抄録
フランキアは窒素固定を行う放線菌であり、アクチノリザルと呼ばれる植物の根に共生し、根粒を形成する。アクチノリザル植物は8科にわたる植物種を含み、そのほとんどは樹木である。我々はマイクロアレイを用いて、窒素栄養を含む培地で単生培養を行ったFrankia alniの細胞と、宿主植物Alnus glutinosaの根粒中の細胞においてトランスクリプトーム解析を行った。根粒中で発現が誘導された遺伝子の多くは他のフランキア株と高いシンテニーを示す領域に位置していた。一方、根粒中で発現が抑制された遺伝子は、ゲノム全体に分布していた。既知の共生関連遺伝子(nif、hup2、suf、shc)の多くは根粒中で高い発現を示した。アンモニアの同化と輸送に関わる遺伝子は緻密な発現制御を受けており、フランキア細胞内でのアンモニア同化を制限していることが示唆された。転写制御やシグナル伝達、タンパク質輸送、細胞表層多糖の生合成などに関わる遺伝子の発現変動も観察され、これらの遺伝子の共生への関与が示唆された。根粒内での発現パターンは遠縁の宿主植物でも非常に似通っていた。根粒菌のトランスクリプトーム解析との比較により、フランキアは根粒内でエネルギー代謝や翻訳に関わる遺伝子を数多く活性化していることが見出された。この結果から、フランキアは植物細胞内においてより自律性を保っていることが示唆された。