Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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The 56th Annual Meeting of the Japanese Society of Pediatric Radiology: Aiming for a 360-degree evaluation for a new age of pediatric practice
The ABC of pediatric chest X-ray interpretation
Hiroyuki Mochizuki
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2021 Volume 37 Issue 1 Pages 11-17

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要旨

小児の呼吸器疾患の原因疾患は気道感染症のみならず,先天性疾患やアレルギー疾患など,多岐に及ぶ.さらに,成長・発達に関連する因子が加わるため,同じ範疇の疾患であっても,年齢的な相違がみられる.年少児では気道感染症に罹患しやすく,解剖学的,呼吸生理学的な不利から呼吸器症状を起こしやすいことや肺機能検査ができないことから,診断に苦慮することも多い.一方,小児患者の保護者は,疾患に対する不安だけでなく,夜間の症状出現による保護者自身の睡眠障害などから,心身共に疲弊する傾向にある.このため,小児の患者では診断や治療効果判定に画像診断の比重が高い印象がある.胸部X線撮影は最も身近な画像診断法であるが,単純撮影であっても得られる情報は数多い.小児の呼吸器の特性,さらには,小児の呼吸器疾患の特性を理解すれば必要十分な情報を引き出し,早期の診断や有効な治療に結び付けることが可能である.

Abstract

Respiratory diseases in children include not only respiratory tract infections but also congenital diseases and allergic diseases. Furthermore, due to the addition of factors related to growth and development, there are age-related differences even in the same category of diseases. Infants and younger children are often difficult to diagnose because of their anatomical and respiratory physiological issues, which are prone to respiratory symptoms and the inability to perform lung function tests. Furthermore, the parents of these patients tend to be physically and mentally exhausted not only due to anxiety about the disease but also due to their own disturbed sleep, as their child’s symptoms tend to appear at night. For these reasons, diagnostic imaging seems extremely important for the diagnosis and judgment of therapeutic effect in pediatric patients. Chest X-ray photography is the most common imaging technique. Even with simple radiography, a lot of information can be obtained. Understanding the characteristics of respiratory organs and the characteristics of respiratory diseases in children can aid in extracting sufficient information to make an early diagnosis and determine the efficacy of treatment.

はじめに

小児の呼吸器疾患は,気道感染症のみならず,先天性疾患やアレルギー疾患,循環器疾患など,原因となる疾患は多岐に及ぶ1).さらに,成長・発達に関連する因子が加わるため,同じ範疇の疾患であっても,年齢的な特徴・相違がみられる.呼吸器疾患としての症状は成人同様,咳嗽,喘鳴が主であるが,年少児では免疫系の未発達から気道感染症に罹患しやすく,症状が反復・遷延する傾向がある.さらに年少児では,解剖学的,呼吸生理学的な不利から喘鳴が起こりやすく,これまでの調査では乳幼児全体の24%で喘鳴の既往が認められたことからも2),鑑別診断に苦慮することも多い.

一方,小児患者の診断・治療にあたり,保護者への対応は重要である.特に乳幼児の保護者は,呼吸器症状の重症化や急激な悪化への不安,さらには夜間の症状出現による保護者自身の睡眠障害などから,心身共に疲弊する傾向にある3).このような状況にあって,保護者がまず外来診療に求めることは,明確な診断と思われる.しかしながら,問診と胸部聴診を基本として診断を進めるものの,年少児では症状の訴えがないだけでなく,努力性呼吸が求められる肺機能検査を行うことができないという不利がある.このため,成人の患者以上に,画像による診断・治療効果判定が重要と思われる.

今回は,2年前にお亡くなりになられた国立成育医療研究センターの川﨑一輝先生と共に作成した小児の胸部X線写真の読影の手引き46)を糧として,最も身近な画像診断法としての胸部単純X線写真の読影につき,小児の呼吸器疾患の特性を基本として述べる.

小児患者の胸部X線写真の読影にあたって

1. 読影の前に

近年の電子カルテ化に伴い,画像検査をオーダーした後,主治医が読影・判定する機会が減り,若手医師をはじめとして画像診断のレベル低下が懸念されている4).画像診断として,胸部単純X線写真によるアプローチのみならず,CT,MRI検査や超音波検査,さらにはファイバースコピーを用いた検査も行われるが,診断の難しい症例では,いくつかの画像検査を総合的に評価することも重要である.さらに,小児の呼吸器疾患には普遍的な特性がみられるため,あらかじめ,理解しておく必要がある.

2. 小児の呼吸器の特性

小児の呼吸器には,解剖学的な特性と呼吸生理学的な特性がみられる7).解剖学的な特性としては,低年齢児における肺の形状が挙げられる.すなわち,年少児では肺の上葉,中葉が未発達であるため,肺の形状が円錐に近い.年長児や成人のような直方体ではないことは,下葉に依存した呼吸を強いることとなり,この年齢における気道閉塞や気道狭窄に対する不利が推測される.

呼吸生理学的な特性としては,年少児の気管支や肺は発達の最中であり,気道径が小さく肺胞数も少ないこと,さらに末梢気道のバイパスである肺胞間,気道-肺胞間の副行換気系(Kohn孔,Lambert管などによる)が未発達のため,気道閉塞が起こりやすい環境にあることが知られている8).およそ7歳を過ぎると,この呼吸器としての発達は完成するが,それまで,この呼吸生理上の不利は続くことになる.

臨床上の特徴として,前述のごとく乳幼児では喘鳴の頻度が高いことが知られているが2),口蓋や気管・気管支軟骨が柔弱であるため,わずかな圧で変形し狭窄や振動が起こりやすいこと,年少児における気道系は過分泌傾向にあること,さらに,免疫系の未熟性から呼吸器感染症に罹患しやすいことが原因と考えられている.これに加えて,胸郭を形成する肋骨・肋軟骨も柔弱であることから,胸郭内を十分な陰圧にすることができないという酸素化に対する不利もある9).年少児では重大な呼吸障害が起こりやすい条件が揃っており,このことはすべて,胸部X線写真の画像に反映することを留意すべきである.

小児の胸部X線写真の基礎

1. 小児の撮影上の特性

小児患者において,最も顕著な撮影上の特性とは,「胸部X線写真が正しく撮れない場合が多い」ということであろう.一般診療においても,泣いたり騒いだりするのが小児であるが,胸部X線写真の撮影においても同様で,保護者が付き添ったとしても,撮影の瞬間,のけぞって前屈・後屈の撮影となることや,身を捩って斜位になることは,日常的に遭遇する事態である(Fig. 14,6).最大吸気時に撮影が行えないこともしばしばみられるため,小児の胸部X線写真の読影に際しては,常に胸部X線写真が最大吸気位であるか,前屈・後屈があるか,斜位ではないかを確認しておくべきである.取り直しの撮影は行わないのが一般的で,これらの所見がみられたら,その不利を差し引いて評価する必要がある.Table 1に,小児の胸部X線写真・読影に際しての注意点を総括した.

Fig. 1 

患児の体位と胸部X線写真

小児の胸部X線写真では体位の影響が大きいため,読影の前に確認する必要がある.(自家資料を基に)

Table 1  小児の胸部X線写真の読影にあたって
撮影上の確認事項
・線量の多少
・立位と仰臥位
・一般撮影とポータブル撮影
・吸気位と呼気位
・前屈・後屈の有無
・左右ローテーションの有無
小児の正常所見の理解
・胸腺
・乳房
・漏斗胸・鳩胸
・奇静脈葉
読影の開始時のルーチン
・①~⑤の所作(後述)

2. 小児に特異的な正常所見

小児には,成人では見られない特異的な正常所見があるため,読影にあたり理解しておく必要がある10).胸部X線写真でよく問題になるのは,胸腺の陰影であろう.小児において,まだ機能し大きさを保っている臓器として,扁桃腺や虫垂が知られているが,前縦隔にある胸腺もまた,乳幼児期に確認されることが多い.生後,年齢とともに縮小・扁平化するため,写真上,底辺を minor fissureに揃えた三角形(sail sign)として認められることが多い4).一方,漏斗胸や鳩胸のような変形した胸郭や椎骨の異常がみられると,心臓や大血管の位置に偏移がみられるため,読影上,注意が必要である.

3. 胸部X線写真撮影のタイミング

前述のごとく,小児の臨床では,咳嗽や喘鳴などの呼吸器症状の患者の頻度は高く,軽症から重症まで,疾患も多岐に及ぶため,問診や理学所見より得られた情報に,必要あれば画像検査を加え,確定診断を導くことが求められる.

胸部X線撮影の対象として,反復性,遷延性(2週間以上)の咳嗽が認められる症例,急激に激しい咳嗽がみられた症例11),膿性の喀痰が認められる症例が適応と考えられる.また,聴診上の異常や反復する喘鳴の認められる症例,呼吸困難を訴える症例についても,鑑別診断のために施行されることが多く,呼吸器疾患の治療後の経過判定にも用いられる.

胸部X線写真は単純撮影であっても得られる情報は数多いため,画像を前にして,改めて患者の呼吸器疾患に向き合うことにも意義がある.画像上,肺野に浸潤影が確認されたり,エアートラッピングの所見が認められれば,再度,聴診を行うことを勧めたい.

4. ポータブル撮影の特徴

小児科の入院患者,特にNICUやICUの重症患者ではポータブル撮影がよく用いられる.ベッドサイドでの撮影が可能なため,被検者を撮影室まで移動させなくても良い利点があるが,撮影条件が異なるため,その特性を理解すべきである(Table 25)

まずポータブル撮影では,被検者は寝たままの状態で撮影されることがほとんどであり,通常の撮影と異なり仰臥位での撮影となる.また,フィルムは被検者の背面に差し込まれることになるため,立位の撮影では後前(PA)方向の撮影が通常であるが,ポータブル撮影では前後(AP)方向の撮影となることにも留意すべきである.この結果,ポータブル撮影では前胸部の臓器の陰影が拡大傾向となり,心陰影であれば15~20%ほど拡大されて撮影される.さらに仰臥位であることから,最大吸気は難しく,さらに重力で肝臓や腹部内臓が平定化し,結果として横隔膜や肺を画面上方に圧迫した画像となる.なお,仰臥位の撮影では,肋骨横隔膜角(costophrenic angle; CPA)は胸腔の最下点ではなくなるため,ポータブル撮影の画像におけるCPAの性状をもって,わずかな胸水の存在を評価することはできない5)

Table 2 

ポータブル撮影の特徴

(1)一般撮影とポータブル撮影
一般撮影ポータブル撮影
立位及び座位(胃泡像あり)仰臥位,座位,半座位(心陰影拡大,横隔膜の高位置)
後前(PA)方向撮影前後(AP)方向撮影(心陰影は10~25%拡大)
やや前傾・最大吸気時反り返り(鎖骨の位置の相違)
高電圧電圧やや低め(不鮮明)

・ベッドサイドで撮影が可能である.

・鮮明な画像を得にくい.

・医療器具,衣服によるアーチファクトが多い.

 

(2)読影にあたっての確認事項
・仰臥位での撮影は最大吸気時ではなく,横隔膜も高く位置するため,肺は縮小する傾向となり,肺紋理は増強される.
・肩甲骨は内側に位置する.
・AP像でCTRは0.55–0.57以下が正常である.
・CPAが胸郭の最低位ではないため,微量の胸水の評価はできない.

より良い読影のために

1. 読影開始時のルーチンとは

学生や研修医の授業では,胸部X線写真の読影の始めるにあたって,重要な所見を見落とさないように,定められたルーチンを「読影開始時の所作」として行うよう指導している.一定の所作から始めることは合理的であり,先入観がもたらすケアレスミスをなくすことに繋がる.特に低年齢児の胸部X線写真では,前述のような撮影上の不利がしばしば生じるため,的確な評価を行うにあたり,常に撮影のバックグラウンドについて認識しておく必要がある.

そこで我々は,読影開始時に,以下の順番で撮影条件等の確認を行うことを勧めている(Fig. 2).すなわち,①正面か否か:鎖骨の位置で,前屈・後屈の有無,斜位の有無を確認し正面で撮られた写真であるか否かを確認する,②立位か否か:胃泡における鏡面像の有無により,立位であるか否かを判定する,③最大吸気か否か:横隔膜の位置で,最大吸気時に撮影されているかを判断する,④骨・軟部組織の異常:胸郭周囲の骨・軟部組織の異常を確認する.このとき,胸郭内の胸膜肥厚や胸水貯留の所見についても確認するのが良い.最後に,⑤縦隔の異常:縦隔の異常を確認する.この一連の所作の後,胸部・肺野の異常についての読影を開始する.

Fig. 2 

胸部X線写真読影のルーチン

胸部X線写真の読影にあたり,まず,①から⑤の順で当該の写真の基本的事項の確認を行う.(自家資料を基に)

大切なことは,これらの所作をルーチンとし,要領よく短時間で行うことが肝心である.プレゼンテーションにあたっては,まず,「立位正面,最大吸気時に撮影され,骨・軟部組織,縦隔に異常は見られません」等,当該の写真における各項目を順番に説明してから,本題に入ることが好ましい.

2. 読影のための用語

画像診断では,フィルム上の所見を的確に説明するため,頻繁に専門用語が用いられる.特殊な性状や病態からの用語も多いようであるが,日常診療でよく使われる用語は決して多くはない.最もポピュラーで有益な用語として,「エアブロンコグラム(気管支含気像,気管支透亮像)」がある(Fig. 34).気管支が浸出液,またはそれと同等の密度の物質で取り囲まれると,気管支内の空気が透亮像として見えることを指すが,肺内に浸潤様所見がみられること,また,その部位が肺内の病変と確認できることに意味がある.周囲が液体でなく,肺実質性病変や強い間質性病変であっても見られるサインであり,透亮像に気管支特有の枝分れが認められれば気管支の存在が確認できる.

Fig. 3 

エアブロンコグラム

気管支拡張症(線毛運動異常症)の症例で,末梢に向かって気管支の透亮像が認められる(矢印).(自家資料より)

「シルエットサイン」は疾患部位の位置を推し量る上で有用である.異なる組織でも密度が同等であれば,接触した部分の辺縁が消失する法則を応用して,肺の浸潤した部位や胸郭内の腫瘍病変の位置を,心臓や大血管,横隔膜の辺縁の消失(シルエットサイン陽性)により推定するものである(Fig. 44)

Fig. 4 

シルエットサイン

マイコプラズマ肺炎の症例で,右下葉にみられる浸潤影は横隔膜に接し,シルエットサイン陽性である.(文献4)より)

また,「エアートラッピング」の所見とは,空気が肺に過剰に取り込まれている状態を指す.気道のどこかにチェックバルブが存在することが予測され,喘息の急性増悪(発作)や気道異物で認められる.画像上,肺野の透過性亢進が認められ,気腫性変化,含気量亢進とも表現される(Fig. 56).なお,肺胞の破壊により肺野の透過性が亢進する疾患・症例もあるため,本来のエアートラッピングでは,肺の体積増加による縦隔影の偏移や心陰影の狭小化,横隔膜の平坦化等を伴うことが多い点に注意する必要がある.

Fig. 5 

エアートラッピング

RSウイルス細気管支炎の児.急性細気管支炎の患者で,エアートラッピングの所見として両側肺野の透過性亢進がみられ,横隔膜の平坦化も明らかである.(文献6)より)

3. 胸部X線写真による鑑別の実際

上記に示したテクニックを用いて,小児の代表的な呼吸器疾患の胸部X線写真について述べる.おそらく,小児の外来診療において,胸部X線写真撮影が最も行われる疾患は,急性気管支炎・急性肺炎などの下気道感染症と思われる.年少児では,前述のごとく過分泌傾向にあり,喘鳴や湿性ラ音を生じやすいため,鑑別のための胸部X線撮影の機会も多い.

急性気管支炎として気管支に炎症が存在すれば,画像上,肺門から末梢にかけて,気管支粘膜の浮腫や浸潤による肥厚が観察される6).炎症による粘膜浮腫や過分泌による気道閉塞の結果として,末梢側に無気肺が生じることもある.一方,急性肺炎の陰影として,ウイルス性の急性肺炎では間質性,細菌性の急性肺炎では肺胞性の陰影がみられることが知られているが,これらの別により確定できるものではない.

急性細気管支炎は1歳以下の年少児にみられる喘鳴性疾患の代表であり,胸部X線写真では両肺野にエアートラッピングの所見が認められる12).末梢気道の粘膜損傷が強い疾患のため,無気肺を伴うことも少なくない.

反復する喘鳴が認められれば,喘息を疑う.喘息の急性増悪(発作)時には気管支平滑筋の収縮や気道粘膜の浮腫がみられ,胸部X線写真では肺野の透過性亢進など,エアートラッピングの所見が観察される13).重症例でエアートラッピングが著しい場合,心陰影の狭小化,横隔膜の平坦化もみられるが,縦隔気腫,皮下気腫も観察されることがある.急性増悪(発作)時の過分泌による気道閉塞により,無気肺も生じやすい.これまで,治療抵抗性喘息・難治性喘息として本院に紹介された中には,心因性咳嗽14)のほか,稀な疾患ではあるが閉塞性細気管支炎15),びまん性汎細気管支炎,嚢胞性線維症,気管支腫瘍の患者がみられている.各々,特徴ある臨床症状と画像所見を示すため,初診時の胸部X線写真の読影は重要である.

急激な激しい咳嗽の出現と異物吸引の既往があれば,気道異物を強く疑う.幼児では少なからずみられる疾患であり16),完全閉塞に至ると咳嗽は消失することにも留意する必要がある.胸部X線写真では,エアートラッピングや無気肺の存在について注目する.可能であれば胸部X線撮影を呼気時,および吸気時に施行し,呼気の排出が阻害され呼気時に縦隔が健側へ偏移することを確認する(Holzknecht’s sign)5).胸部X線写真で異常を確認できない場合は,胸部CTやMRI検査,さらには気管支鏡検査を考慮するが,最も頻度の高い異物であるピーナッツであれば油脂を含むため,MRI検査で高信号として確認できる.

まとめ

胸部X線写真を十分に読影すれば,単純撮影であっても得られる情報は数多い.小児の呼吸器疾患は多岐に及ぶことからも,診断のために頻用されるが,小児においては,撮影時の偶発的な事象による影響もみられるため,読影にあたっては,撮影上のバックグラウンドも正しく把握することが必要である.小児特有の不具合が生じても,まずその中から必要な情報を引き出し,診断に結び付けていくことが求められる.

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