抄録
当研究室で同定した出芽酵母のオートファジー遺伝子群の一つATG6は、フォスファチジルイノシトール3リン酸キナーゼ(PI3K)複合体を構成するVPS30をコードする。植物でもPI3Kの阻害剤によってオートファジーの進行が停止することが近年報告されている。そこで植物におけるATG6の機能解析を目的に、シロイヌナズナATG6遺伝子についてT-DNA挿入変異体の単離を試みたが、ホモ変異体は得られなかった。しかし、ヘテロ接合体の次世代における野生型ホモとヘテロ接合体の分離比、及び野生株とatg6ヘテロ接合体の掛け合わせの結果は、異常の原因が雄性配偶体にあることを示していた。DAPIやアニリンブルー染色では花粉の形態に目立った異常は認められないが、in vitroで花粉発芽を観察したところ、atg6ヘテロ植物体の葯を用いた花粉の発芽率は、野生株の花粉と比べて低下していた。さらにqrt1変異体との交配で得たATG6/atg6/qrt1/qrt1植物体の花粉を用いた四分子解析の結果から、ATG6の欠損した花粉は発芽できないと考えられた。また、野生株でもPI3K阻害剤によって花粉発芽の阻害が起こることを確認している。以上の結果は、ATG6/VPS30を介したPI3Kのシグナリングまたは膜輸送が、花粉発芽に重要な役割を担っていることを示唆している。