抄録
亜鉛(Zn)は生物にとって必須の栄養素であり、様々な酵素の働きやタンパク質の機能に不可欠である。植物は土壌からZnを吸収し、必要な部位に輸送するが、その詳細なメカニズムは解明されていない。本研究では、イネ科植物を用いて、ムギネ酸類がZnの吸収と輸送に関わっているかをPETIS (Positron Emitting Tracer Imaging System) 法を用いて調べた。
Zn欠乏処理をしたオオムギに、デオキシムギネ酸(DMA)とキレートさせた62Zn (Zn-DMA)と、イオンの形態の62Zn (Zn2+)をそれぞれ根から投与したところ、Zn-DMAを投与した時のほうが多くのZnを地上部に蓄積した。オオムギでは、Zn-DMAのほうがZn2+よりも吸収されやすいと考えられた。
一方、Zn欠乏処理をしたイネではZn2+を根から投与した時のほうが多くのZnを地上部に蓄積した。イネではZn2+のほうがZn-DMAよりも吸収されやすいと考えられた。しかし、最新葉へのZnの移行はZn-DMAを投与した時のほうが促進された。
Zn欠乏イネの葉から62Znを吸収させたところ、Zn-DMAを吸収させた時のほうが、葉鞘や最新葉にZnを多く蓄積した。これらの実験から、亜鉛欠乏のイネではDMAが植物体内のZnの長距離輸送に関わっていることが示唆された。また、イネの地上部ではZn欠乏により、DMAの生合成に関わる遺伝子の発現量が増加した。