Journal of Japanese Society of Pediatric Radiology
Online ISSN : 2432-4388
Print ISSN : 0918-8487
ISSN-L : 0918-8487
Case Report
Imaging and differential diagnosis of gastrointestinal duplication cyst: A case report of newborn female and review
Akiko Ooyama Yuji ToubaruAkihiko TamakiMasahito YamazatoSuzuka ToguchiAsao YaraTakashi Matayoshi
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 37 Issue 1 Pages 90-95

Details
要旨

重複腸管症は出生4,500人に1人の割合で発症するとされる比較的稀な先天性腸疾患である.近年,胎児超音波検査の普及で胎児期に発見されることが多くなったが,出生後の臨床症状や画像所見は多岐にわたり,その他の腫瘤性病変との鑑別が難しいため術前の確定診断例は少ない.今回我々は胎児超音波検査にて肝嚢胞を疑われていた児で,出生後の画像検査で卵巣嚢腫や腸間膜嚢胞が疑われたものの確定診断には至らず,手術所見により重複腸管症と診断した1例を経験した.重複腸管症の症状や画像検査について自験例と既報を比較検討・考察する.

Abstract

Gastrointestinal duplication cysts are rare congenital anomalies that develop anywhere in the gastrointestinal system. The prevalence of these cysts is 1 in 4,500 births. They are usually detected prenatally due to improvements in prenatal screening ultrasonography. However, the cyst size, location, and type, mucosal pattern, and presence of complications result in varying clinical presentations and imaging findings, and therefore, it is difficult to distinguish between gastrointestinal duplication cysts and other cystic lesions before surgery. We report a case of duplication cyst diagnosed in a newborn female infant based on the surgical findings, although the cyst had been suspected to be a liver cyst before birth, and it was suspected to be an ovarian cyst or a mesenteric cyst, based on imaging tests performed after her birth.

We review the clinical presentations and imaging findings of duplication cyst by comparing our case and other past cases.

はじめに

重複腸管症は出生4,500人に1人の割合で発症するとされる比較的稀な先天性腸疾患である1).近年,胎児超音波検査の普及で胎児期に発見されることが多くなったが,出生後の臨床症状や画像所見は多岐にわたり,その他の腫瘤性病変との鑑別が難しいため術前の確定診断例は少ない2).今回我々は胎児超音波検査にて肝嚢胞を疑われていた児で,出生後の画像検査で卵巣嚢腫や腸間膜嚢胞が疑われたものの確定診断には至らず,手術所見により重複腸管症と診断した1例を経験した.重複腸管症の症状や画像検査について自験例と既報を比較検討・考察する.

症例提示

症例:日齢1 女児.

現病歴:在胎週数41週2日,出生体重2,894 g,Apgar scoreは9/10点で,他院にて出生の女児.妊娠後期より胎児超音波検査で腹部腫瘤を指摘され,その部位や性状から肝嚢胞が疑われていた.出生後,嘔吐を反復し,腹部超音波検査で既知の嚢胞性腫瘤を肝臓内ではなく腹腔内に認めたため,精査加療目的に日齢1に当院へ搬送となった.

入院時現症:体温37.0°C(直腸温),心拍数140回/分,血圧66/36 mmHg,呼吸回数54回/分,SpO2 95%(室内気).腹部は平坦,軟.腸蠕動音の減弱・亢進なし.肝直下に弾性軟で3–4 cm大の腫瘤を触知した.辺縁は明瞭で可動性は良好であった.その他,外表奇形は認めなかった.

入院時血液検査:血算,一般生化学に有意な異常所見なく,CRP上昇も認めなかった.

入院時腹部単純X線所見:正中下腹部で腸管ガス像の減少を認め,同部位の腫瘤性病変が疑われた(Fig. 1).

Fig. 1 

腹部単純X線検査

正中下腹部で腸管ガス像の減少あり.同部位で腫瘤性病変が疑われた.

入院時腹部超音波検査:正中下腹部に41 × 34 mm大の単房性の嚢胞性腫瘤を認めた.内部は均一で充実成分はなかった.嚢胞壁は薄く,層構造ははっきりしなかった.周囲の腸管との連続性ははっきりしなかった.右卵巣は同定できたが左卵巣の同定が困難であった(Fig. 2).

Fig. 2 

腹部超音波検査 日齢1

右上腹部に既知の腫瘤性病変あり.腫瘤と肝臓や周囲腸管に連続性はない.腫瘤内部は均一で充実成分を認めず,壁の層構造は明らかでない.

経過:前述の所見から,腫瘤性病変は卵巣嚢腫の可能性が疑われた.当院搬送後,まずは絶飲食にて経過をみたが嘔吐の再燃がなく,日齢2に再施行した腹部超音波検査でも腫瘤性病変の増大はなく,その他閉塞性腸疾患を疑わせる症状や所見もなかったことから同日経口哺乳を再開した.また,同日に腹部単純MRI検査を施行した.

腹部単純MRI検査(日齢2):右腎下極に沿って,境界明瞭平滑な40 mm大の単房性嚢胞を認めた.内部は均一でT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号を呈していた.腫瘤の壁は薄く,層構造ははっきりしなかった.周囲腸管との明らかな連続性がなく,また両側卵巣の同定が困難であったことから,卵巣嚢腫もしくは腸間膜嚢胞が疑われた(Fig. 3).

Fig. 3 

腹部MRI

A:T1強調画像横断像 B:T2強調画像横断像

右腎下極に沿って境界明瞭平滑な40 mm大の単房性嚢胞が存在.内部は均一でT1で低信号,T2で高信号を呈する.腫瘤の壁は薄く,層構造ははっきりしない.

その後,腹部超音波検査での画像フォローを重ねたが(Fig. 4),腫瘤のサイズや性状に著変はなかった.鑑別診断に卵巣嚢腫や腸間膜嚢胞が挙がっており,腫瘤のサイズから捻転のリスクが懸念されたことから診断的治療目的に日齢14に開腹手術を施行した.術前までの間,経口哺乳は継続していたが,嘔吐の再燃はなく体重増加も良好であった.その他呼吸障害なども認められなかった.

Fig. 4 

腹部超音波検査 日齢5

正中下腹に腫瘤性病変あり.腫瘤の可動性が確認できたが蠕動は確認できず.嚢胞壁は薄く,層構造ははっきりしない.

手術所見:臍上部を弧状切開した.嚢胞構造を同定し,嚢胞穿刺を行ったところ,黄色透明の排液が20 ml吸引された.嚢胞を挙上すると小腸に接して存在していた.正常腸管と壁を共有し,分離が困難であったことから病変部を含む小腸切除術を施行した.摘出した腫瘤の大きさは30 mm × 20 mm × 15 mmであった.術中所見から球状型・非交通性の重複腸管症と診断した(Fig. 5).

Fig. 5 

摘出標本 嚢胞穿刺後

正常小腸と壁を共有している腸管.

病理組織所見:重複腸管の壁は内側から,粘膜,粘膜下層,固有筋層,漿膜下組織からなっており,正常小腸と筋層が共有されており重複腸管症に矛盾しない所見であった.一部,異所性粘膜(胃の固有腺,幽門腺に類似)も認められた.重複腸管の壁は,粘膜上皮の消失や粘膜の線維化,組織球やリンパ球などの炎症細胞浸潤を認め,筋層の厚さは不均等であった(Fig. 6).

Fig. 6 

病理組織所見 HE染色

異所性胃粘膜あり.

術後経過は良好で,術後2日目に哺乳を再開でき,術後5日目の日齢18に退院となった.

考察

重複腸管症の定義としてLaddら3)は①内面を消化管上皮で覆われている.②その壁内に平滑筋層(一層または複層)を含んでいる.③本来の消化管のいずれかの部位に接し,それと筋層を共有する.の3点を挙げている.重複腸管症は舌根部から肛門までの全消化管に認められるが,好発部位は約50~60%が小腸で,その中でも回腸末端が最も多く4),形態学的には,球状型と管状型,交通性と非交通性に分類される.自験例も病理所見でその定義を満たしていたことから術後に確定診断となり,形態は球状型で非交通性であった.また自験例もそうであったように,重複腸管には異所性胃粘膜の合併もあることが知られている.その頻度は全体で約30%で,食道(46%)が最も多く,小腸(34%),結腸(7%)と発生部位により大きく異なることが報告されている46)

今回,2000年から2018年に本邦で報告された重複腸管症の小児例14例(会議録や画像検査について言及していないものを除く)に自験例をあわせた15例について,その診断年齢や症状,検査について検討を行った(Table 1).

Table 1 

本邦で報告された重複腸管症の小児例および自験例について(計15症例)

胎児期からの指摘
あり 9
なし 6
年齢
新生児 10
6か月 2
1歳 1
それ以降 2
臨床症状
あり 10
なし 5
術前診断
あり 6
確定えられず 9
異所性胃粘膜
あり 7
なし 5
不明 3
検査について
あり なし
胸腹部Xp 10 5
腹部エコー 15 0
造影CT 8 7
MRI 3(胎児MRI 2例) 12
注腸造影 5 10
Tcシンチ 1 14

性別は男児7例,女児8例で大きな性差はなく,新生児期に発症した症例が10例で半数以上を占めており,新生児期に発症する割合は15%とされる過去の報告2,7)よりも多かった.15症例中9例は胎児超音波検査で腹部腫瘤を指摘されていた.臨床症状を呈していたのは10例で,主な症状は嘔吐や腹部膨満であったが,腹痛や発熱,下血を呈し,プレショック状態(2例)となっている症例もあった2,8)

全症例で診断のための画像検査として腹部超音波検査が施行されていた.次いで,腹部単純X線検査,造影CT検査が施行されている症例が多く,MRI検査や注腸造影検査,Tc-pertechnetateシンチグラフィ検査が施行されている症例もあった.術前に重複腸管症の診断に至っていたのは6例であった.

重複腸管症の診断には超音波検査が有用とされており,その所見として粘膜・粘膜下層がhigh echoicに,筋層がlow echoicにみえる“double wall sign”があげられ,その他,腫瘤の壁が5層にみえること,正常腸管と共有する筋層を示すlow echoicな層がY字型を呈することも特徴的とされる4,9).それに加え,腫瘤自体に蠕動や可動性があることを確認できることはさらに重複腸管らしい所見といえる.ただし,卵巣嚢腫や腸間膜嚢胞でも“double wall sign”が認められる可能性があり,また重複腸管が有する異所性胃粘膜による潰瘍などで粘膜の脱落が起こった場合や感染合併例では“double wall sign”が認められないこともある4,9).MRI検査や造影CT検査は,腫瘤内部の性状の確認や周囲の位置関係の把握に有用とされるが,新生児期ではその特徴的な薄い隔壁構造を描出するのが困難10)であり,検査にあたり鎮静の必要性があることやCT検査では放射線被ばくもあることが難点となる.異所性胃粘膜を有する例ではTc-pertechnetateシンチグラフィ検査も有用な検査である6,11)が,異所性胃粘膜を有する重複腸管症の割合は多いとは言えず,異所性胃粘膜を有するMeckel憩室との鑑別も困難である.注腸造影検査は,管状型・交通性の重複腸管症で有用だが,重複腸管症では非交通性のものの割合が高いこと,十二指腸閉鎖や内ヘルニアもその他鑑別疾患に挙げられることを考慮すると,検査の優先順位としては高くないと考えられる.

今回の検討で,術前に重複腸管の確定診断となっていた6例のうち5例は腹部超音波検査で特徴的な層構造が同定できたことがその決め手になっていた.1例6)は下血が持続しプレショック状態で発症した症例で,腹部超音波検査では層構造がはっきりしなかったが,注腸造影検査で腫瘤による腸管圧迫像が確認でき,造影CT検査で腫瘤の壁構造が腸管壁に酷似していたことから重複腸管症による腸閉塞と術前診断がなされていた.

自験例では,超音波検査でその特徴的な壁構造を同定できなかったが,その原因としては,腫瘤が有する異所性胃粘膜からの酸分泌により粘膜層の脱落が生じた可能性が考えられた.しかし,超音波検査を反復することで腫瘤の可動性を確認できる場合は,MRI検査で腫瘤の内部構造の再確認や周囲組織との位置関係も参考にすることで重複腸管症を鑑別診断に含めることができると考えられる.

今回の検討で,いずれの症例でも複数の検査を組み合わせていたこと,各種検査を組み合わせたとしても術前に重複腸管の確定診断をすることは容易ではないことがわかった.しかしその中で術前診断がついた症例では,腹部超音波検査で特徴的な壁構造が同定できていたことが明らかとなった.重複腸管症の臨床症状は様々で無症状のものから,腸重積や腸捻転により腸管壊死や穿孔をきたす症例6,8,9,12)もあり,山田らの報告ではその頻度は11.5%13)とされている.今回の検討でも穿孔性腹膜炎や腸捻転を来たしショック状態で発症している症例(2例/15例)も認められたことから,早期の診断や適切な治療介入が重要であると思われた.そのため,胎児期や出生後に腹腔内に嚢胞性病変を認めた場合には,重複腸管症の可能性を念頭において,腹部超音波検査を中心とした複数の検査を組み合わせること,同じ検査でも時期をあけてフォローすることが大事であると考えられた.

結語

胎児期から嚢胞性病変が指摘されていたが,出生後は卵巣嚢腫や腸間膜嚢胞との鑑別が困難で,最終的には病理所見で確定診断に至った新生児重複腸管症の1例を経験した.重複腸管症に特徴的な検査所見を念頭に置き,各種画像検査を施行することが大切である.

 

日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.

文献
 
© 2021 Japanese Society of Pediatric Radiology
feedback
Top