Japanese Journal of Social Psychology
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Group resilience in incidents of varying degrees of danger and frequency
Miki OzekiKanako YonezawaKoichi Negayama
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2015 Volume 31 Issue 1 Pages 13-24

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問題と目的

いかなる集団であっても、集団における望ましくない出来事は起こりうる。それらは、ときに危機となって集団を脅かすこともある。こうした、望ましくない出来事を乗り越えて存在する集団は、危機に対しての構えを有し、エラーの可能性を常に考えており、想定外の望ましくない事態にも最適な方法で対処できる力をもっているとされる(Reason, 2006 佐相訳 2010)。Reason(2006 佐相訳 2010)は、危機に対する構えは、経験と注意深さであるとし、事例分析を通じて、この構えの具体的な内容を記述したが、それらを個々人の行動・判断という形で個人に帰属した。もともとReason(2006 佐相訳 2010)は、危機に対する構えを集団に備わっている概念と考えているにもかかわらず、実際の事例分析では個々人に対象を絞り、個々人の行動や判断に対する考察に終始している部分が否めない。そのため、一個人の問題対処能力を扱ってしまうという結果に陥り、集団全体が備える力としての様相は明らかにできていない。加えて、集団成員が入れ替わっても集団が望ましくない事態に対応する力を下げてはならないことを考えたとき、問題対処能力の高い一個人に依存していると、その個人が集団を去ったときに、集団が望ましくない事態に対処しきれなくなることが考えられる。このように考えると、個々人単位の判断力や問題対処能力のみに着目するとらえ方には限界があるだろう。

以上の議論から、集団が望ましくない出来事に耐え、最適な方法で対処し、平常時の状態にまで回復するためには、個々の集団成員の行動や判断をもとにしたものではあるが、単純に一個人単位に還元しない形で、集団として望ましくない出来事を回避する力や、そうした事態から回復する力を想定する必要があると考えられる。

しかし、具体的にどのような場面における、どのような成員行動や判断によってそうした力が顕現化するのかについての実証的な研究は不十分である。

そこで、本研究では、集団が望ましくない出来事に耐え、平常時の状態にまで回復するための、集団のレジリエンスとは具体的にどのようなものかを、一個人の認知や一個人単位の問題対処能力には還元しない形で実証的に検討することを試みる。

発達心理学と人間工学におけるレジリエンス

レジリエンスという概念は、もともと発達心理学より発祥しており、個人が困難な出来事を経験しても自身を精神的健康へと導く心理的特性であり(石毛・無藤,2006)、ストレスによって一時的にダメージを受けても後には回復できるという心理面の弾力的な点(石毛・無藤,2006)をさす。これは、ストレスフルな状況で傷つくことを乗り越えていくために機能する性質であり、ストレッサーをはねつける防御因子やストレス状況に対抗しようとする「耐性」とは異質な力(小花和,2004)を備えている状態であるとされる。

それに対して、集団のレジリエンスは、2000年初頭頃から人間工学において、レジリエンス工学として提唱され始めた(長谷川・早瀬,2012)。さまざまなリスクによって集団の運営が阻害されないようにシステムを頑健に設計しても、全てのリスクを予測することは不可能に近い。そこで、予期せぬ事態の発生を前提とし、事態が発生した場合にはできるだけもとのシステムの状態に復元できる力が求められる。このもとに戻る力が、レジリエンス工学における集団のレジリエンスであるとされている(長谷川・早瀬,2012)。

以上より、発達心理学におけるレジリエンスはあくまで個人的特性や個々人の経験の範疇を対象としているが、困難な出来事や望ましくない出来事を経験してももとの状態に回復する能力という点では、レジリエンス工学におけるレジリエンスの概念と共通している。

とはいえ、発達心理学におけるレジリエンス研究の要素を色濃く反映して、チーム単位での集団のレジリエンスである、チーム・レジリエンスを扱った、社会心理学者による研究(菊地・山口,2011)と、レジリエンス工学における集団のレジリエンスは異なる部分がある。

集団そのものに備わった資質としての、集団のレジリエンス

菊地・山口(2011)におけるチーム・レジリエンスは、「困難に直面してチーム全体の士気が下がっても、またすぐに意欲的な状態になる」という定義のもと、チームの「精神的健康の回復」「自己効力感の回復」「モチベーションの回復」の3つの下位概念から構成されている。それぞれの下位概念を測定する具体的な項目には、「困難な出来事に直面して、全体的に精神的に参っても、またすぐにみんなで気持ちを立て直すことができる」(精神的健康の回復)、「困難な出来事に直面して、自分たちの力不足に落胆しても、みんなでお互いを鼓舞することができる」(自己効力感の回復)、「困難な出来事に直面して、全体的なやる気が下がっても、再び一丸となって精力的に挑むことができる」(モチベーションの回復)といったものが挙げられる。

組織風土が「組織や成員の特徴に影響される、個人からみた組織の知覚」(Schneider & Hall, 1972)、「組織の成員に共有されている社会的態度や規範の体系であり、行為基準、価値観、信念、慣行、態度、雰囲気などを意味する」(森田,1998)とされていることを踏まえれば、菊地・山口(2011)でいうところのチーム・レジリエンスは、組織風土や、他成員や集団に対する信念や期待を認知的に測定していると考えられる。この点から、菊地・山口(2011)のいうチーム・レジリエンスは、Reason(2006 佐相訳 2010)のいうところの「集団の力」ととらえることができるかもしれないが、組織風土との弁別性という点と、この尺度の得点が高い集団が現実に問題に見舞われたときに適切に問題に対処することができるのかわからないという点で疑問の余地があるだろう。

それに対し本研究は、個々人の所属集団に対する認知や期待、信念ではない形で、集団が実際に望ましくない事態に直面したときの集団のレジリエンスをとらえることを試みる。ここでは、1983年に起きた、エア・カナダのボーイング767型機の燃料切れ事故(Reason, 2006 佐相訳 2010)を例に考えたい。この事故の原因は燃料計の動作不良、機長と副操縦士の計算ミス等であった。それらのミスが発覚したときにはすでに、目標の飛行場まで到達できないことが判明し、機長は管制官と協議のうえ、着陸する飛行場の変更を決断した。このとき、変更後の飛行場の選定は副操縦士が行っていた。そして、選ばれた飛行場は、副操縦士が兵役時代に使用した経験のある飛行場だったが、エア・カナダの空港マニュアルには記載されていなかった。最終的には、機長が機体を滑空させてこの飛行場に着陸した。

この事例は、機長、副操縦士、管制官の相互の調整が必要不可欠であったことを考慮すると、個人単位の危機対処能力が高いだけでは解決につながらなかっただろう。そこで機長、副操縦士、管制官からなるチームという単位でこの危機に対処したと考える方が適切だと考えられる。さらに重要なのは、機長と管制官のやりとりを受けて、副操縦士が適切な着陸場所を選定し、機長が着陸させるというように、個人の対処行動の連鎖を通じて、集団は望ましくない事態を避けたり、そうした事態から回復したりすることができると考えられることである。このことから、集団のレジリエンスを考えるうえでは、複数成員の個人行動からなるプロセスを単位として考える必要があるだろう。その立場から、集団のレジリエンスをReason(2006 佐相訳 2010)のように集団に備わった力と考えようとすると、特に菊地・山口(2011)のようなとらえ方では組織風土との弁別性という問題が生じるため、集団に備わった力というには無理が生じると考えられる。

人間工学の流れを汲み、心理学領域とは独立に研究が蓄積されてきたレジリエンス工学の分野においては、望ましくない事態が現実に起きたときの具体的な対処行動にも重点が置かれてきた。この領域において、望ましくない事態からの集団の防衛は、事態が起きる前、起きている最中、あるいは起きた後に行われるものとされ(Westrum, 2006)、その際に集団に必要とされる要素には「悪いことが起きないようにする能力」「悪いことが悪化しないようにする能力」「起こってしまった悪いことからリカバリーする能力」の3つが考えられている(Westrum, 2006)。「悪いことが起きないようにする能力」はReason(2006 佐相訳 2010)のいう「構え」の能力に相当し、「悪いことが悪化しないようにする能力」「起こってしまった悪いことからリカバリーする能力」は、発達心理学におけるレジリエンスの概念定義を反映していると考えられる。Reason(2006 佐相訳 2010)では、望ましくない事態を防ぐことをより重視していたと考えられるのに対し、Westrum(2006)は、実際に望ましくない事態が起こってしまった後にいかに対処するかも想定したうえで、「悪いことが悪化しないようにする能力」「起こってしまった悪いことからリカバリーする能力」を加えて考えているのだろう。

レジリエンス工学分野で主に対象とされている航空や原子力発電所では、万一事故が起きても、可能な限り通常状態の活動を続ける力も要求される(Hale & Heijer, 2006)。例えば、ある発電所が事故で停止しても、電力会社としては、事故の起きた発電所では事故の処理を行いながらも、他の発電所を使うなどして管轄地域には電力を供給し続けなければならないという場合がこれに該当する。このことを考慮すると、「悪いことが起きないようにする能力」「悪いことが悪化しないようにする能力」「起こってしまった悪いことからリカバリーする能力」(Westrum, 2006)に加え、「積極的に活動水準を維持する能力」も、集団のレジリエンスの構成要素に加える必要があると考えられる。とはいえ、これらの4要素は、実際の研究を通じて見出されたものではなく、理論提唱にのみとどまっている。

以上のように、レジリエンス工学領域でも、研究者間で集団のレジリエンスの構成要素が一致しているわけではない。同領域でも、望ましくない事態を防ぐための組織の仕組みづくりやコンピューターシステム制御に主眼を置いた理論構築を目指す立場も多くみられ、菊地・山口(2011)のような組織風土に近い要素に言及しているものも多くみられる(Hollnagel, Woods, & Leveson, 2006)。そうした立場の中には、集団のレジリエンスの構成要素を、集団の柔軟性、安全に関する考慮点や懸念が集団内で広くいきわたっていること、問題事例の報告がオープンになされていて、それが推奨されていることを挙げている(Wreathall, 2006)ものがある。しかし、本研究のように、実際に集団が望ましくない事態に直面したときの、具体的な成員行動プロセスを通じて集団のレジリエンスをとらえようとするとき、Wreathall(2006)の提唱する要素を、望ましくない事態に即時的に対応している最中の成員行動プロセスから読み取ることは極めて困難だと考えられる。そこで、本研究では、複数の種類の事故事例を対象に、事故が実際に起きてしまってからの具体的な対処行動プロセスに対する考察をもとに理論的に提唱された、「悪いことが起きないようにする能力」「悪いことが悪化しないようにする能力」「起こってしまった悪いことからリカバリーする能力」「積極的に活動水準を維持する能力」の4要素から集団のレジリエンスをとらえる。

本研究の目的

以上の議論を踏まえたうえで、本研究では、集団のレジリエンスを、集団にとって望ましくない事態を避ける能力、望ましくない事態が生じてもそこから回復する能力、そして集団が活動水準を維持する能力とする。さらに、集団のレジリエンスを、個々人の認知によって測定するのではなく、具体的な成員行動を通じて、つまり、個々人の問題対処能力ではなく、望ましくない事態への対応を複数の成員行動からなる一連のプロセスとしてとらえる。そして、特定の集団に対する、複数日に及ぶ参与観察を行い、個々の成員の認知行動を積み重ねた結果としてあらわれる、成員行動の一連のプロセスからなる、集団のレジリエンスの諸相を明らかにする。ここでの集団のレジリエンスは、前述した「悪いことが起きないようにする能力」「悪いことが悪化しないようにする能力」「起こってしまった悪いことからリカバリーする能力」「積極的に活動水準を維持する能力」の4要素からなるとする。事態の危険度と頻度に応じて、集団のレジリエンスの4要素のいずれによって対処されるのかを明らかにすることは、角度を変えてみれば、以下の二点につながると考える。一つは、最も対処が難しいと考えられる、頻度が低く危険度の高い事例に対応するために、集団にはどのような力が備わっている必要があるのかを明らかにすることである。もう一つは、「悪いことが悪化しないようにする能力」で対処できるような程度の事例に対して、わざわざ活動を止めるほどの「起こってしまった悪いことからリカバリーする能力」を適用するような、対処にかける無駄を減らすことにつながる知見を得られる可能性である。

具体的には、大学の航空部を対象に、実際に訓練活動を行っている最中に、活動を行ううえで異変がみられたときや問題が生じたときにとられた対応プロセスを観察・記述する。それぞれの事例に対してとられた一連の対処プロセスに対し、「悪いことが起きないようにする能力」「悪いことが悪化しないようにする能力」「起こってしまった悪いことからリカバリーする能力」「積極的に活動水準を維持する能力」のいずれの能力をもって対処されたのかをあてはめ、観察された事例を分類する。この方法で、生じた問題の性質によって、4要素のいずれの要素が用いられるのかについて違いがみられるかを検討する。

頻度が高く危険度の低い事態に対しては、危険度が低いことに加え、経験的に対処法がわかっている可能性が高いことから、活動を止めることなく容易に対処できる可能性が高いと考えられる。したがって、このような事例に対しては、「積極的に活動水準を維持する能力」や「悪いことが悪化しないようにする能力」が発揮されやすいだろう。特に危険度が低くなるほど、事態はそれほど深刻ではなくなる可能性が高いことから、「悪いことが起きないようにする能力」も発揮されやすいことが推測される。

一方で、頻度が低い事例については経験的な対処法がわからないことが多いだろう。したがって、なんとか活動を継続しながらも対処しようとはするものの、活動を継続しながら対処することが難しく、最終的に活動をいったん止めて対応しなければならない場合もあると考えられる。このことから、「積極的に活動水準を維持する能力」や「起こってしまった悪いことからリカバリーする能力」をもって対処されることが多いことが予測される。

方法

2013年4月下旬の3日間、関東地方にあるA滑空場にて、訓練活動を行っている、A大学航空部を対象とした参与観察を行った。参与観察を行った訓練には、40名の学生部員(男性32名、女性8名)が参加していた。

この団体は、無動力航空機、すなわちエンジンのついていない飛行機である、グライダー機を用いた競技を行う。グライダー機を飛ばすには、まず索と呼ばれるワイヤーで機体を強く牽引し、凧揚げの要領で高度約400メートルの高さまで上げる。この牽引作業を索点という。機体が高度約400メートルに達したら、機体に搭乗しているパイロットがワイヤーを切り離す。ワイヤーを切り離すと、グライダー機は風の力でゆっくりと空を滑空し、その後着陸する。この機体をいかに高く、早く、遠くまで飛ばすかを競うのがグライダー競技である。

A大学航空部には、1年生から4年生まで、44名の学生部員が所属していた。訓練は、授業期間中は月に1~2回週末に、長期休暇中は随時長期にわたり、A滑空場の近くにある合宿所に宿泊して合宿形式で行われる。合宿形式の訓練以外にも、大学で座学や運営ミーティングが行われている。合宿形式の訓練の場合は、日の出から日の入りまで最大限に飛行訓練を行うことができるように、その日ごとに計画を立てている。A滑空場では、複数の大学の航空部が活動しており、それぞれの訓練が同時に行われている。本研究のデータを収集するための参与観察が行われた日も、本研究の対象である団体だけでなく、他の大学の航空部もこの滑空場で訓練を行っていた。

基本的に訓練は全て学生の責任のもとで行われ、教官は学生の地上活動および飛行への指導を担当するとともに、他大学とのトラブルや事故といった、大学としての責任が発生する事態には学生とともに対応にあたっている。一連の訓練は、指導資格をもつ監督と教官の指導のもとで行われる。教官は二人乗りの機体に同乗してパイロットである部員に対して指導を行うこともある。まれにOBが訓練を見学しに来て、自主的に訓練を手伝おうとすることもある。

A大学航空部は4つの機体を所有しており、うち2機は、主に下級生が教官に同乗してもらい、操縦を指導してもらいながら搭乗する複座機で、残る2機は大会でも使用され、上級生が搭乗する単座機である。そのため、一度にフライトが行えるのは最大4名までであり、機体に搭乗していない部員は、地上での活動に従事している。

フライト時間は個々のパイロット部員の技量と天候に依存し、上級生であれば1回のフライトで最大5時間、練習を始めたばかりの下級生や天候が芳しくない状態でのフライトは通常10~15分飛行する。

訓練中の部員の活動は、地上クルーとしての活動と、パイロットとしての活動に大別される。地上クルーとして、1年生は上級生の指示を受けて着陸した機体を取りに行ったり、機材を運んだりしている。2年生は、1年生のフォローをしながら、訓練中の役職者を務めることができるようになるための教育を上級生から受けている。3年生と4年生は、訓練中の役職者としての仕事をこなしながら、下級生の指導を行うとともに、訓練について教官や他大学との意見のすりあわせを行っている。地上クルーとしての活動に際し、部員たちには、訓練前日の夜に、訓練中の役職が付与される。主な役職として、ピスト(3名)、ディスパッチ(1名)、プランナー(1名)、クルー(ピスト以外全員)がいる。なお、これらの役職間に重複はない。ピストは管制官の役割を担い、訓練の司令塔としての役割を務める。なお、ピストの指示には絶対に従わなければならないという決まりがあることから、ピストは訓練の中心的存在である。ディスパッチは全体の状況を把握して、訓練効率と安全性を考慮し、地上クルーに指示を出している。プランナーは、発航記録を取りながら、どの部員がどの機体に搭乗して、どのような順番で飛ぶかを考える役割を担う。パイロットとしての活動は、機体に搭乗し、飛行訓練を行うことである。

訓練は、プランナーの立てた計画(フライトプラン)に基づき、ピストの指示に従って、部員が順番に機体に搭乗して飛行するという形式で行われる。機体に搭乗していない部員は地上で待機しており、降りてきた機体を受け取りに行ったり、グライダー機を飛ばすための索が巻きつけられている機械(ウィンチ)を操作したりしている(Figure 1)。

Figure 1 A部の訓練形態の模式図

参与観察を行うにあたり、同団体の関係者の許可を得て、訓練開始から終了まで学生の訓練の様子を、イベントサンプリング法によりビデオとメモによって記録した。訓練開始から1時間が経過して訓練に慣れてきた頃の部員の動きや会話の内容の様子を通じて推測できる活動のリズムを、その日の活動リズムの参照基準とし、この基準よりも活動効率が落ちた場面や活動効率が向上した場面を記述した。ここでいう活動効率が良い状態とは、機体Iの着陸前に機体IIを発航させ、機体IIが飛んでいる間に機体Iを飛ばすという交互発航や、3分以内に搭乗者を交代するといった、あらかじめ訓練において設定された目標をベースに、機体も人員も無駄なく運用できている状態のことである。このような手法をとった理由は、「何分以内に何回機体を離着陸できるか」というような、客観的な指標を設定することが極めて難しいためである。これは、機体の発着が、合同で滑空場を使用している他大学の動きにも左右されること、気象条件の影響や、パイロットの技量によって一機当たりの飛行時間が大きく異なることの影響を受けてしまうためである。さらに、地上での作業などを行っている部員の動きや会話も、上空での機体の様子や、合同で滑空場を使用している他大学の動きの影響を受けるため、さらに複雑化し、明確な基準を設定することが困難である。そのような点を考慮すると、毎日同じような客観的な指標を設定することが極めて困難であったためである。

記述された事例について、発生頻度およびその危険度を、いずれも4年間の航空部活動の経験のある第二筆者と航空部OB(参与観察時の訓練に参加していたOBとは別の人物)の2名が、頻度については、「0:1年に1回、1:半年に1回、2:1カ月に1回、3:1週間に1回」の4段階3)、危険度については、「0:まったく危険ではない、1:あまり危険ではない、2:少し危険である、3:とても危険である」の4段階で評価した。評価基準は2名の評定者が協議して設定されたもので、評定の一致率は86%であった。

評価が一致しなかったのは8事例で、主にOBの方が危険度を高く評価していた事例が6事例、第二筆者の方が危険度を高く評価した事例が2事例みられた。頻度については両者の評価の不一致はみられなかった。評価が一致しなかったのは、「2機体が同時に滑走路に着陸しようとした事例」「A空場に隣接する川にサーファーがおり、その人物が滑走路に近づいていた事例」「機体を収納するときに脚立のロープの向きが逆になっていた事例」「機体を組み立てるときに、必要とされる人数よりも少ない人数で組み立てようとした」「索を巻き取るときに索がからまった」「安全に着陸するために、指定位置を大きく超えた場所に機体を着陸させた」「ひとつの事案について異なる教官に経過報告をした」「パイロットが機体に搭乗したまま離陸位置にて出発の準備をしていたが、他の機体が帰ってくるまでに出発できるかどうか際どい状態であると判断したディスパッチがいったん機体を出発位置からどける判断をしたものの、実際はどける必要はなく、離陸させていても間に合った」の8事例であった。危険度の評定が一致しなかった8事例については、評定者の2名が協議して危険度を最終的に決定し、分析対象に加えた。

なお、事例を分類するにあたり、個々の事例を評価する指標を発生頻度と危険度にしたのは、International Air Transport Association(IATA, 国際航空運送協会)が航空事故を評価する際に、「生起確率または尤度」×「重篤度/損害の広がり」を基準としている(Dijkstra, 2006)ことと、ヒューマン・エラーの分野においてのリスク評価が「事故の大きさ(被害の程度)」×「事故の発生頻度(発生確率)」で評価される(Dijkstra, 2006)ことを考慮したためである。

結果

クラスター分析と分散分析による事例の分類

2名の評定者による個々の事例に対する頻度と危険度の評定値をもとに、クラスター分析(Ward法)を行って事例を分類した。その結果、解釈可能性から4つのクラスターを得た。第1クラスターには15事例、第2クラスターには11事例、第3クラスターには22事例、第4クラスターには10事例の事例が含まれていた。χ2検定を行ったところ、有意な事例比率の偏りはみられなかった(χ2(3)=6.14, n.s.)。

個々のクラスターの特徴を明らかにするために、クラスターを独立変数、頻度と危険度を従属変数とする多変量分散分析を行った。この結果、頻度と危険度のいずれも有意な主効果がみられた(頻度F(3, 54)=19.81, p<.001; 危険度F(3, 54)=182.24, p<.001)。続いて多重比較(Bonferroni)を行ったところ、頻度については第1クラスターと第3クラスターの間には有意差はなかったが、いずれも第2クラスターと第4クラスターよりも頻度は有意に高く(全てp<.001)、第2クラスターは第4クラスターよりも頻度が高かった(p<.001)。危険度については、第2クラスターが他の全てのクラスターよりも危険度が高く(全てp<.001)、第1クラスターと第4クラスターの間には有意な差がなかった。そして、第3クラスターは他の全てのクラスターよりも危険度が低かった(全てp<.001)(Table 1)。第1クラスターは頻度が高く危険度が中程度であることから、「頻度高・危険度中」群とした。第2クラスターは頻度が中程度で危険度が高いことから、「頻度中・危険度高」群とした。第3クラスターは頻度が高く危険度が低いことから、「頻度高・危険度低」群とした。第4クラスターは頻度が低く危険度が中程度であることから、「頻度低・危険度中」群とした。

Table 1 各クラスターを構成する事例の頻度と危険度の記述統計量および分散分析結果
第1クラスター第2クラスター第3クラスター第4クラスターF
N=15N=11N=22N=10
頻度2.331.002.090.0819.81***1, 3>2>4
(0.49)(0.63)(0.75)(0.42)
危険度1.202.730.001.10182.24***2>1, 4>3
(0.41)(0.47)(0.00)(0.32)

下段:標準偏差 *** p<.001

次に、個々の事例が、集団のレジリエンスの「悪いことが起きないようにする能力」「悪いことが悪化しないようにする能力」「起こってしまった悪いことからリカバリーする能力」「積極的に活動水準を維持する能力」の中の、いずれの要素によって対処されたのかを検討した。なお、「悪いことが悪化しないようにする能力」は、発生事態への対処が訓練と同時並行して行われるレベル、「起こってしまった悪いことからリカバリーする能力」は、発生事態への対処が機体の飛行および訓練を止めるレベルとした。分類に際し、第一筆者と第二筆者の2名が協議して分類を行った。両者の分類の一致率は88%で、一致しなかった事例については協議して分類を行った。その過程において、問題性を認識して対処行動を試みはしたものの、研究者からみて対処のしようがないと考えられる場面が生じている事例、最終的に解決のしようがなくそのままになった事例が存在していたため、「未対応」の1要素を追加した。第三筆者を加えて、2名による分類の結果について協議したところ、3名の意見の一致がみられたことから、この結果を採用した。

各クラスターにおける代表的な事例

以下に観察された全事例の中から、各クラスターを代表する事例を取り上げ、その対処例や事例について解説する。各事例を通してそれぞれの場合における対処の特徴について検討していく。

「頻度高・危険度中」群においては、OBの補助を受けながらピストからの指示に基づいた対応がなされたものが多かった。発生から対処まで、学生ピストを中心に学生自身が判断して行動していたが、教官やOBが状況に応じて指示を下すなどして関与していた事例が9件4)、当事者ではなく他の部員からの指摘を受けて対処した事例が8件含まれた。学生と教官・OBが関わりをもった事例の中には、考えが対立する事例や、最終的にはアドバイスを採用しないといった事例がみられた。

この群に含まれた事例に、索点(機体に索を取り付け、点検する作業)中に機体IがB滑走路に着陸しようとしていたという例がある。このとき、索点を行う係の部員はB滑走路に出ていた。別の滑走路(C滑走路)には機体IIが着陸し、機体IIを受け取る係の部員もその滑走路に出ていた。索点の作業を行う最中であったことから索はB滑走路に置いてあったため、使用できる滑走路が全て埋まっている状態にあった。そこで、B滑走路で索点を行っている部員に対して、ピストとともにいたOBが拡声器等を用いてその場から索を取り除くように指示を出した。続いて、ピストが機体IIを取りに土手翼を下げることを指示し、1年生に索を取り除くように指示を出した。これは、飛行訓練が行われている間に索をどけて機体Iが着陸できる滑走路を確保するという点で、「悪いことが悪化しないようにする能力」をもって対処した事例とした。

このように、とっさの判断が求められるような場面においては、訓練中に全体に対して指示を出す役割を担う、ピストを務める部員から全体に指示がなされていた。発生頻度が高く、危険度が中程度の事故であることから、部員が経験的に適切な対処法を知っている事態もあったのか、ピストを務める部員が先頭に立って状況を脱しようとする様子がみられるとともに、監督、教官、OBの指示か、ピストの指示に従って部員が行動していた。また、このときは航空部活動を4年間経験しているOB1名がピストに補助要員として入っていたため、ピスト内が混乱することなく、各所により適切な指示を下すことができた。

「頻度中・危険度高」群の中からは、着陸に入る高度に近い高度で飛んでいた機体IIIよりさらに低高度で機体IIが低高度旋回を行った事例を取り上げる。低高度での旋回は危険を伴うが、それに加えて着陸に入る機体よりも低い高度で旋回を行うと衝突の危険が高まるという危険も加わるため、危険度は高い。このとき、地上で機体をみていたピストは注意喚起を行う無線等は入れなかったが、地上にいた部員に対しては、機体をよくみておくよう注意喚起を行うのみだった。

飛行中から着陸まで、パイロットに対する地上ピストからの無線による指示は一度もなされなかったが、着陸後に機体IIIに搭乗していた教官から機体IIのパイロットが叱責を受け、パイロットには腕立て伏せを行うように指示がなされた。

このとき、地上でオペレーション(地上や上空の機体の管理などを含む、訓練全体をさす意味で使われる)を行う学生は即座に当該パイロットに回避行動を促すことができなかった。これは短時間の間に突発的に発生した危険事態に対しては、当事者が瞬時に判断し回避行動をとるしかないためであることを示唆している。また、危機的事態を認識させるために、地上にいる部員に機体をよくみておくように指示が出されていた。これは、万が一接触事故が起きて機体が墜落するようなことがあったときに、すぐに地上にいる部員が動けるようにするためだと考えられる。この指示が出されたもう一つの理由として、同じ状況に今後陥ることがないように、部員には観察による学習が期待されていたことが考えられる。これらのことから、この事例は、「悪いことが起きないようにする能力」をもって対処されたとした。

この事例群に分類された事例の中には、複数の教官あるいは整備士による入念なチェックが行われた事例、事態に対処するために、他大学に援助を求めようとする事例も存在していたことも付記しておく。さらに、この群に含まれる事例に特徴的だったのは、部員が罰として腕立て伏せを行う事例が2事例みられたことであった。

「頻度高・危険度低」群においては、訓練効率維持を意識した行動がとられることが多々みられた。不備が起きてからの事態の回復については、各個人が個別に対応するものが多かった。

ここでは、パイロットが背負って飛ぶ必要のあるパラシュートが見つからなかった事例を挙げる。学生の間では、着陸してこのパラシュートを外したら乗っていた機体の座席に置いておくという決まりが作られていた。しかし、3年生が搭乗した後、パラシュートを機体の座席ではなく、機材車1に積んでいた。その機材車1がこのときパラシュートを積んだまま昼食の不足分を購入するために滑空場を離れていたため、パラシュートがなく、飛行できないため、該当機体の発航が一時停止された。このとき、誤って機材車1に積んだことが判明した直後に、ピストが機材車1にすぐに戻ってくるように電話で連絡を入れた。

「頻度高・危険度低」群の事例においては、発生頻度が高いために、事態への緊張感に欠け注意力が散漫になっているのか、一つのミスが連鎖する場面も見受けられた。「昼食用の弁当の不足分を買いに行った機材車1が、部員が誤って載せた搭乗に必要なパラシュートを積んだまま帰ってこないため、発航を一時停止する」という事例や、「訓練の場を離れ宿舎に忘れ物を取りに戻った機材車1が、ウィンチ側(機体を飛ばすときにワイヤーで機体を牽引する側)の不調を手伝い、訓練の場に必要とされているのにも関わらずなかなか戻ってこない」といった事例が、ミスの連鎖した場面である。

下線部の出来事は、日ごろから発生する可能性がある出来事であり、その個々のミスが連鎖している様子がうかがえる。

前半の事例は、機体の発航が停止されるという形で訓練が一時中断されたことから、「起こってしまった悪いことからリカバリーする能力」によって対処されたとした。後半の事例は、訓練は停止されず、機材車がない状態で不便を感じながらも訓練を継続したことから、「積極的に活動水準を維持する能力」が発揮されているとした。

「頻度低・危険度中」群においては、訓練の撤収時に機体を係留した際、機体Iの右翼を支える脚立のロープが開く向きが逆になっていた例を挙げる。

このとき、3年生のプランナーが脚立ロープの開きが逆であることに気づいたことで、周囲も間違いに気づき始めた。そこで、3年生のプランナーが、その日練習を見学していた航空部OBの一人に、係留精度に影響があるか尋ねた。観察者は力のかかり方が好ましくないことは告げたが、最終的にロープを縛り直すかどうかは自身で判断するよう回答したところ、ロープはそのままの状態で滑走路から撤収するという行動をとった。滑走路において集合した際に行われる、機体の係留状況確認の際には、機体Iの係留の責任者である部員は、「係留チェックして問題ありません」と回答した。周囲にはロープの開きが逆であることに気づいている部員が3年生のプランナーをはじめとして何人かいたが、誰も何も補足することはなかった。この事例は、最終的に誰も問題を指摘することができなかったことから、「未対応」に分類された。

このような間違いは発生頻度が低く、間違ったことが具体的にどのように悪影響を及ぼすのかが理解されていないため、回避する行動が積極的にとられにくいことが考えられる。この場合、ロープの開きを修正するためには、左右の脚立を抜いて入れ替えるという作業が求められる状況であった。

この事例群には効率を重視して、問題が認識されているにもかかわらず、安全がないがしろにされているような事例が主に4件あった。加えて、当事者たちが、なぜ起こったのか、なぜそれが問題なのかといった、原因や問題を認識していない事例がみられたことを付記しておく。

事例の類型と集団のレジリエンスの諸相との関連

各事例について、集団のレジリエンスを構成する「悪いことが起きないようにする能力」「悪いことが悪化しないようにする能力」「起こってしまった悪いことからリカバリーする能力」「積極的に活動水準を維持する能力」および「未対応」のいずれにあてはまるのかを、第一筆者と第二筆者が協議しながら、各事例に一つずつ割り当てた。続いて、事例のクラスター×集団のレジリエンスの要素のクロス表に基づいてχ2検定および残差分析を行ったところ、有意な事例比率の偏りがみられた(χ2(12)=24.55, p<.05, Table 2)。

Table 2 頻度と危険度による、採用されるレジリエンスの要素の違い
悪いことが起きないようにする能力悪いことが悪化しないようにする能力起こってしまった悪いことからリカバリーする能力積極的に活動水準を維持する能力未対応合計
第1クラスター「頻度高・危険度中」度数5a6a3a1a0a15
自由度調整済み残差1.40.51.1-1.4-1.8†
行比率(%)33.340.020.06.70.0100.0
第2クラスター「頻度中・危険度高」度数4a8a1a0a1a11
自由度調整済み残差1.40.9-0.3-1.8†-0.5
行比率(%)36.445.59.10.09.1100.0
第3クラスター「頻度高・危険度低」度数2a7a, b1a9b3a, b22
自由度調整済み残差-1.7†-0.3-1.43.3**0.0
行比率(%)9.131.84.540.913.6100.0
第4クラスター「頻度低・危険度中」度数1a2a2a1a4a10
自由度調整済み残差-0.9-1.10.8-0.82.6**
行比率(%)10.020.020.010.040.0100.0

† p<.10, ** p<.01註:同一クラスター内で、度数に有意な差がないセルどうしに同じアルファベットの添え字がついている

「頻度高・危険度中」群に分類された事例については、χ2検定ならびに残差分析の結果、4つの要素のいずれをもって対処されるかについては有意な差がみられなかった。また、残差分析の結果からは、「未対応」が少ないことが示唆された(p<.10)。

「頻度中・危険度高」における結果は、「頻度高・危険度中」群と類似しているが、残差分析の結果、「積極的に訓練の活動水準を維持する能力」をもって事態に対処する場面の数が少ない傾向にあることが示された(p<.10)。

「頻度高・危険度中」群における結果は、「積極的に活動水準を維持する能力」をもって事態に対処する場面の数が多く(p<.01)、「悪いことが起きないようにする能力」をもって事態に対処する場面の数が少ない傾向にあった(p<.10)。

「頻度低・危険度中」群については「未対応」の事例が有意に多かった(p<.01)。

以上の結果から、頻度が高い事例群において、「積極的に活動水準を維持する能力」と「悪いことが悪化しないようにする能力」をもって対処された事例が多い点のみ、予測と一致していた。ただし、クロス集計表の中には度数の期待値が5未満のセルが多く、χ2検定の結果が必ずしも信頼できるわけではない可能性があることを付記しておく。

考察

本研究では、活動中の集団を観察し、その最中に発生した、平常時とは異なる事態に対してとられていた行動に対して、Westrum(2006)に基づく「悪いことが起きないようにする能力」「悪いことが悪化しないようにする能力」「起こってしまった悪いことからリカバリーする能力」とHale & Heijer(2006)に基づく「積極的に活動水準を維持する能力」からなる集団のレジリエンスの4要素をあてはめ、どのような場面にどのような要素を反映する対応がとられるのかを実証的に明らかにした。この結果、これまでは理論的な提唱のみにとどまっていた、集団のレジリエンスの4要素のいずれの要素が問題に対処するために用いられるかは、事態の頻度や危険度の程度に応じて異なることが示された。

集団のレジリエンス自体は不可視なものとされてきた(Cook & Nemeth, 2006)が、本研究では事例観察を通して、その様相を明らかにすることができたと考える。以下に、頻度と危険度に応じて事例を分類したクラスターごとに、集団のレジリエンスのいずれの要素が発揮されたのかについて考察する。

発生頻度が高く危険度が中程度の事例

発生頻度が高く危険度が中程度である事例では、取り上げた事例以外においても、対処に強く関与しているのがピストであった。さらに、学生の考えや行動は訓練を統括するピストに集約され、トラブルへの対処はピストからの指示という形で行われた事例が多かった。

χ2検定および残差分析の結果から、「頻度高・危険度中」群においては「未対応」が少ない傾向にあった。さらに、「悪いことが起きないようにする能力」と「悪いことが悪化しないようにする能力」をもって対処された事例が15事例中11事例と、70%以上を占めていた。このことから、「頻度高・危険度中」群における事例は発生頻度が高いことから、対処の仕方が経験的に身についていると考えられる。この群に分類された事例は、危険度が中程度であることから、学生が対処の必要性を認識しやすいだろう。しかし、その危険性自体は極めて高いものではないため、学生が危険を察知して、彼ら自身で対処することも可能な事例群だと考えられる。したがって、事態を察知して未然に防ぐ能力や、事態が悪化しないようにする能力をもって対処されやすいのだろう。その結果として、この群に分類される事例については、対処に困るという事態に陥りにくいと考えられる。

発生頻度が中程度で危険度の高い事例

「頻度中・危険度高」群における残差分析の結果は「頻度高・危険度中」群と傾向が類似していた。しかし、「頻度高・危険度中」群と比較したときの「頻度中・危険度高」群の特徴は、「積極的に訓練の活動水準を維持する能力」をもって事態に対処する場面が少ないことにあるだろう。

「頻度中・危険度高」群の事例では、危険度が高く、「頻度高・危険度中」群と比較して、11事例中7事例が教官の判断に基づいて対応がとられていたという点で、教官の判断によって対処される場面が多くみられたといえる。事例によっては、他大学の力を借りて対応しようとする場面もあった。危険を伴う行動をとった学生に対しては罰として腕立て伏せが命じられることもあり、いかに危険な行為をとったのかを強く認識させようとすると考えられる場面もあった。懲罰は、不安全行動の主要原因と考えられる個人の態度や認知過程に影響を及ぼすことを目的として行われる(Reason, 2006 佐相訳 2010)。このことから、この場面における罰は、監督者が違反を発見して厳罰を科すことで、安全に関する規範の遵守を強制する(Reason, 2006 佐相訳 2010)ことを目的にしていたと考えられる。また、罰の効果は、直接的に罰を受けた者以外の者の認知に影響を与える(Kurzban, DeScoli, & O’Brien, 2007)とともに、他者と分かち合われる(Seifried, 2008)ことを考慮すると、当事者以外も事故を起こした者が腕立て伏せをする姿をみることで、当事者の部員以外が同じことを繰り返さないように学習する効果を見込んだのかもしれない。

以上を踏まえると、「頻度中・危険度高」群においては、事例の危険度が高いため、一度起こってしまった、あるいはこれから起こることが予想される負荷の大きい事例に対して、学生だけでは対処できず、彼ら自身が積極的に働きかけるような維持・回復行動を伴う対処がなされにくいと考えられる。そのため、学生のかわりに、教官や整備士といった、より経験や知識の豊富な人間が対処するのだろう。そして、危険度が高いことから、訓練を平常通り続けるよりも事態に対処することを優先すると考えられる。この事例群には、部員に時間を与えて腕立て伏せをさせるという罰が与えられた例もある。これも、一定時間活動する人数が減ることで訓練が迅速に進まなくなる可能性があっても、事態の危険性の高さを成員に学ばせることで、今後も類似した事態が発生するのを防ぐことを、素早く機体を飛ばす回数を多くすることよりも重視していることの表れといえよう。

発生頻度が高く危険度の低い事例

この群に分類される事例群は、発生頻度は高いが、個々の部員が明確な役割を認識すると、特に対処のための行動に専門性が求められることがない場面であれば、犯しやすいミスを回避する行動をとることが可能だろう。また、事態への対処においては、役職や係に縛られず、対処の必要性に気づいた個人が対応することが多いようだった。これは、ミスそれ自体に素早い対処が求められるのは訓練場面において当然であるが、この群に分類された事例群は危険度が低く、対処するうえで特殊な知識や経験が必要ないことから、個人単位で判断し対応することが容易であるためだろう。

残差分析の結果から、「頻度高・危険度低」群においては「積極的に活動水準を維持する能力」をもって事態に対処する場面が多く、「悪いことが起きないようにする能力」をもって事態に対処する場面が少ないという結果が示されている。この結果を踏まえると、「頻度高・危険度低」群については、事例の発生頻度が高いことから、「頻度高・危険度中」群と同様に、対処の仕方が経験的に身についていると推察される。また、危険度が低いことから、各部員が気づいたところで自ら判断し活動を継続できるような行動を個人単位でとりやすいと考えられる。反面、これらの事例には「今まで大丈夫だったからこれからも大丈夫」という心理が働くため、事例から学ばれることが低い可能性があり、結果として同じ事態の繰り返しを引き起こしていることが考えられる(村田,2012)。したがって、発生頻度が高く危険度が低いために、事態が起こってしまってから対処を行えばいいととらえる傾向に陥る可能性が考えられ、未然に防ぐ意識の低下が懸念される。

発生頻度が低く危険度が中程度の事例

「頻度低・危険度中」群に分類される事例群は、頻度が低いがゆえに発生した事態がなぜ、どのように危険であるのか、といった点についての認識が希薄になりやすい事態であると考えられる。このような、発生した場合を想定した訓練は実施しているが実際に起きたことはないような状況が予想外に発生したことで生じるミスや、個々には慣れている状況が思いもよらず組み合わさったことで生じたミスは、既存の問題解決ルールでは対応できず、「ゼロ」から答えを見つけなければならないことが多い(Reason, 2006 佐相訳 2010)。それに加えてさらに、集団はそれまでとは異質な課題に遭遇すると戸惑いを見せ、課題に対する不適応症状を見せる(古川,1989)。こうした知見から、第4クラスターに分類されるような、発生頻度の低い事例は、危険の理由や程度がわかりにくく、適切な対処方法を見出せないため、「未対応」に分類される事例の数が多かったと考えられる。

安全状態が劣化する要因の一つに、恐れを忘れてしまうことがある(Reason, 2006 佐相訳 2010)。個々人が認識可能な範囲にそれほど悪いことが起こらない場合、些細な欠陥が重大な事故を引き起こしてしまうことが忘れられてしまう(Reason, 2006 佐相訳 2010)。現に、発生頻度が低いがゆえに危険度が低く見積もられがちな「頻度低・危険度中」群の事例では、安全面から考えれば好ましくない出来事でも効率を重視して活動を継続している可能性のある事例が散見された。これは、日ごろから明確なリスク事態として認識されておらず、重大な事故発生につながる可能性が潜んでいることが忘れられていることの表れであろう。これらの事例においては、恐れを忘れてしまった結果として、事態の把握や改善に努める姿勢を欠如させている可能性がある。

また、安全は集団の学びと集団内における知識の共有によって扱われる問題であり、集団での学びと知識の共有が安全への行動に積極的な効果を及ぼす(Nesheim & Gressgård, 2013)。第4クラスターに分類された事例は、この学びと知識の共有が未熟な事態に遭遇した状態であり、その結果として安全への配慮が希薄になったのかもしれない。

「頻度低・危険度中」群に分類された事例は、発生頻度が低いことから、その事態への適切な対処が不明確で、学生全体あるいは個々人というよりも、まずはその領域を管轄し、より高い専門知識をもっている係によって事態への対処がとられる場合も見受けられた。そのような背景には、専門外の知識をもって対応をとることで事態がより悪化することを懸念しているという可能性も考えられる。しかし実際には、発生頻度が低いために適切な対処法を誰も見出すことができないことが多いだろう。現に、残差分析の結果からは、「頻度低・危険度中」群においては「未対応」の事例が多いことが示された。

以上を踏まえると、「頻度低・危険度中」群については、事例の発生頻度が低いことに加え、危険度が決して低くはないことから、危険であることは認識できたとしても危険さの程度に対する認識が不十分である可能性が高いだろう。また、経験することが少ない事例であるがゆえに、どのように対処するかを判断するもとになる経験が乏しく、解決の指針が定まらないことが多いと考えられる。

本研究のまとめと課題

本研究は集団のレジリエンスの4要素を、訓練の続行可能性という一定の明確な基準に応じて分け、複数の成員行動からなる一連のプロセスを単位とし、個々の事例が集団のレジリエンスを構成するいずれの要素によって対処されたのかを検討した。先行研究の多くが個人を単位とする対処行動に焦点を当てたうえで集団にもレジリエンスが備わっているとしたという問題を抱えていた(菊地・山口,2012)のに対し、本研究で用いた方法では個人単位からの脱却が可能になった。

集団のレジリエンスに類似する概念として、チームワーク(Dickinson & Mclntyre, 1997)や集団効力感(Bandura, 1997)が考えられる。チームワークは集団内の情報共有や活動の相互調整のためにメンバーが行う対人行動をさし(Dickinson & Mclntyre, 1997)、優れたチームワークは集団に望ましくない事態が起きたときに有効に機能するとされている(Salas, Bowers, & Edens, 2001)。チームワークの測定は困難なため、チーム全体の様子に関する個人の認知と個々人が行っている行動をリッカート式尺度で評定するもの(三沢・佐相・山口,2009)も開発されつつあるが、現実に集団の中で起きる望ましくない事態への対処は、成員Aのとった行動を受けて成員Bが行動するというように、一人一人の成員行動の連鎖を通じて行われる。そうした意味では、本研究のように、複数の成員行動からなる一連のプロセスを通じてとらえられる集団のレジリエンスは、より現実に近い場面における、集団にとって望ましくない事態に対処する場合のメカニズムを解明するのに適している方法だろう。

集団効力感は、集団が目的を達成するために必要とされることを実行できるという、成員間に共有された信念である(Bandura, 1997)。したがって、集団効力感は信念であるという点で、本研究で扱う集団のレジリエンスとは異なる。

本研究では大学の航空部を対象としたが、集団によって発生する問題は異なる。加えて、それぞれの性質に応じて、集団のレジリエンスが発揮される場面や、集団のレジリエンスを構成する要素の中のいずれの要素が用いられるかには違いがあると考えられる。本研究で扱った事例は全て4つのレジリエンス要素のいずれかが発揮されたと考えることができるか、対応を試みるものの、研究者が客観的にみて対応のしようがなかった事例や最終的に解決されずにそのままにされた事例からなる「未対応」に分類された。しかし実際には、集団が望ましくない事態を回避したり、解決したりするには、本研究で扱った要素だけで説明できない事例も存在するかもしれない。それらの差別化を行い、相違点や共通点を検討することで、集団のレジリエンスの本質に迫ることが今後の課題として挙げられる。

本研究では、即時即応的な事例のみを扱っているが、集団が直面する危機は即時即応的に対処できるものばかりではない。解決に時間を要する危機や問題については、本研究で扱った「悪いことが起きないようにする能力」「悪いことが悪化しないようにする能力」「起こってしまった悪いことからリカバリーする能力」「積極的に活動水準を維持する能力」では説明できないかもしれない。今後は、解決に長期的時間を要する場合は、どのような要素が必要なのかを明らかにしていく必要もあるだろう。

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