抄録
重要農業形質の多くは量的形質座(QTL)に支配される。複数の遺伝子座の相互作用によって決まるこれらの量的形質の解析はこれまで困難であったが、イネゲノムプロジェクトの成果に伴い、QTLの同定が可能となってきた。ジャポニカ米のコシヒカリに比べ、インディカ米のハバタキは草丈が低く、多くの子実を着ける。矮性形質と収量性に関与するQTLを同定するため、両者を交雑した雑種集団を育成しQTL解析を行い、着粒数(Grain number)に影響を与える5つのQTL 、草丈(Plant height)に影響を与える4つのQTLを見いだした。このうち、着粒数及び草丈に最も強い効果を示すGn1とPh1に着目しさらに解析を進め、最終的にGn1がサイトカイニンの分解酵素であるサイトカイニンオキシダーゼ(CKX2)を、Ph1はジベレリン合成酵素であるGA20オキシダーゼ(GA20ox2)をコードしていることが明らかになった。
イネ品種間での形質の違いを制御する遺伝子が明らかになれば、その遺伝子を育種的手法によって従来品種に導入することが可能となるため、QTL解析で得られたGn1とPh1というハバタキのQTL領域を戻し交雑によりコシヒカリに導入したところ、Gn1, Ph1だけを導入したイネではそれぞれ着粒数が増加し草丈が低くなった。さらに両者を交雑しGn1とPh1を併せ持つ系統を作出したところ、コシヒカリに比べ着粒数が約20%増加し、草丈は約18%低くなり収量が高く耐倒伏性を付与したコシヒカリを作出することができた。