2019 Volume 35 Issue 2 Pages 143-147
神経皮膚黒色症は,先天性巨大色素性母斑と中枢神経系のメラノサイト増殖からなる稀な先天性疾患である.我々は先天性巨大色素性母斑と多発する衛星色素性細胞を有し,頭部MRIで神経皮膚黒色症として特徴的な画像所見を認めた新生児2例を経験したので報告する.2例ともにT1強調画像で高信号,T2強調画像で低信号を示す脳実質病変が,特に側頭葉扁桃体と脳幹,小脳に多発して認められた.MRIでの信号異常はメラニンに特徴的であり,病変の分布,先天性巨大色素性母斑とあわせて神経皮膚黒色症と診断した.脳軟髄膜にはメラニン細胞の増殖を示唆する結節は認められなかった.1例では,交通性水頭症を表す脳室とくも膜下腔の拡大や脂肪腫あるいはdermoidの合併もMRIで描出された.頭部MRIは先天性巨大色素性母斑を伴う新生児における神経皮膚黒色症の診断と合併症の検出,フォローアップに有益な情報を与えてくれる.
Neurocutaneous melanosis (NCM) is a rare congenital disease consisting of development of congenital giant melanocytic nevi and CNS melanocytosis. We present two neonates who had giant congenital nevi and multiple smaller satellite melanocytic nevi on the scalp and extremities, with brain MRI findings characteristic of NCM. In both neonates, MRI demonstrated multiple brain parenchymal foci of T1 hyperintensity and T2 hypointensity, signal characteristics of melanin with the T1, and T2 shortening effects. These foci were seen in the amygdalae, brain stem, and cerebellum. In one neonate, dilatation of the ventricular system and subarachnoid space was identified, representing communicating hydrocephalus. These intracranial findings are characteristic of NCM. No obvious leptomeningeal contrast enhancement was demonstrated. MRI can provide useful information for the diagnosis and follow up of NCM.
色素性母斑は,メラニン色素産生細胞であるメラニン細胞が皮膚組織に過剰増殖した良性病変である.色素性母斑が出生時より,または出生後数か月以内に出現するものを先天性色素性母斑(congenital melanocytic nevi,以下CMN)という1).特に巨大なものや衛星色素性母斑を多数有するもの,母斑が頭部や体幹の正中線上に認められるものは,悪性黒色腫や神経皮膚黒色症(neurocutaneous melanosis,以下NCM)の合併率が高いと報告されている2).今回われわれは出生時より巨大先天性色素性母斑を有し,頭部MRIでNCMとして特徴的な所見を認めた新生児2例を経験したので報告する.
主訴:巨大CMN
家族歴:特記事項なし
現病歴:在胎37週,出生体重2,540 g,アプガースコア1分値8点5分値9点で出生した.下腹部から両側腹部,背部にかけて巨大CMNを認め,頭部および胸部,四肢に衛星色素性母斑が多数散在していた(Fig. 1a).全身状態観察および中枢神経精査のため,NICU入院となった.
a:症例1の背面写真 巨大先天性色素性母斑と衛星色素性母斑が散在している.b,c:頭部MRI T1強調画像横断像 両側扁桃体(黒矢印)と小脳(白矢頭),脳幹背側(白矢印)に高信号域を認める.
身体所見:体温37.1°C,脈拍132 bpm,呼吸数48回/分.活気良好.巨大CMNと衛星色素性母斑を認める以外に異常所見なし.神経学的異常所見なし.
血液検査所見:血算生化学検査に異常なし.
頭部MRI検査所見(Fig. 1b, c):両側扁桃体と小脳,脳幹背側にT1強調画像(T1WI)(Fig. 2b, c)で高信号,T2強調画像(T2WI)で低信号を呈する病変が多数散在していた.脳室拡大はなく,Gd造影剤の静脈投与による撮影は施行されなかった.
a:症例2の背面写真 巨大先天性色素性母斑と衛星色素性母斑が散在している.b,c:頭部MRI T1強調画像横断像 両側扁桃体(黒矢印)と小脳(白矢頭),歯状核(黒矢頭),脳幹(白太矢印)に高信号域を認める.また著明な両側側脳室拡大と脳実質萎縮を認める.脳幹両脇に見られる小さな高信号域(白細矢印)は脂肪腫またはdermoidの可能性が考えられる.
入院後経過:巨大CMNと頭部MRIのメラニン沈着と思われる病変の特徴的な分布からNCMと判断した.髄液検査は施行されていないが,臨床的に合併症の発症は認めず,現在,合併症として頻度の高い水頭症による頭痛や嘔吐,けいれんといった症状の有無を外来で経過観察中である.
症例2:日齢0 女児主訴:巨大CMN
家族歴:特記事項なし
現病歴:在胎39週,出生体重2,990 g,アプガースコア1分値8点5分値9点で出生した.背部を中心に体幹全面や四肢近位部まで,頭部から顔面の大部分を占める巨大CMNを認め,四肢に衛星色素性母斑が多数散在していた(Fig. 2a).全身状態観察および中枢神経精査のため,NICU入院となった.
身体所見:体温37.0°C,脈拍128 bpm,呼吸数52回/分.活気良好.巨大CMNと衛星色素性母斑を認める以外に異常所見なし.神経学的異常所見なし.
血液検査所見:血算生化学検査に異常なし.
頭部MRI検査所見(Fig. 2b, c):両側扁桃体(Fig. 2b, c)と小脳半球,歯状核,脳幹にT1WIで高信号,T2WIで低信号を示す病変が散在していた.Gd-DTPAによる造影MRI では同病変はいずれも淡く造影されていたが,軟髄膜には明らかな造影効果は見られなかった.また著明な両側側脳室拡大やくも膜下腔拡大からは水頭症が疑われた.後頭蓋窩橋両側にはT1WI,T2WIでともに高信号を呈する小病変を認め,脂肪腫もしくはdermoidの可能性が示唆された.
入院後経過:巨大色素性母斑と頭部MRIの特徴的な画像所見からNCMと判断した.軟髄膜に造影効果は認められず,メラノーマが存在する可能性は低いと考えられた.外来経過観察中にけいれん発作を認め,フェノバルビタールによる内服コントロール中である.
CMNは新生児の1~3%に認められ3),大きさによって直径1.5 cm未満の小型なもの,1.5~20 cmの中型なもの,20~40 cmの大型なもの(新生児では頭部で9 cm以上,体幹で6 cm以上),40 cm以上の巨大なものに分類される4).大型または巨大なCMNの発現は約2万出生に1人であり5),巨大なものの多くは発生部位によって6つに分類され,背部や臀部,生殖器付近に好発する6).CMNの合併症としてNCMや悪性黒色腫があり,特に体幹後軸に沿う直径40 cm以上の巨大CMNに20個以上の衛星色素性母斑を伴う時,NCMの発症リスクが高いとされる7–10).また巨大CMNの6~11%に症候性NCMを発症するとされている11).
NCMは皮膚と脳実質や脳脊髄膜にメラニン細胞の増殖がみられる稀な先天性疾患である.一般的にNCMの患児は生後2年以内に神経学的症状を認め,罹患児の3分の2は水頭症による頭痛や嘔吐,けいれんといった症状を示す12,13).水頭症は軟髄膜の肥厚,脳脊髄液の流れの閉塞や再吸収が低下することで発症すると考えられている14).CNSの合併症として水頭症の他に,増殖したメラニン細胞の腫瘤形成による脊髄の圧迫や悪性メラノーマの脊髄への浸潤がNCMの約20%でみられ,進行すると神経根障害や脊髄症(myelopathy),消化管や膀胱排泄障害などを引き起こす11).症候性NCMは予後不良で,脳軟髄膜メラノーシスの発症は40~62%に達し,多くが神経学的症状発症から3年以内に悪性化により死亡すると報告されている15–17).脳実質や脳脊髄膜にメラニン細胞の沈着をみとめる一方,無症候性NCMでは平均5年の経過観察で,中枢神経系にメラノーマを生じた症例はないとの報告もある18).NCMの診断基準として,Fox19)は①巨大な色素母斑を伴う皮膚色素沈着が存在すること,②皮膚病変に悪性変化がみられないこと,③軟膜,脳,脊髄以外のいかなる器官においても悪性黒色腫が存在しないことの3点をあげているが,この基準では臨床所見から確定診断を得ることは不可能である.吉岡ら20)は,①皮膚に先天性の大きな,あるいは多発性の色素性細胞を認める,②造影MRIまたは造影CT でsubarachnoid enhancementを認める,③髄液細胞診で色素顆粒を有する異常細胞を認めることの3点をNCMの診断基準としている.特にMRIによる画像診断は侵襲が少なく,診断に有用である.
NCMのMRI所見は,メラニンのT1短縮作用により脳実質と軟髄膜の病変がT1強調画像で高信号を呈し21),病変が側頭葉前部,特に扁桃体に好発することが特徴で,このほか小脳半球や歯状核,基底核,視床,橋にも散在する11,14,17).メラニンのT1緩和時間短縮作用の原因としては,常磁性体である遊離基(free radical)を擁する,凝集してたんぱく質のような高分子を形成する,常磁性体であるFe3+,Cu2+などをキレート化する,と推定されているが,主たる原因はメラニンに捕捉されたFe3+とある22).メラニンがこれらの部位に沈着する理由として,メラニン細胞が神経堤細胞由来であることが挙げられる.髄膜を形成するために神経堤細胞が神経管の背側から髄膜の屈曲部の領域へ移動し,髄膜の初期の部分が基底髄膜及び小脳テントを形成する領域で合体する.NCMではこれらの部位で過剰なメラニン細胞が発現すると推測される23).
T2強調画像では,脳実質病変は低信号か等信号を示す.脳実質病変は造影効果に乏しいが,髄膜病変は濃染される15,16).病変の悪性化を示唆する確立された診断基準はなく,既存の病変の増殖や血管浮腫,出血,内部病変壊死などで評価する23).この他にNCMに合併する所見としては,くも膜嚢胞や小脳低形成,脊髄脂肪腫,係留脊髄,キアリ奇形1型などである13,16,18).
T1強調画像で高信号を示すものとして,脂肪や高タンパク成分,メトヘモグロビン,金属イオンが鑑別に挙げられる24).頭蓋内に脂肪を含有する病変として脂肪腫,奇形腫,類皮嚢胞があり,これらは脂肪抑制画像で信号が抑制される.高タンパク成分を含有する病変にはコロイド嚢胞やラトケ嚢胞があり,コロイド嚢胞は脳室内に,ラトケ嚢胞は下垂体に好発する特徴をもち,共に辺縁が造影されることが多い.メトヘモグロビンとカルシウムのような反磁性物質はアーチファクトとなる.そのほかのメラニン含有病変として原発性悪性黒色腫と黒色腫からの転移性病変があり,どちらの病変も高信号となるが11),左右対称性に扁桃体に病変を示すことは稀である21).今回の2症例はともにT1強調画像で両側扁桃体と小脳,脳幹に高信号を認め,T2*で出血を示唆する低信号を示さず,脂肪抑制画像は撮像されていないがT2強調画像では低信号を示すことから脂肪の存在は考えにくく,メラニン沈着と思われた.これらはNCMに特徴的な所見である.確定診断には造影MRIと髄液細胞診が必要であるが,症例1は生後数日であり腎機能を考慮し造影MRI検査を行わなかった.また2症例ともMRI所見がNCMとして特徴的であったことから,髄液細胞診で色素顆粒を有する異常細胞が認められなくてもNCMを否定することはできないため,髄液細胞診は行わない方針とした.外来経過観察中は,NCMの合併症として頻度の高い水頭症による頭痛や嘔吐,けいれんといった症状に注意し,CMNに関しては形成外科や皮膚科と密な連携をとっていく予定である.
先天性巨大色素性母斑を有し,頭部MRIで神経皮膚黒色症と判断した新生児の2例を経験した.神経学的予後に大きく影響することから,生まれつき巨大色素性母斑を持つ児には頭部MRI検査を行うべきであると思われた.
本論文は,日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.