Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Case Report
Hydromorphone Switching Failure from Continuous Subcutaneous or Intravenous Infusion to Oral Preparation in Cancer Patients with Pain: A Retrospective Case Series
Mieko OtoYukari SatsumaSetsuko UmedaTakuya ShinjoTetsuo NishimotoHiroaki IkesueNobuyuki MuroiTohru Hashida
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2020 Volume 15 Issue 2 Pages 147-151

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Abstract

がん疼痛に対して,ヒドロモルフォン注射剤から投与を開始し鎮痛効果を評価した研究は少なく,注射剤と経口剤の換算比を検討した研究もほとんどない.そこで,中等度から高度のがん疼痛を有する患者において,ヒドロモルフォン注射剤から経口剤に変更する際の換算比の検討を目的とし,症例集積調査を行った.2018年7月から2019年12月に,ヒドロモルフォン注射剤から経口剤へ変更した入院がん患者を対象とし,1:5の換算比で変更した後の鎮痛効果と副作用の発現状況を調査した.対象患者6例のうち3例では適切な鎮痛効果が得られたが,1例で鎮痛効果が不十分で増量を要し,2例で有害事象の眠気が出現し減量を要した.この結果より,ヒドロモルフォン注射剤から経口剤に変更するときは,症例ごとに変更後の鎮痛効果と有害事象を慎重に観察し,投与量を調節する必要性が示唆された.

緒言

がん疼痛は,患者にとって苦痛の強い症状の一つで,進行がん患者の50%にみられる1).とくに,中等度から高度の疼痛は30〜50%の患者に認められ,日常生活を妨げる2).ヒドロモルフォンは,海外では1926年から使用されているモルヒネ誘導体であるが,わが国では2017年6月に発売された.ヒドロモルフォンはモルヒネやオキシコドンと比較して,鎮痛効果の違いはほとんどない3).しかし,がん疼痛に対して,ヒドロモルフォン注射剤から投与を開始し鎮痛効果を評価した研究はモルヒネやオキシコドンと比較して少なく,注射剤と経口剤の換算比を検討した研究もほとんどない4).ヒドロモルフォンの経口剤から注射剤への換算比は5:1とされているが57),注射剤から経口剤への換算比は確立しておらず,論文や総説によって1:2~5(ヒドロモルフォン注射剤1 mgは,経口剤2~5 mgに相当する)と広い範囲で報告されている4,8,9)

そこで本報告では,中等度から高度のがん疼痛のある患者において,ヒドロモルフォン注射剤から経口剤に変更する際の換算比を検討することを目的とした.

方法

2018年7月から2019年12月に,当院(神戸市立医療センター中央市民病院,768床,診療科34;緩和ケア内科を含む)に入院した患者のうち,ヒドロモルフォン注射剤から経口剤へ変更した患者を対象とした症例集積調査(後方視的,記述的,カルテ調査)であり,ヒドロモルフォン注射剤が当院で使用できるようになってからの全例を連続的に調査対象とした.ヒドロモルフォン注射剤から経口剤への用量換算は,薬物動態(経口薬の吸収率には個体差がある)と生物学的利用率(10〜65%)を根拠に6,10,11),経口剤から注射剤の換算比5:1をもとに57),その逆の注射剤:経口剤=1:5とした.

調査項目は患者背景,ヒドロモルフォン注射剤に変更前のオピオイドの種類,ヒドロモルフォン注射剤に変更後の注射剤投与期間(日),Numerical Rating Scale(NRS; [0(痛みなし)〜10(最悪の痛み)])による疼痛評価,ヒドロモルフォン注射剤からヒドロモルフォン経口剤への変更後の投与量と,経口剤3日目の疼痛評価と,投与量の状況を調査した.対象患者の痛みの評価は,病棟看護師が1日3回,その時点の疼痛強度をNRSで患者に質問しカルテに記録しており,その記録されたNRSの最大値とした.すべての病棟看護師と病棟薬剤師は,継続的に緩和ケアチーム看護師,薬剤師より疼痛の評価の方法の指導が行われており,病棟看護師により記録された疼痛の評価を緩和ケアチームの医師,看護師,薬剤師が把握したうえで,オピオイド使用中の患者に対して,痛みの評価を再確認している.

本報告は,臨床研究に関する倫理指針に従い,当院の臨床研究審査員会の承認を得て実施した(zn190505).

結果

対象患者の背景を表1に示す.調査対象期間にヒドロモルフォン注射剤を使用した22例中,ヒドロモルフォン注射剤から経口剤へ変更した対象患者は6例,平均年齢58歳,肺がんが4例であった.対象患者のがん疼痛の原因は,骨転移が5例であった.オピオイド以外の鎮痛薬においては,ヒドロモルフォン注射剤から経口剤変更後も増減なく継続していた.また,前治療として入院前1カ月以内を記載したが化学療法の変更はとくになかった.ヒドロモルフォン注射から経口剤に変更する前後7日間で,化学療法・放射線治療・デノスマブを受けていた患者はいなかった.肝腎機能の検査値はヒドロモルフォン注射剤開始前3日以内の値である.腎機能はクレアチニンクリアランス(Ccr) >60 ml/min(n=4),Ccr 30~60 ml/min(n=1),Ccr <30 ml/min(n=1)であった.肝機能は1例(患者6)のみ肝機能障害(AST 76,ALT 95)があった.ヒドロモルフォン注射剤の投与経路は持続皮下注が3例(患者1, 5, 6),持続静注が3例(患者2, 3, 4)であった.

ヒドロモルフォン注射導入後の治療経過を表2に示す.ヒドロモルフォンの投与経路は,注射剤を投与してから,十分な鎮痛効果(NRS 0-3を目安)を確認した後に,経口剤に変更した.

患者1ではヒドロモルフォン経口剤6 mg/日に投与を変更後,3日目に鎮痛効果が不十分なため8 mg/日へ増量となった.患者5ではヒドロモルフォン経口剤30 mg/日を投与した3日目から眠気が徐々に強くなった.患者6ではヒドロモルフォン経口剤48 mg/日を投与した3日目から眠気が徐々に強くなった.肝腎機能は,経口剤に変更後7日以内に再評価され,すべての症例で悪化していないことを確認した.眠気のため,ヒドロモルフォン経口剤を減量した患者5, 6に,腎機能障害はなかった.また患者6では注射導入時には肝機能障害を認めたが,経口剤変更時には正常値に低下していた.

表1 対象患者の背景
表2 ヒドロモルフォン注射導入後の治療経過

考察

本報告において,ヒドロモルフォン注射剤から経口剤へ1:5の換算比で変更すると,3例は同量で継続可能であったが,1例で鎮痛効果が不十分で増量を要し,2例で有害事象の眠気が出現し減量を要した.注射剤から経口剤への換算比は患者間で異なる可能性が示唆されたが,投与量や肝腎機能との明らかな関連は認めなかった.

ヒドロモルフォン注射剤から経口剤へ変更する際の換算比を後方視的に検討した米国の単施設からの報告では,1:2.5での変更がより適切であることが示唆されている4).ただし,彼らの研究では,経口剤に変更後退院までの期間が中央値2日と短いことに加え,経口剤での定期内服量が定まらなかった患者や,退院1週間以内に疼痛コントロールのため投与量の変更や再入院を要した患者など約半数を除外しているため,結果を適応可能な患者は限られているとの意見もある12).本報告では,経口剤から注射剤への換算比は5:1が推奨されていることを根拠として,注射剤から経口剤への変更時も換算比1:5と仮定して切り替えた.その結果,数例の患者で適切な鎮痛効果が得られたものの,用量不足の患者や,過量による眠気が生じた症例もあったため,すべての患者に当てはまらない可能性が示唆された.5 mg/日以上の注射剤から経口剤に変更した3例のうち患者5,6では,眠気のために減量を要した.ヒドロモルフォンは生物学的利用率が10~65%と個体差が大きい薬剤であり6),換算比を目安としつつもこの個体差を考慮し,とくに多めの静注量から変更後はより慎重な鎮痛効果と副作用のモニタリングが望まれる.

これまで,ヒドロモルフォンとモルヒネ間のオピオイドスイッチングにおける換算比に関する後方視研究では,変更前のオピオイドの投与量は,換算比と関連がなかったと報告されており13),また換算比の個体差には,臓器障害,人種,年齢,性別などの影響が大きい14)ことが知られているが,本報告で検討したヒドロモルフォン注射剤から経口剤への変更時における換算比に関する情報は少なく,今後の研究が俟たれる.

本報告においてヒドロモルフォンの生物学的利用率は個体差が大きいことから,どのような換算比を採用しても,投与経路の変更前後で鎮痛効果や有害事象が変化する可能性を想定し,個々の反応性に応じて量を修正すべきであることが再確認された.

本報告の限界として,単一施設の後方視的な6例の少数報告であること,疼痛評価は複数の病棟看護師が行っており,入院中の活動レベルによる変動の影響や体動時痛が混在している可能性も完全には否定できず,必ずしも信頼性が高くないこと,後方視的な調査であり,肝機能および腎機能を評価する時期を厳密には統一できず,これらの影響が混在している可能性,ヒドロモルフォン注射剤の投与量と換算比の関連を検討できなかった点が挙げられる.

結論

ヒドロモルフォン注射剤から経口剤に変更するときは,換算比にかかわらず症例ごとに変更後の鎮痛効果,有害事象を慎重に観察し,投与量を調節する必要がある.

謝辞

本報告において診療に携わりご助言をいただきました李美於先生,熊野晶文先生に心より感謝致します.

利益相反

著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

大音および薩摩,新城は研究の構想およびデザイン,研究データの収集・分析,研究データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;梅田,西本,池末,室井,橋田は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2020 by Japanese Society for Palliative Medicine
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