Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
Original Research
Development of the Early Nutritional Intervention for Elderly Patients with Advanced Cancer: Details of Nutritional Intervention in the Multimodal NEXTAC-ONE Program
Toshimi InanoTeiko YamaguchiHaruka ChitoseAyuko UmezawaHiromu NagahashiMasami OkagakiTakashi AoyamaNaoharu MoriTakashi HigashiguchiKatsuhiro OmaeKeita MoriTateaki NaitoKoichi Takayama
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2020 Volume 15 Issue 2 Pages 71-80

Details
Abstract

【目的】本研究の目的は,進行がんを有する高齢者に対する集学的介入(NEXTAC-ONEプログラム)の栄養介入について詳細を示し,その忍容性を評価することである.【方法】初回化学療法を開始する70歳以上の進行非小細胞肺がんおよび膵がんを対象とし,8週間に3回の栄養介入を行った.標準的な栄養指導に加え,摂食に影響する症状,食に関する苦悩,食環境の問題への対処法を含めたカウンセリングを行い,分枝鎖アミノ酸含有の栄養補助食品を処方した.【結果】計30名の試験登録者のうち29名(96%)が予定されたすべての介入に参加し,遵守率については日記記載率90%,栄養補助食品摂取率99%であった.また治療期間中に栄養状態の悪化を認めなかった.【結論】悪液質リスクの高い高齢進行がん患者において,われわれの栄養介入プログラムは高い参加率と遵守率を有し,化学療法中の栄養状態の維持に寄与した可能性が示唆された.

緒言

がん悪液質とは,通常の栄養サポートでは完全に回復することができず,進行性の機能障害に至る,骨格筋量の持続的な減少を特徴とする多因子性の症候群であり1),食欲不振による経口摂取量の減少と骨格筋の代謝異常がその主病態である.進行がん患者においては最大8割の患者が悪液質を合併している2).がん悪液質の発生頻度はがん種により異なるが,非小細胞肺がんと膵がんは上位を占め3),膵がんによる悪液質患者は全身性炎症反応の亢進と身体活動性の低下を特徴とする4).がん悪液質が患者に及ぼすデメリットは高齢者においてより深刻であり5,6),例えば進行肺がんを有する高齢者では初診時にすでに約7割がサルコペニアを有し,筋力と歩行能力が地域高齢者と比して低く,容易に要介護状態になるリスクを有する7,8).がん悪液質は前悪液質,悪液質,不応性悪液質の病期に区分され1),できるだけ早期からの治療開始が推奨され1,913),栄養療法,運動療法,薬物療法を併用する集学的介入の必要性が示唆されてきた1417).しかし,非薬物治療の先行研究において,介入に対する低遵守率が課題で,主な原因は病状悪化,心理要因(自信喪失,動機喪失),環境要因(時間や通院の患者負荷)である1820).そこでわれわれは,悪液質リスクの高い高齢進行がん患者に対する,栄養療法,運動療法を組み合わせた集学的早期介入プログラム(Nutrition and Exercise Treatment for Advanced Cancer: NEXTAC)を開発した.第I相試験(NEXTAC-ONE)では高い実施可能性と安全性を示し21),身体機能や身体活動量の維持22),日常活動の行動変容23)に寄与した可能性も示唆された.本研究は,NEXTAC-ONE試験における栄養介入の詳細と忍容性,および栄養学的成果を報告する.

方法

対象

本試験は平成28年8月より国内4施設(京都府立医科大学附属病院,国立がん研究センター東病院,静岡県立静岡がんセンター,新潟県立がんセンター新潟病院)で実施した多施設前向き臨床試験である(臨床試験登録:UMIN000023207).対象者の適格基準は,1)進行期の非小細胞肺がんまたは膵がん患者,2)満70歳以上,3)一次治療として化学療法を予定(6カ月以上前に完遂している術後補助化学療法または化学放射線療法は除く),4)Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status(ECOG-PS)が0-1,5)Barthel Index(BI)が90点以上,6)試験期間中,支援可能な家族または友人が1人以上存在すること,除外基準は,1)心疾患,骨関節疾患,神経疾患等により安全な評価または介入が困難と判断される患者,2)精神症状により試験への参加が困難と判断される患者とした.全参加施設において倫理審査委員会の承認を受け,対象者に対し書面による説明と同意を得て実施した.

1. NEXTAC-ONEプログラム(付録図1)

1.1. プログラムの概要21)

介入期間は8週間,栄養介入3回,運動介入3回,計6回で構成される.栄養介入は栄養カウンセリングと栄養補助食品摂取から構成され,運動介入は下肢筋力トレーニングと身体活動量促進のためのカウンセリングから構成される.全介入者が同一マニュアル(目標設定,症状への対処法や注意を生活・運動・栄養面から集約)を 参考に介入とフォローアップを行った.また,自己管理と実施状況把握のため,運動・食事日記(日記)に,体調,運動の実施状況,歩数,体重, 食事量(T1の摂取量を10とした日々の摂取量の相対割合),有害事象の有無,栄養補助食品の摂取状況を記録させた.

1.2. 評価ならびに介入時期

初回化学療法の開始前をベースラインとし初回(T1),T1から4±2週間後に2回目(T2),T1から8±2週間後に最終(T3)とし,栄養も運動も,同じ時期に毎回評価ならびに介入を実施した.また,評価や介入に関してマニュアルを作成し,活用方法についての研修を試験開始前と開始後年2回実施した.

1.3. 評価項目と方法

・基本情報(T1のみ調査)

年齢,性別,ECOG-PS,がん種,がんステージ,がん治療内容,併存疾患,生活習慣,過去6カ月における体重減少率について調査した.

・身体活動量

対象者に加速度計付き歩数計(ライフコーダGS®,スズケン)を用いて,1日の平均歩数を測定し24,25),歩数の変化について評価した.起床後活動開始時点で歩数計を装着し,就寝前まで装着継続を指導した.歩数計の装着時間が1日5時間以上であることを装着の基準とし,5時間を下回っている日は解析から除外した24)

2. NEXTAC-ONEプログラムにおける栄養介入

2.1. 特徴と詳細(図1

本介入の特徴は以下の2点である.1)治療開始時から栄養状態に影響を与える症状(Nutrition impact symptom: NIS)2628)と食に関する苦悩(eating-related distress: ERD)29,30),食環境の問題についてAmanoらの報告29)や日常臨床での現状を参考に本試験用に作成した専用の簡易評価表(付録図2)を用いて総合的にカウンセリングを行ったこと.2)骨格筋の合成促進を目的としたBranched-chain amino acid(BCAA)を含む栄養補助食品(インナーパワー®,大塚製薬,125 g: BCAA 2500 mg ロイシン917 mg含有1本/日,計60日間)を摂取させたことである.また,介入ポイントごとに目的を変え,効率的に対象者や支援者が自ら対応可能となるよう構成した.初回(T1:30分)では治療前のベースラインの状況を評価し,現状を対象者自身に客観的に把握させ,また,今後起こりうる症状やその対応方法について事前情報を提供しておく.現状を踏まえ具体的な目標を示し,その人に合った食生活で目標を具現化する提案を行う.2回目(T2:20分)は,T1での指導後の食生活の変化,介入効果について評価し,また,出現しているNISやERDについて,対象者・支援者とともに,マニュアルを参考に対応策を検討していく.最終介入(T3:20分)では,対象者や支援者自らで対処できるようになることに重点を置き指導を行った.

図1 栄養介入の内容

①栄養状態の評価:体重(BMI)・MNA® fullによる評価

②栄養状態に影響を与える症状の有無の確認:食欲不振/悪心/嘔吐/便秘/下痢/口内炎/味覚障害/嗅覚障害/膨満感/咀嚼障害/嚥下障害について症状の有無・食への影響度の確認

③食に関する苦悩や食環境問題の有無の確認:食事量/体重/有害事象/人間関係/ADL/支援力/食品等の入手/既往症の食事療法/がんの食事療法等の問題についての有無の確認

④必要栄養量の算出:Harris-Benedict式による必要熱量算出

 【活動係数】生活様式・歩数 1.3〜1.5 【障害係数】病態等考慮 1.1〜1.3

⑤経口摂取状況の確認:[T1] 必要栄養量に対する充足率 [T2/T3] 治療導入前摂取量に対する充足率にて評価,75%以上 ➡ 現状維持または必要量を目標 50%以上75%未満 ➡ 原因を確認し増量を目標 50%未満 ➡ 増量とともに食事以外の補給も検討

*栄養補助食品摂取の依頼:【インナーパワー®】熱量139 kcal(たんぱく質1.7 g,BCAA 2500 mg,CoQ10,クエン酸,亜鉛,L-カルニチン含有)

2.2. 評価項目と方法

忍容性の評価は,T1~T3の全3回の栄養介入への参加率,運動・栄養日記の栄養関連項目の記載率,栄養補助食品摂取率により行った.栄養学的な成果は,関連項目をT1,T2,T3で比較評価した.項目の詳細や評価法は各項目欄に示す.また,栄養状態低下が予想される今回の対象において,高齢者の栄養指標として世界で汎用されているMini Nutritional Assessment(MNA®:簡易栄養評価表)31)の総合評価値点(スクリーニング6項目,アセスメント12項目の問診と身体測定を含む30点満点評価)の介入前後(T1〜T3)差の中央値で,維持群(レスポンダー群)と悪化群(ノンレスポンダー群)に分け,栄養関連項目と生活活動項目について比較した.

[栄養状態]

体重,Body Mass Index(BMI, kg/m2),MNA®により栄養状態の評価を行った.また,European Palliative Care Research Collaborative(EPCRC)の国際コンセンサス基準に基づき,1)過去6カ月間に5%以上の体重減少,2)BMI<20.0 kg/m2かつ2%以上の体重減少,3)骨格筋減少かつ2%以上の体重減少のいずれかを満たした場合に悪液質と診断した9).骨格筋減少の有無は,第3腰椎レベルのCT画像解析(ソフトウェア:Slice-O-Matic version 5.0,TomoVision社,カナダ)により研修を受けた担当者が骨格筋断面積を求め,その骨格筋断面積を身長(m)の二乗で除し算出される骨格筋指数を用い診断した(カットオフ値:男性:<43.0 cm2/m2かつBMI <25.0 kg/m2,<53.0 cm2/m2かつBMI≥25.0 kg/m2,女性:<41.0 cm2/m27,23,25,32,33)

[食事摂取状況]

対象が高齢者であることを考慮し,各ポイント直近2日間の食事記録(食事記録法)34)をもとに,支援者同席にて管理栄養士による問診確認を行い,摂取栄養量を算出した.食事記録への負担感を減らすため記録用紙または写真(1食につき食事前後を撮影)のいずれかを対象者に選択させた.また,調査日の食事が通常と異なる可能性も注視し,日記により日間変動も確認した.摂取栄養量をT1ではHarris-Benedict式による算出必要熱量と比較し,75%以上の場合は現状維持または必要量を目標とした.75%未満の場合は摂取量増量を目標に,適宜指導を行い,T2,T3ではT1の摂取量をベース量として比較評価を行った.

[NISの評価]

NISは食欲不振,悪心,嘔吐,便秘,下痢,倦怠感,口内炎,味覚障害,嗅覚障害,早期膨満感,咀嚼障害,嚥下障害,その他について,症状の有無と食事への影響(なし/少ない/大きい)について主観的評価を調査した.さらに医療者によりCommon Terminology Criteria for Adverse Events version 4.0(CTCAE v.4.0)を 用いた症状の客観的定量評価を行った.

[ERDや食環境の問題]

ERDは,食事量,体重,有害事象,人間関係,日常生活動作,持病の食事療法,がんの食事療法,その他(精神的,予後など)についての苦悩,食環境における問題点は,支援力や食品入手の利便性などについて本人や支援者に選択事例(付録図3)を示し問診した.

3. 統計解析

3.1. 栄養介入の忍容性の評価

忍容性評価のprimary outcomeを栄養介入への参加率とし,3回中2回以上の参加で良好と判断した.また,栄養日記への記載と栄養補助食品の摂取における遵守率を忍容性の補助的指標とした.

3.2. 栄養評価法(MNA®)とレスポンダーの判定

摂取量,NISの出現状況,ERDの状況,歩数,運動実施日数について介入前後(T1〜T3)の変化をレスポンダーとノンレスポンダーで比較した.ウイルコクソンの符号順位検定を用いて行った.有意水準は5%とした.

結果

患者背景(表1

対象者は2016年8月22日から登録を開始し,2017年10月30日までデータ収集を実施した.選択基準該当者は46名で,研究参加の同意が得られた30名を対象に介入を行った.T1〜T2の期間に全身状態の悪化により1名脱落したが,残り29名(96%)は介入プログラムの完遂が可能であった.登録した30名の年齢中央値は75(70〜84)歳であり,男性20名(67%),女性10名(33%)であった.過去6カ月間ですでに平均3%の体重減少がみられた.21名(70%)がすでに骨格筋減少を有し,12名(40%)にがん悪液質が認められた.MNA®評価においても12名(40%)は,at riskまたは低栄養であった.

表1 T1(Baseline)における対象者の背景

遵守率と栄養評価指標の変化(表2) ※表示のない数値は中央値(IQR)

全介入期間日数の中央値は57(範囲: 51〜65)日で,3回すべての栄養介入に参加した症例は29名(96%)であった.日記の栄養関連項目の記載率90(84)%,栄養補助食品摂取率も99(12)%と,いずれも高い遵守率であった.全介入期間における栄養指標の変化は,体重減少率 −0.5(5.2)%,BMI −0.1(1.6) kg/m2,骨格筋指数 −0.6(2.9) cm2/m2,Pre Albumin −0.8(3.8) mg/dl,MNA®評価点−0.5(6.5)であった.また,体重1 kg当たりの摂取熱量+1.0(7.4) kcal/kgと,いずれも統計学的に有意な差(低下)は認めなかった.(ウィルコクソンの符号順位検定,P<0.05).

表2 遵守率と栄養評価の指標の変化

NISと食事摂取状況(表3

T1で,すでに食欲不振2名(6.7%),便秘3名(10.3%),下痢1名(3.4%)といった軽度(Grade 1)のNISを有していた.治療開始後,NISの頻度は増加し,T2では総件数は30件,T3では25件であった.頻度の高いNISは,食欲不振,便秘,下痢,味覚異常であった.いずれも化学療法または原病に関連した症状であり本介入による有害事象ではなかった.

ERDと食環境に関する問題(表3

T1において,ERDや食環境に問題を有する患者は10名(33.3%),訴えの総件数は17件であった.主なERD・食環境の問題は,食事が思うように食べられないといった「食事量に関すること」,支援者の年齢等で支援力に限界がある等の「支援力に関すること」,地理的事情などで買い物や宅配サービスの利用が難しい等の「食品等の入手に関すること」が各4名(13.8%),体重がどんどん減って心配等「体重に関すること」が3名(10.3%)であった.T2では14名(48.3%)がERD・食環境の問題を有し,総件数は26件であった.T1から増加した項目は「体重に関すること」,「有害事象(症状)に関すること」,逆に減少した項目は,「支援力に関すること」,「食品等の入手に関すること」であった.T3では,ERD・食環境の問題を訴えたのは8名(27.6%)と全ポイントの中で一番の低値で,総件数は15件であった.T2からT3のERD・食環境の問題に関する訴えの主な変化として,「体重に関すること」「有害事象(症状)に関すること」が減少した.T1,T2,T3いずれにおいても適正な栄養量を摂取できていた者の率は,80%以上で,有害事象が発生しているにもかかわらず低下はみられなかった.

表3 食に影響する要因と食事摂取状況

栄養状態と関連項目の変化 ※数値はmedian(IQR)

治療介入の前後で,レスポンダー群では,摂取熱量が+150(414) kcalで,ノンレスポンダー群の−112(530) kcalに比べ有意に増加していた.(ウィルコクソンの符号順位検定,P<0.01)また,身体活動についても,レスポンダー群では平均歩数が+500(1985)歩/日増加したのに対し,ノンレスポンダー群では−273(2460)歩/日と減少しており,両群に統計学的な有意差がみられた.(ウイルコクソンの符号順位検定,P<0.05)(図2)NISとERDの各項目,運動実施日については,レスポンダーとノンレスポンダーで違いを認めなかった.解析対象とした歩数計5時間以上の装着率は98.2(14.3)%であった.

図2 MNA®レスポンスと各項目の変化

T1とT3におけるMNA®総合評価の点数変化の中央値(−0.5)をカットオフ値として,対象者をMNA®の改善または維持(Responder)群とそうではない(Non-responder)群の2群に分け,各アウトカムの変化量を比較した.

考察

初回化学療法を受ける高齢のがん患者に対して,NEXTAC-ONE試験の栄養介入は,期間中,減衰なく高い遵守率を示し,介入による症状悪化も認めなかった.ERDおよび食環境の問題の訴えも減少した.Baldwin らの化学療法中の進行がんを対象に行った先行研究では,6週間の栄養介入で3日間の食事日記を記入できた人は登録時25%(6週間後17%),サプリメント摂取日記では41%(31%),また半数は摂取不能となっている35).先行研究を見ても,継続可能な忍容性の高いプログラムであることが示された.

元来,高齢者は加齢により低栄養,サルコペニア虚弱や複数の合併症を有するリスクが高く,ましてや進行がんを有する高齢者では,これらを併発することが多い36,37).さらにがん悪液質による代謝異常が重なった際には,栄養介入に運動介入を併用する集学的な介入が必要である1417).一方で,多数の介入や評価は患者の負担となり,継続性や遵守率の低下が危惧される19).そこで,本研究では腫瘍や治療,心理的変化等,がん患者が食事量低下をきたす要因と38),高齢者に特徴的な問題に焦点を絞り,継続性と遵守率を高める以下の工夫を行った.1)通常の栄養評価と,NIS,ERD,食環境といった食事量低下をきたすさまざまな要因について,効率的に抽出できる専用評価表の作成.2)評価表による結果に基づく具体的栄養カウンセリングの実施.3)高齢者にも記載が容易かつ自身の状況を一目で把握できる日記形式の自己管理表 (運動・食事日記)の作成である.さらに,栄養補助食品を活用することにより栄養介入の効果増強を図った.また,努力した点を見出し評価するカウンセリングを行うことで,高い遵守率が得られたと考えられる.

がん悪液質に伴う症状は,患者のQuality of Life(QOL)を著しく損なう.とくに体重減少と食欲不振は,患者と家族(支援者)の間で食をめぐる対立を生じ,社会的孤立など,様々な心理社会的影響を及ぼす3842).また,患者や家族(支援者)は医療者に対しERDの傾聴とがん悪液質に伴う症状の医学的説明を希望しているという報告がある41).患者や家族(支援者)が悪液質の症状を理解し,対処方法を身につけ自己管理することで,さまざまな負の感情が軽減される可能性がある38,41).当栄養介入では,NISを早期から評価し,NISやERDに対する予防的な情報提供をすることで,摂食が維持され,摂取量や体重が維持できた可能性がある. さらに,食環境に関する問診では,支援力や食品の入手等,高齢者に特徴的な社会的問題を早期に抽出し,支援者や多職種と問題共有することで早期解決することができ,ERDや食環境に関する訴えの減少につながった可能性がある.

がん患者の栄養管理において多くの経口栄養補助食品(oral nutritional supplements: ONS)の併用が提案されている9).ONSは,それ自体が明確で実行容易な行動目標であり,食事量が低下した時期にも比較的摂取が継続可能で,課題を実行できているという自信と達成感につながる.がん患者に対するONSの組成について,現時点では明らかな有効性を示す栄養素は認められていないが,いくつかの栄養素が注目されている9,43).BCAAは,骨格筋の分解抑制,運動による疲労感への関与,食欲低下の改善が報告されている44).また,運動療法との併用で運動療法単独より多くの筋量増加が得られ45),機能面でも相乗効果が報告されている46,47).本試験においても,食事摂取量や骨格筋量の維持,倦怠感の軽減が身体活動量の維持に寄与した可能性が考えられる.高齢者ではタンパク合成におけるロイシン抵抗性が発生するため,筋肉の合成が阻害され骨格筋が減少する4850).サルコペニアに着目したアミノ酸の摂取推奨量は,蛋白質25~30 g摂取時にロイシンが2.5~2.8 g含まれると蛋白同化の閾値が高いという報告がある51).また,BCAA 2000 mg以上で効果が表れ,4000 mgまでは効果が増大するという報告52)や運動前に4~5 gのBCAA摂取で筋肉疲労や疲労感軽減に効果があったという報告もある53,54).本研究の対象者のように,悪液質の高リスクの高齢者がん患者へ運動介入を行う場合のBCAAの適量については,今後も検討が必要である.

本研究では,日記の栄養関連項目の記載率,栄養補助食品の摂取率とも90%以上の高い遵守率が得られた.また栄養学的成果として,治療前後の体重,骨格筋指数,Prealbumin,MNA®,摂取熱量のいずれも有意な減少なく維持されていた.レスポンダー群では,摂取栄養量の増加のみならず,身体活動の向上も認められた.

本研究には以下の四つの制限がある,1)サンプルサイズが少なく単群試験であること,2)摂取量の評価を,患者報告をもとに行ったこと.患者報告による評価には,必ずrecall biasが伴う55).また,介入者に改善を期待されていると対象者が感じることで,よくなったと告げる等のホーソン効果もバイアスを生む56).3) 本研究の登録基準では家族driveまたは友人等の支援者がいることとされ,独居等の脆弱な集団が除外されていること.4)本研究の目的はNEXTACプログラムの栄養介入の忍容性の検討であり,栄養評価の前後比較は探索的考察を導くための副次的評価に過ぎないこと,また,治療が奏効し腫瘍負荷軽減による悪液質の病態軽快効果の可能性にも注意しなければならない.

結論

悪液質高リスクの進行がんを有する高齢がん患者において,NEXTACプログラムの栄養介入は高い参加率と遵守率を有し栄養状態や身体活動量の維持に寄与した可能性が示唆された.NEXTACプログラムの身体機能や予後への影響を対照群との比較検討により検証する第II相試験を現在進行中である(UMIN000028801).

謝辞

参加施設の担当医師,管理栄養士,看護師,理学療法士の方々に深謝する.

本研究は,国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「平成28年度革新的がん医療実用化研究事業 悪性腫瘍に伴う悪液質の標準治療の確率(高山班) 課題管理番号:JP18ck0106212」の助成を受けて行われた.

利益相反

東口髙志:講演料等 50万円以上(アボットジャパン株式会社,株式会社大塚製薬工場)その他:該当なし

著者貢献

稲野,内藤は研究の構想・デザイン,研究データの収集・分析・解釈,原稿の起草,批判的な推敲に貢献;千歳,梅沢,長橋,岡垣,青山,大前,盛,高山は研究の構想・デザイン,研究データの収集・分析・解釈,批判的な推敲に貢献;山口,東口,森は研究の構想・デザイン,データの解釈,批判的な推敲に貢献した.すべての著者は原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献し,投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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