2014 Volume 30 Issue 1 Pages 21-34
民主主義が機能するためには、その担い手である個々の有権者が十分な政治的知識をもつ必要がある。しかし、すべての有権者が政治や公共の問題を理解し、コミットしているとは必ずしも言えないのが現状である。たとえばアメリカでは、有権者の政治関心や政治知識の水準は一般に高くないことが知られており(例としてDelli Carpini & Keeter, 1996)、民主主義の主役たる市民が必ずしも政治に関心をもたず、知識もない現状を、Neuman(1986)は「大衆政治のパラドックス」と呼んだ。
もっとも、忙しい日常の中で、有権者がわざわざ時間や手間を費やしてまで政治に関心を払わないのは不思議なことではない。政治心理学の分野では、有権者がこうした知識の不足を補うさまざまなヒューリスティックを利用して、「それなりの」判断をしていることが報告されてきた。しかし、民主主義社会における市民の役割を考えれば、有権者がどのように政治知識を、あるいは政治的関心を獲得するのかということは、極めて重要な問題である。
政治知識の主要な源泉として考えられるのは、新聞やテレビなどの伝統的なニュースメディアであるが、近年ではオンラインニュースの利用も増えている。本研究では、オンラインニュースへの接触が、身近な人との政治的会話や政治的知識の獲得、政治的関心の涵養にどのような影響を及ぼすのかという問題について、伝統的なニュースメディア(新聞・テレビ)と比較しつつ、アクセスログを含めた3つのデータで検証する。
新聞・テレビ・オンラインニュースと政治的知識・政治的関心政治的知識には複数の次元があるが(Delli Carpini & Keeter, 1996; 今井,2008)、選挙制度や行政の仕組みに関する制度的な知識や、歴史的な知識が主に学校教育で獲得されるのに対し、現在の政治の動向や政治家などの政治的アクターに関する情報は、マスメディアが主要な情報源と考えられる。たとえばDelli Carpini, Keeter, & Kennamer(1994)はアメリカの2つの州の住民の政治的知識を比較し、地域の新聞がその州の政治に関する情報を詳しく伝えている州のほうが住民の政治知識が多いことを報告している。この結果は市民が政治的知識を獲得するうえで、メディア環境が重要だということを示すものである。
ただし、メディアの種類によっても、政治的知識の獲得に果たす役割は異なるという知見がある。日本の有権者を対象に、政治的知識の3つの次元(統治の仕組み、政党政治の動向、政治的リーダー)を確認し、政治的知識を説明するモデルを検討した今井(2008)によれば、新聞接触は政治的知識の各次元との関連が見られた一方、テレビニュース接触はどの次元の政治的知識にも関連していなかったという。
このように、伝統的なニュースメディア、特に新聞は重要な政治的情報源と考えられるが、近年、若年層を中心に、テレビや新聞といった伝統的なマスメディアに接触しない人がでてきている。たとえばNHKの世論調査によれば、10~20代の若者は、他の年代に比べて新聞やテレビに毎日接触する人の割合が少ない(平田,2010)。
これに対してニュースソースとしての存在感を増しているのがインターネットである。平成23年末のインターネットの人口普及率は79.1%に達しており(総務省,2012)、上記NHKの調査でも、社会に関する知識を得るうえで重要な情報源として、若年層ではインターネットがテレビに次ぐ位置を占めている(平田,2010)。近年のスマートフォンの普及により、インターネットニュースはますます身近なものとなっていると考えられる。そこで本研究では、オンラインニュースへの接触が政治的関心と政治的知識に与える効果に焦点を当てる。
伝統的なニュースメディアへの接触と同様、オンラインニュースも政治的知識を高めることは、先行研究ですでに報告されている(例として小林,2011; Kwak, Poor, & Skoric, 2006)。その理由として考えられるのは次の3点である。第一に、オンラインニュースは情報量が多く、その多様性も高い。テレビニュースや新聞の内容は編集者や記者がおもしろいと思ったものに限定されているが、オンラインニュースでは伝統的ニュースメディア以外からの情報も提供しているので、利用者は政治的出来事、特に争点に関連した出来事を追跡することができる(Tewksbury & Rittenberg, 2012)。第二に、オンラインニュースはハイパーリンクによる情報接触が容易であることが挙げられる。そのためポータルサイトなどで偶発的に政治ニュースに接触したり(小林,2011)、リンクをたどって構造的な知識を得たりしやすい(Eveland, Cortese, Park, & Dunwoody, 2004)ことがあるだろう。第三に、オンラインニュースはソーシャルメディアなどオンライン上のコミュニケーションを通して、オリジナル情報を共有しやすい。たとえば、ニュースのURLを付けたツイートや、Facebookでの「いいね!」ボタンでのニュースの共有も可能である。共有することでその情報に関して議論を行いやすく(例としてTewksbury & Rittenberg, 2012)、それが知識に結びつきやすいと考えられるのである。
では、オンラインニュースの効果は伝統的なニュースメディアとどのような違いがあるのであろうか。Boulianne(2011)は、新聞・テレビ・オンラインニュースへの接触が政治的関心に及ぼす影響を比較検討している。その結果、もともと政治的関心の高い人にとってはテレビが有効な情報源となる一方、政治的関心を高めるメディアとしては、新聞やオンラインニュースのほうが効果的であったという。新聞やオンラインニュースは、テレビと異なり、ニュースを読むために能動的な作業(ページをめくったり、クリックしたりすること)を必要とする。そのため、関心を一定時間保ち続ける必要があるというのである。また、特にオンラインニュースは、情報内容が豊富であるばかりでなく、SNSなど友人とのコミュニケーションを通して情報の共有が起きやすいことも、政治関心を高めると考えられる。また、Evelandらは、オンラインニュースへの接触は関連情報へのリンクにより詳しい情報を得やすいことから、政治的知識に対してもプラスの効果をもつことを報告している(Eveland et al., 2004)。
強化モデルと動員モデル:ニュース接触・政治的知識・政治的関心の関連政治ニュースへの接触と政治的関心・政治的知識の関連については強化モデルと動員モデルという2つの見方がある(Norris, 2001)。
強化モデルによれば、政治的関心がニュース接触と政治的知識の両方に影響しており、政治的関心の高い層がニュースに多く接触することで政治的知識が増大すると予測される(たとえば、Eveland, Hayes, Shah, & Kwak, 2005; Xenos & Moy, 2007)。政治的関心が高いほどニュースを理解するための能力が高く、しかもすでに多くの政治的知識をもっているので新しい政治的知識を習得しやすいためと考えられる。さらに政治的関心の高い人は政治的知識量の多い人と接する機会が多く、ニュースに関する会話をする機会が多いことも一因であろう。その結果、政治的関心が低い人々との間に政治的知識の格差が生じることが予測される。
これに対して動員モデルでは、政治ニュースへの接触により争点への注目や公的出来事への関心が高まり、政治的関与や政治的知識が高まると考える(Boulianne, 2011; Mossberger, Tolbert, & McNeal, 2008)。つまり、政治的関心が高いからニュースに接触するというだけでなく、ニュースに接触することが政治関心を高めるという議論である。Boulianne(2011)は、アメリカの選挙調査(ANES)の3波パネルデータを用いて、第1波の政治的関心をコントロールしても、第2波時点での新聞・オンラインニュースへの接触が第3波時点での政治関心を高めるということを実証している。ただしテレビニュースについては強化モデルを支持する結果が得られたという。テレビニュースは政治的会話を増やすことによって間接的に政治的関心を高める可能性があるが、新聞やオンラインニュースのような政治関心への直接的なパスは見いだされなかった。この理由として、新聞やオンラインニュースへの接触には受け手の能動性が必要であること、また新聞やオンラインニュースに比べてテレビはトピックスの詳細について十分な情報を与えるわけではないということが考えられる。また、Prior(2007)が指摘するように、アメリカのテレビ環境は、ケーブルテレビによる多チャンネル化が進行し、選択性の高い(High-choice)環境になっていることも一因であろう。こうした環境では、社会や政治への関心が高い視聴者はニュースを見ても、エンターテイメント志向の高い視聴者は、スポーツやエンターテイメント系のチャンネルしか見なくなり、エンターテイメントとニュースが混在するチャンネルしかなかった(Low-choice)状況に比べて、偶発的な学習をしにくくなる。
強化モデルも動員モデルも、どちらも蓋然性の高いモデルであるが、日本のメディア環境では、動員モデルのほうがあてはまりやすいと考えられる。まず、日本のケーブルテレビ普及率は2012年末の時点で約50%であり(総務省,2013)、アメリカほどには選択性の高い状況にはない。地上波デジタル放送では娯楽系の番組も多いが、ニュースと内容が混在したニュースバラエティ型の番組も多く、偶発的に政治的情報に接する機会も少なくないからである。また、ニュース番組自体もそれほど細分化されておらず、事件や事故、災害など、視聴者の関心が一般的に高いニュースと政治や経済などハードなニュースが同じ番組内で取り上げられる。インターネットについても、日本では、ポータルサイトへのアクセスが多いが、こうしたポータルサイトにはニュースへのリンクが存在し、サイトにアクセスすると政治に関心がなくともニュースを目にすることになる。たとえば小林・金(2010)は、日本のウェブサイト閲覧は実質的に選択性の低い(Low-choice)環境であることを指摘し、政治的関心の低い層においては、Yahoo!を通したオンラインニュースへの接触が、テレビ視聴のエンターテイメント志向による政治知識の低下を防ぐ(つまり、政治的関心が低くても、オンラインニュースの閲覧によって政治的知識が増大する)ことを報告している。
以上を踏まえ、本研究では、動員モデルに基づいて、オンラインニュースへの接触が政治関心を高めるという仮説を検証する。
政治的コミュニケーションの役割オンラインニュースが政治的関心や知識を高める可能性があることは上述のとおりであるが、このようなオンラインニュースの効果を強めるのが政治的会話や政治的議論であると考えられる。日常生活における政治的会話の頻度が多いほど政治的知識が多いこと(Bennett, Flickinger, & Rhine, 2000)、また、対面での議論の経験が争点知識の獲得や政治参加を促すこと(Jacobs, Cook, & Delli Carpini, 2009)などが報告されているからである。因果関係としては政治的知識が多いと議論や会話が増えるという可能性もあるが、Evelandら(Eveland et al., 2005)は、政治的知識から議論の頻度を説明するモデルより、議論の頻度が政治知識を説明するモデルのほうがあてはまりがよいことを報告している。
なぜ、政治的会話や政治的議論は知識を増やす効果があるのだろうか。Scheufele(2002)は、他者と話すことで、複雑すぎたり不十分だったり曖昧であるという報道内容の欠点を補うのに役立つことを指摘した。すなわち、会話や議論によってニュースの内容が明確になるために知識が増大すると考えられる。特に、テレビに比べて詳細で複雑な新聞の報道は、会話や議論を経たほうが知識に結びつきやすいという(Feldman & Price, 2008)。また、議論がニュース内容を精緻化・熟考すること(Eveland, 2004)や、顕在化していなかった争点を身近に感じるようになることも政治的知識を増やす理由と考えられる(Scheufele, Nisbet, Brossard, & Nisbet, 2004)。特にインターネットのように社会的リアリティを支えるメカニズムが欠如しがちなメディアの場合(池田,1997)、身近な人との会話や議論によってニュースの内容に社会的リアリティが共有されることは、政治的知識にプラスの効果をもつであろう。
では、どのような相手との政治的会話や議論が政治的知識に効果をもつのであろうか。一般に、政治的会話の相手として選ばれやすいのは配偶者や家族など、親密度の高い相手である(e.g., Huckfeldt & Sprague, 1995; Ikeda & Boase, 2011)。党派制・政治的関心・支持政党やデモグラフィック要因をコントロールしても家族や友人との政治的会話は知識にプラスの効果があることが報告されている(Kenski & Stroud, 2006)。若年層にとっては、親との政治的会話は政治的社会化の機能も有する。たとえばDostie-Goulet(2009)は、青少年の政治的関心を高めるのに、親との政治的会話が効果的であることを時系列データで証明している。
本研究では、以上の先行研究に基づき、家族や友人との政治的会話の頻度が政治的知識に影響を及ぼすという仮説を検証する。
オンライン上の政治的議論オンラインニュースへの接触が情報の共有を促進しやすいこと、(対面での)政治的会話や議論が政治的知識にプラスの効果をもつことを考えると、オンラインニュースがオンラインあるいは対面での政治的議論をどの程度喚起するのか、またオンライン上の議論が政治的知識を増やすのかという疑問に結びつく。先行研究では、オンラインニュースへの接触が多いほどインターネット上の政治的コミュニケーションが増えること(Gil de Zúñiga, Veenstra, Vraga, & Shah, 2010)、またオンラインのみならず対面での議論も増えることが報告されている(Brundidge, 2010; 宮田,2010; Shah, Cho, Eveland, & Kwak, 2005)。さらに、オンラインでの議論は、政治的知識にもプラスの効果をもつという(Min, 2007; Price & Cappella, 2002)。
オンラインでの議論が政治的知識を増やす理由として、オンラインのネットワークは異質性が高い(Brundidge, 2010)ということが考えられる。たとえばScheufeleらは、政治的知識を規定するのは、教育程度・年齢・性別・人種を統制しても、ネットワーク内の異質性であることを指摘している(Scheufele, Hardy, Brossard, Waismel-Manor, & Nisbet, 2006)。オンラインでの議論は、対面では接触する機会のない多様な人々からの情報や知識を得やすいのだろう。
しかし一方で、オンラインでは、議論の場からの退出や、選択的接触が容易である。そのため、自分と同じ意見をもつ人同士で固まることもまた、対面よりも容易となる。もし異なる意見をもつ人とのコミュニケーションが避けられるのであれば、オンラインでの議論は必ずしも政治的知識を増やさないであろう。インターネットでは、自分の考えた見方を支持する情報やオンライン・コミュニティに選択的に接触し、反対の見方は無視する可能性が危惧されている(Sunstein, 2001)。同じような立場の情報にばかり接しやすくなってしまうメディア環境を“Echo chambers”と呼ぶが、オンラインニュース接触者が新聞やテレビニュースに接触せず、オンラインだけで議論をして対面で家族や友人たちと政治的議論をしないならば、オンラインニュースの利用によって小さな社会的リアリティが分立するだけになってしまう危険性もあるだろう。
以上を踏まえ本研究では、オンラインニュースへの接触が、「家族」「親戚・近所の人」「職場の同僚」「友人」との政治的会話、あるいはオンライン上の政治的議論を促進するのか、またこれらの政治的会話・議論が政治的関心や知識を高めるのかについて検討する。これらの相手のうち、家族は回答者との意見の類似性が比較的高く、親戚・近所の人や同僚・友人との類似性はそれに次ぐことが予想される。一方、オンライン上の議論の相手は、社会的距離を問わない点では異質性が高い可能性もあるが、選択的接触が容易であることを考えると、場合によっては対面的コミュニケーションよりも同質性が高いかもしれない。オンラインでの議論の参加がもたらす影響を、対面での会話の影響と比較することは興味深い知見をもたらすであろう。
本研究ではさらに、オンラインニュースの効果の特徴を明らかにするため、新聞とテレビという伝統的なニュースメディアへの接触が政治的会話、政治的関心や政治的知識に与える効果をオンラインニュースの効果と比較して検討する。もちろん多くの場合、両者には密接な関係があると考えられる。宮田(2010)では、オンラインの政治的情報とテレビや新聞の情報は補完的関係にあり、オンラインで政治的情報を見る人はマスメディアのニュースにもよく接触し、対面でも政治的会話に参加すること、またそれが政治参加を促進する傾向が認められている。しかしハイパーリンクや情報の共有など、伝統的なニュースメディアにないオンラインニュースの特性が、テレビや新聞とは異なる効果を政治的関心や知識に及ぼす可能性もある。
以上の問題を明らかにするために、本研究では3種類の調査を行った。まず、ウェブ調査を行い、政治的関心や知識、政治的争点に関するオンラインとオフラインでの議論、新聞への接触などについての回答を得た。次に回答者の自宅のパソコンのアクセスログデータからウェブ調査前2週間のニュースサイトや政治的争点関連サイトへのアクセス頻度を調べた。さらに、同期間中回答者に毎日テレビ番組表をオンラインで提示して番組視聴についての回答を得たものと合わせ、3種類の調査データを統合して分析を行った。なお、オンラインニュースの指標として、本研究では実際のアクセスログを用いる。自己報告ではなくアクセスログを用いる理由は、オンライン行動の自己報告は実際の行動よりも過剰評定されやすいこと(小林・Boase・曽根原,2011)による。
仮説本研究では、「新聞・テレビ・オンラインによるニュース接触が政治的関心を高める」という動員仮説に基づき、オンラインニュース接触によって政治的関心・知識がともに増えるという直接効果があると予測する。
次に、伝統的なニュースメディアへの接触が対面での議論を増やすこと、オンラインニュース接触がオンラインでの議論を増やすことが予測される。
さらに、こうした対面およびオンラインでの政治的議論は、政治への関心や政治的知識を高めると予想される。
2010年11月、民間のシンクタンクの調査モニターとして登録している首都圏1都6県の住民を対象に、ウェブ調査、インターネットのアクセスログ、マスメディア接触調査、の3種類の調査を実施した。本研究では、すべての調査に回答した2,877人を分析対象としている。それぞれの調査の概要は以下のとおりである。
(1)ウェブ調査民間シンクタンクの調査モニターを対象にウェブ調査を行った。ウェブ調査の有効回答数は3,588であった。本研究で用いた変数は次のものである。
①政治的会話政治的会話の頻度を、対面での会話とオンライン上での議論の参加それぞれについてたずねた。とりあげた争点は、本調査時点で最もニュースで取り上げられていた「尖閣諸島問題」「格差問題」「教育問題」の3つである。
まず、対面での会話については、上記の3つの争点それぞれについて、「家族」「親戚・近所の人」「職場の同僚」「友人」の4種類の相手との日常的な会話で、話題にする頻度を評定(「頻繁にある」「ときどきある」「たまにある」「ほとんどない」「全くない」の5段階に「対象者がいない」を加えたもの)してもらった。争点と会話相手ごとの会話頻度はTable 1に示すとおりである。政治的会話の相手として選ばれやすいのは家族であることがこの表からもわかる。
家族 | 親戚・近所の人 | 職場の同僚 | 友人 | ||
---|---|---|---|---|---|
(1)尖閣諸島 | 対象者がいない/全くない | 788 (27.4%) | 1,841 (64.0%) | 1,417 (49.3%) | 1,245 (43.3%) |
ほとんどない | 507 (17.6%) | 661 (23.0%) | 547 (19.0%) | 675 (23.5%) | |
たまにある | 641 (22.3%) | 211 (7.3%) | 493 (17.1%) | 541 (18.8%) | |
ときどきある | 708 (24.6%) | 137 (4.8%) | 326 (11.3%) | 322 (11.2%) | |
頻繁にある | 233 (8.1%) | 27 (0.9%) | 94 (3.3%) | 94 (3.3%) | |
(2)格差問題 | 対象者がいない/全くない | 939 (32.6%) | 1,875 (65.2%) | 1,746 (60.7%) | 1,407 (48.9%) |
ほとんどない | 619 (21.5%) | 595 (20.7%) | 573 (19.9%) | 673 (23.4%) | |
たまにある | 597 (20.8%) | 200 (7.0%) | 364 (12.7%) | 406 (14.1%) | |
ときどきある | 412 (14.3%) | 98 (3.4%) | 140 (4.9%) | 191 (6.6%) | |
頻繁にある | 85 (3.0%) | 16 (0.6%) | 40 (1.4%) | 44 (1.5%) | |
(3)教育問題 | 対象者がいない/全くない | 1,164 (40.5%) | 1,968 (68.4%) | 1,760 (61.2%) | 1,543 (54.3%) |
ほとんどない | 493 (17.1%) | 532 (18.5%) | 512 (17.8%) | 620 (21.6%) | |
たまにある | 665 (23.1%) | 286 (9.9%) | 373 (13.0%) | 527 (18.3%) | |
ときどきある | 570 (19.8%) | 153 (5.3%) | 181 (6.3%) | 260 (9.0%) | |
頻繁にある | 210 (7.3%) | 31 (1.1%) | 65 (2.3%) | 63 (2.2%) |
これらの争点3つ×会話相手4種類の計12項目について、(話題にすることが)「全くない」+「対象者がいない」を0点、「頻繁にある」を4点、のそれぞれ5点尺度として、因子分析(主因子法・プロマックス回転)を行った結果、固有値1以上の3つの因子が検出された(Table 2)。第1因子は友人・同僚との会話の項目の負荷量が高く、第2因子は家族との会話の負荷量が、また第3因子は親戚・近所の人との会話の負荷量が高かった。
第1因子友人・同僚 | 第2因子家族 | 第3因子親戚・近所 | 共通性 | ||
---|---|---|---|---|---|
尖閣諸島:職場の同僚と話す頻度 | 0.952 | −0.117 | −0.173 | 0.442 | |
格差問題:職場の同僚と話す頻度 | 0.775 | 0.009 | 0.049 | 0.486 | |
尖閣諸島問題:友人と話す頻度 | 0.730 | −0.035 | 0.021 | 0.655 | |
教育問題:職場の同僚と話す頻度 | 0.640 | 0.092 | 0.059 | 0.528 | |
格差問題:友人と話す頻度 | 0.547 | 0.106 | 0.204 | 0.801 | |
教育問題:友人と話す頻度 | 0.341 | 0.277 | 0.211 | 0.664 | |
教育問題:家族と話す頻度 | −0.103 | 0.968 | −0.050 | 0.534 | |
格差問題:家族と話す頻度 | 0.030 | 0.744 | 0.049 | 0.492 | |
尖閣問題:家族と話す頻度 | 0.032 | 0.688 | −0.067 | 0.625 | |
格差問題:親戚と話す頻度 | −0.031 | −0.100 | 0.964 | 0.788 | |
教育問題:親戚と話す頻度 | −0.111 | 0.089 | 0.826 | 0.658 | |
尖閣問題:親戚と話す頻度 | 0.143 | −0.065 | 0.636 | 0.577 | |
説明された分散の% | 44.018 | 10.351 | 6.069 | ||
因子間相関 | 因子1 | 1.000 | 0.485 | 0.638 | |
因子2 | 0.485 | 1.000 | 0.607 | ||
因子3 | 0.638 | 0.607 | 1.000 |
そこで、3つの争点に関する友人および同僚との会話頻度6項目を単純加算し、項目数6で割った値を「友人・同僚との会話の平均値」とした(α=0.872)。同様に家族との会話の3項目(α=0.850)についても平均値を求めた。友人・同僚の会話の平均値は0.861(SD=.849)であり、家族との会話は平均1.461(SD=1.102)であった。家族との会話頻度と友人・同僚との会話頻度の相関はr=.443であった。なお、親戚・近所の人との会話頻度(第3因子)は友人・同僚との会話頻度(第1因子)および家族との会話頻度(第2因子)の両方と相関が高く、また、親戚・近所の人と政治的な会話をしているという回答自体が少なかったため、本研究ではモデルから除外することとした。
一方、オンラインの議論については、尖閣・格差・教育の3つの争点それぞれについて、自分の意見や考えをブログ・SNS・ツイッター・電子掲示板・電子会議室・メーリングリストに投稿した頻度を5段階でたずねた。しかし、どの争点でも発言をしなかった人が2,330サンプル、分析対象者の81%を占めていたため、分析ではオンライン議論参加有無のダミー変数とした。
②政治的知識政治的知識には複数の側面があるが、本研究の関心は、学校教育の中で獲得される知識(制度的知識)よりも、マス・コミュニケーションや対人的コミュニケーションによって獲得されるような政治的知識にある。そのため、本研究では、ニュースで扱われることが多い2種類の知識、争点知識と政治的リーダーに関する知識からなる項目で政治的知識を測定することにした。当時話題となっていた争点に関わる政治的知識としては、①尖閣諸島の場所(正解率54.5%)、②事業仕分けを行っている主体(正解率67.6%)、③日本郵政の法人形態(正解率60.1%)、④現在の円ドル為替レート(正解率86.1%)、の4項目をたずねた。また政治的リーダーに関する知識として、①現在のアメリカ大統領の名前(正解率98.3%)、②自民党の現在(調査当時)の党首の名前(正解率89.2%)、の2項目をたずねた。4つの選択肢を示してその中から正答を選ぶ方式で、正答した数をカウントして政治的知識の得点とした。正答率の平均は76%であり、6問中平均正答数4.56(標準偏差1.27)であった。
③政治的関心「選挙のある、なしにかかわらず、いつも政治に関心をもっている人もいますし、そんなに関心をもたない人もいます。あなたは政治上の出来事に、どれくらい注意を払っていますか」という質問に4段階(「ほとんど注意を払っていない」~「かなり注意を払っている」)で評定してもらった。平均値1.84、標準偏差0.78であった。
(2)インターネット・アクセスログ分析調査対象者の許可を得てソフトを自宅の個人パソコンにインストールし、対象者のアクセスログを2週間にわたって収集した。日本時間で2010年11月6日の午前0時から同年11月19日の午前0時までに、1回以上アクセスしたのは3,251人であった。
アクセスログを分析し、Yahoo! Japanなどのポータルサイト5社のニュース、読売新聞などの一般紙6社のサイト、スポニチなどスポーツ新聞社3社、NHK等の放送局6局、時事通信のそれぞれの政治ニュースサイトと社会ニュースサイトへのアクセスをカウントした3)(Table 3)。この「社会」と「政治」へのアクセスの合計は、最小値は0、最大値が166であり、平均値は0.63、標準偏差は4.802であった。分布に偏りがあるため、分析では対数変換を行った値を用いる。エンターテイメントやスポーツのニュースも含めニュースがリストされているポータルサイトのトップページへのアクセスは多いという知見(小林・金,2010)があるが、本研究の調査対象者については、ポータルサイト経由で社会や政治に関するニュースを見ていることはほとんどなく、既存のマスメディアが提供しているニュースサイト経由のアクセスが多いという結果になった。
社会ニュース | 政治ニュース | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
最小値 | 最大値 | 平均値 | 標準偏差 | 最小値 | 最大値 | 平均値 | 標準偏差 | ||
ポータルサイト | Yahoo! Japanニュース | 0 | 0 | 0.00 | .000 | 0 | 0 | 0.00 | .000 |
Googleニュース | 0 | 0 | 0.00 | .000 | 0 | 0 | 0.00 | .000 | |
livedoorニュース | 0 | 0 | 0.00 | .000 | 0 | 0 | 0.00 | .000 | |
exciteニュース | 0 | 1 | 0.00 | .042 | 0 | 3 | 0.01 | .104 | |
gooニュース | 0 | 0 | 0.00 | .000 | 0 | 0 | 0.00 | .000 | |
新聞社 | YOMIURI ONLINE | 0 | 90 | 0.14 | 1.871 | 0 | 12 | 0.04 | .495 |
asahi.com | 0 | 79 | 0.19 | 2.450 | 0 | 21 | 0.04 | .623 | |
毎日.jp | 0 | 18 | 0.07 | .600 | 0 | 14 | 0.02 | .313 | |
NIKKEI | 0 | 0 | 0.00 | .000 | 0 | 0 | 0.00 | .000 | |
MSN産経 | 0 | 27 | 0.01 | .526 | 0 | 32 | 0.02 | .624 | |
東京新聞 | 0 | 5 | 0.00 | .100 | 0 | 1 | 0.00 | .019 | |
スポーツ新聞 | SANSPO.COM | 0 | 5 | 0.01 | .125 | ||||
スポニチ | 0 | 9 | 0.02 | .272 | |||||
スポーツ報知 | 0 | 16 | 0.01 | .312 | |||||
放送局 | NHK online | 0 | 8 | 0.02 | .304 | 0 | 8 | 0.02 | .304 |
News i(TBS) | 0 | 5 | 0.00 | .093 | 0 | 0 | 0.00 | .000 | |
日テレNEWS24 | 0 | 0 | 0.00 | .000 | 0 | 0 | 0.00 | .000 | |
テレ朝news | 0 | 0 | 0.00 | .000 | 0 | 0 | 0.00 | .000 | |
FNN | 0 | 0 | 0.00 | .000 | 0 | 0 | 0.00 | .000 | |
TxBizNews | 0 | 1 | 0.00 | .019 | 0 | 1 | 0.00 | .019 | |
通信社 | 時事.com | 0 | 0 | 0.00 | .000 | 0 | 0 | 0.00 | .000 |
サーチナ | 0 | 1 | 0.00 | .019 | 0 | 1 | 0.00 | .019 | |
動画サイト | YouTube | 0 | 0 | 0 | 0.00 | .000 | |||
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ただし、自己報告に基づく過去の研究に比べ、全体として、ニュースサイトの閲覧頻度が少ないという印象を受ける。なぜこのような結果になったのか、正確な理由はわからないが、ログが記録されるということで研究協力者に警戒心が生じてしまった可能性はあるだろう。これについては最後に本研究の限界として述べる。
(3)マスメディア接触調査①テレビニュース接触日記式調査調査期間中のテレビニュース接触状況について、ウェブ上で日記式の調査を行った。2010年11月6日~19日の14日間にわたり、各日のNHKおよび民放5社の地上波で放送している全番組をチャンネルと時間別に表示した番組表を毎日画面に呈示し、視聴した番組をクリックしてもらう方法である。番組表を提示する方法であれば、視聴した番組名を思い出しやすく、回答者への負荷が低減される。各局でニュース・報道に分類している581番組(NHK 198番組、日本テレビ 79番組、TBS 50番組、フジテレビ 123番組、テレビ朝日 92番組、テレビ東京 39番組)のうち視聴した番組数を合計した。
これらのニュースには、「NHKニュース」「NEWS23」といったハードニュースと、「めざましテレビ」「みのもんたの朝ズバッ!」などのソフトニュースの両方が含まれているが、本研究ではハードニュースとソフトニュースをあわせて「テレビニュース視聴」の指標とした。本調査の約半年前に実施した全国調査の結果(細貝,2011)では、ハードニュースとソフトニュースへの接触を規定する要因には決定的な差がないこと、ハードニュースとソフトニュースの視聴の間には正の相関があり、日本ではハードニュースとソフトニュースの視聴に大きな分断がないことが報告されているためである。
その結果、接触したテレビニュース番組数は0~152であり、平均値は19.58、標準偏差は17.703であった。番組数の分布に偏りがあったため、分析では対数変換を行った値を用いる。
②新聞への接触読売、朝日、毎日、日経、産経、東京新聞の6紙それぞれについて、読んでいる程度を5段階(「毎日必ず読んでいる」~「全く読んでいない」)で評定してもらった。新聞接触は、0~20の値をとり、平均値は1.771、標準偏差は2.034であった。
サンプルの特徴本研究では、3種類のすべての調査に回答した2,877人を分析対象とした。回答者の性別は、男性1,552人(53.9%)、女性1,325人(46.1%)で、男性のほうが若干多かった。年齢は15歳から69歳で平均値は40.35歳、標準偏差は11.92であった。最も多いのが30歳台の26.3%、50歳台25%、40歳台21.2%、20歳台20.7%であり、10歳台2.3%と60歳台4.5%と少ない。家族構成は、単身世帯19.2%で約8割は家族と同居している。職業は会社員が40.5%、公務員2.7%、自営業6.4%、専門職のフルタイムワーカー5.7%、フリーター・アルバイト・派遣が13.4%、無職5.35%、学生7.2%、主婦が16.5%であった。
ニュースメディア(新聞・テレビ・オンラインニュース)への接触が、政治的会話・政治的知識・政治的関心に及ぼす影響を検討するため、最尤法による構造方程式モデリング(SEM)による分析を行った。なお、先行研究(Jung, Kim, & Gil de Zúñiga, 2011)において、年齢・性別がこれらの変数に影響するという知見が得られていたことから、年齢と性別をコントロールしたうえで分析を行った。最尤法による推定を行い、有意なパスのみを表示したモデルはFigure 1のとおりである。なお、図中には標準化係数を表示し、性別と年齢のパスは省略した4)。モデルの適合度指標はGFI=1.000, AGFI=.996, CFI=1.000, RMSEA=.001, AIC=109.005であり、あてはまりがよいモデルであることを示している。
数字は標準化係数、* p<.05, ** p<.01, *** p<.001。
なお、政治的関心がメディア接触に影響するという強化モデルに基づく因果関係も考えられる。そこで、性別と年齢をコントロールしたうえで、政治的関心から新聞・テレビ・オンラインニュース接触、および政治的会話・議論・知識へのパスを想定したモデル(Figure 1と同様、性別・年齢以外のすべての変数に政治的関心からパスを引いたもの)による構造方程式モデリング(最尤法)を行ったところ、モデルの適合度指標はGFI=.968, AGFI=.824, CFI=.864, RMSEA=.125, AIC=549.451となり、動員モデルに基づくモデルよりもあてはまりがよくなかった5)。そのため本研究では、動員モデルによるモデル(Figure 1)に基づいて議論を進める。
ニュース接触が政治的関心・政治的知識に及ぼす直接的効果まず、新聞・テレビ・オンラインでのニュース接触が政治的関心や政治的知識に及ぼす直接効果を見ると、オンラインニュース接触と政治的関心、および政治的知識の間には有意な正の関連性が認められ、仮説1aは支持された。同様に、テレビニュース接触から政治的知識への直接効果も正の方向に有意であり、仮説1bは支持された。
また、先行研究の知見(Boulianne, 2011)とは異なるが、本研究ではテレビニュース接触と政治的関心の間にも有意な正の関連性が認められた。なぜテレビニュースが関心を喚起したのであろうか。本研究では、テレビニュース以外の番組視聴数も測定していたが、ニュースを除く娯楽も含めたテレビ番組視聴総数とニュース番組視聴数の相関係数は0.775であり、統計的に有意な高い相関が認められた。すなわち、多くのテレビ番組を見ているほどニュース番組も多く見る傾向があり、偶然ニュースを見る可能性は高く、副産物的な学習として政治的関心が高まったと推測される。アメリカではテレビ番組の数が多く、選択的に番組を見るために娯楽志向の人は偶発的な学習が生じず、テレビを見ても政治的知識が増えないことが指摘されている(Prior, 2007)が、日本のテレビでは偶発的学習が生じやすいという可能性が示唆された。
新聞でのニュース接触については、政治的関心との間に関連性があるものの、政治的知識は高めなかったので、仮説1cは一部のみ支持された。Scheufele(2002)によれば、政治的知識に対して新聞と議論の交互作用が認められたというが、本研究では、後述するように、新聞は他者との政治的議論を介して政治的知識を高めるという間接効果のパスが有意であった。新聞の記事は長く、より分析的で複雑な傾向があるため、閲覧するだけでは十分に理解できず政治的知識は増えない可能性がある。
ニュース接触が政治的会話・議論と政治的知識に及ぼす効果次に、政治的議論を媒介とした間接効果を検証する。オンラインニュースへの接触はオンライン議論との間には正の関連性があったので、仮説2aは支持された。なおオンラインニュース接触は、家族やその他の人々との政治的会話には有意な効果をもたなかった。オンラインの政治情報接触とオフラインでの議論との間に正の関連性を見いだした先行研究(Brundidge, 2010; 宮田,2010)と異なる結果が得られたのは、自己報告による接触頻度を用いた先行研究と異なり、本研究では実際のアクセス数を用いたことによるものと考えられる。
そこで、アクセスログの代わりに主観的な自己報告(「政治的・社会的出来事についてインターネットで見る」について4段階評定したもの)を用いて、Figure 1と同様のモデルでSEMを行ったところ(Figure 2)、オンラインニュースへの接触頻度(認知)と家族との会話の間(標準化係数0.202, p<.001)、友人・同僚との会話の間(標準化係数0.254, p<.001)にそれぞれ有意な正の関連性が認められた6)。つまり、オンラインでのニュース接触の自己報告は、対面での政治的会話の頻度と正の相関をもつが、この関連は実際の情報行動では見られなかったということである。接触頻度の認知と接触の行動指標との間の相関は低く、r=0.124(p<.01)であった。なお、モデルの適合度指標は、Figure 1のモデルと同じくGFI=1.000, AGFI=.996, CFI=1.000, RMSEA=.001, AIC=131.005であった。
数字は標準化係数、†p<.10, * p<.05, ** p<.01, *** p<.001。
なお、アクセスログに基づくモデル(Figure 1)によって仮説2を検討すると、テレビニュースと新聞はそれぞれ家族との会話、友人・同僚との会話と正の関連性が認められ、仮説2bと2cは支持された。テレビ・新聞のニュースは、特に家族との会話との関連性が高かった。
さらに、政治的会話・議論と知識や関心との関連性を見てみると、オンラインでも対面でも会話や議論は政治的関心を高めていたが、政治的会話から政治的知識への有意な正の効果が認められたのは家族との会話のみであった。一方、友人・同僚との会話は政治的知識に直接の効果はなく、仮説3bは支持されたが、仮説3a、3cは部分的な支持にとどまった。また、政治的関心と知識の間については正の相関が確認され、仮説4は支持された。
次に、ニュース接触が政治的議論と政治的知識に及ぼす効果をメディアごとに比較してみると、知識への総合効果は、テレビニュース(標準化総合効果0.193)、オンラインニュース(0.075)、新聞(0.046)という順番であり、オンラインニュースの効果はテレビニュースよりも小さかった。オンラインニュースは関連情報へのハイパーリンクや情報の共有によって精緻化や学習が促進されやすい反面、自分の見たいニュースだけを意図的に選択することで学習が阻害されることにより、政治的知識に対する効果を減じているのかもしれない(Tewksbury & Rittenberg, 2009)。知識に対する間接効果と直接効果を比較すると、オンラインニュースは間接効果(標準化係数0.017)よりも直接効果(0.058)が大きい。逆に新聞は直接効果(0.014)よりも議論を媒介した間接効果(0.032)のほうが高い。政治的議論の効果の現れ方がニュースメディアによって異なる点は興味深い。
ニュースメディア間の関連性を見ると、テレビニュースをよく見るほど新聞をよく読むという関連性があったが、オンラインニュースとテレビニュースや新聞との間には有意な関連性が認められなかった。したがって、本研究では、オンラインのニュース接触はオンラインでの議論を促進するものの、オフラインでのメディア接触や議論には影響を与えていないということが示唆された。
本研究の知見をまとめると、以下のとおりである。第一に、ニュース接触が政治的関心を高めるという動員モデルのあてはまりがよいことが確認され、オンラインニュースとテレビニュースには政治的関心と政治的知識を高める直接効果が認められた。第二に、テレビ・新聞でのニュース接触は、家族や友人らとの政治的会話や議論を促進していた。ただし、アクセスログに基づく分析の結果、オンラインニュース接触はオンラインでの議論にのみ効果があり、オンラインの議論は政治的関心を高める一方で政治的知識には直接の効果が認められなかった。第三に、政治的会話や議論は会話相手によって政治的関心や知識への効果が異なることが見いだされた。家族との会話は政治的関心や知識にプラスの効果をもつが、友人との会話は政治的関心を高める一方で知識には効果が見られなかった。
オンラインニュースでは偶発的な接触が生じやすいことを考えると、動員モデルを支持する第一の知見は重要である。政治的関心がメディア接触によって高められる部分があるとすれば、オンラインニュースやテレビ視聴による偶発的な接触によって、政治的関心の格差が縮小する可能性を示唆するものだからである。オンラインニュースが政治的関心の低い層と高い層の知識格差を縮小することは、小林・金(2010)がすでに実証しているが、本研究ではオンラインニュース接触から政治的関心への直接的なパスも確認されたということになる。ただし、これによって「政治的関心が高い人ほどニュースメディアに接する」という因果の方向性が否定されたというわけではないことには注意が必要である。おそらくは、政治関心が高い人ほどニュースに接しやすいものの、偶発的なニュース接触が生じると、政治的関心の低い人の関心も高めるというループが生じているのであろう。
第二の知見は、オンライン上のリアリティと対面でのリアリティが異なる可能性を示唆している。本研究では、アクセスログに基づく分析の結果、オンラインニュースへの接触が引き起こす会話や議論はあくまでもオンライン上のそれであって、対面での会話には結びつかないことが見いだされた。オンラインニュースで注意をひいた記事を、ソーシャルメディアで共有することは多いが、多くはオンラインでのコメントや「いいね!」などの共感で終わり、対面での議論にはあまり結びつかないのであろう。また、テレビや新聞のニュースへの接触は、オンラインでの議論に直接結びついてはいなかった。若者を対象とした研究ではマスメディアのニュース接触はオンラインでの政治的議論に有意な効果がなかった(Bakker & de Vreese, 2011)が、本結果も同様の傾向を示したことになる。オンラインニュース接触自体もテレビニュースや新聞接触とも関連性がなかった。
これらのことを踏まえると、オンラインニュースは(新聞やテレビのような)伝統的なニュースメディアに接しないような層の人にも政治的関心や知識を高める機会を提供する一方、オンラインで得た情報をオンラインで他者と共有することで、オンライン上の社会的リアリティは形成できても、社会全体での社会的リアリティにはなりにくいという可能性がある。インターネットでは選択的接触が行われやすいことを考えると、オンライン上に異なる社会的リアリティが分断するおそれもある。
なお、オンラインニュース接触の自己報告を分析に用いた場合には、家族らとの政治的会話へのパスが有意となった。自己報告とアクセスログで異なる結果が得られたことは非常に興味深いが、自己報告による認知とログによる実際の行動の違いが何によって生じるのか、また何をもたらすのかについては、今後の検討を要する点である。1つの可能性として、自己報告では「政治や社会のニュースをインターネットで見る」かどうかをたずねたため、ニュースサイトを介さないものも含まれたということが考えられるだろう。その中に、対面でのコミュニケーションを促すものがあったのかもしれない。
一方、オンラインニュースに比べて、テレビニュースの視聴は家族や友人らとの政治的会話を引き起こしやすく、それが知識や関心を高める効果が高いことが確認された。少なくとも現状では今なお、社会的リアリティの共有という点ではテレビのような伝統的ニュースメディアのほうに優位性があるようである。ただし、テレビニュースが政治的知識を増やす効果が高いという結果は、今井(2008)とは異なるものである。今井(2008)では、新聞接触がさまざまな次元の政治的知識に影響を及ぼしていた一方で、テレビニュース接触には有意な効果が見られていなかった。このような差が見られた理由として考えられるのは、「テレビ接触」の指標の違いである。今井(2008)では「テレビニュースを1週間にどのくらい見ますか」という比較的おおまかな頻度の聞き方をしていたのに対し、本研究では日記式調査でその日見た番組を詳細に記録してもらうという方法を採っている。本研究の方式のほうがデータの分散が大きくなったことが結果の違いに影響しているのかもしれない。
第三の知見は、政治的会話・議論の効果が会話相手によって異なることを示している。なぜ家族との政治的会話は政治的関心や知識を高めるのに、友人との会話やオンラインでの議論は政治的知識に効果がないのだろうか。本研究のみで結論を出すことは難しいが、以下の解釈が考えられる。
まず、家族との会話が政治的関心や知識にプラスの効果をもつのは、家族との会話は頻度も多く、異なる意見をもつ成員がいてもコミュニケーションを遮断することは難しいために、議論の精緻化がなされやすいためではないだろうか。家族とのコミュニケーションは長期にわたるため、政治的会話の多い家族関係では政治的社会化が促されやすいという側面もあるかもしれない。
オンラインの政治的議論や友人・同僚との政治的会話が政治的知識に効果をもたなかった理由としては、(1)オンラインでのコミュニケーションや友人らの会話では、家族との会話ほど、精緻化がなされない、(2)オンラインでの議論や友人らとの会話が、(少なくとも本研究の対象者については)実際には多様性の高い人々の間で行われていなかった、という2点が考えられる。オンラインのコミュニケーションは匿名も可能で非同期、かつ離脱が容易なうえ、議論のトピックスを組織的に処理しようという動機づけも圧力も少ない。オンラインでの議論が知識を増やすという実験結果は確かに報告されているが(Price & Cappella, 2002)、実験状況と現実の場面では動機づけが異なる可能性もある。一方、友人らとの議論については、意見の対立を明らかにしてコンフリクトが生じることを避けようとする傾向(Mutz, 2006)が、精緻化を妨げてしまうのかもしれない。ただし、友人との会話もオンラインでの議論も、政治的知識への直接的な効果はなくとも、政治的関心を高める効果は認められており、関心を介して間接的に政治的知識を高めていると考えられる。
なお、本研究にはいくつかの問題点がある。まず、考察でも述べたとおり、本研究の知見だけでは「オンラインニュースなどのメディア接触が政治的関心を高める」という因果関係の特定は難しいということである。動員モデルに基づくモデルの適合度は良好で、先行研究と同様に強化モデルに基づくモデルよりもあてはまりはよかったが、おそらくは政治的関心の高さがオンラインニュースをはじめとするメディアへの接触を促進するという相互的な関係もあるはずである。より厳格に因果関係を特定するためには、縦断的調査を行って分析をする必要がある。
第二の問題は、政治的議論の測定方法である。先行研究から家族は同質性が高く、友人・同僚は低いと想定したが、本研究では実際の政治的意見や政治的傾向の同質性・異質性は測定しなかった。そのため、会話相手によって議論の効果が異なっているという結果がなぜ得られたのかということについては、推測でしか議論ができなかったという限界がある。政治的知識に直接の効果があるのが家族との会話だけであったことを考えると、家族でも必ずしも同質とは限らないのかもしれない。むしろ、友人のように選択的接触ができないがゆえに、異なる意見をもつ相手ともコミュニケーションを取らなくてはならない状況が発生しやすいのかもしれない。あるいは、家族がもたらす政治的社会化の効果が非常に大きかったということを意味するのかもしれない。今回選んだ3つの争点の影響だということも考えられる。
第三に、議論の精緻化レベルについて測定していなかったことも本研究の限界である。調査では政治的会話の頻度を測定しただけで、情報内容の精緻化につながらない会話だった可能性もある。今後は、どのような人々と、どのような政治的コミュニケーションをしているのか、そのネットワークの性質や議論の精緻化レベルを含めて検討することが重要である。
第四の問題は、政治的知識や政治的関心を最終的な従属変数としながら、それに関連する重要な変数を十分に測定できていなかったことである。まず、政治的知識に関して大きな影響を及ぼすと考えられる学歴についての質問項目が含まれていなかった。今回の研究対象となる政治的知識は、学校教育で獲得されることが多い制度的知識ではないが、本来、学歴の変数をコントロール変数として加えることが望ましい。もう1点、政治的関心を1項目でしか測定していないこと、また政治的知識を複数の次元で測定しなかったことも本研究の問題点である。複数の項目で測定したり複数の次元について検討したりすれば、結果がまた異なってくる可能性もある。
最後に、アクセスログを用いてオンラインニュースの効果を検討したということは、本研究の貢献の1つではあるが、アクセスログの数字を見ると、ニュースサイトへのアクセスが少なすぎるようにも思われる。もしかしたら、「アクセスログを取る」ということが、研究協力者に警戒心をもたせてしまい、日頃とは異なるニュース接触行動がとられてしまった可能性もある。あるいは、今回調査対象に含めなかったサイトを経由してオンラインニュースに接触しているケースも多いであろう。たとえばTwitterやFacebookなどのソーシャルメディアによって、ユーザ間でダイレクトに情報が共有されていることもありうる。今後はこうしたチャンネルについても注意を払ったうえで、アクセスログの効果を検討することが必要になるだろう。