抄録
アサガオ(Ipomoea nil またはPharbitis nil)は熱帯アメリカ原産の植物であるが、日本においてのみ園芸植物として発達した。豊富な花色や形態に関する変異体を利用した遺伝学の研究材料として用いられており、膨大な知見が集積している。また、日長条件に鋭敏に反応することから生理学研究にもよく用いられている。高い自殖性と少数の種子に由来することに起因する非常に均一なゲノムをもっており、他の植物では明確な表現型を示さない遺伝子でも、アサガオのオーソログの変異体では表現型に現れることが多いことも明らかになってきた。アサガオには、高い転移能を持ち、共通の末端配列を持つトランスポゾン(Tpn1ファミリー)が存在するため、新規突然変異の誘発や、トランスポゾンの挿入を利用した原因遺伝子のクローニングが容易である。世代時間は比較的短く、各器官は大型で詳細な観察や交配実験にも適しており、日長条件をコントロールすることで植物体の大きさを変えることができるため室内の限られたスペースでも栽培可能である。今後のゲノム解析も見据えたcDNAクローンやBACクローン、連鎖地図等の整備も行っており、アサガオの利点や今後の研究の展開の可能性について述べてみたい。