抄録
細胞極性の形成における細胞内のカルシウムイオン(Ca2+)やホスファチジルイノシトール(PI)リン脂質代謝の関与は多くの真核生物で報告されている。我々は海産紅藻スサビノリの単胞子における細胞運動や細胞分化に必須な細胞極性形成機構の解析を行っているが,これまでに細胞運動に必須なF-アクチンの不均一分布の形成におけるPI3-キナーゼの重要性を明らかとしている。本研究では,さらに他のPI代謝関連因子とCa2+の役割について解析した。まず,単胞子の運動がカルシウムキレート剤(EGTA)とカルシウムチャネル阻害剤(LaCl3)により完全に抑制されることを見いだした。この場合,同時にF-アクチンの極性分布が抑制されたことから,細胞運動における細胞外からのCa2+流入の重要性が示された。また,ホスホリパーゼC(PLC)とホスホリパーゼD(PLD)はCa2+依存的な活性調節を受けるが,F-アクチンの不均一分布を指標にした場合,PLC特異的阻害剤(U73122)が抑制的に作用したのに対し,PLD阻害剤(1-butanol)は影響を及ぼさないが細胞運動を阻害した。以上の結果より,単胞子の細胞運動時における細胞極性の形成とそれに基づくF-アクチンの極性分布は,Ca2+の細胞内への流入とそれに続くPLCの活性化で制御されること,さらに形成された極性の維持にPLDが関わっていることが示された。