2021 Volume 37 Issue 1 Pages 96-100
深頸部感染症評価目的に造影コンピューター断層撮影(computed tomography; CT)を施行し,傍咽頭蜂窩識炎及び喉頭浮腫を認めた化膿性頸部リンパ節炎の一例を経験した.症例は11歳女児.発熱,咽頭痛,右頸部腫脹で当院に紹介となった.超音波検査で右頸部リンパ節腫脹を認めたが膿瘍は認めず,化膿性頸部リンパ節炎と診断した.入院2日目に嚥下痛を自覚し,頸部造影CTで傍咽頭間隙の低吸収域と喉頭蓋及び披裂部の腫脹を認め,副腎皮質ステロイドで所見の改善を得た.小児では稀であるが,深頸部感染症に喉頭浮腫を合併することがある.本症例では化膿性頸部リンパ節炎に伴い,二次性に傍咽頭蜂窩織炎と喉頭浮腫が起こった可能性が考えられた.超音波検査で頸部リンパ節の状態,膿瘍形成の有無を把握出来るが,深頸部病変の評価は困難である.深頸部感染症を疑った際は,頸部造影CTが炎症所見や合併する喉頭浮腫など気道評価に有用であると考えられた.
We herein report a case of cervical lymphadenitis with pharyngeal cellulitis and laryngeal edema, which was diagnosed by a contrast enhanced computed tomography (CT) examination for the purpose of deep neck infection evaluation. An 11-year-old girl was referred to our hospital with a fever, sore throat, and swelling on the right side of the neck. Ultrasonography revealed a swelling on the Bright cervical lymph nodes, but no abscess, and therefore we made a diagnosis of cervical lymphadenitis. The symptoms persisted, and the patient began experiencing pain while swallowing. We then performed a cervical contrast-enhanced computed tomography, which revealed a low absorption area in the right parapharyngeal space and swelling of the epiglottis and arytenoid. These findings improved with the administration of corticosteroids. Deep neck infection with laryngeal edema is rare in children. In this case, laryngeal edema secondary to cervical lymphadenitis may have occurred. Ultrasonography may be useful for determining the condition of the cervical lymph nodes and presence or absence of an abscess; however, it is not helpful for evaluating a deep neck infection. Contrast-enhanced CT is useful for evaluation of inflammation and airway lesions in case of a suspected deep neck infection.
症例:11歳 女児.
主訴:発熱,咽頭痛,頸部腫脹.
現病歴:当院受診3日前に38°Cの発熱を認めた.翌朝に咽頭痛を自覚したため近医受診,解熱剤を処方された.その後,右頸部腫脹が出現したため近医を再診,抗生剤を処方されるも症状の改善なく,当院に紹介受診となる.
既往歴及び併存症:中枢性思春期早発症(8歳時に診断.以降,Leuprorelin月1回皮下注射を継続).
生活歴:同胞1名(7歳),周囲感染なし,海外渡航歴なし,猫を飼育しているが咬傷や掻把による外傷の既往なし.
アレルギー:なし.
ワクチン歴:定期接種は接種済み.
入院時現症:体温 39.7°C,SpO2 98%(室内気)で顔色良好であったが,活気不良.項部硬直及び頸部回旋制限なし,右頸部腫脹あり,弾性軟で圧痛を認めた.咽頭発赤あり,口蓋垂偏位なし,右口蓋扁桃腫大あり,白苔なし.呼吸音清,両側肺野含気良好,嗄声なし.左下肢に6箇所小紅斑あり.
入院時検査所見:血液検査では白血球数10,400/μl(好中球数8,382/μl)と増多を認め,CRP 4.95 mg/dlと上昇を認めた.サイトメガロウイルス,EBウイルス各抗体価については既感染の結果で静脈血培養は陰性であった.頸部超音波検査においては,右頸部リンパ節34 × 17 × 37 mmと軽度腫大を認めたが,膿瘍形成は認めなかった.また,左側頸部に有意なリンパ節腫大は認めなかった.
入院後経過:化膿性頸部リンパ節炎と診断し,Sulbactam/Ampicillin 133 mg/kg/dayを静脈注射で入院加療を開始した.入院2日目に呼吸困難は認めないが嚥下痛を認め,解熱も得られていないことから深頸部感染症を疑い,頸部造影CTを施行した(Fig. 1).造影CTでは右頸部に径3 cmのリンパ節腫大を認めたが,ring enhancementを示す明らかな膿瘍は認めなかった.また喉頭蓋及び右優位の被裂部腫脹と右傍咽頭間隙に低吸収域を認め,気道を軽度圧排していることが判明した.同日当院耳鼻咽喉科により,緊急喉頭内視鏡検査が施行され,喉頭蓋舌面と被裂部の浮腫,傍咽頭蜂窩織炎が確認された(Fig. 2).喉頭蓋の発赤は軽度であり,二次性に喉頭浮腫が生じていると考え,副腎皮質ステロイド薬としてDexamethasone 13.2 mg/dayを静脈注射で投与を開始した.その後は喉頭内視鏡で経過観察を行い,喉頭浮腫の軽減に併せ,Dexamethasone投与量を漸減し,入院8日目にPredonine 40 mg/dayを静脈注射,入院11日目にPredonine 20 mg/dayを経口投与に変更,漸減終了とした.内服加療後は発熱・頸部腫脹や嚥下痛など症状も改善され,血液検査においても白血球数7,400/μl(好中球数5,100/μl),CRP 0.03 mg/dlと改善を認めた.入院7日目に単純磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging; MRI)(Fig. 3)を行い,喉頭浮腫所見の改善を確認した.喉頭内視鏡においても異常所見は改善し,内科的治療のみで退院となる.
入院2日目 頸部造影CT(CTDI Vol 55.7 mGy, DLP 1,262 mGycm)
a:右頸部に径3 cmのリンパ節腫大(⇨).
b:右傍咽頭間隙に低吸収域を認め(⇨),気道を軽度圧排している.
c:右側優位に披裂部の浮腫を認める(⇨).
d:矢状断再構成画像 喉頭蓋腫脹を認める(⇨).
喉頭内視鏡所見
a,b:入院2日目,喉頭蓋腫脹(⇨),披裂部浮腫を認める(➡).
c,d:入院15日目,喉頭蓋腫脹は改善(⇨),披裂部浮腫も改善している(➡).
入院7日目 頸部単純MRI T2強調像(6 mmスライス)
a:矢状断像 喉頭蓋腫脹の改善を認める(⇨).
b:脂肪抑制横断像 気道偏位を認めない(⇨).
頸部リンパ節炎は,日常診療においてしばしば経験する疾患で,病歴をもとに視診,触診での診断が一般的である.画像検査では,頸部超音波検査が腫大リンパ節の径や個数,膿瘍形成の有無の評価に有用である.しかし,発熱,全身状態不良,嚥下痛,斜頸,気道狭窄症状などがあれば深頸部感染症を疑う必要がある1).その際は頸部超音波検査では深部病変の評価が困難であり,頸部造影CTやMRIが炎症所見や気道病変の評価に有用となる.
深頸部感染症は頸部筋膜間間隙に生じた感染症の総称で,リンパ節炎,蜂窩織炎,膿瘍を含む.頸部間隙は解剖学的に傍咽頭間隙,扁桃周囲間隙など,まばらな結合組織からなる間隙が存在する.小児期にこの部位に感染症を起こすことは少ないが2),気道狭窄などの重篤な合併症を引き起こすこともあり3),米国では小児人口100,000人あたり4.6人の頻度とされる4).診断には頸部造影CTが有用であり,蜂窩織炎の場合は低吸収域を呈し,膿瘍形成の場合はring enhancementを呈する5).多くは上気道・歯科領域などの炎症がリンパ行性に波及し,深頸部リンパ節炎を生じ,それが蜂窩識炎となり,さらに膿瘍化すると考えられている1,6).
喉頭浮腫は,成人では下極扁桃周囲膿瘍で合併しやすいという報告を認めるが7,8),小児では過去の文献において,三品らが報告した扁桃周囲膿瘍の7歳男児の一例のみであった9).また,亜急性リンパ節炎である菊池病においては,喉頭浮腫を合併している11歳男児の一例が報告されている10).深頸部の間隙は結合織が疎なため,急速に炎症が広範囲に波及すると考えられており,特に下極扁桃周囲膿瘍は喉頭蓋に近接していることから11),小児においても成人同様,喉頭浮腫を来たしうると考えられる.
本症例は頸部リンパ節炎という比較的高頻度な疾患であったが,入院後の症状から,深頸部感染症が疑われ,施行した頸部造影CTで喉頭浮腫を疑う所見が得られた.喉頭内視鏡による肉眼的所見や,副腎皮質ステロイドへの反応,喉頭蓋近傍の咽頭蜂窩織炎を併発していたことから,本症例は膿瘍形成を認めなかったが,炎症が波及して生じた二次性の喉頭浮腫の可能性が高いと考えられた.また,膿瘍形成に至らない段階であっても,喉頭浮腫を呈する可能性があることについては注意を要する.類似疾患の急性喉頭蓋炎における一般的な気道確保の指標は①起坐呼吸がある,②高度な喉頭蓋,披裂部の腫脹,③発症24時間以内の呼吸困難,の3点が知られており,被裂部の腫張が特に重要とされている12).本症例では喉頭浮腫を認めるものの,呼吸困難はなく,吸気性喘鳴など上気道閉塞を示唆する所見も認められなかったため,内科的治療のみで軽快を得た.呼吸状態悪化の可能性から気管内挿管も考慮されたが,患児の協力,耳鼻咽喉科医と連携により,画像による経時的な評価が得られたため,気管内挿管には至らなかった.本症例は年長児であり,自覚症状を訴えることができ,内視鏡検査も可能であったが,年少児においては症状の把握や検査が困難な場合もあり,挿管管理が望ましい症例もあると考える.
一般的に解剖や質的診断において骨や石灰化の評価にはCTが,軟部組織の評価にはMRIが有用であるとされる.しかし,MRIはCTに比して撮影時間を要することや年少児では鎮静を要することが留意すべき点である.気道緊急性を踏まえると,MRIによる時間を要する撮像及び鎮静は積極的には施行出来ない.また喉頭内視鏡では膿瘍の有無は評価ができない.膿瘍形成に至らない頸部リンパ節炎であっても喉頭浮腫を呈する可能性があることを考慮すると,短時間で鎮静を要さず,気道緊急性及び膿瘍の有無の両者が評価可能なCTの施行が望ましいと考える.本症例において頸部造影CTは,膿瘍の有無や炎症の波及を評価するのみでなく,早急に喉頭浮腫や気道狭窄など気道緊急性を短時間かつ覚醒下で評価することにおいても有用であった.
本症例のように深頸部感染症が疑われる場合には,喉頭浮腫や気道狭窄など気道緊急を要することも考慮し,早期に頸部造影CTを施行する必要があると考えられた.
頸部リンパ節炎から,傍咽頭蜂窩識炎および喉頭浮腫をきたした症例を経験した.嚥下痛を認めたことから,深頸部感染症を疑い,頸部造影CTを施行,喉頭浮腫を診断しえた.膿瘍の有無に関わらず,頸部リンパ節炎からの炎症の波及により喉頭浮腫が合併しうると考えられた.頸部造影CT検査は頸部リンパ節炎に伴う深頸部感染症の炎症所見や気道緊急性の早急な評価に有用であると考えられた.
本論文の要旨は第55回日本小児放射線学会学術集会(令和元年6月21日)で発表した.
日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.