抄録
苔類は現生陸上植物の系統の中で最も古く分岐したグループとされる。苔類ゼニゴケは、根・茎・葉のない単純な体制を有する一方で、植物形態形成の特徴である頂端成長や環境応答の基本的な仕組みをもつ。30個の常染色体由来PACクローンのショットガンシークエンスにより約3.3 Mbのゲノム配列情報を解析したところ、235個の遺伝子が予測され遺伝子密度は約1個/15 kbと推定された。ゼニゴケのゲノムサイズは約280 Mbであることから総遺伝子数は2万個弱と見積もられ、被子植物や蘚類ヒメツリガネゴケと比較して遺伝子の重複が少ないというEST解析からの予測が裏付けられた。また常染色体にはトランスポゾン様配列やリピート配列は少なく単純なゲノム構成であることが示唆された。そこで、次にアグロバクテリウムによる形質転換法を用いて、T-DNAタギングにより形態形成変異株の取得を試みた。ゼニゴケは半数体であり形質転換体当代においてT-DNA挿入変異株の表現型が観察できる。バイナリーベクターpCAMBIA1300を用いて得られた形質転換体の中から、1万株について連続白色光照射条件における形態形成を観察し、葉状体が形成されないカルス様株、同化組織である気室の形態異常株、無性芽を形成する杯状体の形態異常株などを含む、計22株の形態形成変異株を選抜した。これらの変異株における変異原因遺伝子の探索についても報告する。