Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
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The 56th Annual Meeting of the Japanese Society of Pediatric Radiology: Aiming for a 360-degree evaluation for a new age of pediatric practice
Voxel-based morphometry (VBM) in pediatric MRI
Shingo Kakeda Keita Watanabe
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2021 Volume 37 Issue 1 Pages 61-67

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要旨

近年,マルチバンドRFや圧縮センシングに代表されるMRI高速撮像技術は飛躍的に進歩し,日常診療においても脳高分解能画像の取得が容易になってきた.これに伴い,得られた脳MRIデータの解析技術・手法も日々アップデートされている.Voxel-based morphometry analysis(VBM)やsurface-based morphometry(SBM)は,高分解能3次元T1強調画像を用いる代表的な解析技術であり,ADHD(attention-deficit hyperactivity disorder)など様々な小児疾患に応用されてきた.VBMを用いることで,1 mm程度の立方体単位で全脳形態の変容を,容積,皮質厚,表面積などの視点から多角的に解析できる.最近では微細脳解剖の分画技術の向上により,アンモン角や海馬台など海馬を亜区域に分け容積を測定するhippocampal subfield解析も可能となった.VBMの魅力は,単なる脳容積・脳形態の比較だけでなく,臨床症状やバイオロジカルマーカに関連する脳領域を調べることで病態にアプローチできることにある.さらに,従来functional MRIで行われてきたコネクトーム解析を,テンソル画像や脳容積画像を用いて行うstructural networks解析も登場した.コネクトームは神経回路網(脳内ネットワーク)の地図であり,これを解析することで,脳領域間の相関関係,相互的なつながりを知ることができる.今回の発表では,最近のMRI撮像技術を述べた後,脳画像解析を身近に感じてもらうことを目的に,最新の小児脳画像研究を紹介しながら,その臨床的役割について解説する.

Abstract

Voxel-based morphometry (VBM) and surface-based morphometry (SBM) done by means of MRI have provided new insights into the neuroanatomical basis for subjects with several conditions. Recently, VBM has been applied to investigate not only regional volumetric changes but also voxel-wise maps of fractional anisotropy (FA) computed from diffusion tensor imaging (DTI). Furthermore, we can acquire structural networks using recently introduced technique of source-based morphometry, which applies an independent component analysis (ICA) to a segmented image, arranges voxels into sets that contain similar information, and acquires common morphological features of the gray matter concentration among individuals at the network level. The aim of this article is to review the recent work using VBM and SBM technique in particular focusing on pediatric MRI. VBM approach detects the structural brain abnormalities that appear normal on conventional MRI. Thus, in the future, large cohort studies to monitor whole brain changes on a VBM basis will facilitate further understanding of the neuropathology of several pediatric conditions, such as autism spectrum disorder (ASD) and attention-deficit hyperactivity disorder (ADHD).

はじめに

最近,マルチバンドRFや圧縮センシングに代表されるMRI高速撮像技術の飛躍的な進歩により,高分解能で脳画像の取得が容易になった.これに伴い,得られた脳MRIデータの解析技術や手法の重要性も高まってきた.実際のMRI画像の脳領域をフリーハンドで設定し計測するには大変な労力を必要とする.また,海馬など特定の脳領域を測定する場合,測定者間でのバラツキや再現性の問題が生じる.これは,多くの脳領域に,これらを明確に区分するメルクマールが存在しないためである.近年,自動的に脳の形態変化を調べる手法が開発され,その代表的なものに,voxel-based morphometry analysis(VBM)とsurface-based morphometry(SBM)がある.これらの手法を用いることで,1 mm程度の立方体単位で全脳形態の変容を,容積,皮質厚,表面積などの視点から多角的に解析できる.関心領域のみを手書きで計測する関心領域(ROI: region-of-interest)法とは異なり,簡便に自動で解析でき,測定者の違いに左右されないという利点がある.近年,これらの技術は日々アップデートされ,拡散テンソル画像法(diffusion tensor imaging: DTI)など様々なMRI画像にも応用できるようになった.本稿では,最近のMRI撮像技術を述べた後,脳MRI画像統計解析を身近に感じてもらうことを目的に,最新の小児脳画像研究を紹介しながら,その臨床的役割について解説する.

Voxel-based morphom­etry analysis(VBM)とSurface-based morphometry(SBM)

標準的に用いられている解析ツール(ソフトウェア)として,VBMではstatistical parametric mapping(SPM)やFMRIB Software Library(FSL),SBMではFreeSurferがある.詳細は専門書を参照いただきたいが,VBMでは,各個人の3次元高分解能MRIデータを標準脳座標上に変換し,空間正規化をすることにより,自動的に全脳をボクセルレベルで統計解析する.FreeSurferでは局所皮質厚および局所容積が計算可能であり,その結果はボクセルレベルで解析される(Fig. 1).これらの手法で検出された脳領域の解釈は,ソフトに組み解剖アトラスを用いることで可能となる(Fig. 2).解剖アトラスにはDesikan–Killiany Atlasなど様々なものがあり,その中から研究目的に最適なものを選択できる.両手法での重要な作業に,脳を灰白質,白質,髄液に分ける作業があり,segmentationと呼ばれる.これらの解析に高分解能3次元T1強調画像が用いられる理由に,灰白質/白質のコントラストが良好,かつ比較的短時間に高分解能画像が得られる点がある.画像解析の精度には様々な因子が影響するが,なかでも,MRI画像の信号対雑音比(SNR)は重要であり,これが低下すると測定精度が低下することが知られている1).その他の重要な因子に,患者の動きによるアーチファクトがある.我々の検討では,わずかな首振り運動でも脳回白質容積は解析法によっては4%ほど減少した2).これらの容積減少は有意差に影響を与える可能性があるため,動きによる解析精度への影響は無視できないと考える.このため解析に用いる画像の視覚的チェックによるクオリティコントロールは重要である.また,解析過程でのsegmentationのチェックも重要であり,我々は,FreeSurferで解析する際に灰白質と白質のセグメンテーションの精度について各画像で確認している.最新のFreeSurfer(v7.0.0)では,海馬,扁桃体,視交叉などのsegmentationの精度が向上している.

Fig. 2 

FreeSurferを用いてWMS-Rの関連を調べた結果

記憶優位半球が左側にあるてんかん患者では,WMS-Rの視覚性記憶と左側superior frontal area(矢頭)の脳容積に相関関係を認めた.このように検出された領域が解剖学アトラスを参照することによりsuperior frontal area(矢印)に一致することがわかる.

Fig. 1 

FreeSurferによるSurface based morphom­etry(SBM)

FreeSurferによる解析では,灰白質と白質のセグメンテーションにより皮質厚が自動的に算出される.

VBMとSBMを用いた研究

脳容積を全脳解析することで,従来,視覚的に評価できなかった脳の変化を検出できる.シンプルな解析として2群間の比較がある.例えば,SPMを用いたプロ音楽家とアマチュア音楽家の脳容積を比較した研究では,プロ音楽家では有意に運動野と聴覚野の脳容積が大きかった3).このように得られる結果は単なる脳形態の変化であるが,「プロ音楽家は聴覚と触覚が,優れているのではないか」と考察することで,より有用な情報となる.小児領域の研究に,生後8か月間を母乳と混合ミルクで育った子供についての2群間比較がある4).結果は,8歳児での脳形態は,混合ミルク群に比べ,母乳群では言語処理などに関わる領域であるinferior temporal lobeとsuperior parietal lobeが有意に大きかった.この結果は,乳児期の食事が小児期の脳発達に影響する可能性を示唆している.また,不安障害を持つ小児脳(平均14歳)の検討では,正常群に比べて,患者群で恐怖や不安に関わる領域(前部帯状回,下前頭回,中心後回,楔前部)に変化を認めた.これらの領域は,ファンクショナルMRI(fMRI)で成人の不安症で証明されている領域と同様であり,小児期において,成人同様の変化が見られることを示している.VBMとSBMは,autism spectrum disorder(ASD)とattention-deficit hyperactivity disorder(ADHD)の病態研究に多く用いられてきた.に用いられている.ASDでは,幼少期では前頭側頭葉に脳容積の増加が見られ,青年期に同部の脳萎縮を認めるとの報告が多い5).ADHDについては,多くの研究者が患者群での脳基底核の萎縮を報告している6)

脳MRI画像統計解析の優れた点に,臨床パラメーターに関連する脳領域を検索できることがある.我々が行った検討を例に示す.Fig. 2は,和田テストにて優位半球を調べ,てんかん患者の脳形態とWAIS-III・WMS-Rの関連を調べた結果である.記憶優位半球が左側にあるてんかん患者では,WMS-Rの視覚性記憶と左側superior frontal areaの脳容積が相関関係を示した.一方,記憶優位半球が右側の患者では,異なる結果を示した.以上の結果は,てんかん患者の脳形態は優位半球に影響される可能性を示唆している.このように,脳MRI画像統計解析を用いて,連続変数である臨床データと有意に関連する脳領域を全脳レベルで検索することができる.小児を対象とした過去の報告に吃音をもつ小児脳の検討がある.吃音を有する子供では,下前頭回(弁蓋部)を中心に容積減少があり,同部は吃音の重症度と負の相関関係を示した7).この結果は,吃音の病態における,言語運動中枢に関わるネットワークの変容を示唆している.このように,脳MRI画像統計解析は単なる脳形態の変化を調べるだけでなく,様々な病態や仮説の証明に活用できる.

拡散テンソル画像(DTI)を用いた脳MRI画像統計解析

DTIにも脳MRI画像統計解析は適用されてきた.DTIを用いることで,拡散の異方性を画像化でき,従来の方法では評価できなかった神経線維の機能構造の変容が評価できる.DTIから算出される代表的な値として,拡散異方性の指標であるfractional anisotropy(FA)があり神経線維の統合性の異常検出に鋭敏とされている.解析ツールとしてTBSS(tract-based spatial statistics)やTRActs Constrained by Underlying Anatomy(TRACULA)などが知られている8).TBSSは,オックスフォード大学FMRIBセンターで開発されたFA値データをボクセルレベルで全脳解析できるソフトで,FSL(http://web.mit.edu/fsl_v5.0.10/fsl/doc/wiki/FSL.html)からフリーでダウンロードすることができる.TBSSではFA画像から白質神経線維束の中心を取り出したスケルトンを作成する.その後,個々の被験者のFA mapをこのスケルトンに合せて正規化し,統計解析する(Fig. 3).過去のTBSSを用いた検討では,虐待を受けた小児脳ではinferior fronto-occipital fasciculus(IFOF)とinferior longitudinal fasciculus(ILF)でのFA値が健常コントロールと比べて低下していた9).これは,感覚刺激に対する統合,認識,調節などに関わる脳回路の障害を示している.ASD5)とADHD10)に関しても,多くの研究者がTBSSを用いて様々な脳領域におけるFA値の変容を報告している.

Fig. 3 

海馬の部分容積解析

FreeSurferでは,海馬を12領域(12色)へ分離し,それぞれの容積を測定する.

海馬の部分容積解析

高齢化社会における高い認知症研究のニーズを反映し,海馬の各内部構造をセグメンテーションし,それぞれの脳容積を自動計測するソフトの開発が活発に行われている.解析ツールとして,FreeSurferを用いて海馬を12領域へ分離しそれぞれの容積を測定する部分容積解析(Fig. 4)や海馬の凹凸を調べるFSL FIRSTのShape analysisなどがある.Rigginsらは,海馬の部分容積解析を用いて,健常幼児における海馬構造の発達について詳細に調べている11).幼児期(4~8歳)における海馬頭部の容積は性と年齢で異なっており,年齢で2群に分けた場合,海馬のCA1領域の頭側の容積は,年齢の低い群で正の相関,年齢が高い群で負の相関関係を示した.これら結果の一部を見ても,幼児期における海馬の正常発達は複雑で,発達は各海馬領域で異なることがわかる.以前に我々は,成人大うつ病患者における血中コルチゾールの上昇が,グルココルチコイドリセプターが多く発現する特定の海馬領域(CA1とsubiculum)の容積減少に関連することを報告した12).小児を対象に調べた研究では,虐待や貧困など慢性的なストレスは,小児の毛髪のコルチゾール値を上昇させ,コルチゾール値と記憶に影響する海馬のCA3-DG領域の容積は負の相関関係であった13).このように,海馬のサブフィールドを特定する手法は,従来の海馬全体の容積変化では検出できない疾患初期や軽微な変化など病態の理解を深めるのに有益な情報を提供する可能性がある.なお2020年にリリースされたFreeSurfer(v7.0.0)では,解析速度の改善に加え,扁桃体と視床の部分容積解析も可能となっており,更に小児精神疾患への応用が期待される.

Fig. 4 

TBSSで得られた結果

有意な領域が,脳神経線維(トラクト)のスケルトンマップ上に,赤く表示されている.

脳構造解析からネットワーク解析へ

脳の病態を解明するためには,単なる脳容積や脳神経線維の変化・変容を評価するだけでは不十分であり,脳内ネットワークの異常を検出することが求められる.脳画像を用いた脳ネットワーク解析のゴールドスタンダードはfMRIであるが,近年,脳容積画像やDTIを用いて脳内ネットワークを評価する試みが報告されている.これらは,fMRIを用いた機能的ネットワーク解析に対して,構造的ネットワーク解析とも呼ばれている.最近,SPMを用いた脳容積VBM解析に独立成分分析を応用しsource networkの描出を行った報告がある14,15).独立成分分析は安静状態でfMRIを測定する手法(resting-state functional MRI)でも用いられている手法であるが,脳容積解析に用いることで脳容積が連動して変化する領域をネットワークとして評価できる(Fig. 5).過去の両解析を比較した検討では,両者には高い相関関係があり,より長い距離のネットワーク評価には機能的ネットワーク解析,より短い距離のネットワーク評価には構造的ネットワーク解析が優れていた16).我々は,これを用いて,大うつ病のPrefrontal networkが精神的ストレスで上昇するとされるtumor necrosis factor-α(TNF-α)と関連するとことを報告した17).従来,fMRIは信号の検出感度からその解析精度や再現性に問題があったが,脳容積ではこれらの問題が軽減される.特にデータの均一性や再現性が難しい小児では,機能的ネットワーク解析は有力なツールになるのではと期待している.

Fig. 5 

SPMを用いて検出された機能的脳内ネットワーク

機能的脳内ネットワークにより,resting-state functional MRIで見られるデフォルトモードネットワークと同様の脳領域(内側前頭前野:黒矢印,後部帯状回:矢頭,下部頭頂葉:白矢印)を検出している.

最後に

本稿では,最新の小児脳画像研究を紹介しながら,脳MRI画像統計解析の手法の概略と応用について解説した.これからも,本手法は,脳MRI撮像技術の進歩と併走するようにアップデートを繰り返し,多くの病態や仮説の証明に用いられると思う.また現在,小児を含め多くの疾患領域においてビックデータの集積が進んでおり,その重要性は更に高まると思われる.このように,本手法が心強い研究ツールであることは間違いないが,ソフトの進歩とともに解析にいたる過程はよりシンプルとなり,容易に結果が得られることに一抹の不安が残る.これからの研究者には,ソフトの精度検証や有意差についての臨床的考察について,慎重かつ批判的な姿勢を期待したい.

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