Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
Online ISSN : 2432-4388
Print ISSN : 0918-8487
ISSN-L : 0918-8487
Imaging approach for fever of unknown origin: diseases involving the neck
Seiichiro Yokoyama
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2018 Volume 34 Issue 1 Pages 8-12

Details

はじめに

不明熱(fever of unknown origin; FUO)とは,もともとは精査にもかかわらず診断の付かない3週間以上の発熱を指し,大きく感染症,腫瘍,非感染性炎症疾患,その他,の4つのグループに分けられる1)

日常診療の中で,3週間以上の経過に到らなくても,原因不明の長引く発熱の診断に苦慮することがときに経験される.そのような症例においては,詳細な病歴聴取,身体所見の評価とともに,鑑別すべき疾患に対する各種検査が行われる.この項では,その中で,頸部の画像検査に焦点をあて,主な疾患についての画像所見を提示する.

I  感染症

成人も含めた不明熱の原因のうち,感染症が約1/3を占める1)とされる.

発熱の原因として,日常診療においてはウイルス感染(特に上気道炎などの気道感染)の頻度が高いが,通常数日~1週間程度の経過で自然治癒する例が多い.中耳炎,副鼻腔炎なども遷延する発熱の原因となりうるが,画像検査が有用な疾患として,さまざまな部位の膿瘍があげられる.

1. 化膿性リンパ節炎

造影CTでは初期にはリンパ節の腫大,増強効果亢進などが認められ,進行して内部壊死を伴うようになるとリンパ節内に造影不良域が認められるようになる2,3).反応性リンパ節腫大との鑑別は初期には困難なことも多い.起炎菌として黄色ブドウ球菌,次にA群溶連菌が多く,抗菌薬による治療,ならびに表在性リンパ節で膿瘍を形成した場合は切開排膿が行われる4)Fig. 1の例は,遷延する発熱および頸部リンパ節の腫大のため受診した7歳男児で,造影CTで右頸部に辺縁増強効果を伴う低吸収域を認め,化膿性リンパ節炎からの膿瘍形成と診断した.Fig. 2の例は,発熱,頸部痛のため受診した7歳女児であるが,初回の造影CT画像(Fig. 2A)では上咽頭左背側に軽度の辺縁増強を伴う低吸収域を認め,当初は化膿性リンパ節炎,反応性リンパ節腫大,川崎病などの可能性を考えたが,follow upのCT(Fig. 2B)では辺縁増強効果がより明らかとなり,化膿性リンパ節炎およびそれに伴う膿瘍形成と診断した.

Fig. 1 

造影CT

腫大した右頸部リンパ節に辺縁増強を伴う低吸収域(→)を認め,化膿性頸部リンパ節炎と診断した.抗菌薬投与および切開,排膿により軽快した.

Fig. 2 

造影CT

A:上咽頭左背側に軽度の辺縁増強効果を伴う低吸収域(→)があり,左上内深頸リンパ節の腫大も認められた.外側咽頭後リンパ節の膿瘍化あるいは川崎病,反応性リンパ節腫大の可能性が考えられたため,抗菌薬治療の反応をみるとともにfollow upのCTを行った.

B:6日後のfollow up CTでは,低吸収域の辺縁増強効果がより明らかとなり(→),化膿性リンパ節炎およびそれに伴う膿瘍形成と診断した.

2. 咽後膿瘍

咽頭炎,扁桃炎,副鼻腔炎などから咽頭後リンパ節炎を生じ,リンパ節が破綻して咽頭後間隙(retropharyngeal space)に膿瘍を形成する疾患である5).鼻,副鼻腔,上咽頭,耳管,中耳,アデノイド,扁桃,側頭骨からの感染のリンパ行性の波及が多く,異物,外傷なども原因となる2).確定診断にはCTが必要で,咽頭後壁後方,頸椎前面の,辺縁増強効果を伴う低吸収域として認められる5)Fig. 3).CT所見により膿瘍の大きさ,周囲組織,縦隔への進展などを評価する.治療は,気道確保とともに切開・排膿,十分な抗菌薬の投与を行う.全身状態が良く,気道狭窄を伴わず,膿瘍が限局していれば保存的治療のみで軽快する場合もある4)

Fig. 3 

造影CT

咽後膿瘍の症例.咽頭後間隙に辺縁増強効果を伴う低吸収域(→)を認め,内部にガス貯留を伴っている.

後述の川崎病の症例で咽頭後壁に辺縁増強効果のない低吸収域がCTで認められることがあり(Fig. 4),咽後膿瘍との鑑別が必要となる6,7).膿瘍の確認のため試験穿刺を行うこともあるが,臨床経過や辺縁増強効果の有無が鑑別のてがかりとなる.

Fig. 4 

造影CT

咽頭後間隙に低吸収域(→)を認めたが,辺縁増強効果は明らかでない.当初咽後膿瘍も疑い抗菌薬投与したが反応不良で,後に川崎病症状が明らかとなり川崎病と診断した.免疫グロブリン製剤およびアスピリンを投与し,軽快.

3. 扁桃周囲炎・膿瘍

扁桃周囲膿瘍は化膿性扁桃炎をもとに生じる扁桃周囲腔に限局した膿瘍で,通常片側性であるが,まれに両側性のこともある.造影CTでは口蓋扁桃から扁桃周囲腔に限局して辺縁増強効果を伴う低吸収領域を認める.扁桃自体も炎症の程度により,増強効果亢進を示す2).画像診断では,膿瘍形成の有無,傍咽頭間隙などの隣接する深部組織間隙への進展の有無およびその範囲の評価が重要となる5).治療は抗菌薬の投与を行い,あわせて排膿処置が必要になる場合がある.Fig. 5の症例は右口蓋扁桃周囲に低吸収域を認めたが辺縁増強効果は明らかでなく,臨床経過と合わせて扁桃周囲炎と診断し,抗菌薬投与で軽快した.

Fig. 5 

造影CT

右口蓋扁桃に低吸収域(→)を認めるが,辺縁増強効果は明らかでない.この症例は抗菌薬投与のみで速やかに軽快し,臨床経過もあわせて扁桃周囲炎と診断した.

4. 唾液腺炎

唾液の流れの停滞,免疫能低下などを契機に逆行性感染を生じる2).CTでは唾液腺の腫大,びまん性濃度上昇が認められ,膿瘍を形成すると辺縁増強効果を伴う低吸収域を示す2)Fig. 6の症例は左耳下腺に連続する部位に辺縁増強効果を伴う低吸収域を認め,左耳下腺膿瘍と診断し,切開排膿および抗菌薬投与を行い軽快した.

Fig. 6 

造影CT

左頸部に辺縁増強効果を伴う低吸収域(→)を認め,左耳下腺との境界は不明瞭であった.左耳下腺膿瘍と診断し,切開排膿および抗菌薬投与で軽快した.

II  悪性腫瘍

過去の報告では,不明熱の原因の10–30%前後1)とされる.小児では成人に比べて頻度は低いと思われるが,臨床的に重要な疾患であり,鑑別を怠ってはならない.血液由来のもの,軟部組織由来のものなどがあるが,ここでは,小児でも稀ではなく不明熱の原因となり得る頸部の腫瘍性病変のひとつとして,悪性リンパ腫の例をあげる.

1. 悪性リンパ腫

内部均一でさまざまな大きさ(平均2~10 cm)のリンパ節を認め,造影CTではわずかあるいは中程度に造影されることがある.ホジキン病では縦隔リンパ節病変の合併が多く,非ホジキン病では,鼻咽腔,口腔などの粘膜下腫瘤をしばしば合併する8)Fig. 7の症例では,頸部~鎖骨上リンパ節が多数腫大しており,前縦隔に無名静脈を圧迫する造影効果の乏しい腫瘤像を認め,病理検査で古典的ホジキンリンパ腫,結節硬化型と診断された.悪性リンパ腫に対しては,抗がん剤による化学療法などが行われる.

Fig. 7 

造影CT

A:前縦隔に造影効果の乏しい一塊となった腫瘤像(→)を認め,無名静脈を圧迫している.

B:頸部リンパ節も多数腫大している.病理検査で古典的ホジキンリンパ腫,結節硬化型と診断された.

III  非感染性炎症疾患

血管炎や膠原病などで,不明熱の20–30%前後と報告1)されている.頸部に病変がみられ,小児期にも多い疾患として,川崎病,菊池病(組織球性壊死性リンパ節炎)を取り上げる.

1. 川崎病

乳幼児に好発する全身の血管炎を特徴とする疾患で,①5日以上続く発熱(治療により5日未満で解熱した場合も含む),②両側眼球結膜充血,③口唇の紅潮・いちご舌・口腔咽頭粘膜のびまん性発赤,④不定形発疹,⑤手足の硬性浮腫,掌蹠ないしは指趾先端の発赤,回復期の指先からの膜様落屑,⑥急性期の非化膿性頸部リンパ節腫脹が主要症状で,後遺症としての冠動脈瘤形成が問題となる.6項目のうち5つ以上の症状を伴うこと,あるいは4つの症状に加えて冠動脈瘤・拡大が確認され,他の疾患が除外されることで川崎病の診断がされるが,初期にはこれらの症状がそろっていないことも多く,他の疾患との鑑別を要する.治療は免疫グロブリン大量療法,アスピリン,ステロイドなどの投与が行われる.

川崎病では多房性の頸部リンパ節腫脹がおよそ65%にみられるとされるが,CT検査ではまれに咽頭背側に膿瘍に似た咽頭間隙の低吸収域を認めることがある6,7).これは膿瘍ではなく血管炎に伴う蜂窩織炎とされ,咽後膿瘍との鑑別が問題となるが,川崎病に伴うものは一般的な膿瘍と異なり辺縁増強を伴わないことが鑑別につながる57)Fig. 8の症例では,扁桃周囲の軟部組織の腫脹,咽頭後間隙の低吸収域が認められ,扁桃周囲膿瘍,咽後膿瘍も疑われたが,辺縁増強効果を伴わず,川崎病にも矛盾しない所見と考えた.後に臨床症状から川崎病と診断し,免疫グロブリン製剤およびアスピリンの投与で軽快した.

Fig. 8 

造影CT

A:左口蓋扁桃から左外側咽頭後部にかけて軟部組織の腫脹を認める(→).左深頸部リンパ節が多数腫大している.

B:咽頭後間隙の低吸収域を認める(→)が,辺縁増強効果は伴わない.左扁桃周囲炎および咽後膿瘍が疑われたが,後に臨床症状から川崎病と診断された.

2. 菊池病(組織球性壊死性リンパ節炎)

菊池病または組織球性壊死性リンパ節炎とも呼ばれ,30歳以下の若年女性に多く,発熱および頸部リンパ節腫大,倦怠感,下痢,時に体重減少,嘔気,嘔吐などを示す.病因は不明だが,いくつかのウイルス等の感染の関与が推測されている.良性で,数か月以内に自然軽快する.血液検査では白血球減少や異型リンパ球が認められる.CTでの所見は,片側性,内部均一な多発性リンパ節腫大で,多くは2.5 cmを超えない.壊死の所見や周囲への浸潤が見られることがある9).確定診断はリンパ節生検で行われ,多くは経過観察で自然治癒するが,症状が遷延する場合はステロイド,非ステロイド性抗炎症薬,免疫グロブリン製剤が奏功したという報告がある5)

まとめ

不明熱ならびにそれに準じる診断不明の遷延する発熱は日常診療でよく遭遇し,感染症,悪性腫瘍,非感染性炎症疾患などが主な原因となるが,診断に苦慮する場合も多い.画像診断は,正しい診断へのてがかりとなるとともに,膿瘍形成の有無,病変の進展度などを評価することで,適切な治療の選択に大変重要な役割を果たす.

文献
 
© 2018 Japanese Society of Pediatric Radiology
feedback
Top