抄録
2000年に植物特有の転写抑制因子が初めて発見され、翌年、転写抑制ドメインEAR-motifが同定された。現在、これを改変した強力な転写抑制ドメイン(SRDX)を用い、優勢的に機能欠損を誘導するCRES-T法が転写制御因子研究に用いられている。一方で、シロイヌナズナの全転写制御因子の1割強を占めると予測されるネイティブの転写抑制因子についてはあまり知見がない。その一因は転写抑制因子の解析手法が確立されていないことにある。我々は現在、複数の転写抑制因子の解析を行なっており、今回はWUSCHEL (WUS)を例として転写抑制因子研究の一端を紹介する。
植物の幹細胞制御に関わるWUSは非常に特殊な転写抑制因子である。まずWUSには2つの転写抑制ドメイン(WUS-boxとEAR-motif)が存在しているが、WUS-boxのみがWUSの機能の全てに必須である。そのため、WUS-boxに変異をもつWUSm1はwus-1を全く相補できない。しかし、SRDXを融合したWUSm1SRDXは幹細胞制御に関する機能を相補したことから、幹細胞制御に関してはWUSの転写抑制活性が重要であることがわかった。一方でAGに対する制御はWUSm1にアクティベーションドメインVP16を融合した場合にのみ相補された。これらの結果はWUSがターゲットにより転写活性化と抑制の両方を行なう転写制御因子であることを示していた。