2021 Volume 37 Issue 1 Pages 113-118
1歳10か月女児.発熱2日目(第2病日)に痙攣し,単純型熱性痙攣と診断された.第3病日,川崎病主要症状全てを認め川崎病の診断で当院に入院し,免疫グロブリン療法(IVIG)を開始した.同日夜に痙攣を2回認めた.第4病日,発熱が続きJapan Coma Scale 30の進行性の意識障害があり,脳MRIを施行したところ拡散強調画像において,脳梁膨大部,および前頭葉から半卵円中心に対称性の高信号域を認め,拡散係数は低下し,mild encephalitis/encephalopathy with a reversible splenial lesion(MERS)2型の画像所見に合致した.進行性の意識障害を認めたためIVIG追加とステロイドパルス療法を行ったところ,意識障害は改善し,後遺症なく経過した.本症例のように熱性痙攣と考えられた場合でも,脳炎・脳症の可能性があるので慎重な経過観察が必要である.
A 1-year-old girl convulsed and was diagnosed with simple febrile seizure at another hospital on the second day of fever. Day 3 of fever, she was diagnosed as having KD based on the presence of 6 out of 6 criteria at our hospital and was hospitalized and treated with intravenous immune globulin (IVIG) and oral aspirin. She had convulsions twice that night. On the 4th day, she exhibited a persistent disturbance of consciousness and was diagnosed as having MERS type 2 based on the presence of enhanced signals in the splenium of the corpus callosum and cerebral cortex in her diffusion-weighted brain MRI. The treatment with IVIG for KD and pulsed methylprednisolone for MERS type 2 was started because her consciousness had deteriorated. Afterwards her consciousness improved and there were no sequelae. We should be careful that even if a child is diagnosed with febrile seizure at some point, it may be encephalitis/encephalopathy in KD later.
脳梁膨大部の可逆性病変を認める病態として,感染,抗てんかん薬の中断,高山病,川崎病,電解質異常(特に低Na血症状),低血糖,Charcot-Marie-Tooth病などが挙げられる1).なかでも,『可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎/脳症(mild encephalitis/encephalopathy with a reversible splenial lesion; MERS)』は MRI拡散強調画像で脳梁膨大部に可逆性病変を有し,神経学的症状が比較的軽度の予後良好な脳炎・脳症であり,脳梁のみに病変を有する典型症例をMERS 1型,脳梁に加え白質に対称性病変を有する症例をMERS 2型と称される1).2011年以降,川崎病のMERSを合併した症例報告は増加傾向で,MERSを合併した川崎病は冠動脈瘤合併率が44.4%と川崎病全体での合併率1%を大きく上回ったと報告されており,MERSの診断意義が高まっている1).しかし,神経所見の経過については明確でなく,症状は軽微で可逆的なことが多いため診断は容易でないことが推察される.今回我々は単純型熱性痙攣の診断後,痙攣が群発し,進行性の意識障害を認めMERS 2型の診断にいたり,後遺症なく経過した一例を経験した.
症例:1歳10か月 女児.
主訴:発熱.
現病歴:入院2日前より発熱がみられ,この日を第1病日として,第2病日に眼球上転を伴う左右対称性の強直性痙攣が約1分間持続し,他院へ救急搬送された.初発の単純型熱性痙攣と診断され自宅療養となった.帰宅後,四肢に紅斑,硬性浮腫が出現した.第3病日,近医を受診し,精査のために当院紹介となった.
入院時現症:体温40.6°C,心拍数180回/分,血圧104/36 mmHg,不機嫌で笑わないが視線は合う状態であり,JCS 2に相当した.心音,呼吸音に異常は認めなかった.両側眼球結膜充血,口唇紅潮を認めた.いちご舌は認めなかった.両側頸部リンパ節腫脹を認め,全身に広がる紅斑,手掌紅斑,硬性浮腫を認めた.BCG接種痕の発赤は認めなかった.
既往歴・家族歴:特記事項なし.
入院時検査所見:好中球優位に白血球が上昇しておりCRP高値であり,低Na血症を認めた.逸脱酵素は正常範囲内であった(Table 1).胸部単純X線写真では心胸郭比47.7%と心拡大はなく,肺野に異常陰影を認めなかった.心臓超音波検査で冠動脈に異常所見は認めなかった.
項目 | 第3病日(入院時) | 第4病日(MERS診断時) |
---|---|---|
白血球(/μL) | 8900 | 7400 |
好中球(%) | 83.9 | 81.8 |
血清総蛋白(g/dL) | 6.12 | 7.13 |
アルブミン(g/dL) | 4 | 2.98 |
AST(U/L) | 37 | 338 |
ALT(U/L) | 12 | 53 |
LD(U/L) | 343 | 588 |
クレアチンキナーゼ(U/L) | 95 | 7983 |
クレアチニン(mg/dL) | 0.25 | 0.25 |
尿素窒素(mg/dL) | 8.3 | 9.9 |
Na(mEq/L) | 125 | 121 |
K(mEq/L) | 3.8 | 4.8 |
Cl(mEq/L) | 95 | 93 |
CRP(mg/dL) | 12.32 | 14.36 |
IgG(mg/dL) | 453 | 2748 |
入院経過:主要症状全てを認め川崎病と診断し入院とした.免疫グロブリン大量療法(IVIG)2 g/kg/日,アスピリン30 mg/kg/日内服治療を開始した.同日夜に約30秒間の強直性痙攣を2回認め,2回目の痙攣はジアゼパム静脈注射で頓挫した.頓挫後はそのまま入眠した.第4病日,解熱せず,意識状態は受け答えの程度が前日と比較し乏しく,自ら食事や飲水ができなかった(JCS 30).血液検査では血清Naはさらに低下し,クレアチンキナーゼ(CK),AST,ALT,LDHの上昇を認めた.心臓超音波検査では異常は認められなかった.髄液検査は異常所見を認めなかったが脳波検査では左中心部領域に棘波を認めた.脳MRIでは,脳梁膨大部および半卵円中心に拡散強調画像(DWI)で高信号,拡散係数(ADC)の低下する対称性病変を(Fig. 1),T2強調画像,FLAIR画像では同部位に淡い高信号を認め(Fig. 2),MERS 2型に合致した.IVIG不応例としてIVIG 2 g/kg/dayの追加投与とともに,進行性の意識障害を呈するMERS 2型に対しメチルプレドニゾロン30 mg/kg 3日間のステロイドパルス療法を開始した.第5病日に解熱し,意識状態は徐々に改善し,飲み物を飲もうとするようになった(JCS 10).第6病日より,機嫌は悪いが視線が合うようになり(JCS 2),食欲も回復した.川崎病の急性期症状も改善した.後療法として第7病日よりプレドニゾロン(PSL)2 mg/kg/日を開始し,第9病日にはアスピリンを5 mg/kg/日に減量した.第11病日,脳MRIの再検査で異常所見は認めずMERS 2型と確定診断した(Fig. 1).第13病日よりPSLを1 mg/kg/日へ減量し,第16病日に退院した.第17病日よりPSLを0.5 mg/kg/日へ減量し,第22病日に中止した.川崎病とMERSによる後遺症はみられなかった.また,第43病日での脳波検査で脳波の正常化を確認した.
脳MRI拡散強調画像
a,b:第4病日(3191 msec/83 msec/1)(TR/TE/excitation)
c,d:第11病日(6524 msec/87 msec/2)
第4病日の脳MRI画像
a,b:T2強調画像(4970 msec/100 msec/2)
c,d:FLAIR画像(10000 msec/100 msec/2)
単純型熱性痙攣と診断されたが,後に痙攣が群発し,進行性の意識障害を呈するMERSを合併した川崎病の女児に対して,ステロイドパルス療法を行い後遺症なく回復した.
川崎病は乳幼児に好発する全身性血管炎で,診断の手引きに記載されている通り,主症状以外にも参考条項として全身性の多彩な所見が存在する2).日本での川崎病の神経合併症の頻度は0.4~1.1%と比較的稀で3),治癒例が90%と多くは予後良好であるが,急性脳炎,脳症には神経学的後遺症を含む予後不良例や,死亡例も存在する4–7).これまでに報告された川崎病に合併したMERS症例の既報をまとめた8,9)(Table 2).既報のうち,症状として痙攣を認めたのは2歳の女児1例のみであった.この症例は第2病日に約3分間の全身性間代性痙攣があり,その後も意識障害が遷延し,脳MRIでMERS 1型の診断に至った16).意識障害が遷延していたので第3病日よりステロイドパルス療法を施行している.その他の神経症状は軽度の意識障害で,いずれも治療開始により意識状態は改善している8).本症例のように痙攣が川崎病の診断に先行することもあるため,有熱時痙攣の診療には注意を要する.また,川崎病に合併したMERSの症例報告において,ステロイドパルス療法を行った症例は16例中3例であった(Table 2).MERS症例の予後は治療内容に関わらず良好とされており,治療介入に明確な基準はなく担当医の判断に委ねられる4).本症例では痙攣が群発しており,進行性の意識障害を認めたため脳症治療としてステロイドパルス療法を行った.自然軽快した可能性は否定できないが,ステロイドパルス療法を開始した翌日から意識状態が急速に改善したことから,有効と判断した.またMERSを合併した川崎病の冠動脈瘤合併率は44.4%1)と報告がある.本症例は冠動脈瘤の合併はなく,脳炎に対して施行したステロイドパルス療法が奏功した可能性もあるがこれに関してはさらなる検討が必要である.川崎病合併の脳炎,脳症合併例には神経学的後遺症を呈する症例の報告もあるため4–7),神経症状が増悪傾向にある場合には慎重な治療選択が求められる.
年齢(歳) | 性別 | MERS type | 冠動脈瘤 | 脳炎の治療 | 初期症状 | |
---|---|---|---|---|---|---|
Itamura10) | 14 | 女 | 1 | あり | なし | 意識障害 |
Sato11) | 7 | 女 | 1 | なし | なし | 意識障害 |
Takanashi12) | 2 | 女 | 1 | なし | なし | 意識障害 |
7 | 女 | 1 | なし | なし | 意識障害 | |
7 | 女 | 1 | なし | なし | 意識障害 | |
8 | 男 | 1 | あり | なし | 意識障害 | |
10 | 女 | 2 | なし | なし | 意識障害 | |
14 | 女 | 1 | あり | なし | 意識障害 | |
松村13) | 5 | 男 | 1 | なし | なし | 意識障害 |
8 | 男 | 1 | あり | なし | 意識障害 | |
Kashiwagi14) | 10 | 男 | 2 | 不明 | パルス療法 | 意識障害 |
Ka15) | 6 | 女 | 1 | 不明 | なし | 意識障害 |
屋代16) | 14 | 女 | 1 | あり | なし | 頭痛 |
黒川17) | 2 | 女 | 1 | なし | パルス療法 | 痙攣 |
八木8) | 10 | 女 | 2 | なし | なし | 意識障害 |
森9) | 2 | 男 | 1 | なし | パルス療法 | 意識障害 |
本症例 | 1 | 女 | 2 | なし | パルス療法 | 痙攣 |
一方,熱性痙攣は,乳幼児に最も頻度の高い有熱時の痙攣である.川崎病における熱性痙攣の発症率(<1.6%)は川崎病以外の発熱疾患における頻度(5~10%)に比べて低いが3),川崎病と熱性痙攣の好発年齢は重複する.有熱時痙攣の全例に頭部CT,MRIを行う必要はないが,意識回復が悪い場合や発作の再発が見られる場合は急性脳症を鑑別するために有用である17).川崎病の有熱時痙攣に意識状態の悪化を認めた場合は,MERSの可能性も考慮してMRIによる画像診断を行うことが重要であり,画像でMERSの所見を認めた際には,予後の改善のためにメチルプレドニゾロンパルス療法を含めた高用量ステロイド投与も治療の選択肢となる可能性がある.
またMERSの診断にはMRI検査が必須だが,時間がかかり,小児に対して評価に値するMRI検査画を得るには鎮静が必要なことが多い18).一方,CT検査は国内ほぼ全ての医療施設で救急対応可能であり,短時間で施行しうるため,急性脳症を疑われる患者に対し施行される画像検査である.しかし,MERSの脳梁病変はCTでは検出不能であり4),脳炎・脳症を疑った場合にはMRIが必要だと考えた.
病初期に熱性痙攣と診断されたが,後にMERS 2型を合併した川崎病の女児例を経験した.熱性痙攣と診断されたとしても,脳炎・脳症に進行する可能性があるので注意が必要である.
日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.