がん研究センター中央病院では,2014年に希少がんセンターが開設され電話相談事業の開始に伴い全国から多くの希少がん患者が集まり,AYA世代の入院患者が増加した.これらの変化により,医療現場では多くのスタッフがAYA世代のがん患者に望ましい対応について意識するようになり,AYA世代のがん患者への心理社会的支援の必要性,そしてそれを担う多職種チーム医療のニーズが高まった.そこで,医師,看護師,薬剤師,心理療法士,管理栄養士,ホスピタルプレイスタッフなどAYA世代のがん患者に対する心理社会的支援に意欲的な医療者が集まり,2015年10月よりAYAサポートチームを設立し入院中のAYA世代のがん患者を対象に支援活動を開始した.

病院全体でAYA世代のがん患者が増加しても病室や病棟が異なると院内で同世代の患者同士が交流する機会はなく,AYA世代のがん患者は高齢の患者に交じって孤立していた.医療者としての立場上,患者同士を直接的に橋渡しすることは難しいなかでAYA世代の患者同士が院内で自発的に交流する機会の提供を検討した.そこで,2016年5月よりAYA世代のがん患者同士の交流の場「AYAひろば」を立ち上げ,定期的に開催している.

本調査は,AYAひろばの参加者に毎回終了後に実施したアンケート結果をもとに,AYA世代のがん患者の交流の場に関する満足度とその効果を調べる目的で行った.

方法

AYAひろばの内容

AYAひろばの内容を表1に示すが,当院に通院または入院中の15~39歳のAYA世代のがん患者を対象に毎月第2木曜日の15時から1時間,定期的に開催している.予約は必要なく,自由に参加可能である.基本的には,その日に参加した患者が話したいテーマを自由に話す.最近観た映画や好きな音楽の話,受験や就職,結婚が話題になることもあれば,抗がん剤の副作用の対処法,治療による生殖機能への影響について話す場合もある.友人や職場の人に病気のことを話しているか,家族との付き合い方も話題になることが多いテーマである.

また,AYAサポートチームから毎回2名ファシリテーターが参加し,初対面の患者同士でもコミュニケーションが取りやすいよう会話のきっかけ作りをしている.AYAひろばが参加者に安心できる場として機能し,有意義な場の提供につながるようファシリテーターの心構えを①礼儀正しく,ルールに沿った対応をする,②雰囲気を感じ取って,全体に語る,③白衣は脱ぐ,④フィードバックは最小限にし,アイ(I)メッセージ(やんわり物事を指摘できるよう,「私は〜と感じた」と発言する)を使って建設的に対応する,⑤参加者の疑問や意見を求めてから「問いかけ」始める,⑥必要な物品は人数分あるかを確認する,とファシリテーターマニュアル(小嶋および池田が作成)に定めている.

表1 AYAひろばの内容

アンケート調査の内容・分析方法

毎回のAYAひろばの開催終了時に質問紙を用いてアンケート調査を行った.アンケート調査の内容は,①年齢,②性別,③疾患名,④治療形態(入院中あるいは通院中),⑤参加回数(初回あるいは複数回),⑥開催時間帯(「参加しやすい」「参加しにくい」「異なる時間帯が参加しやすい」),⑦1回あたりの長さ(「長すぎる」「ちょうどよい」「短すぎる」),⑧開催頻度(「月に1回」「月に2回」「週に1回」「その他」),⑨内容の満足度(「とてもよかった」「まあまあよかった」「あまりよくなかった」「全くよくなかった」),⑩有用度(「とても役立った」「まあまあ役立った」「あまり役立たなかった」「全く役立たなかった」)の10項目で構成される.これらの質問項目に加え,自由記述でAYAひろばに関する感想の記載欄を設けた.

分析方法として,質問項目の10項目について単純集計を行った.自由記述に関して,AYAひろばに関わる多職種で類似点および相違点に基づいて分類した.

倫理面への配慮

本調査はヘルシンキ宣言に則り,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(文部科学省・厚生労働省)」を順守し,調査研究実施に際しては国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院研究倫理審査委員会の承認を得て実施した.

結果

2016年5月から2019年5月までにAYAひろばを計33回開催し,延べ130名の患者が参加している.立ち上げ当初よりアンケート調査を行い,2017年10月から患者背景の調査も行っている4).2017年10月からは延べ97名が参加し,その内訳は,年齢中央値29(14~39)歳,男性 38名,女性 59名,外来通院中 31名,入院 66名,初回参加 42名,2回目以上 55名,がん診断は,肉腫45名,悪性リンパ腫11名,脳腫瘍9名,胚細胞腫瘍7名,白血病6名,悪性黒色腫5名,乳がん3名,神経芽細胞種3名,ウィルムス腫瘍2名,肺がん・子宮頸がん・咽頭がん・舌がんがそれぞれ1名(2名は無記入)であった.

AYAひろばに関するアンケート結果(表2)では,108名(90%)の参加者が15時からの開催時間は「参加しやすい」と回答し,115名(96.6%)の参加者が1時間という長さを「ちょうどよい」と回答した.開催を希望する頻度は,月2回が61名(53.5%)で最多であった.内容に関して「とてもよかった」が74名(61.7%)と最多で,有用度に関して「とても役立った」が78名(65%)で最多であった.

また,自由記述の感想(表3)では,すべての感想は「同世代との交流に関すること」「気分転換に関すること」「情報の獲得に関すること」の3つのカテゴリーに分類された.

表2 AYAひろばのアンケート結果(2016年5月から2019年5月まで,無記入等で欠損あり)
表3 AYAひろばの感想

考察

自由記述の感想(表3)では,「同世代との交流に関すること」「気分転換に関すること」「情報の獲得に関すること」のそれぞれのカテゴリーについて肯定的な意見が聞かれた.AYAひろばは,単に同世代同士の交流の場というだけでなく,病院の中での気分転換の場,情報獲得の場として機能していることが示唆された.また,アンケート結果(表2)からAYAひろばのニーズは高く,『病院の中にいながら「日常」を感じられる場所』として,同世代の仲間と自身が話したいことを自由に話せる場として機能している.同世代の患者同士で気持ちを分かち合い,さまざまな考え方に触れることが病気や治療と向き合うきっかけになる可能性もある.

一方で,AYAひろばには課題がある.アンケート結果(表2)のように月に2回の開催を希望する声が多いが,臨床業務の合間を縫ってファシリテーターが交代で時間を割いており,即座に頻度を増やすのは難しい.現実的な解決策として,AYAサポートチーム以外の関心のある医療者やボランティアに協力を依頼するなどが考えられる.しかし,頻度を増やしても日程が合わず参加できないという状況は変わらない.AYA世代のがん患者はソーシャルメディアを情報源として有用と考え5),オンライン上のコミュニティが有用であるという6)報告もあり,今後はオンラインを活用した交流の場の構築も検討する必要がある.

本活動報告の限界として,①参加者のデータが延べ人数で算出されていること,②自由記述の感想ではAYAひろばの課題を抽出できていないこと,が挙げられる.①については,ニックネームでの参加を可としていることが主な要因と考えられる.正確なデータを抽出して解析するためには個人を特定して調査を行う必要があるが,参加者が参加しやすいよう工夫することも大切であるため今後検討が必要である.②については,参加直後のアンケート調査であるため否定的な意見が抽出しづらく,実際に表3のように肯定的な意見ばかりが記述されている.内容の改善のためにも,アンケートにAYAひろばの課題を記載する欄を設けるなどして,今後課題の抽出に取り組んでいく必要がある.

結論

今回の調査において,思春期若年成人がん患者の交流の場「AYAひろば」のニーズは大きく,参加者の満足度も高いことが明らかになった.今後もAYA世代のがん患者同士が安心してコミュニケーションできる場として運営し,開催頻度などの課題に取り組んでいく必要がある.

謝辞

本研究は,国立がん研究センター研究開発費(30-A-13), 日本対がん協会2018年度リレー・フォー・ライフ・ジャパン「プロジェクト未来」研究助成金,がん研究振興財団平成30年度がんサバイバーシップ研究助成金の支援を受けて行われた.

利益相反

里見絵理子: 講演料(日本ライフライン株式会社,第一三共株式会社,アボットメディカルジャパン株式会社,バイエル薬品株式会社),共同研究費(バイオトロニックジャパン株式会社)

清水研:受託研究費(株式会社ツムラ)

その他:該当なし

著者貢献

平山は研究の構想およびデザイン,研究データの収集・分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献; 小嶋は研究の構想およびデザイン,研究データの収集・分析,原稿の起草に貢献; 池田,宇田川,小林,新藤,田中,栁井は研究データの収集・分析,原稿の起草に貢献; 石木は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献; 清水,里見は研究の構想・デザイン,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2019 by Japanese Society for Palliative Medicine
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