抄録
VAM3は輸送小胞と液胞の融合に関与するSNAREである.われわれは,AtVAM3のペプチド挿入変異体がミロシナーゼ(TGG1, TGG2)を大量に蓄積することを見い出した.ミロシナーゼはアブラナ科を含むフウチョウソウ目に特徴的なβ-グルコシダーゼであり,グルコシノレート(カラシ油配糖体)を分解して害虫に対する忌避物質を生成する.そこで,AtVAM3の挿入変異体ならびにノックアウト変異体におけるミロシナーゼの蓄積について解析を行った.その結果,AtVAM3変異体におけるミロシナーゼの発現器官は野生型と変わらないが,個々の器官における蓄積量が著しく増加していることが分かった. AtVAM3変異体では,ミロシナーゼ活性も蓄積量に比例して上昇していた.ミロシナーゼはミロシン細胞と呼ばれる特殊な細胞に局在することが知られている.ミロシナーゼの特異抗体を用いた蛍光抗体法では,AtVAM3変異体においてもミロシナーゼは維管束周辺のミロシン細胞に局在していた.しかし,興味深いことに,AtVAM3変異体ではミロシン細胞の数が増えていることが明らかになった.ミロシン細胞の増加とミロシナーゼの蓄積量は,ノックアウト変異体よりも挿入変異体でより顕著に観察された.以上の結果から,AtVAM3がミロシン細胞の分化に関与している可能性が示唆された.