抄録
ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)はC4植物において葉肉細胞の細胞質に局在し初期炭酸固定を行う鍵酵素であり、N末端近傍の特定のセリン残基の光依存的リン酸化により活性化される。我々はこれまでに、このリン酸化に関与するPEPC特異的リン酸化酵素(PEPC-PK)cDNAをC4モデル植物のFlaveria trinerviaからクローニングすることに成功している。さらに、組換え体PEPC-PKがレドックス制御されることを示してきた。ここでは、この制御機構に関する2つの実験結果について報告する。
(1)酸化処理により不活化したPEPC-PKは、NADPH/チオレドキシンレダクターゼ/チオレドキシン系によって効果的に活性回復した。また、チオレドキシンアイソフォームの中で細胞質に局在するチオレドキシン-hが特に顕著な効果を示した。
(2)レドックス制御に関与するシステイン残基を同定する目的で、存在する6つのシステイン残基をセリン、もしくはアラニンに置換した種々の変異酵素を作製した。その結果、6つのシステインの中、Cys53及びCys250をアラニンに置換したもので、レドックス制御が見られなくなった。
以上の結果より、 F. trinervia PEPC-PKはCys53とCys250の間のジスルフィド結合の開閉によりレドックス制御されており、その制御にはチオレドキシン-hが関与することが示唆された。酸化による不活化の分子機構をCys53とCys250の立体構造上での位置関係から考察する。