抄録
緑色硫黄光合成細菌は、クロロゾームと呼ばれる巨大な膜外集光アンテナ器官で特徴づけられる。このアンテナ器官は、脂質(主に糖脂質とリン脂質)と蛋白質(10種類)から成るミセル状の構造体で、その内部には200,000分子にも及ぶクロロフィル色素が内包されている。クロロゾームの外皮膜を構成する蛋白質の種類や機能については、分子生物学的観点から活発に研究がなされている。一方、外皮膜のもう一つの構成成分である脂質に関しては、その分子レベルでの研究は立ち遅れているのが現状である。我々は、好熱性緑色細菌の一種であるChlorobium (Chl.) tepidum(最近はChlorobaculum tepidumと呼ばれている)を中心に、クロロゾーム外皮膜を構成する糖脂質の構造解析を行ってきた。その結果、Chl. tepidumでは、従来提唱されていた単糖から成るMGDGに加えて、二糖から成る特異なRGDG (rhamnosylgalactosyldiacylglyceride) も同時に合成されていることが明らかとなった。更に、これらの糖脂質では、脂肪酸部位に不飽和結合としてシクロプロパン環構造を有していることも判明した。今回、これらのユニークな糖脂質の構造と組成の変化を、Chl. tepidumの培養時における温度・時間の関数として、詳細に解析したので報告する。