抄録
フロリゲンは、植物が花芽形成に適した環境を感知すると葉で合成され、茎頂へ移動し花成を誘導する因子として、約70年前に提唱された。その実体は長く謎であったが、私たちはイネを用いた分子遺伝学的解析から、イネHd3aタンパク質がフロリゲンの分子実体であることを強く示唆する結果を得た(Tamaki et al. 2007)。これはシロイヌナズナオーソログのFTの解析等からも支持されている。
Hd3a-GFPを自身の発現部位である維管束で強く発現する形質転換イネを詳しく観察したところ、花成の促進に加えて分枝の増加、花序(穂)の構造の変化等が観察された。分枝の増加についてより詳細に観察したところ、Hd3aには本来休眠するはずの腋芽の生長を開始させる能力があることが分かった。さらにHd3aタンパク質の挙動をGFPを指標に追跡した結果、維管束でのみ転写、翻訳されるHd3a-GFPを腋芽メリステムにおいても観察することができた。このことは、Hd3aが葉から腋芽メリステムへ移動し腋芽の生長を開始させる機能を持っていることを示唆している。フロリゲンはこれまで葉から茎頂メリステムへ光周性情報を伝達する分子と捉えられてきたが、その実体であるHd3a/FTの解析を通して、Hd3a/FTは様々な組織間を移動する新しい情報伝達分子であるという概念に拡張できるのではないかと考えている。