Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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Imaging approach for fever of unknown origin: urinary tract infections
Shoichiro Kanda
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2018 Volume 34 Issue 1 Pages 13-22

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I  はじめに

不明熱は①発熱の持続期間が3週間以上②38.3°C以上の発熱が経過中に数回以上みられる③1週間の入院精査によっても原因がわからないものと1961年に定義された.その後診断・治療の進歩と共に定義が変遷し,1991年に上記古典的不明熱に院内不明熱,好中球減少性不明熱,HIV関連不明熱が追加され現在に至っている.その一方で,実際の診療現場では不明熱の定義には合わないが,発熱以外の症状に乏しく原因がはっきりしない患者さんに出会うことは多い.近年はこれらの疾患群を「急性熱性疾患」と呼ぶことが提唱されている1)

本項では,急性熱性疾患として尿路感染症を取り上げる.尿路感染症は小児では比較的頻度の高い感染症であるが,典型的な症状や検査所見が乏しく,診断に難渋することがある.尿路感染症と診断できた場合も背景に膀胱尿管逆流や低形成腎などの先天性腎尿路異常が隠れている可能性があり,適切な画像検査を行いながら正確に診断を詰めていくことが重要である.特に後部尿道弁のように見落としてはいけない疾患もあり,注意を要する.画像検査を中心に自験例を提示し,診断,治療のプロセスを紹介する.

II  症例

1. 膀胱尿管逆流(vesicoureteral reflux; VUR)

【症例1】生後1か月男児

【主訴】発熱

【現病歴】授乳時,熱感に気付き,体温を測定すると38.5°Cであった.発熱を認めたため当院外来を受診した.生後3か月未満の児の発熱であり,精査加療目的に入院となった.

【周産期歴】妊娠39週1日,3,262 g,51.0 cmにて出生.胎児期から胎児超音波検査にて水腎症を指摘されていた.出生後の腎臓超音波検査では両側SFU Grade Iであった.

【家族歴】特記すべきことなし.

【入院時身体所見】38.5°C.機嫌よく,全身状態は良好.気道症状を認めなかった.心肺腹部に特記すべき異常を認めなかった.

【入院時検査所見】

[血算]WBC 10,700/μl,Hb 9.8 g/dl,Plt 63.0 × 万/μl

[血液生化学]TP 5.7 g/dl,Alb 3.8 g/dl,LD 255 U/L,AST 37 U/L,ALT 37 U/L,T-Bil 0.4 mg/dl,Ca 9.6 mg/dl,BUN 8.2 mg/dl,Cre 0.16 mg/dl,CRP 1.37 mg/dl

[尿検査]潜血(−),WBC(3+),赤血球1個未満/HPF,白血球10–19個/HPF,細菌(+)

【入院後経過】発熱以外の明らかな症状を認めなかった.入院時尿検査より尿路感染症を疑い,Cefotaximeにて加療を行った.その後尿培養ではenterobacter aerogenesが検出された.入院2日後には解熱し10日間の点滴治療後,退院となった.

【外来】排尿時膀胱尿道撮影(voiding cystourethro­gram; VCUG)を行ったところ,右にGrade IIのVURを認めた(Fig. 1a, b).予防的抗菌薬の内服を継続している.

Fig. 1 

VCUG(症例1)

a:正面像,b:側面像.右にGrade IIのVURを認めた(矢印).

【コメント】生後3か月未満の発熱は時として重症感染症が潜んでいるため精査および入院加療を行うことが多い.生後3か月未満の細菌感染症の中で最も頻度が高いのが尿路感染症である.尿路感染症を呈する乳児にはVURを呈することがあり適宜VCUGなどの検査を行う.VCUGを行う基準については様々なガイドラインや施設ごとのルールが存在している.比較的程度の軽いVURは成長と共に改善することがあり,Grade IIの場合は自然治癒率が60–80%程度と報告されている2,3)

【症例2】1歳6か月女児

【主訴】発熱,けいれん重積

【現病歴】夜間入眠中に,全身性強直性けいれんを認め,5分程度で自然頓挫した.その後覚醒したので自宅で経過をみていた.再度全身性強直性けいれんが出現したため救急車で当院救急外来を受診.到着時は閉眼しており意識状態ははっきりしなかった.来院後しばらくして,両上下肢を小刻みに震わせる痙攣が出現した.Midazolamを使用したが頓挫せず,Fosphenytoin投与し痙攣は収まった.しばらくして意識は回復した.けいれん重積・けいれん群発と判断し,経過観察目的に当科入院とした.

【既往歴】特記すべきことなし.

【家族歴】特記すべきことなし.

【入院時身体所見】39.7°C.入院時,意識は回復していた.麻痺なく明らかな神経学的異常を認めなかった.湿性咳嗽があり,肺野にcoarse crackleを聴取した.

【入院時検査所見】

[血算]WBC 14.4 × 千/μl,Hb 12.2 g/dl,Plt 28.0 × 万/μl

[血液生化学]LD 289 U/L,AST 38 U/L,ALT 16 U/L,Ca 9.2 mg/dl,IP 4.4 mg/dl,BUN 10.2 mg/dl,Cre 0.29 mg/dl,Na 137 mmol/L,K 3.9 mmol/L,Cl 103 mmol/L,CRP 0.75 mg/dl

[血液ガス]pH 7.245,PCO2 47.4 mmHg,HCO3 19.8 mmol/L,Glu 130 mg/dl,Lac 3.2 mmol/L

[髄液検査]Cell 1個/μl

[尿定性]NIT(1+),WBC(±)

[頭部CT]明らかな異常所見なし.

[胸部Xray]明らかな異常所見なし.

【入院後経過】髄膜炎,脳症・脳炎などの可能性を考慮し各種検査を行ったが,髄液検査,頭部CTでは明らかな異常はなかった.入院後は意識障害やけいれんを認めることなく経過した.気道症状を認めることから,発熱の原因は気管支炎と考えAmpicillin/sulbactamにて治療を開始した.しかし解熱は得られず,尿培養からcitrobacter freundiiを検出したため,尿路感染症と診断し,Cefotaximeに抗生剤を変更した.第3病日には解熱し,その後内服の抗生剤に変更し第7病日に退院となった.

【外来】VCUGを施行したところ,左にGrade IIのVURを認めた(Fig. 2a).予防的抗菌薬の内服を行ったところ,その後明らかな尿路感染を認めなかった.1年後に再度行ったVCUGでは左側のVURは著変なかった(Fig. 2b).

Fig. 2 

VCUG(症例2)

a:1年前,b:現在.Grade IIのVURを認めた(矢印).

【コメント】熱性けいれんを主訴に来院された1歳6か月児.来院時は発熱の原因を気道と考えたが,解熱が得られずその後尿培養を参考に尿路感染症と診断した.診断が遅れたのは,入院時の尿中白血球が±と多くなかったため尿路感染症の可能性は低いと考えたことが原因であった.入院時の尿検査でNIT(亜硝酸塩)が陽性であった.尿中亜硝酸塩は細菌が出す酵素によって硝酸が亜硝酸に還元されることを応用した検査である.特異度が90%と高いため,入院時に尿路感染症と診断することは可能であったと考えられる.成長と共に改善していくVURが存在する一方で,本児のVURは1年後も著変がなかった.腎シンチグラムを予定している.

2. 手術適応を検討する膀胱尿管逆流

【症例3】10か月,男児

【主訴】発熱,ふるえ

【現病歴】午前0時頃,突然呻き声をあげふるえ,39°C台の発熱を認めた.ぐったりしており当院救急外来を受診した.発熱以外の症状を認めなかったため,カテーテル尿を採取したところ尿中白血球3+と陽性であった.外来で尿のグラム染色を行い,グラム陰性桿菌を確認した.尿路感染症と診断し,入院となった.

【既往歴】大動脈離断症,動脈管開存症,心室中隔欠損症に対して,日齢17に大動脈弓離断症修復術・心室中隔欠損パッチ閉鎖術が施行されている.

【家族歴】特記すべきことなし.

【入院時身体所見】41.0°C.末梢冷感あり.意識清明.気道症状を認めなかった.心肺腹部に特記すべき異常を認めなかった.

【入院時検査所見】

[血算]WBC 12,100/μl,Hb 10.4 g/dl,Plt 23.0万/μl

[血液生化学]TP 6.4 g/dl,Alb 4.4 g/dl,LD 250 U/L,AST 30 U/L,ALT 12 U/L,γ-GTP 8 U/L,T-Bil 0.6 mg/dl,BUN 13.7 mg/dl,Cre 0.25 mg/dl,Na 138 mmol/L,K 3.9 mmol/L,Cl 105 mmol/L,CRP 5.42 mg/dl

[尿定性]NIT(−),WBC(3+)

【入院後経過】末梢冷感やふるえを認めることから菌血症(Urosepsis)の可能性も考慮し血液培養を提出したが陰性であった.Cefotaximeにて加療を行い,第3病日に解熱した.尿培養からKlebsiella oxytoca が検出された.その後内服の抗生剤に変更し,第8病日に退院となった.

【外来】VCUGにて右Grade I,左Grade VのVURを認めた(Fig. 3).男児であったため後部尿道弁の確認を行ったが,明らかな狭窄は認めなかった.腎機能を評価するため99mTc-DMSAシンチグラムを行った.分腎機能比は右:左 = 51:49と有意な差を認めなかった(Fig. 4).

Fig. 3 

VCUG(症例3)

右Grade I,左Grade VのVURを認めた(矢印).

Fig. 4 

99mTc-DMSAシンチグラム(症例3)

分腎機能比は右:左 = 51:49と左右差を認めなかった.

【コメント】Grade VのVURを認めたため,99mTc-DMSAシンチグラムを行い,腎障害を認めないことを確認した.尿路感染症を起こした児に対する画像検査としてVCUGとシンチグラムがある.従来はVCUGにて逆流を確認した児に対してシンチグラムを行うことが主であった(ボトムアップアプローチ).それに対して,まずシンチグラムにて腎機能を評価し,異常所見が認められた場合にVCUG行うという方法(トップダウンアプローチ)が近年話題になっている.トップダウンアプローチは腎機能を守るという目的に適った方法と言えるが,後部尿道弁などの下部尿路疾患の評価には不十分である.一方,ボトムアップアプローチは侵襲的処置であるVCUGを行わなければならないという点がある.アプローチ方法をボトムアップとするかトップダウンとするかは,症例毎に検討される必要がある.

【症例4】2歳男児

【主訴】尿路感染症に対する精査加療

【現病歴】発熱を主訴に前医を受診し,尿路感染症と診断された.Cefotaximeにて加療を行い改善した.入院中の腎臓超音波検査にて左水腎症に気付かれ,精査目的に当院受診となった.

【身体所見】全身状態良好.特記すべき異常なし.

【検査所見】

[腎臓超音波検査]右腎 明らかな異常なし,左腎 SFU Grade IIIの水腎症あり,長径47 mmと低形成あり(Fig. 5).

Fig. 5 

腎臓超音波検査(症例4)

SFU Grade IIIの水腎症および低形成(長径47 mm)を認めた(左腎).

[VCUG]左Grade VのVURあり(Fig. 6

Fig. 6 

VCUG(症例4)

左にGrade VのVURを認めた(矢印).

99mDTPAレノグラム]分腎機能比(右:左)= 76%:24%,左腎盂尿管移行部で排泄遅延あり(Fig. 7).

Fig. 7 

99mDTPAレノグラム(症例4)

左腎に排泄遅延を認めた.分腎機能比(右:左)= 76%:24%であった.

【経過】レノグラムで左腎機能低下が認められた.その原因は低形成腎であることに加え,Grade VのVURが関与している可能性が考えられた.腎機能障害のさらなる進行を防ぐために膀胱尿管逆流防止術(Cohen法)を施行した.

【コメント】本症例はVURに加えて低形成腎が認められた.腎臓は胎生4週頃に尿管芽と後腎間葉の相互作用によって発生が始まる.後腎間葉は尿管芽からのシグナルを受け糸球体,尿細管に分化し,尿管芽は後腎間葉からのシグナルを受け集合管,尿管に分化する4).したがって,VURの一部の症例は尿管芽の異常に起因すると言うことができる.腎臓は尿管芽と後腎間葉の相互作用によって発生するため,尿管芽の異常は腎臓発生の異常を来すことがあり,本症例のようにVURが先天性腎尿路異常(congenital anomalies of the kidney and urinary tract; CAKUT)を合併することは稀ではない.

3. 急性巣状性細菌性腎炎(acute focal bacterial nephritis; AFBN)

【症例5】16歳女性

【主訴】発熱

【現病歴】10日前より38–39°Cの発熱を認めていた.近医を受診し内服の抗生剤などを使用し一旦解熱した.前日より再度39°C台の発熱を認め入院となった.

【既往歴】生後3か月時に結節性硬化症と診断された.心臓腫瘍を認めたが現在は改善している.上衣下巨細胞性星細胞腫および腎血管筋脂肪腫を認めている.4歳時に急性脳症を発症し以後寝たきりで有意語を認めない.脳症後水頭症のためVPシャント術を受けている.尿路感染症を3回反復している.

【家族歴】特記すべきことなし.

【入院時身体所見】39.1°C,有意語を認めない,強い側弯を認める,心肺腹部に特記すべき異常を認めない.

【入院時検査所見】

[血算]WBC 23.2 × 千/μl,Hb 12.9 g/dl,Plt 22.4 × 万/μl

[血液生化学]TP 7.3 g/dl,Alb 3.6 g/dl,LD 348 U/L,AST 28 U/L,ALT 8 U/L,BUN 11.1 mg/dl,Cre 0.38 mg/dl,UA 3.5 mg/dl,Na 138 mmol/L,K 3.5 mmol/L,Cl 100 mmol/L,CRP 26.0 mg/dl

[髄液検査]Cell 1個/μl

[尿検査]NIT(1+),WBC(1+),細菌(+)

【入院後経過】尿検査で,膿尿,細菌尿を認めており尿路感染症と診断しCefotaximeにて加療を開始した.尿培養からはKlebssiela Pneumoniaが検出された.入院前,数日解熱期間があるものの10日前より高熱をしばしば認めたことと炎症反応が高値であることから急性巣状性細菌性腎炎(AFBN)の可能性を考え造影CT検査を行ったところ,右腎に楔形の造影不良域を認めAFBNの診断となった(Fig. 8).3週間抗生剤投与を行い退院となった.退院時の99mTc-DMSAシンチグラム(Fig. 9)では右腎の機能低下を認め,分腎機能比(右:左)は23%:77%であった.

Fig. 8 

腹部造影CT(症例5)

右腎に楔形の造影不良域を認めた(矢印).

Fig. 9 

99mTc-DMSAシンチグラム(症例5)

分腎機能比(右:左)= 23%:77%と右腎の機能低下を認めた.

【症例6】1歳女性

【主訴】発熱

【現病歴】発熱,咳嗽を認め,急性上気道炎として外来にて経過観察されていた.発熱が持続したため,発熱後6日目に精査加療目的に入院となった.

【周産期歴】妊娠33週1日,1,755 gにて出生.新生児一過性多呼吸にて2日間人工呼吸器管理を受けている.

【家族歴】特記すべきことなし.

【入院時身体所見】40.1°C,意識清明,肺野にrhonchiを聴取.

【入院時検査所見】

[血算]WBC 17.9 × 千/μl,Hb 9.7 g/dl,Plt 26.1 × 万/μl

[血液生化学]Alb 3.2 g/dl,LD 340 U/L,AST 32 U/L,ALT 12 U/L,BUN 6.9 mg/dl,Cre 0.34 mg/dl,CRP 13.7 mg/dl

[尿検査]施行せず

[胸部Xray]明らかな浸潤影なし

【入院後経過】気道症状を認めたため,細菌性気管支炎と考えAmpicillin/sulbactamにて治療を開始したが解熱は得られず,CRPは15.9 mg/dlまで上昇した.入院3日目(発熱8日目)に熱源精査のため造影CT検査を行ったところ,左腎の腫大と造影不良を認めAFBNの診断に至った(Fig. 10).この時点で採取した尿培養から後ほどEscherichia coliが検出された.Cefotaximeに抗生剤を変更したところ,入院5日目(発熱10日目)に解熱した.退院後施行したVCUGではVURを認めなかった.

Fig. 10 

腹部造影CT(症例6)

左腎の腫大と造影不良を認めた.

【コメント】症例5と症例6はともにAFBNの症例である.診断まで1週間以上かかっている.症例5では有意語を話すことができない寝たきりの患者であること,症例6は1歳児であることから,それぞれ患者自身の訴えを正確に聴取することが困難であった.尿路感染症の症状は非特異的であるため,疑わないと診断まで長い時間がかかってしまうことがある.AFBNは液状化を伴わない腫瘤性病変を形成する腎実質の細菌感染症である.腎盂腎炎と腎膿瘍の中間に位置すると捉えられているがこれらを明確に区別することはできない.腎臓超音波検査や造影CT検査では腎臓の腫大や辺縁不明な造影不良域を認める.

4. 後部尿道弁

【症例7】生後14日目,男児

【主訴】発熱

【現病歴】自宅にて38.0°Cの発熱と3回の嘔吐を認めたため当院外来を受診した.全身状態は良かったが,新生児発熱であり精査加療目的に入院となった.

【周産期歴】妊娠40週4日,2,620 gにて出生.特に異常を指摘されていない.

【家族歴】特記すべきことなし.

【入院時身体所見】38.0°C,大泉門平坦,心肺腹部に明らかな異常なし.

【入院時検査所見】

[血算]WBC 14.5 × 千/μl,Hb 14.1 g/dl,Plt 74.3 × 万/μl

[血液生化学]Alb 3.7 g/dl,LD 255 U/L,AST 28 U/L,ALT 14 U/L,BUN 7.7 mg/dl,Cre 0.24 mg/dl,CRP 0.00 mg/dl

[髄液検査]Cell 5個/μl

[尿検査]NIT(−),WBC(−)

【入院後経過】入院時,明らかな熱源を特定できなかったが,新生児発熱でありAmpicillinとCefotaximeにて加療を開始した.入院翌日には解熱したが,1日2–3回の嘔吐は続いた.CRPは0.01 mg/dlであった.入院時に提出した尿培養よりCitrobacter freundiiとEnterococcus faecalisが検出された.腎臓超音波検査を行ったところ,右腎にSFU Grade IVの水腎症を認めた(Fig. 11).尿路感染症と診断し抗生剤による加療を継続した.入院中にVCUGを行ったところ,右Grade V,左Grade IIIのVURを認めた.膀胱尿管移行部は左右共に拡張し,Hutch憩室と考えられた(Fig. 12).後部尿道弁の可能性,手術を念頭に精査を続けている.

Fig. 11 

腎臓超音波検査(症例7)

SFU Grade IVの水腎症(右腎)および尿管の拡張を認めた.

Fig. 12 

VCUG(症例7)

両側Grade VのVURを認めた.膀胱尿管移行部にHutch憩室(矢印)を認めた.

【コメント】本症例は発熱,嘔吐という非特異的症状で来院し,両側のVURが認められた.発熱は1日のみであり,CRPもほとんど上昇しなかった.新生児期の発熱は症状,検査所見が非典型的であることがあるため注意を要する.

【症例8】5か月,男児

【主訴】手術目的の紹介受診

【現病歴】生後2か月時に発熱を契機に,尿路感染症,敗血症と診断された.尿培養,血液培養よりEscherichia coliが検出された.腎臓超音波検査で右腎にSFU Grade III,左腎にSFU Grade IVの水腎症を認めた(Fig. 13).入院4日目には尿量減少および血清クレアチニン値の上昇(1.14 mg/dl)を呈したが,膀胱尿道カテーテル挿入により改善した.VCUGでは両側Grade VのVURを認めた(Fig. 14).以上により後部尿道弁による両側VURと診断された.腎機能障害や尿路感染症を認めることから早期の手術が必要と考えられ紹介入院となった.

Fig. 13 

腎臓超音波検査(症例8)

右腎にSFU Grade III,左腎にSFU Grade IVの水腎症を認めた.

Fig. 14 

VCUG(症例8)

両側にGrade VのVURを認めた.

【周産期歴】在胎20週頃より胎児超音波検査にて水腎症の指摘を受けていた.

【家族歴】特記すべきことなし.

【入院時身体所見】身長63.5 cm(−1.1 SD),体重7,530 g(−0.2 SD),外表奇形を認めず,心肺腹部に異常を認めない.

【入院時検査所見】

[血算]WBC 13.9 × 千/μl,Hb 12.4 g/dl,Plt 43.2 × 万/μl

[血液生化学]Alb 5.0 g/dl,LD 303 U/L,AST 37 U/L,ALT 22 U/L,BUN 17.5 mg/dl,Cre 0.39 mg/dl(eGFR 48.05 ml/分/1.73 m2

【入院後経過】まず膀胱鏡を用いて後部尿道弁(Young分類1型)を確認し切開した.その次に,VURに対してCohen術を施行した.術後尿管浮腫のため,尿量減少,血清クレアチニン値の上昇(0.64 mg/dl)を認めたため,2日後両側尿管にステントを留置し尿管閉塞解除し,尿量およびクレアチニン値は改善した.

【コメント】後部尿道弁は弁の過剰発生により排尿障害を来す疾患である.排尿障害のためしばしば膀胱のコンプライアンス低下を認める.その結果として腎機能障害を呈し,腎不全にいたる.末期腎不全のため,透析や腎移植を受ける例も存在している.弁切開が行われていても膀胱のコンプライアンスが改善していない場合,腎移植を受けた場合も再び逆流性腎症を起こしうる.そのため,膀胱拡大術や抗コリン薬の使用,清潔簡潔導尿などのよる下部尿路の管理が重要である.早期診断,早期治療介入が必要であることは言うまでもない.

III  おわりに

一言で尿路感染症と言っても,上部と下部,単純性と複雑性など様々に分類され,背景疾患も多岐にわたる.したがって,発熱や嘔吐,腹痛,背部痛など非特異的症状を呈する患者に適切に尿路感染症と診断し,背景疾患を特定するのは難しい.尿路感染症を見逃さないためには,発熱以外の症状に乏しい「急性熱性疾患」の鑑別に尿路感染症を想起しておくことである.尿路感染症の診断がつき,背景疾患の同定に有用なのが画像検査である.行われる画像検査は,腎臓超音波検査,VCUG,シンチグラム,レノグラム,MRUなどである.近年,ボトムアップアプローチやトップダウンアプローチなど,様々な画像検査のアプローチ方法が提唱されているが,各検査の長所と短所を理解し,個々の症例毎に適切な検査を選択することが重要である.

謝辞

本項の作成にあたり,画像を提供してくださった,東京女子医科大学腎臓小児科 服部元史先生,青梅市立総合病院小児科 横山美貴先生,東京大学医学部附属病院小児外科 渡邊美穂先生に深謝いたします.

文献
 
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