抄録
イネは、イモチ病菌の侵入を受けたとき、さまざまなシグナル経路を介して抵抗性を獲得する。ジャスモン酸(JA)は数多くの防御応答(PR)遺伝子の発現を誘導するため、病害抵抗性の誘導に重要なシグナル物質であると考えられているが、JA処理によりイネの病害抵抗性は上昇しない。この矛盾を説明するために、JA合成の出発物質であるリノレン酸(LA)の合成を触媒するω-3脂肪酸不飽和化酵素(FAD7-1、FAD7-2)を抑制したJA欠損形質転換イネ(F7Ri)を作製した。非親和性または親和性イモチ病菌レースに対する、F7Ri系統の病害抵抗性をそれぞれ評価した。意外にもF7Ri系統における病徴は、病原性に関わらず抑えられた。PR遺伝子(PBZ1、PR1b)の発現解析をしたところ、F7Ri系統は野生株よりも早く転写量が増加していた。これらの結果から、F7Ri系統はイモチ病菌に対する水平抵抗性が上昇しており、イモチ病菌抵抗性を誘導する上で、JAは必須ではないことがわかった。メチルジャスモン酸を用いた相補実験でも、F7Ri系統における水平抵抗性の上昇は失われなかった。このことはF7Ri系統における水平抵抗性の上昇にJAの減少は関与していないことを示している。本研究は、多価不飽和脂肪酸に由来するJA以外の制御因子が、イモチ病菌に対する水平抵抗性に関与していることを示唆している。