2024 Volume 32 Issue 2 Pages 232-238
【緒言】COPD患者への栄養食事指導(以下,栄養指導)は,個別化した食事療法の提案が可能で外来患者に適応しやすい反面,効果を検証した報告は少なく,特に病期が軽度な患者への介入効果は明らかでない.今回病期I~II期の安定期外来COPD患者へ栄養指導を実施し,効果を検討した.
【方法】対象は当院の外来COPD病診連携クリニカルパスを利用し,栄養指導を実施した患者98例.摂取栄養量,体重,体組成を評価し,初回栄養指導時(以下,介入時)と介入時から1年後の栄養指導時(以下,介入後)で比較した.
【結果】1日の摂取エネルギー量は介入時 1,667±322 kcal/day,介入後 1,795±394 kcal/dayと有意に増加.体重は介入時 59.0±11.2 kg,介入後 58.7±11.2 kgと有意な変化を認めなかった.除脂肪体重指標は介入時 16.3±2.2 kg/m2,介入後 17.1±2.6 kg/m2と有意に増加した.
【考察】病期I~II期の安定期外来患者への栄養指導は,摂取エネルギー量の増加,体重の維持及び除脂肪体重指標の増加に寄与することが示唆された.
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease; COPD)は長期の喫煙歴がある中・高年者に発症するため,喫煙や加齢に伴う併存症が多くみられる1).併存症の一つとして知られる栄養障害の有無は,原疾患の重症度や呼吸機能とは独立して,COPD患者の生命予後を規定する因子であることが知られており,安定期・増悪期にかかわらずCOPD患者の栄養管理は非常に重要な役割を担っている1).また,体重減少は,気流閉塞とは独立したCOPDの予後因子であると言われている1,2).
これらのことから,COPD患者に対して栄養介入を行い,栄養障害の進行および体重の減少を予防することは,極めて重要であると言える.
栄養介入は,栄養に関連した行動や環境あるいは栄養に関連した健康問題を修正することを目的としており,(1)食物・栄養の提供,(2)栄養教育,(3)栄養カウンセリング,(4)栄養ケアの調整の4つの領域がある3).この内,食物・栄養の提供に該当する,日常摂取している食事に加えて経腸栄養剤や濃厚流動食を摂取することで,不足する栄養素を補うことを目的とした経口的栄養補助(oral nutrition supplements)を用いた介入に関しては,近年のシステマティックレビューで,COPD患者の栄養状態,機能的アウトカムおよび生活の質(quality of life; QOL)を改善することが報告されている4).しかし外来患者にとっては食事にかけられるコストや嗜好等の面から実践できない場面も少なくない.
一方,栄養カウンセリングを用いた介入である栄養食事指導(以下,栄養指導)は,患者個々の生活,病識や理解度を考慮し,患者のニーズに合わせた個別対応での食事療法の提案が可能であるが,多くの外来COPD患者に適応しやすい反面,COPD患者へ栄養指導介入の効果を検証した報告は少なく,海外で数件のランダム化比較試験(randomized controlled trial)が存在するのみである5,6).
Ha Thanh Nhuyenらの研究では,個別の栄養カウンセリングは,外来COPD患者の摂取エネルギー量,たんぱく質量,栄養状態などを改善する可能性があることを報告6)している.しかしこの研究の対象者は,栄養不良があるCOPD患者であり,半数以上が病期III,IV期を占めている.栄養不良が存在しない患者やI,II期の軽症および中等症の患者に対する栄養指導介入の効果については,未だ明らかとなっていない.
COPDは進行性疾患であるため,栄養不良が存在しない患者やI,II期の患者に対しても栄養指導の介入効果が得られれば,より多くの患者の低栄養予防あるいは栄養状態の維持や改善が期待できる.
そこで本研究では,I,II期の安定期の外来COPD患者に対する栄養指導実施の効果について検討することを目的とし,以下の調査を行った.
本研究のデザインは,後ろ向きコホート研究とした.
2. 対象2017年6月から2021年5月の間に,聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院外来においてCOPD病診連携クリニカルパス(以下,COPDパス)を利用し栄養指導を実施した患者のうち,初回栄養指導時(以下,介入時)と介入時から1年後の栄養指導時(以下,介入後)に再び栄養指導が可能であった98例を対象とした.
COPDパスとは,通常,地域の非専門医が診察しているクリニック等へ通院し,治療を受けている安定期のCOPD患者を対象に,年1回継続的に,当院にて呼吸機能や血液検査,画像検査,および身体機能の評価等を行い,専門医が総合的に評価し,治療法を調整した内容,結果を近医へ報告するものである.
当院では,2017年6月より,COPD患者における体重減少と栄養状態の低下予防を目的とした栄養指導を導入している.研究除外患者は,栄養指導を辞退あるいは,再来までの期間が長いことなどで,初回の栄養指導実施から1年後に栄養指導が実施できなかった者,III期以降の重症および最重症の者,慢性腎不全を有する者とした.本研究は,聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院生命倫理委員会の承認を受けて実施した(承認番号:5578).
3. 栄養指導内容栄養指導は管理栄養士が約60分間実施し,問診,体組成測定,栄養評価,食事に関する内容を説明した.具体的には,COPDの食事療法の必要性を説明した上で,COPDの食事療法に関するパンフレットを用い,1日3食のバランス食を基本とした食事について指導した.さらに普段の食事内容の聞き取りから摂取栄養量を評価し,不足する栄養素がある場合は,具体的な食材の追加の提案や調理方法の指導,必要に応じて間食の追加や栄養補助食品の紹介等を行った.安定期COPD患者における至適なエネルギーおよびたんぱく質の投与量や組成については,確立されたエビデンスが存在しない.よって,当院で目安とするエネルギー量は,BMI 25 kg/m2未満の患者に対しては体重の維持,あるいは増量を目標とし,体成分分析装置を用いた測定により得られた基礎エネルギー消費量(basal energy expenditure)に活動因子(active factor)1.3,ストレス因子(stress factor)1.1~1.3を乗じて,算出7)したものとした.一方,BMI 25 kg/m2以上の患者においては,標準体重あたり 30 kcal/kgを乗じて得られたエネルギー量を目安とした.目安とするたんぱく質量は,BMIに関わらず,標準体重あたり 1.5 g/dayを乗じて算出した7,8).
なお,患者への具体的な目標提示として,BMI 18.5 kg/m2未満の患者(以下,低体重群)に対しては,体重の増加に重点をおいた指導を行った.BMI 18.5 kg/m2以上およびBMI 25 kg/m2未満の患者(以下,標準体重群)に対しては,標準体重を目安とし,具体的な摂取エネルギー量の増量あるいは減量のための栄養指導を行った.一方,BMI 25 kg/m2以上の患者(以下,肥満群)においては,原則,減量を目標とし,体成分分析装置を用いて得られた骨格筋量および体脂肪量を基準とし,減量の際には筋肉量を落とさないことが大切であることを併せて指導した.
4. 評価項目 ① 背景診療録より,性別,年齢,身長,体重,1秒率(FEV1/FVC),およびCOPD病期を調査した.
② 摂取栄養量摂取エネルギー量およびたんぱく質量を算出した.これらは問診時に24時間思い出し法および食物摂取頻度法を用いて得られた値とした.
③ BMI身長,体重からBMIを算出した.算出されたBMIを基に,日本肥満学会による肥満度分類9)より,BMI 25 kg/m2以上を過体重,BMI 18.5 kg/m2未満を低体重とした.
④ 体組成測定体脂肪量,体脂肪率を測定した.除脂肪量は測定した体脂肪量,体脂肪率より算出した.体脂肪量および体脂肪率の測定には,体成分分析装置(株式会社インボディ・ジャパン,Inbody® S10)を用い,座位にて行った.得られた除脂肪量および体脂肪量より除脂肪体重指数(fat free mass index; FFMI),体脂肪指数(fat mass index; FMI)を算出し評価した.FFMIおよびFMIは,除脂肪量あるいは体脂肪量を,身長の二乗で除して得られる指数である.FFMIの評価基準は,Schutzら10)の提唱する値を基準とし,男性 16 kg/m2未満,女性 15 kg/m2未満を低値とした.
5. 統計学的解析カテゴリー変数は実数(%)で記載し,量的変数に関してはKolmogorov-Smirnov-testを用いて正規性の確認を行った.まず,全例における介入時と,介入後に得られた各評価項目をPaired T-testあるいはWilcoxon signed-rank-testを用いて比較した.
栄養指導は,体重によって指導内容が異なるため,肥満群,標準体重群,低体重群の3つの群に群分けをし,各群における介入時と介入後の指標をPaired T-testあるいはWilcoxon signed-rank-testを用いて比較した.
なお,統計学的解析については,いずれも有意水準5%未満を有意差ありと判定した.すべての統計解析にEZR11)を使用した.EZRはRおよびRコマンダーの機能を拡張した統計ソフトウェアである.
表1に,全例および各群に分けた患者背景を示す.
全体 | 肥満群 | 標準体重群 | 低体重群 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
n=90 | n=18 | n=63 | n=9 | |||
性別 男性 | 人(%) | 78(86.7) | 18(100.0) | 52(82.5) | 8(88.9) | |
年齢 | 歳 | 76±8 | 78±9 | 75±8 | 79±10 | |
身長 | cm | 161.7±7.4 | 163.4±7.2 | 160.8±7.3 | 165.1±7.4 | |
体重 | kg | 59.0±11.2 | 73.2±12.5 | 56.6±7.0 | 47.1±5.9 | |
BMI | kg/m2 | 22.5±3.3 | 27.2±2.4 | 21.8±1.8 | 17.2±1.5 | |
FEV1/FVC | % | 99.5±23.6 | 107.7±21.2 | 96.2±24.2 | 106.2±20.6 | |
病期 | I期 | 人(%) | 73(81.1) | 16(88.9) | 49(77.8) | 8(88.9) |
II期 | 17(18.9) | 2(11.1) | 14(22.2) | 1(11.1) |
BMI: body mass index 体格指数
FEV1/FVC: forced expiratory volume % in one second 1秒率
介入時における全対象者の平均年齢は76±8歳,COPD病期はI期73名(81.1%),II期17名(18.9%)だった.
図1に,介入時と介入後の摂取栄養量の変化を示す.
1日あたりの摂取エネルギー量は,目標エネルギー量の平均が 1,821±195 kcal/dayであったのに対して,介入時 1,667±322 kcal/day,介入後 1,795±394 kcal/day,と有意に増加(p<0.05)した.1日あたりのたんぱく質摂取量は,目標のたんぱく質量の平均が 84±11 g/dayであったのに対して,介入時 62±14 g/day,介入後 64±13 g/dayと有意な差は認めなかった.
図2に,介入時と介入後の体重および体組成の変化を示す.
FFMI: fat free mass index 除脂肪体重指数 FMI: fat mass index 体脂肪指数
体重については,介入時 59.0±11.2 kg,BMIは 22.5±3.3 kg/m2だった.介入後の体重は 58.7±11.2 kg,BMIは 22.4±3.3 kg/m2と,有意な変化を認めなかった.FFMIは介入時 16.3±2.2 kg/m2,介入後 17.1±2.6 kg/m2と有意に増加(p<0.05)を認め,FMIは介入時 6.2±3.0 kg/m2,介入後 5.3±2.2 kg/m2と有意に減少(p<0.05)を認めた.
表2に,群別の介入時と介入後の摂取栄養量,体重および体組成の変化を示す.
肥満群 | 標準体重群 | 低体重群 | ||||||||
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介入時 | 介入後 | P-value | 介入時 | 介入後 | P-value | 介入時 | 介入後 | P-value | ||
摂取エネルギー量 | kcal/day | 1,805±423 | 1,945±417 | <0.05 | 1,653±280 | 1,797±386 | <0.05 | 1,486±289 | 1,482±202 | 0.947 |
摂取たんぱく質量 | g/day | 68±14 | 70±14 | 0.585 | 62±14 | 64±12 | 0.264 | 52±5 | 57±9 | 0.101 |
体重 | kg | 73.2±12.5 | 72.3±13.3 | 0.210 | 56.6±7.0 | 56.5±7.0 | 0.896 | 47.1±5.9 | 46.8±5.6 | 0.477 |
FFMI | kg/m2 | 17.6±2.9 | 19.7±3.9 | <0.05 | 16.2±1.9 | 16.6±1.7 | <0.05 | 14.3±1.2 | 14.9±1.0 | 0.0977 |
FMI | kg/m2 | 9.6±2.0 | 7.2±2.3 | <0.05 | 5.7±1.8 | 5.2±1.7 | <0.05 | 3.0±1.1 | 2.2±1.1 | <0.05 |
FFMI: fat free mass index 除脂肪体重指数 FMI: fat mass index 体脂肪指数
摂取エネルギー量は,肥満群,標準体重群で介入時と比較し,介入後で有意な増加を認めたが(それぞれp<0.05),低体重群は有意な差は認めなかった.摂取たんぱく質量は,肥満群,標準体重群,および低体重群のいずれも有意な差は認めなかった.また,FFMIは肥満群,標準体重群で介入時と比較し,介入後で有意な増加を認めたが(それぞれp<0.05),低体重群は有意な差は認めなかった.FMIは,介入後は介入時と比較し,いずれの群も有意な減少を認めた(p<0.05).
本研究の結果より,病期がIあるいはII期である軽症から中等症の外来患者への栄養指導の介入は,摂取エネルギー量の増加および体重の維持,FFMIの増加へつながる可能性が示された.比較的軽度のCOPDに対して早期から栄養指導の実施をすることにより,COPD患者の栄養状態を維持あるいは改善できれば,栄養補助食品や経腸栄養剤の購入にかけるコストが捻出できない患者や,嗜好が合わない等の理由で導入ができず,栄養療法の実践が困難である患者に対する栄養介入が可能となり,幅広い層の患者の低栄養に伴うCOPD増悪や入院のリスク軽減の一助となり得ることが期待できる.
本研究の結果では,摂取エネルギー量において介入前後で有意に増加を認めた.先行研究では,栄養不良の外来COPD患者に対し,月1回のオーダーメイドの栄養指導を3ヶ月間行った結果,エネルギーおよびたんぱく質摂取量の改善,体重減少の防止,体重増加の促進,栄養状態やQOLの改善等が可能であった6)と報告されている.本研究は年に1回の介入であり,先行研究と比較し栄養指導の介入頻度は少ないものの,先行研究と同様に摂取エネルギー量の増加の効果を得られた.
摂取たんぱく質量に関しては,介入前後で有意な差は認められなかった.理由としては,次のように考える.
2019年度の国民健康栄養調査12)における,70~79歳の摂取たんぱく質量は 76.3 g/dayと報告されており,介入前後の摂取たんぱく質量はこれと比較するといずれも少ない.近年,筋肉量低下につながる栄養学的な要因として,摂取たんぱく質量の不足はサルコペニアのリスクになるという報告13)や,高齢者はアミノ酸摂取に対しての筋肉のたんぱく質同化反応の感受性が低下している14)との報告があり,高齢者において積極的にたんぱく質摂取を促す必要性が高い.先行研究では,栄養指導の介入により摂取エネルギー量だけでなく,摂取たんぱく質量も改善した6)との報告があった.具体的なカウンセリングの方法については詳細な記載がなく,本研究との差異の原因を比較検討することはできないが,体重の増減に着目した指導に加え,摂取たんぱく質量の増量に繋げるための,より具体的な指導の実施が必要であり,指導方法の見直しが必要と考える.また,適切な介入回数についても考慮する必要がある.
体重およびBMIについては,1年間で減少しなかった一方で,エネルギー摂取量が増加していた.健常人であれば体重の増加につながるはずが,本研究対象者では介入前後で有意な差は認められていない.これは,対象がCOPD患者であるためと考えられる.COPD患者ではCOPDの増悪期だけでなく,安定期においても安静時エネルギー消費量(resting energy expenditure)は有意に増大しており,代謝亢進が認められるとの報告15)がある.また,健常人を対象とした2019年度の国民健康栄養調査12)では,70~79歳の摂取エネルギー量は 1,945 kcal/dayと報告されており,これと比較すると当院のCOPDパス患者におけるエネルギー摂取量は,介入前後ともに少ない.このことから,本研究における対象者は,体重の維持に必要なエネルギー量は摂取できていたが,体重増加のためには,さらなる摂取エネルギー量の増加が必要であったと考える.
一方,栄養障害の指標として,BMIよりFFMIがより鋭敏な予後因子16)であるとの報告がある.本研究では,介入時と比較し,介入後でFMIが有意に減少し,FFMIが有意に増加を認めた.一般的に,筋肉量は50歳以後,毎年1~2%程度減少する17)と言われている.また,先行研究より呼吸器疾患におけるフレイルの合併リスクは1.78倍18)との報告や,COPDの患者において除脂肪体重の減少はII期・III期では25%,IV期では35%であった8)との報告もある.
本研究の対象者は,高齢且つCOPD患者という筋肉量の減少リスクが高いと考えられる集団であったが,体重を維持し骨格筋量の割合を示すFFMIを増加させることができた.これは,栄養指導の実施により摂取エネルギー量が増加したことが一助となった可能性がある.なお,たんぱく質摂取量が増加していないにもかかわらずFFMIが増加を認めたことに関しては次のように考える.
たんぱく質の必要量は摂取エネルギー量の影響を強く受けると言われている.エネルギー摂取量が不足した状態では,骨格筋の異化が亢進する上,摂取したたんぱく質はエネルギー源として消費されるか尿中に排泄されてしまい,体たんぱく質の合成に利用されない19).たんぱく質を効率的にたんぱく質合成へまわすためには,十分なエネルギー量を摂取することが必要である.そのため,摂取エネルギー量の増加による十分なエネルギー摂取に伴い,たんぱく質摂取量は増加しなくともFFMIの増加につながった可能性があると考える.
近年では,栄養療法単独では体重増加を促進するには不十分であることやフレイルに対する栄養介入として,栄養教育,栄養補助食品による単独介入の効果は弱いことが報告されている20).低体重の COPD に対する先行研究でも,運動療法と栄養療法のコンビネーションセラピーが FFMI や体重増加に推奨されている21).しかし,本研究では栄養指導単独でもFFMIの増加を認めた.これは対象であった患者が比較的軽症であり,生活を送る上で,ある程度身体活動量を保てていたことが栄養療法単独の介入でも効果を示したものと考える.
本研究では体重により栄養指導の内容が異なることを考慮し,体重別に検討を行った.その結果,標準群および肥満群では介入前後で摂取エネルギー量およびFFMIは有意に増加を認め,低体重群においてはこれらの結果に有意差を認めなかった.これについては,低体重群においては,慢性的に摂取エネルギー量が不足している可能性が高く,摂取エネルギー量を増加させるためには標準体重群と同様の介入頻度では行動変容につながらない可能性が考えられた.先行研究では低栄養患者へ,1ヶ月に1回の栄養指導の介入を継続して計3回実施することで摂取エネルギー量や摂取たんぱく質量の増加等の結果が得られていた6)ことから,低体重群に該当する患者においては介入頻度を増加させる必要性が考えられた.また前述したようにフレイルや低栄養が存在する患者に対する栄養介入として,栄養教育,栄養補助食による単独介入の効果は弱く,低体重群においては運動療法と栄養療法のコンビネーションセラピーが必要と思われた.
本研究の限界として,研究対象とした患者はすべて栄養指導を受けた患者であり,栄養指導を受けていない患者との比較が行えていない.また,介入前後の栄養指導の遵守率については調査できていない.従って,本研究結果に対し,運動療法等の栄養指導以外の要因が影響している可能性については否定できない.しかし,当院のCOPDパスは評価を目的としたクリニカルパスであり,運動指導などは行っていない.これらの理由より,今回の結果に対し,栄養指導以外のCOPDパスによる影響は少ないと考える.
他にも,今回使用した摂取栄養量の調査方法である24時間思い出し法,および食物摂取頻度法はいずれも日間変動や季節性などによる食事内容の偏りが大きく影響し,個人の習慣的な摂取量が正確に把握できない22)とも言われていることから,年に1回の問診から得られた摂取栄養量を評価する際には,個人の生活習慣や嗜好,体重変化等との関係を,あわせて検討していく必要がある.
以上より,結論として,本研究において,COPD病期がI~II期である軽症および中等症の安定期外来患者であっても,栄養指導を行うことで摂取エネルギー量が増加し,体重およびBMIの維持,FFMIの増加に寄与することが示唆された.しかし,低体重である患者への介入は,年に1回程度の栄養指導では目標とする行動変容につながらない可能性があると考えられた.
よって,病期が比較的軽度な安定期の外来COPD患者であっても栄養指導を行うことは,体重の維持,FFMIの改善において意義のあることであり,更には栄養指導実施の際は,患者のBMIに応じた介入頻度や指導内容について,見直し,検討していくことが必要であると考えられた.
論文執筆に協力いただいた川島由起子氏に,感謝の意を表する.
本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない.