2021 Volume 37 Issue 1 Pages 18-24
肺や気道の画像診断は,単純X線写真とCTが検査モダリティの主力であることは新生児においても変わりないが,新生児期は小児の中でも放射線感受性が高い時期であるため,被ばく低減への配慮は特に必要で正当化と最適化の検討は欠かせない.電離放射線被ばくが無く組織コントラストに優れるMRIは,小児における有用性が高いことは言うまでもないが,肺の評価においてはプロトン密度が低く,心臓や呼吸の動きや肺組織間境界面に起因するアーチファクトなど,技術的に困難な問題を多く抱えている.検査時間が長く,小児では鎮静が必要となることも欠点である.近年,撮像技術の進歩により,エコー時間が非常に短いシーケンスを用いて空間分解能の高い画像を得ることが可能となり,安静呼吸下の撮像でも肺や気道についてある程度の評価が可能となってきた.本稿では新生児期の画像診断におけるMRIの役割と現状,将来への展望について紹介する.
Chest radiography is the imaging study obtained most frequently to evaluate the respiratory system in pediatric patients. CT has become the standard imaging method for detailed imaging assessment of both pulmonary and mediastinal structures. Although MRI has the advantages of noninvasive imaging and lack of radiation exposure, its disadvantages in the chest region are the extremely short T2 of the lung, low proton density, and respiration and heartbeat motion artifacts. In addition, the application of techniques to reduce motion artifacts, such as cardiac and respiratory gating, is usually difficult because of quick movements in infants. However, these disadvantages of MRI can be overcome by a new MRI technique that uses an ultrashort echo time (UTE). Recent studies have shown good visualization of the lung parenchyma and mediastinum in adult patients using UTE-MRI. Pointwise encoding time reduction with radial acquisition (PETRA) is a UTE technique that has demonstrated submillimeter imaging of the bronchi and lung parenchyma. We are working on the possibility that PETRA may be feasible for the assessment of the airway system in neonates with congenital cystic lung disease thereby reducing the frequency of the CT exams needed in children.
胸部領域,特に肺や気道病変の評価を目的とした画像診断は単純X線写真とCTが主なモダリティとして用いられる.被ばくを伴わない検査法であるUSやMRIは小児画像診断においても幅広く用いられるが,腹部や中枢神経系に比べると胸部領域での利用は限られる.MRIによる縦隔や胸郭の評価における有用性は従来より知られており臨床に多く用いられてるが,プロトン密度が低く,呼吸や心拍などの動きや磁化率の異なる境界に生じるアーチファクトなどの理由から,肺の評価においては技術的な難しい問題点を多く有している.近年,MRI撮像技術の進歩により,エコータイムが非常に短いシーケンスを用いた肺や気道を評価する報告が認められるようになり,胸部領域においてもMRIの応用が拡大している1–5).
今回,第56回日本小児放射線学会学術集会において「新生児と画像診断」をテーマとしたシンポジウムが企画され,その中で,MRIを用いた肺・気道疾患の評価について紹介する機会を得た.当センターで施行している胸部領域の画像検査を紹介し,新生児を含む小児胸部画像診断におけるMRIの有用性や将来への展望について述べたい.
肺や気道を評価する撮像法の1つであるpointwise encoding time reduction with radial acquisition(以下PETRA)は,他の撮像法に比べて動きにともなうartifactが少なく空間分解能に優れるといった利点を持ち,撮像中の検査音が非常に静かな撮像法であるため,鎮静下で検査を行う小児MRI検査におけるメリットは大きい5–7).従来の撮像法に比べて空間分解能に優れ,得られたボリュームデータから任意断面の再構成画像を1 mm台のスライス厚で作成することが可能な3D撮像法のひとつで,気管や気管支の詳細な構造の評価が可能となる.Dournesらは,成人を対象に呼吸同期法を併用したPETRA撮像法を検討し,亜区域気管支や亜々区域気管支といった細かな構造についてもCTに匹敵する画像を得ることが可能であったと報告している5).呼吸同期法の併用は撮像時間が10分以上と長く,鎮静の有無によらず小児においてはデメリットが大きいため,当センターでは呼吸同期法は併用せず,5分以内の撮像時間となるよう撮像条件を設定している.
当センターで施行しているPETRA撮像法のプロトコールをTable 1に呈示する.1.5T MR装置(Magnetom Aera; Siemen Healthineers)を使用し,body matrix coilを用いている.呼吸同期法や心電図同期は併用せず,安静呼吸下に撮像する.
orientation | coronal | coronal |
---|---|---|
FOV (mm) | 300 × 300 × 300 | 440 × 440 × 440 |
TR (msec) | 3.3 | 3.29 |
TE (msec) | 0.07 | 0.07 |
voxel (mm) | 1.04 × 1.04 × 1.04 | 1.13 × 1.13 × 1.13 |
radial spokes | 60000 | 60000 |
matrix | 288 × 288 × 288 | 384 × 384 × 384 |
acquisition time | 3 min 40 s | 5 min |
flip angle | 6 | 6 |
slice thickness | 1.1 mm | 1.2 mm |
当センターでは,胎児診断で先天性嚢胞性肺疾患が疑われた児の出生後画像診断にMRIを積極的に用いている.病変が広範囲におよび呼吸症状が強く,早期に外科的治療を要する症例は対象から外し,呼吸症状を含む状態が安定しており,安全にMRIが行えると新生児科医が判断した症例を対象としている.以前は,出生後の画像診断は胸部単純X線写真に次いで胸部CTを施行し,肺分画症の診断など血管評価を必要とするため,可能な範囲で造影CTを行い治療方針の決定に役立てていた.近年,MRIでの画質向上が進み,肺評価のための新たな撮像法だけでなく従来の撮像法による画質も向上したことにより,肺病変の範囲や縦隔構造,健側肺の評価についてもMRIで評価することが可能となってきた.2015年以降,肺も含めた胸部評価にMRIを利用する検討を行い(Fig. 1–5),CTとの対比検討をもとに新生児科医や外科医と協議し,2017年以降は胎児診断で先天性嚢胞性肺疾患が疑われた症例の新生児期(呼吸症状など状態が安定している症例)に行う画像検査はMRIを第一選択とした画像評価を20例以上の症例に行っている.必要に応じて鎮静や適切な固定具を使用し,造影剤は使用しない.また,手術は行わずに経過観察する症例や術後の経過観察にもMRIを積極的に利用し,被ばく低減に役立てている8).
修正35週児の胸部PETRA横断像
左右主気管支や葉気管支,区域気管支の分岐部などの気管支構造が描出される.
検査時の音が非常に静かなPETRAの特性を利用して,新生児頭部MRI検査での有用性を検討した際に,撮像範囲に含まれる胸部に着目すると肺や気道が描出され,MRIで肺気道疾患を評価可能なことが示唆された(Fig. 1)6,7).
その中に,慢性肺疾患を伴い,経過中に併発した肺炎の治療後,右上葉に大きな嚢胞性病変を生じた症例があり,胸部単純X線写真(Fig. 2A)で認められる嚢胞性腫瘤がPETRAでは明瞭な低信号を示す腫瘤として描出された(Fig. 2B, C).肺内の局在や他の構造を圧排する程度が評価可能で,気管支の評価と合わせると病変の局在は分布範囲,既存構造への圧排の有無やその程度など,先天性嚢胞性肺疾患の診断に必要な検討項目がある程度評価可能なことが示唆された.
慢性肺疾患 肺炎後肺嚢胞性病変
在胎24週0日,出生時体重407 gで出生した児の修正42週での胸部単純X線写真正面像(A)とPETRA横断像(B),冠状断像(C).
胸部単純X線写真で認められる右上葉の大きな嚢胞性病変(矢印)に相当する構造は,PETRAでは他の肺に比べて明瞭な低信号を示す腫瘤病変として認められる.
生後6か月児のPETRAとCTの対比
左肺下葉に複数の小さな嚢胞を認める症例で,同日に施行したPETRA(上段)とCT(下段)を呈示する.嚢胞はPETRAで低信号域として認められる.末梢領域の気管支や血管構造の描出能はCTに劣るものの,葉気管支や区域気管支はCTと同様に認識することができる.
胎児診断で肺分画症が疑われた症例で,生後呼吸症状は乏しく,生後6か月時に手術適応やその時期を検討するために施行した胸部造影CTと胸部MRIをFig. 4,5に呈示する.
左肺下葉肺葉内肺分画症
胎児診断で左肺分画症が疑われた.生後6か月に施行した胸部造影CT冠状断MPR(A)と横断像(B)で,下行大動脈から分岐する異常動脈が左肺下葉に認められる.肺条件表示画像(C)で病変部に複数の嚢胞構造が認められる.
左肺下葉肺葉内肺分画症(Fig. 4と同じ症例)
上段にMRI PETRA,下段にCT肺条件表示を呈示する.
PETRAは,病変の局在や広がりについてCT所見をよく反映する.嚢胞構造については,5 mm以下の小さな構造の分解能は劣るが,1 cm前後の比較的大きな嚢胞はCTと同様に認識できる.
左肺下葉に複数の嚢胞構造と含気低下領域が混在した病変を認め,下行大動脈から分岐する異常動脈が病変内に分布する.肺葉内肺分画症と診断される.CTと同日に施行したPETRA画像をFig. 5に示す.PETRAは,CTで空気を含む嚢胞や透過性亢進域は明瞭な低信号として,含気低下病変は高信号として描出され,CTと同様に非病変部の肺と区別して認識することが可能である.分解能はCTに劣るが,直径5 mm以上の大きさであればCTとほぼ同等に嚢胞性病変を認識でき,縦隔構造や対側肺へのmass effectの有無やその程度についても適切に評価することが可能である.
肺分画症に診断に重要な異常動脈の評価におけるMRIの有用性については以前より知られており,造影剤を使用せずに比較的大きな血管構造について評価できる点や,合併する縦隔病変の有無についても組織間コントラストに優れるMRIの有用性は高い.PETRAは,従来のMRI画像よりも詳細に気管支や肺内血管構造を描出するため,肺病変の局在や分布についての診断能が向上した.
【症例3】気管支閉鎖症胎児超音波検査でmicrocystic typeの嚢胞性肺疾患と診断された症例の生後3日に施行した胸部MRIをFig. 6に呈示する.PETRA像(Fig. 6C, D)では左肺全体が大きく,上葉と下葉の2か所に過膨張肺を示す区域性の低信号域が認められる.この低信号域の中には肺血管や気管支を示す構造が認められ,明らかな嚢胞構造は認めない.脂肪抑制併用T2強調画像(Fig. 6A, B)では左肺上葉の病変の肺門部付近に気管支粘液栓を疑う明瞭な高信号構造が認められる.気管支閉鎖部位についての詳細な評価は難しいが,肺病変は区域性の透過性亢進が主体であること,気管支粘液栓を疑う構造の存在から,気管支閉鎖症が強く疑われる.この症例は,縦隔や右肺へのmass effectを示すが,右肺の含気は保たれており,多呼吸などの呼吸症状は数日で落ち着いた.複数箇所に病変が存在するため,手術時期や術式についてより慎重な検討が必要であることが示唆される.4か月時に施行したCTとPETRA画像をFig. 7に呈示する.病変の分布範囲は新生児期よりも明瞭となり,CTで透過性亢進を示す過膨張肺はPETRAで低信号域として認められ,病変内の血管構造や肺構造についても描出され,気管支閉鎖症の特徴的画像所見が評価できる.気管支閉鎖症は,病変の範囲によっては単純X線写真での認識が困難なことや,新生児期は診断に特徴的な過膨張所見を示さずに非特異的な含気低下域を示すことが少なくなく,被ばくのないMRIで診断や治療方針に役立つ評価を行う意義は大きいと考えられる.
左肺気管支閉鎖症 左肺下葉肺葉内肺分画症
胎児期にmicrocystic typeの嚢胞性肺疾患と診断された.
日齢3に施行した胸部MRI 脂肪抑制併用T2強調画像横断像(A)と冠状断像(B),PETRA横断像(C)と矢状断像(D).
画像所見の解説は本文を参照.
Fig. 6呈示症例の生後4か月に施行したMRI PETRA横断像(A),矢状断像(B)とCT肺条件表示横断像(C),矢状断像(D)
画像所見の解説は本文を参照。
もう一例,mass effectの乏しい気管支閉鎖症症例の新生児期胸部MRIをFig. 8に呈示する.従来のMRI T1強調画像やT2強調画像では描出困難であった区域気管支レベルの気管支やより末梢の肺血管を描出する新しいMRI撮像法は,小児胸部疾患の画像診断において選択肢のひとつとして有用な役割を果たすことが期待される.
気管支閉鎖症
胎児期にmicrocystic type嚢胞性肺疾患と診断された.
日齢1に施行した胸部MRI T2強調画像横断像(A)と冠状断像(B),PETRA横断像(C),冠状断像(D),矢状断像(E, F).
体重約2500 gの児で,気管支については区域気管支レベルも一部評価困難であるが,病変の局在は左上葉上区域であることがわかり,T2強調画像で高信号を示す含気低下部位と透過性亢進域を示すPETRA低信号とが混在する.気管支閉鎖症の可能性が高いと考えられ,縦隔や右肺へのmass effectは乏しく,肺炎などの感染リスクが示唆される大きな嚢胞構造の無いことや,左肺下葉の含気や大きさは保たれていることが確認できる.
MRI技術の進歩に伴い,従来施行されることが少なかった肺疾患におけるMRI臨床応用は拡大しつつある.CTが肺疾患評価のgold standardであるが,鎮静の必要性や検査時間が長いことなど小児におけるデメリットがあるものの,今回紹介した先天性嚢胞性肺疾患以外にも慢性肺疾患や悪性腫瘍での肺転移検索など繰り返す画像検査が必要な小児において,被ばく低減の一助として今後ますますMRIが役立つことが期待される.そのためにはさらなる画質の改良や検査時間の短縮などいくつかの課題があるが,検査モダリティの特性や利点を有効に利用しつつ,小児に役立つ画像診断について検討していきたい.