抄録
高等植物では糖ヌクレオチドは、デノボ経路とサルベイジ経路で合成され、多糖類合成における基質として利用される。UDP-糖ピロフォスフォリラーゼは様々な糖1-リン酸を各種UDP-糖に変換する酵素で、サルベイジ経路において各種UDP-糖の産生に関与している。今回、我々はシロイヌナズナのゲノム情報を利用して、シロイヌナズナのUDP-糖ピロフォスフォリラーゼ、AtUSPを同定し、その生理機能を明らかにした。AtUSPは614アミノ酸からなるタンパク質で、既に我々が報告したエンドウのUDP-糖ピロフォスフォリラーゼ(PsUSP)と77%の相同性を示した。AtUSPは、シロイヌナズナの芽生え、ロゼット葉、花などで発現しており、特に葉の維管束組織、花粉で強く発現していた。大腸菌で発現させた組換えAtUSPは、PsUSP同様に糖1-リン酸に幅広く作用し、UDP-Glc、UDP-Gal、UDP-GlcA、UDP-Xyl、UDP-L-Araといった各種UDP-糖を合成した。T-DNA挿入によりAtUSP遺伝子が破壊されたusp変異体では、花粉が生殖機能を完全に喪失していた。これらの結果から、AtUSP遺伝子によるUDP-糖の合成が、花粉の発達または発芽に不可欠であることが示された。現在、細胞内の糖ヌクレオチド代謝の変化、細胞壁多糖類の変化についても解析している。