抄録
フィトクロムには複数の分子種が存在する。なかでもフィトクロムA(phyA)は、他のフィトクロム分子種にはない特殊な性質を示す。系統樹解析によれば、フィトクロムは種子植物成立の直後にphyA/C型とphyB/E型に分岐した。被子植物のphyAが獲得したと考えられる特殊機能として、1)超低光量応答を示す、2)連続遠赤色光に応答する、3)暗所で高レベルに蓄積し明所で速やかに分解される、ことなどが挙げられる。これらの特徴は、phyAが進化の過程を経て、高感度な光受容体として特殊化したことの表れと理解できる。我々は、phyAの特殊機能の構造的基盤を探るため、フィトクロム分子を4つのドメイン(N-PAS, GAF, PHY, C-末端)に分割し、それぞれをphyA/phyB間で交換したキメラ遺伝子を14種構築し、シロイヌナズナのphyAphyB二重変異体背景で、GFP融合タンパク質の形で発現させた。得られた形質転換植物を用いてキメラ分子の性質を詳しく比較した結果、phyA機能を示すために必要なドメインの組合せは、連続赤色光による核内蓄積、連続赤色光生理応答、光依存的分解のそれぞれで異なることが分かった。超低光量反応についても今後解析を進める予定である。本講演では、phyAとphyBに関するこれまでの知見を概説し、上記の研究成果を紹介するとともに、フィトクロム機能の多様化機構について考察する。