Japanese Journal of Social Psychology
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The effect of organizational commitment on organizational learning
Ikutaro MasakiYukiko Muramoto
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2015 Volume 31 Issue 1 Pages 46-55

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問題

「変化し続ける環境にどのように組織が適応するか」という問いは、主に経営学において「組織学習」や「組織文化」に関する問題として古くから議論の対象とされてきた(e.g., Argyris & Schön, 1978; Schein, 2004)。組織をマクロレベルから捉える研究(Christensen, 1997 伊豆原訳 2000)や、成員の行動の観点から組織事象を分析するミクロレベルの研究(Argyris & Schön, 1978; 藤田,2000; Schein, 2004)など、研究の視点は多岐にわたる。

しかし、これらは必ずしも実証的な検討に基づいて行われたものばかりではなく、また測定上の定義と理論上の定義との間に混乱が見られるものもある。本研究では、組織学習に関する歴史的な知見の混乱を整理したうえで、「どのように継続的な組織の変革が促進されるか」という組織学習論の問いについて改めて検討する。より具体的には、組織に対する同一視や組織価値の内在化、そして功利的感覚をも含む組織コミットメントの各要素が、組織学習をどこまで促進しうるかという問題に焦点を当て、検討を行いたい。

組織の環境適応を支える2種類の行動

Argyris & Schön(1978)は組織の活性化という問題に対し、組織の学習、あるいは組織成員の学習という観点から分析を行っている。この中では既存の組織に関する諸知識を更新することを組織学習と定義しており、組織学習をシングルループ学習(single-loop learning)とダブルループ学習(double-loop learning)の2つに区分している2)。シングルループ学習とは、内的あるいは外的な環境変化による問題を察知し、それに対して既存の組織的価値や規範を維持する形での解決を試みる学習を指す。これは、組織が原理的には自我を持った主体ではなく、意思を持った個人(組織成員)の集合的産物であることから、「組織成員が個人または複数で積極的に学習を行うこと」と言い換えることが可能であると考えられる。例えば、あくまでも既存の営業方法は遵守しつつも時間投資を増やしたり、顧客知識等の関連する知識を学んだりする行動がこれに該当するだろう。これは、こうした学習主体によって構成される組織の側から捉えれば、外的変化の少ない状況においては有用な学習であり、最も基本的な学習であるともいえる。

一方のダブルループ学習とは「組織規範に対して新しい優先順位と重みづけを行うことにより」、環境適応に対する既存規範の不適合性という「組織規範の矛盾を解決すること」(Argyris & Schön, 1978, p. 24)を指しており、経営戦略や組織体制などを含む広い対象に対する高次の学習を指すとされている。これは旧来の規範からの逸脱を伴う新たな行動を取るものであることから、一般的にはアンラーニングとしても知られる。Tsang & Zahra(2008)は従来の組織学習研究について、アンラーニングの定義には①既存の価値の棄却、②それが何らかの価値観に基づいた棄却であること、③新たな価値観によって組織的価値観を置換すること、の3要素が混在していると指摘し、各要素単独でも、あるいは複数でもアンラーニングに相当するとしている。本研究ではこれに基づき「集団のあり方の改善を意図して、率先して組織の既存価値観や行動基準からの逸脱を行うこと」、中でも特に組織規範および関連する文化的産物をその直接の対象とするものをダブルループ学習の定義として用いる。個人の中で完結しうる学習との類似性を明確に見いだすことができるシングルループ学習と異なり、ダブルループ学習は変革的な行動に近く、必ずしも個人にとどまる学習という概念に直接包摂できる概念ではない。上述の定義の通り、ダブルループ学習は規範からの逸脱とその更新を含むものであるため、学習や行動の主体は個人でありながらも、自身の知識体系を働きかけの対象とする通常の学習と異なり、組織の知識体系をその働きかけの対象としている。しかしながら、経営学の文脈においてこうした学習主体と学習対象に関する個人・組織の区別を明確に行わなかった結果として、個人の学習と組織学習の相違や共通点が不明確になっているものと思われる。したがって、ダブルループ学習は組織の中で成員が自己完結的に行う学習というよりも、個人が組織の中において行う変革行動、特に結果として生じる組織単位の変化の起点・構成要素として捉えることがより本来の定義に近いものであると考えられるのである。

これら2種類の組織学習は、組織の環境適応に関するミクロレベルの枠組みとして、次の2つの点で重要であると考えられる。第一に、両行動は相互に深い関係性にある一方で、性質として全く異なる行動である。シングルループ学習とダブルループ学習はともに組織における学習に関する事象であるが、前者が既存の組織的価値のさらなる伸張を図るものであるのに対し、後者は組織的価値の革新を図るものであるという点で、大きく異なっている。したがって両者は区別して扱われる必要がある。

第二に、これら2種類の組織学習はともに組織の正常な成長のために必要不可欠なものである。シングルループ学習は、既存の組織的価値の伸張という点で組織の連続的な成長に不可欠である。しかしながら、連続的な成長のみでは組織はときに環境の変化に対応ができず、組織の衰退(e.g., 企業組織では業績の悪化)に至るという主張も複数存在する(Christensen, 1997; Sheth, 2007 スカイライトコンサルティング訳 2008)。Sheth(2007 スカイライトコンサルティング訳 2008)は、一時代において優良企業と称えられた企業が業績を悪化させていくことを「自滅」と称し、その理由に関する理論的検討を行っている。この「自滅」する企業に関する考察の中で、本研究における組織学習と密接な関係を持つ主張が、「現実否認症」(Sheth, 2007 スカイライトコンサルティング訳 2008, p. 47)である。これは、技術革新等のパラダイムの変化の一方で、企業組織が既存の価値観にとらわれることにより、時代の流れから取り残されて衰退に至る、という症状と説明されている。これを組織学習の文脈に置き換えれば、シングルループ学習という既存の価値観に基づく持続的な成長を偏重し、学習の棄却を意味するダブルループ学習を怠った結果として、組織の衰退に至るという考察だと解釈可能であろう。同時にSheth(2007)はこの「現実否認症」への対処方法として、「事業の前提や正当性を絶えず問題にする」(Sheth, 2007 スカイライトコンサルティング訳 2008, p. 379)を挙げている。この既存の前提や正当性を疑う行為は、組織学習のうちダブルループ学習と等価なものであろう。したがってこの主張を言い換えれば、変化する環境に組織が対応するためには、ときに既存の価値観それ自体を疑問視するようなダブルループ学習が必要であるという主張であると考えることも可能である。Argyris & Schön(1978)などによる組織学習論においても、一般にダブルループ学習が必要不可欠なものであるとされているが、その背景には組織が環境変化に対応するため、ときに既存の価値観や学習内容を棄却する必要性が仮定されていると考えられる。

以上より、組織の環境適応プロセスを明らかにするためにはシングルループ学習とダブルループ学習を概念的に区別し、それぞれの行動を促進・抑制する要因について多面的検討を行うことが重要と考えられる。しかし従来の組織学習論では、組織学習が理論的には2面的なものであると述べているにもかかわらず、実際にはシングルループ学習を主体とした研究の歴史をたどり、また先述の通り、学習主体・学習対象に関する個人・組織の区別の不明確さなどに関する問題も抱えている(学習の主体や、学習によって向上・変革されるべき働きかけの対象が、個人なのか組織なのか)。その結果として、理論的にはその重要性が十分に指摘可能だったはずのダブルループ学習が研究の歴史の中で取り残され、組織学習論としての包括的かつ実証的な検討はあまり行われないまま現在に至っている。

数少ない実証研究として、安藤(1998)は個人の組織学習について検討を行い、組織に対するイメージ(組織内地図)が明確であるほど、「高次の組織学習」が促進されるとしている。しかし、この研究における組織学習の測定項目を見ると、「高次」という表現を用いる一方で、シングルループ学習を意図、測定していると考えられる内容が含まれている。例えば、「L1.自分の仕事については、人並みの仕事のやり方では満足せずに、常に問題意識を持って取り組み、改善するように心がけている」(オリジナルは高橋(1997))の項目は、既存学習内容の棄却を本質とするダブルループ学習ではなく、改善を中心としたシングルループ学習を意味していると考えることが妥当であろう。この点において、安藤(1998)の知見は、組織内地図とシングルループ学習の関係を扱ったものとして捉えられる。

また、安藤(1998)はダブルループ学習について、特に「仕事の進め方など仕事と密接な関係を持つ価値を疑問視することによって生じる」(p. 90)という点が重要であるとし、それを測定する項目として上記L1を設定している。しかし、安藤の定義では学習成果の組織全体への波及(e.g., 変革、同調圧力に対する反抗)については明確な言及がなされておらず、いわば組織内での個人学習の種類を扱ったものにすぎないとも考えられる。既に述べた通り、ダブルループ学習はその字義の通りに解釈すれば、組織内での個人学習にとどまらず、組織全体での学習や、そこへの波及効果を見越した個人学習として捉えられるべきものである(e.g., 中原,2012)。この考え方に従えば、測定項目にも必然的に周囲の他者への働きかけや、組織内での役割変革など、組織全体への波及を前提とした定義が含まれるべきであろう。したがって本研究ではダブルループ学習の定義として、安藤(1998)の「既存の価値の疑問視」という要件に加え、役割変革や同調圧力からの逸脱などの、他者との相互作用を要件として加えるものとする。

このように、シングルループ学習・ダブルループ学習は元来、(1)連続的な学習か学習棄却か、(2)自己完結型の学習か周囲への働きかけや変革を含むものか、という二つの点で区別されるべき概念であるにもかかわらず、実証的な研究の流れの中では、いずれも積極的な個人学習として一括りにされてきた。Argyris & Schön(1978)の定義や、ダブルループ学習は個人学習ではなく集団に対する働きかけや変革の色合いを強く持つものであることを踏まえると、両概念を一つの学習として統合することには疑問が残る。したがって本研究では、両概念が密接に関連しながらも弁別されうるものであると仮定し、下記の仮説を設定した。

仮説1:組織学習はシングルループ学習とダブルループ学習の2因子構造だろう

仮説2:仮説1で抽出された2因子は正の相関を持つだろう

組織学習の規定因としての組織コミットメント

続いて、組織学習と組織コミットメントとの関連について検討したい。組織コミットメント(organizational commitment)とは、個人と集団の関係性に関する心理的要因の一つであり、個人と集団の関係性を考えるにあたっての重要な変数の一つである(高尾,2013)。中でもAllen & Meyer(1990)による3次元モデルが代表的に用いられており、集団に対する情緒的な結びつきである感情的コミットメント(affective commitment)、所属集団からの離脱によるコストの知覚に基づく存続的コミットメント(continuance commitment)、そして集団にとどまることへの義務感や忠誠心を表す規範的コミットメント(normative commitment)が知られている。また、日本語版尺度では、高木・石田・益田(1997)が行った再検討と因子分析の結果、感情的コミットメントが、情緒的な愛着を示す愛着要素と、価値の一致を示す内在化要素の2つに分かれることが確認されている。こうした3次元モデルに代表される組織コミットメント理論においては、特に感情的コミットメントと存続的コミットメントが、集団における多様な行動に対して予測力を持つことが歴史的に知られている(石田,1997)。

しかしその一方で、Allen & Meyer(1990)がコミットメントの1次元として新たに提起した規範的コミットメントに関しては、その区分の是非について意見が分かれている(Bergman, 2006; Meyer & Parfyonova, 2010)。例えば、規範的コミットメントは感情的コミットメントと存続的コミットメントの先行要因であり性質が異なるものであるとする主張や(Angle & Lawson, 1993)、実証研究において他のコミットメントほどの規定力を持たないとする主張などが存在する(Bergman, 2006; Meyer & Parfyonova, 2010)。この背景を踏まえ、本研究においては未だ議論の残る規範的コミットメントについては検討を行わず、その概念に関して一定の合意が得られている感情的コミットメントと存続的コミットメントに絞って、組織学習との関連を検討する。

シングルループ学習の促進・抑制要因

続いて組織学習に関する本研究の仮説の議論を行うが、まずはシングルループ学習と組織コミットメントの関係を中心に検討したい。

まず、感情的コミットメントは様々な向集団的行動を促進する機能を持つことが知られている。石田(1997)のレビューによると、例えば、組織市民行動との正の相関や、離職、欠勤との負の相関関係等が知られているとされる。また、日本における研究においても、鈴木(2013)が支援行動や勤勉行動、創意工夫行動と感情的コミットメントの間に正の相関関係を、高木(2003)が積極的発言などの多様な行動との間に正の相関関係を見いだしている。また組織学習、特にシングルループ学習に類する行動と感情的コミットメントの関係に関する実証的検討も、以下のように少ないながら行われている。

藤田(2000)は「仕事・会社への誇り」が「内発的動機づけ」に与える正の効果について議論を行い、実証研究を通じてその効果を確認した。ここでの内発的動機づけの測定項目としては、安藤(1998)が用いた組織学習の測定項目(上記L1)に加え、「M3.今より大きな責任を伴っても、より大きな仕事につきたいと思う」「M4.日々の仕事を消化するだけになっている(逆転)」(藤田,2000, p. 72)を用いており、安藤(1998)が高次学習と捉えた概念とほぼ同様のものを測定している。すなわち、ここで測定されている概念も、実質的にはシングルループ学習の程度として捉えることができるだろう。また、独立変数の「仕事・会社への誇り」は「個人の外部からもたらされる情報についての認知プロセスから形成される、ステータスに関する満足度」(藤田,2000, p. 61)と定義されており、感情的コミットメントにきわめて近い。すなわち、我々が着目する概念に沿って藤田(2000)の知見を捉え直せば、成員が所属組織に対して高い水準の感情的コミットメントを有している場合、シングルループ学習が促進されると考えられる。

加えて高木(2003)は、積極的発言に対する感情的コミットメントの効果は、愛着要素と内在化要素によって異なる可能性があると指摘している。愛着要素は感情的コミットメントの下位因子の一つであるが、高木の研究では、内在化要素と異なり積極的発言を中心とする向集団的行動に対する正の効果が確認されなかった。このことから、組織コミットメントの内在化要素と愛着要素の間には機能上の差異が存在し、多様な変数に対するその主たる効果は内在化要素によってもたらされていることが推察される。したがって本研究では、この推測に基づき、下記の仮説3を立てた。

仮説3:感情的コミットメント、中でも内在化要素はシングルループ学習を促進するだろう

対して、組織コミットメントの代表的なもう一つの要素である存続的コミットメントは、感情的コミットメントとは反対の効果を持ち、組織市民行動を抑制する効果が確認されている(Meyer, Stanley, Herscovitch, & Topolnytsky, 2002)。その理由としては、存続的コミットメントはコストの認知に基づく功利的な感覚であることが考えられ、直接の利益に結びつかない行動や心理傾向にはつながらないものと予想される。以上のように向集団的行動との関係が指摘されている存続的コミットメントであるが、組織学習との関係に関する検討はこれまでになされていない。しかし、シングルループ学習は組織市民行動と同様に進取性を含む概念であることから、存続的コミットメントが他の向集団的行動を抑制する場合と同様のメカニズム(功利的な感覚による抑制)が働くことにより、その抑制効果が見られると考えられる。以上の想定から、下記の仮説を立てた。

仮説4:存続的コミットメントはシングルループ学習を抑制するだろう

ダブルループ学習の促進・抑制要因:組織コミットメントと雇用形態の効果

続いて、ダブルループ学習の促進・抑制要因について議論を行う。ここでは、シングルループ学習と同じく組織コミットメントについて検討するとともに、加えて雇用形態の効果も検討する。

本研究で定義したダブルループ学習を直接扱った研究は非常に少なく、類似の内容が高木(2003)によって研究されている程度である。この研究の中では、感情的コミットメント、中でも内在化要素が積極的発言に正の効果を有していた。この積極的発言の尺度に含まれる質問項目には「業績向上のため、上司や同僚に提案する」「会議で積極的に発言する」といったシングルループ学習に含まれる項目に加え、「部署のためになると思うことは、反対を恐れず表明する」「部署のためにならないことには、異議を唱える」など、ダブルループ学習との関連が強い項目も混在している。したがって、ダブルループ学習に対しても、仮説3と同様に内在化要素の促進効果が見られるように、一見考えられる。

しかしダブルループ学習は進取性に加えて、既存の価値への反抗や逸脱という側面も含んでいる。組織コミットメントの内在化要素は組織的価値の内在化を意味するものであり、こうした集団と自己との同一視は、一般に既存の規範に準拠する行動を促すものとされている(e.g., Dutton, Dukerich, & Harquail, 1994; Jetten, Postmes, & McAuliffe, 2002; Packer, 2008; Terry & Hogg, 1996)。Packer(2008)は、集団への同一視はたしかに集団の変革を企図した逸脱につながりうるとしつつも、それは限定的な状況(既存規範が組織に明確な損害を与えうる場合)に限られ、それ以外の状況においてはむしろ規範に対する忠実な同調(loyal conformity)を導くものであるとしている。したがって、組織コミットメントの内在化要素にこうした集団と自己の同一視の要素が含まれる以上、それは既存規範からの一種の逸脱や規範の棄却であるダブルループ学習を促進するというよりも、むしろ抑制する可能性があるのではないだろうか。この内在化要素の抑制効果は高木(2003)安藤(1998)では確認されなかったが、シングルループ学習とダブルループ学習を測定上明確に区別して扱うことによって、組織に対する同一視が変革を抑制することを示唆する先行研究と一貫する知見が得られるかもしれない。本研究ではこの視点に則り、以下の仮説5を立てた。

仮説5:感情的コミットメント、中でも内在化要素はダブルループ学習を抑制するだろう

存続的コミットメントがダブルループ学習に与える効果は、シングルループ学習に対するそれと同様の理論的推測により、抑制的なものであることが推測される。ダブルループ学習には上述のようなシングルループ学習との相違が存在するが、一方でともに進取性が最大の動機づけとなる点は共通している。存続的コミットメントはコストに対する感覚に基づく功利的な組織との結びつきであり、進取性を抑制する可能性が先行研究で指摘されていることから、存続的コミットメントはシングルループ学習のみならず、ダブルループ学習も抑制するものと仮定した。

仮説6:存続的コミットメントはダブルループ学習を抑制するだろう

以上の組織コミットメントとの関係性に加えて、本研究では雇用形態がダブルループ学習に与える影響も検討した。

既に述べた通り、本研究ではダブルループ学習を、価値逸脱的な考え方や自己完結的な働き方の改善にとどまらず、役割変革や、同調圧力への抵抗も含むものとして定義した。こうした役割変革は、当該個人に与えられている自由裁量の程度や、仕事自体の自由度とも強く関係することが予想される。自由裁量が少ない場合には、当該個人が組織学習を志向したとしても、役割変革や他者への働きかけがそもそも職務として許容されえず、決まった仕事をこなしていくことが求められる。したがって、仕事内容に一定の自由度が存在することが、ダブルループ学習の志向の前提条件になっている可能性がある。こうした職務特性の影響を強く受けることも、個人の中で完結しえないダブルループ学習の一つの特徴であると考えられる。

この職務の自由度と強く関係する要因として、本研究では雇用形態を仮定した。すなわち、アルバイトやパート社員などのように自由裁量の程度が限定的な場合には、正社員として一定の自由裁量と雇用の安定性を許容された場合に比べて、ダブルループ学習が促進されにくいと仮定し、以下の仮説を立てた。

仮説7:臨時雇用(アルバイトやパート)の社員は、正社員と比較して、ダブルループ学習を志向しないだろう

以上の仮説について、本研究では社会調査データに基づき、定量的な仮説検証を行った。

方法

調査対象 東京都品川区在住の20歳以上49歳以下の男女600名を対象とした。

標本抽出法 抽出は品川区の選挙人名簿をもとに、確率比例2段階無作為抽出を行った。まず12の投票区を無作為に抽出し、各選挙区における開始番号を無作為に定め、1選挙区あたり50人を開始番号から100人おきに抽出した。

調査方法 2012年11月~12月に郵送調査を行った。被抽出者に調査票を直接送付し、回答後返送するよう依頼した。後日、返送を依頼する督促状を1度送付した。

有効回答者数 有効回答者数は126名(男性57名、女性69名。回収率21.00%)、平均年齢は37.7歳であった。

調査票内容 調査票に含まれる項目のうち、分析に使用した主な変数は以下の通りである3)。なお、この項目への回答は職業を有すると回答した者(男性54名、女性43名)のみが行い、調査票冒頭で自身の所属企業についての考えを回答するよう教示された。

1. 組織コミットメント:高木ら(1997)の組織コミットメント尺度から「内在化要素」「愛着要素」「存続的要素」に関連する項目を抜粋、改変4)して用いた。回答者の負担を考慮し、項目は先行研究において因子負荷が高いもののうち、表現が大きく似通っていないことを基準に抜粋して用いた。各項目に「あてはまる」から「あてはまらない」までの4件法で回答を求めた(回答方法は以下の各尺度も同様。項目については表1を参照)。

2.組織学習:シングルループ学習を測定する項目として、高橋(1997)藤田(2000)で組織における積極的な行動の尺度として用いられた項目を踏襲、他項目や調査形式との整合性の観点から語尾などの表現を改変した4項目を用いた。ダブルループ学習を測定する項目としては、小川(2006)で役割を変革する行動の測定項目として用いられた1項目の表記を改変したもの(項目5)と、Argyris & Schön(1978)による前述のダブルループ学習の定義に基づいて作成した自作の4項目を用いた(項目は表2を参照)。なお、本来は多岐にわたる学習対象については、シングルループ学習の測定項目に合わせたものとするため、「働き方」に限定した項目作成を行った。

3.個人属性:個人属性として、性別、年齢、勤続年数、雇用形態に関する設問を設けた。

結果

組織コミットメントの尺度構成 組織コミットメント尺度に探索的因子分析(最尤法、プロマックス回転)を行った後に、特定因子に0.3以上の高い負荷を持たなかった2項目を除いて再度因子分析を行ったところ、表1の結果が得られた。固有値1以上を基準に先行研究と同様の3因子が抽出され、第1因子が「愛着要素」、第2因子が「内在化要素」、第3因子が「存続的要素」だと判断した。以降の分析ではその因子得点を分析に用いた。

表1 組織コミットメントの探索的因子分析と因子間相関(高負荷のものを網掛けで表記)
愛着内在化存続的共通性平均値標準偏差
1この組織にとって重要なことは、私にとっても重要である0.120.600.050.472.650.93
2いつもこの組織の人間でいることを意識している0.130.740.020.712.780.91
3私は自分自身をこの組織の一部と感じる-0.120.92-0.100.712.580.86
4この組織で働くことを決めたのは、明らかに失敗であった(逆転)0.550.170.040.463.380.77
5この組織にいることが楽しい0.95-0.10-0.020.772.750.78
6友人に、この組織がすばらしい働き場所であると言える0.620.180.020.582.560.85
7この組織が気に入っている0.910.020.110.832.820.79
8この組織で働き続ける理由の一つは、ここを辞めることがかなりの損失を伴うからである0.24-0.110.730.542.950.88
9この組織にいるのは、他によい働き場所がないからだ-0.170.020.600.412.640.92
10この組織を辞めたいと思っても、今すぐにはできない-0.260.070.450.272.951.05
11この組織を離れたらどうなるか不安である0.050.010.730.532.891.02
因子寄与2.691.941.65
因子寄与率0.240.180.15
愛着内在化存続
愛着10.81***-0.09
内在化1-0.12
存続1

*** p<.001

組織学習の弁別可能性 8項目に探索的因子分析(最尤法、プロマックス回転)を行ったところ、固有値1以上を基準に表2の結果が得られ、事前に想定した概念構造と合致する2因子が抽出された。第1因子は「組織での役割や仕事の目標を変えようとしている」や「組織のためにならない仕事の仕方には、たとえ上司の命令でも従わない」など既存の価値観を超えた向集団的行動を示す項目が強い負荷を示すため、「ダブルループ学習」であると判断した。

表2 組織学習の探索的因子分析と因子間相関(高負荷のものを網掛けで表記)
ダブルループ学習シングルループ学習共通性平均値標準偏差
1自分の仕事に関する業務知識、専門知識を積極的に得る努力をしている0.000.750.573.120.74
2自分の仕事には、常に問題意識を持って取り組み、改善するようにしている0.020.790.643.170.77
3今より大きな責任を伴っても、より大きな仕事につきたいと思う(給料は同程度)0.290.340.292.380.94
4日々の仕事を消化するだけになっている(逆転)-0.080.570.292.350.77
5組織での役割や仕事の目標を変えようとしている0.540.100.352.270.86
6よりよい仕事のためなら、周りとまったく違う行動をしてもかまわない0.72-0.320.412.580.88
7組織のためにならない仕事の仕方には、たとえ上司の命令でも従わない0.63-0.020.392.320.89
8組織のために仕事のやり方を変えた方が良ければ、周りにもそうするようにすすめる0.610.110.452.740.81
9先例とまったく異なる仕事の仕方であっても、組織のためなら積極的に上司に進言する0.650.180.552.730.84
因子寄与2.121.82
累積因子寄与率0.240.44
因子間相関0.45***

*** p<.001

第2因子は、「自分の仕事には常に問題意識を持って取り組み、改善するようにしている」や「自分の仕事に関する業務知識、専門知識を積極的に得る努力をしている」など既存の価値観や規範の枠内における努力を示す項目が強い負荷を示すため、「シングルループ学習」であると判断した。以上より仮説1は支持され、以降の分析では各行動の因子得点を分析に用いた。また、因子間相関についても両概念は中程度の正の相関を示しており(r=.45, p<.001)、仮説2も支持された。

なお、これまでに尺度構成を行った各変数間の単相関行列は、表3の通りである。

表3 各変数間の単相関行列
愛着要素存続的要素シングルループ学習ダブルループ学習性別年齢雇用形態
内在化要素0.81**-0.090.54**0.24*0.020.080.02
愛着要素-0.120.39**0.12-0.09-0.030.15
存続的要素-0.17-0.16-0.05-0.04-0.16
シングルループ学習0.51**0.170.10-0.08
ダブルループ学習0.33*0.07-0.25*
性別(男性=1; 女性=0)0.04-0.18
年齢-0.06

* p<.05, ** p<.01

組織コミットメントが組織学習に与える影響 以上の尺度構成によって得られた変数(因子得点)を用い、従属変数を2種類の組織学習、独立変数を内在化要素・愛着要素・存続的要素とする重回帰分析を行った(表45)。また統制変数として、組織研究において一般的に用いられることの多い(e.g., 北居,2014; 鈴木,2013)性別と年齢のデモグラフィック変数を用いた。なお、同様に用いられることの多い職位については、ランダムサンプリングに基づく調査の場合、所属組織の種類(企業、官公庁、NPOなど)や職位名が多様であるために汎用性の高い問いを設けることができず、したがって分析にも用いなかった。

表4 重回帰分析の結果
シングルループ学習ダブルループ学習
β標準誤差β標準誤差
内在化要素0.5660.147***0.2380.161
愛着要素-0.0190.149-0.0190.164
存続的要素-0.1590.088†-0.1950.097*
性別(男性=1; 女性=0)0.1590.087†0.2640.095**
年齢0.0310.0860.0340.095
雇用形態(臨時雇用=1; 正社員=0)-0.0800.081-0.2120.089*
(切片)-0.0030.0840.0180.092
決定係数0.368***0.231***
調整済み決定係数0.3260.180
N9797

† p<.10, * p<.05, ** p<.01, *** p<.001雇用形態が「派遣社員」の回答者(2名)は少数であったために分析から除外した。

まずシングルループ学習を従属変数とする重回帰分析の結果、従属変数の約37%が説明された。具体的には、内在化要素の正の効果が有意であり(β=.566, p<.001)、また男性の方が女性よりもシングルループ学習を志向する効果が有意な傾向(β=.159, p<.10)にあった。また存続的要素の負の効果が有意な傾向(β=-.159, p<.10)を示した。一方で、愛着要素の効果は確認されなかった。このことから、シングルループ学習に関する仮説3、4は概ね支持された。

続いてダブルループ学習を従属変数とする重回帰分析では、従属変数の約23%が説明された。具体的には、存続的要素の有意な負の効果(β=-.195, p<.05)が見られた。また雇用形態の有意な効果(β=-.212, p<.05)が確認され、正社員の方がダブルループ学習を志向することが示された。その他に性別の有意な効果(男性の方がダブルループ学習を志向する;β=.264, p<.01)が確認された。したがって、ダブルループ行動に関する仮説6と仮説7は概ね支持された。しかしながら、内在化要素・愛着要素については正負ともに有意な効果が確認されず、内在化要素の抑制効果に関する仮説5は支持されなかった。また内在化要素の因子得点の二乗項を内在化要素に代えて独立変数として投入した場合にも有意な効果は見られず、内在化要素とダブルループ学習の非線形な関係も確認されなかった。

考察

(1) 2種類の組織学習と組織コミットメントとの関係について

分析の結果、シングルループ学習に関する一連の仮説は支持された。藤田(2000)が「誇り」として測定を行った研究と同様に、組織コミットメントの内在化要素がシングルループ学習を促進し、感情的コミットメントに同じく分類される愛着要素にはその効果が見られなかった。このことから、組織に対する単純な感情的愛着ではなく、組織と自己の同一視や「誇り」がこうした行動につながるものと考えられる。この感情的コミットメントの2つの下位因子間の機能的差異は高木(2003)の研究でも指摘されていたもので、解釈には慎重を要するが、一定の安定性を有する結果であると考えられる。また、存続的要素に関する仮説も概ね支持され、シングルループ学習を抑制する効果が確認された。このことから、個人の持つ組織との結びつきが功利的な関係性にとどまるものとなると、進取的行動は抑制されてしまうという経験的な仮説や、存続的コミットメントの定義から導かれる理論的仮説が支持されたといえるだろう。

続いてダブルループ学習についてであるが、存続的コミットメントに関する仮説は概ね支持された。この点については、上記考察で触れた存続的コミットメントの進取的行動抑制の影響が、非常に多岐にわたるものであることが示されたものといえよう。しかし、組織コミットメントの内在化要素の効果は、正負、線形・非線形を問わず有意な効果が確認されなかった。すなわち、組織的価値の内在化が行われたからといって、あらゆる組織学習が促進されるものではなく、かといって抑制が生じるものでもないといえる。これは高木(2003)が積極的行動として組織学習を1因子と捉えた際には確認されなかった差異であり、組織学習に関する理論的な観点からも、シングルループ学習とダブルループ学習という2つの組織学習概念を区別する必要性が示唆されたといえよう。内在化要素の効果が正負ともにダブルループ学習に対しては見られなかった理由であるが、本研究で仮定した集団への同一視によって生じる同調傾向(Hogg, 2001; Jetten et al., 2002; Terry & Hogg, 1996)と、シングルループ学習において見られた進取性の促進効果が相殺し合った可能性が考えられる。本研究ではこの仮説の直接的検討には至らなかったが、今後の研究においてはこうした組織コミットメントの内在化要素の複数の影響経路を仮定した実証研究が望まれるものである。

この他に、ダブルループ学習に対する雇用形態の有意な効果(臨時雇用の社員の方が、正社員よりもダブルループ学習の志向の程度が低い)も確認され、この点についても仮説が支持された。また、この効果はシングルループ学習に対しては存在せず、ダブルループ学習に対してのみ見られた。この背景には、雇用形態に伴う職務の自由度や自由裁量の程度の差があることが推測される。すなわち、自由裁量の程度が大きい場合には、役割変革や同調圧力への抵抗を含むダブルループ学習が生じうるが、そうでない場合には自分の職務を超えるほどの行動は生じにくいのではないだろうか。これは、組織学習が自分の職務範囲で完結しうるかどうか、また価値変革を伴うかどうか、というシングルループ学習とダブルループ学習の区別の必要性を示唆する、一つの重要な結果であると考えられる。本研究はあくまでも雇用形態というデモグラフィック変数に基づく結果を示したのみであるため、この点についても、今後さらなる精緻な検討が必要であろう。

(2) 実践への示唆と今後の課題

本研究の実践への示唆として、組織コミットメントに基づく組織マネジメントの限界と、定期的なアンラーニングの制度化の可能性がある。主に経営学の研究において、組織コミットメントはマネジメント上重要な要因であり、それを高めることが実践上大きな価値を持つとされる(e.g., 鈴木,2013)。これは、内在化要素がシングルループ学習を促すという点や、存続的コミットメントのような功利的な成員性が学習を阻害するという点では、概ね正しいものと考えられる。しかし本研究の結果からは、内在化要素はダブルループ学習を促進するとはいえないこと、愛着要素はそもそもいずれの組織学習にも効果がないこと等、従来の理論の限界も示唆された。したがって、ただいたずらに組織コミットメントを促す、または良好な個人・組織間関係を構築するのみでは組織の競争力が維持されない可能性がある。これは仮説にとどまるものであるが、例えばこの問題は定期的なアンラーニングの制度化(e.g., 将来の可能性について網羅的に議論する機会を設ける、変革的な小集団活動や提案の評価、外部専門家による分析を行う)で乗り越えられるかもしれない。こうした定期的な制度見直しを制度化するという試みの重要性は先行研究でも提唱されている(e.g., Sheth, 2007 スカイライトコンサルティング訳 2008)。ダブルループ学習の促進プログラムを工夫し、体系化することによって、組織コミットメントに基づくマネジメントの限界を補完することが可能なのではないだろうか。

またダブルループ学習に対する雇用形態の効果が見られたことからは、職務の自由裁量と組織学習、ひいてはその先にある組織の成長の関係が垣間見える。昨今、飲食業の企業を中心に臨時雇用社員の正社員化の動きがあり(スターバックスコーヒージャパンなど)、その代表的な理由には安定的な労働力確保や従業員のモチベーション維持が挙げられている。しかし本研究の結果からは、こうした動きは上記理由にとどまらない効果を持つことが示唆される。すなわち、正社員化による自由裁量の向上は、単純なモチベーション向上を超え、組織全体の学習や変革の促進にも十分寄与することが期待される。これは本研究で得られた結果からの仮説にとどまるものであるが、雇用形態に関する新たな可能性を示すものとして一定の意義はあると考えられる。

以上のような理論的および実践的な意義の一方で、本研究で行った調査は探索的なものであり、研究としての精緻性には未だ不十分な点が多い。主な課題として、以下の点が挙げられる。

第一に、組織学習の尺度構成が完全なものではない点である。シングルループ学習の尺度については既存の研究において用いられた関連尺度を用いたが、ダブルループ学習の尺度については、必ずしも厳密な尺度構成の方法論に則って作成されたものではない。これは先行研究においては両組織学習が理論的にのみ区別されており、我々の知る限り実証的に区別されることがなかったことによるものである。したがって、測定項目の内容を精査し、またその妥当性についても、今後科学的かつ慎重な検討を重ねる必要がある。

第二に、内在化要素の効果がシングルループ学習においてのみ表れ、ダブルループ学習では消失する理由について、直接の検証を行うには至らなかった点である。この点については先述の通り、ダブルループ学習の概念の持つ特徴や内在化要素の機能について慎重に考慮したうえで、別途測定変数を追加する、または実験的な方法論を採用する等で再検討する必要がある。

以上のように、本研究からは組織学習に与える組織コミットメントの効果の限界を示したという大きな発見があった一方、探索的試みであったために同時に多くの課題が残される結果ともなった。こうした点を踏まえ、本研究で得られた結果について、仮説の精緻化を企図したさらなる研究が望まれるものである。

References
 
© 2015 The Japanese Society of Social Psychology
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