抄録
植物細胞に含まれる多種多様な化合物の濃度は,細胞間において生物学的な差が存在する.また,細胞内の各オルガネラにおいても化合物は異なった局在性を示すと考えられている.しかし,各細胞や各オルガネラに含まれる化合物の量が極めて少ないため,これらを直接確認することは困難である.我々は巨大な単一細胞であるオオシャジクモ節間細胞を用いて,単一細胞・単一液胞におけるメタボローム解析を行った.メタボローム解析にはイオン性化合物の網羅的な解析に優れたCE-MS(キャピラリー電気泳動/質量分析装置)を用いた.その結果,55種の化合物が同定され,それらの一細胞毎の濃度が明らかになった.また,オオシャジクモ節間細胞からは液胞内液を容易に単離することができるため,各細胞における液胞と細胞質(液胞外空間)への化合物の局在性を調べることができた.その結果,化合物は主に液胞に存在するものと細胞質に存在するものに二分された.さらに,様々な光条件下における細胞中の化合物の局在および濃度を調べた結果,化合物種によって異なる挙動を示すことが分かった.今後,オオシャジクモ節間細胞における二次代謝産物の解析を,LC-MS(液体クロマトグラフィー/質量分析装置)を用いて行う予定である.