Japanese Journal of Social Psychology
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Suppression of support intention when crying behavior is perceived as intentional
Akiko YasuharaTakuma Takehara
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2022 Volume 38 Issue 1 Pages 9-15

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抄録

The social support hypothesis posits that emotional crying has a social function in eliciting support from others and is said to occur regardless of gender, culture, location, or emotional valence. However, if the crying behavior is perceived as having the intent to manipulate others, support is predicted to be inhibited; nevertheless, this has not been verified in practice. Therefore, in this study, we used a scenario to manipulate the presence or absence of crying behavior and the intentionality of crying behavior to test this prediction (n=44). The results demonstrated that when crying behavior was perceived as intentional, anger emotion was significantly higher, and support intention was significantly lower compared to not-crying and not-intentional crying, supporting the prediction. The results of this study indicate that not all types of crying elicit support, suggesting that there are exceptions to the social support hypothesis.

問題

人は悲しい時、嬉しい時、感動した時など、さまざまな感情を伴って涙を流す。このように、感情喚起によって生じる流涙を特徴とした行動は感情的な泣きと定義され、物理的刺激による流涙とは区別される(Patel, 1993)。感情的な泣きは、個人の感情経験にとって重要なだけでなく、コミュニケーションにおいて強力な対人シグナルとして働き、他者からサポートを引き出す社会的な機能を有する(Cornelius & Labott, 2001)。このような感情的な泣きの社会的な機能をZickfeld et al.(2021)はソーシャルサポート仮説と提唱し、泣いた出来事がポジティブかネガティブか、泣きが生じた場面が見知らぬ人を含む複数の他者が存在するパブリックな場か、1人でいる時や恋人、家族など重要な他者が存在するプライベートな場か、泣いている人物や観察者の性別が男性か女性かなどの要因によって多少の差が存在しても、感情的な泣きはサポートを引き出すことを彼らは実証している。このソーシャルサポート仮説と一致して、感情的な泣きの社会的機能を検証した研究では、泣いていない人物よりも、泣いている人物に対してサポート意図が高まるという一貫した結果が示されている(Balsters, Krahmer, Swerts, & Vingerhoets, 2013; Hendriks, Croon, & Vingerhoets, 2008; Hendriks & Vingerhoets 2006; Vingerhoets, van de Ven, & van der Velden, 2016; Zeifman & Brown, 2011)。

感情的な泣きには泣いている本人に社会的利益があるため、他者の反応を操作する目的で利用される可能性も指摘されている(Krivan & Thomas, 2020; Stadel, Daniels, Warrens, & Jeronimus, 2019; Vingerhoets & Scheirs, 2000)。このような、他者を操作し、向社会的な反応を促すために使われる不誠実な涙のことを、海外では「crocodile tears」と呼ぶ(Krivan & Thomas, 2020)。そこで、本研究では他者を操作する意図をもった涙を流す行動を、意図的な泣きと定義し、他者を操作する意図を意図性と定義した。感情的な泣きが利用される例として、Lefevre(2008)は裁判場面において弁護人が被告の刑の減軽を求めるため、被告に意図的な泣きをするよう促すことがあると論じている。さらに意図的な泣きは、日常場面でも見られる現象である。例えば、Simons, Bruder, van der Löwe, & Parkinson(2013)は他者の存在下における泣く理由の調査を行い、「他者の助けが必要だったから」という回答が全体の1/4を占めることを見出した。つまり、これは他者の前で感情的な泣きを行った人の一部は、実際には意図的な泣きであったことを示唆している。また、Simons et al.(2013)は、意図的な泣きが行われていたとしても、多くの場合その泣き行動は自発的感情によって生じた意図性をもたない泣きであると判断されると指摘しており、私たちが実際に気づいていなくても意図的な泣きを日常場面で目にしている可能性は高いと考えられる。

しかしながら、感情的な泣きが意図的な泣きであると他者に認識された場合、サポートは抑制される可能性がある。私たちは泣いている人物を見ても、その涙が自発的感情に由来するのか、あるいは意図的な泣きに由来するのかを正確に判断することはできない(van Roeyen, Riem, Toncic, & Vingerhoets, 2020)。ところが、いったんその泣きが「意図的な泣き」であると他者に認識されると、泣いている人物に対して否定的な評価が下されるばかりか(van Roeyen et al., 2020)、他者の行動にも影響を及ぼす可能性がある。例えば、Becker, Conroy, Djurdjevic, & Gross(2018)は、職場において泣き行動に意図性が感じられると周囲からのサポートは抑制されるという、職場の泣き行動における他者の反応モデルを考案した。このサポートの抑制は、泣いている人物に操られているという感覚が他者の怒り感情を喚起させ、その怒り感情がサポートを妨げる要因となる(Becker et al., 2018; Weiner, 1980)。しかし、この他者の反応モデルは先行研究の結果から推察された恣意的な予測であり、客観的データによる裏付けがなく、実証されているわけではない。換言すると、泣きが意図的な泣きであると認識された場合に、他者からのサポートが抑制されるのかどうか、未だによくわかっていない。

そこで本研究は、泣き行動に意図性が感じられた場合に、他者からのサポートが抑制されるというBecker et al.(2018)の主張が正しいかどうかを検証することを目的とした。本研究では、シナリオの文章によって泣きの有無と意図性の操作を行い、登場人物が泣かない「泣きなし」条件、登場人物が感情的な泣きをする「泣き」条件、登場人物が意図性のある泣きをする「意図的な泣き」条件を設定し、怒り感情とサポート意図を測定した。泣き行動がサポート意図を引き出す効果は多くの研究で実証されているため(e.g., Balsters et al., 2013; Zeifman & Brown, 2011)、本研究においても泣きなし条件と比較して、泣き条件はサポート意図が高いと予測した。しかし、泣き行動に意図性が感じられる場合はBecker et al.(2018)のモデルを支持し、意図的な泣き条件は、泣きなし条件および泣き条件と比較して怒り感情が強く喚起され、サポート意図は泣きなし条件と同程度、もしくはより低くなると予測した。

予備調査

予備調査は、本調査で使用するシナリオの種類を選定するため、およびシナリオの文章によって操作した泣き行動の意図性が期待通り機能しているかどうかを確認するために実施した。泣きなし条件では泣き行動が存在しないため、予備調査では泣き条件と意図的な泣き条件のシナリオを使用した。

方法

シナリオの作成

本調査の参加者が大学生であるため、大学生の生活にとって身近だと考えられるサークル、アルバイト、ゼミの3種類をシナリオの候補とした。また、泣いている男性は女性観察者と比較して、男性観察者からサポートを引き出す効果は小さいが、泣いている女性はサポートを引き出す効果の大きさに観察者の性別の影響を受けないため(Stadel et al., 2019)、シナリオに登場する人物はすべて女性とした。各シナリオは、女性が激しく怒られているところを目撃するという仮想場面を作成した(Table 1)。

Table 1 予備調査で使用したシナリオ
【泣き条件】
サークル
あなたはフットサルサークルに所属しています。今日はその大会です。
同じサークルに所属する女性が、先輩に激しく怒られていました。
そして、彼女は泣き始めました。
アルバイト
あなたはカフェでアルバイトをしています。
あなたが出勤したとき、学生バイトの女性が、店長に激しく怒られていました。
そして、彼女は泣き始めました。
ゼミ
あなたはゼミを受けるために大学に来ています。
あなたが教室に入ると、同じゼミの女性が、先生に激しく怒られていました。
そして、彼女は泣き始めました。
【意図的な泣き条件】
(泣き条件のシナリオの末尾に次の一文を加える)
彼女は以前から「泣くと周りの人が助けてくれるんだよね」とあなたに話していました。

泣きと意図性の操作

泣き条件では「そして、彼女は泣き始めました」という文を、意図的な泣き条件ではさらに、「彼女は以前から「泣くと周りの人が助けてくれるんだよね」とあなたに話していました」という文を、各シナリオの最後に挿入することで操作した。

予備調査参加者

予備調査の参加者は、参加に同意した大学生19名であった。回答に不備が認められた者を除外し、分析対象者は17名(男性7名、女性10名、平均年齢21.94歳、標準偏差0.97歳)であった。

手続き

オンライン調査プラットフォームのQualtricsを用い、調査を行った。参加者はシナリオを読んだ後、シナリオに登場する女性の泣き行動の意図性について6段階(1:全く意図性を感じない~6:非常に意図性を感じる)で評価した。回答に時間制限は設けなかった。

結果および考察

意図性の評価得点の平均値を、意図性条件(泣き・意図的な泣き)とシナリオの種類(サークル・アルバイト・ゼミ)ごとに算出した。意図性の操作の確認、およびシナリオの種類によって意図性の評価に違いがあるのかを確認するため、意図性の有無とシナリオの種類を独立変数、意図性の評価得点を従属変数とする2要因の分散分析を行った。その結果、意図性の主効果が有意であり(F(1, 16)=120.69, p<.001, η2=.88)、泣き条件(M=2.20, SD=0.74)よりも意図的な泣き条件(M=5.22, SD=0.92)の得点が有意に高かった。したがって、シナリオによる意図性の操作は期待通りの効果を有することが確認できた。また、シナリオの種類の主効果も有意だったが(F(2, 32)=3.43, p<.05, η2=.18)、交互作用は有意ではなかった(F(2, 32)=0.80, n.s., η2=.05)。シナリオの種類の主効果について多重比較(Bonferroni法)を行った結果、サークル(M=3.91, SD=0.62)はゼミ(M=3.53, SD=0.76)と比較して得点が有意に高く、アルバイト(M=3.68, SD=0.73)は他のシナリオと有意な差は認められなかった。

予備調査の結果から、すべてのシナリオで意図性の操作は期待する効果が確認されたが、シナリオの種類によって泣き行動の意図性の評価に違いが生じた。泣き条件における各シナリオの意図性評価得点の平均値はサークル2.53点(SD=1.01)、アルバイト2.12点(SD=1.05)、ゼミ1.94点(SD=0.97)であった。また、意図的な泣き条件では、サークル5.29点(SD=0.85)、アルバイト5.24点(SD=0.90)、ゼミ5.12点(SD=1.17)であり、いずれの条件でもサークルが最も高得点であったが、特に意図性の操作を行っていない泣き条件でシナリオの種類による差が大きかった。この理由として、コミュニティの種類の違いが考えられる。例えば、サークルであれば基本的に同年代の学生のみで構成されるコミュニティである。一方、ゼミは学生と教員、アルバイトは学生以外にパートタイマーや正社員など、年代も立場も異なる人たちで構成される。よって、サークルのみほぼ同質のコミュニティであることを考慮すると、泣き行動の意図性の評価にその影響が及ぶ可能性が考えられる。したがって、続く本調査ではサークルのシナリオを除外し、意図性の評価得点に有意な差が認められなかったアルバイトとゼミのシナリオを使用することとした。

本調査

方法

参加者

本研究のサンプルサイズはZickfeld et al.(2021)の効果量を参考に、効果量を中程度(f=0.25)、有意水準を5%、検出力を0.80とし、G*Power(Faul, Erdfelder, Lang, & Buchner, 2007)を用いて事前計算を行った。その結果、サンプル数を44名に決定した。したがって、本研究の参加者は同じ大学に所属する大学生44名(男性22名、女性22名、平均年齢19.14歳、標準偏差0.73歳)であった。

シナリオの修正

以下の理由により、泣きの操作と意図性の操作に修正が必要であると判断し、本調査では予備調査で選定されたシナリオの文章を一部修正して使用した。予備調査における泣きの操作は「そして、彼女は泣き始めました」という文によって行ったが、泣きという表現は涙を伴わない音声を主とした泣き行動も含まれる可能性がある。本研究における感情的な泣きの定義においては涙を流す行動が重要であるため、「そして、彼女は涙を流し始めました」という、より厳密な文に変更した。また、意図性の操作において予備調査では、「彼女は以前から、「泣くと周りの人が助けてくれるんだよね」とあなたに話していました」という文章によって行った。しかし、彼女の発言は「あなた」自身に発せられており、そのことを話した相手の前で涙を流しているため、この操作が単純に意図性の有無だけを操作するのではなく、泣き行動の効果を知っていることを自主的に打ち明けるという要素を含んでいる可能性がある。したがって、本調査では「あなたは以前、彼女が「涙を流すと周りの人が助けてくれるんだよね」と言っていたところをたまたま目撃しています」という、厳密な文に変更した。本調査で使用したシナリオはTable 2に示した。泣きの操作と意図性の操作においてシナリオの文章に修正を加えたことにより、予備調査と本調査ではシナリオの文章が一部異なっている。しかし、これはすべてのシナリオの種類に対して同様に修正を行っているため、予備調査で選定したアルバイトとゼミのシナリオを用いることに問題はないと判断する。

Table 2 本調査で使用したシナリオ
【泣きなし条件】
アルバイト
あなたはカフェでアルバイトをしています。
あなたが出勤したとき、同じアルバイトの女性が、店長に激しく怒られていました。
ゼミ
あなたはゼミの授業を受けるために大学に来ています。
あなたが教室に入ると、同じゼミの女性が、先生に激しく怒られていました。
【泣き条件】
(泣きなし条件のシナリオの末尾に次の一文を加える)
そして、彼女は涙を流し始めました。
【意図的な泣き条件】
(泣きなし条件のシナリオの末尾に次の二文を加える)
そして、彼女は涙を流し始めました。
あなたは以前に、彼女が「涙を流すと周りの人が助けてくれるんだよね」と言っていたところをたまたま目撃しています。

実験デザイン

独立変数は意図性条件(泣きなし・泣き・意図的な泣き)であり、参加者内要因とした。また、従属変数は怒り感情とサポート意図とした。

質問項目

(1)怒り感情

あなたはこの女性に対してどれくらい怒りを感じますか?という質問に対し7段階(0:全く感じない~6:非常に感じる)で評価を求めた。

(2)サポート意図

Zickfeld et al.(2021)の、サポート意図の3項目を使用した。各項目は「この女性に対して手助けしようとする」、「この女性が私を必要とするなら、そばにいる」、「私がこの女性をどれだけ受け入れているかを示す」であり、7段階(0:全くあてはまらない~6:非常にあてはまる)で評価を求めた。

手続き

オンライン調査プラットフォームのQualtricsを用い、調査を行った。最初に、シナリオに登場する「あなた」は参加者自身であること、またシナリオをよく読んで回答することを教示した。シナリオの数は、シナリオ2種類(アルバイト・ゼミ)×意図性3条件(泣きなし・泣き・意図的な泣き)の合計6個であった。参加者は6個すべてのシナリオを個別に読み、それぞれ質問に回答した。また操作チェック項目として、予備調査と同様に泣き条件と意図的な泣き条件のみ、泣き行動の意図性についても評価を求めた。シナリオの提示順序は、参加者間でカウンターバランスをとった。なお、本研究の実施前に、著者の所属学部における研究倫理委員会の承認を得た(承認番号:KH21087)。

結果

操作チェック

2種類のシナリオにおける意図性の評価得点の平均値を泣き条件、意図的な泣き条件ごとにまとめ、各条件の平均値とした。意図性の操作を確認するため、泣き条件および意図的な泣き条件の意図性評価得点の平均値に対して、対応のあるt検定を行った。その結果、平均値間に有意な差が認められた(t(43)=11.27, p<.001, d=1.71)。意図的な泣き条件(M=4.38, SD=1.34)は、泣き条件(M=2.11, SD=1.07)よりも、意図性の評価得点の平均値が有意に高く、意図性の操作による効果が確認された。

怒り感情とサポート意図

サポート意図は、測定した3項目の平均値をサポート意図得点(α=.82)とした。また2種類のシナリオに対する回答の平均値は意図性条件ごとにまとめ、各条件の平均値として処理し、その後の分析に使用した。意図性条件の違いによって、怒り感情とサポート意図に差が生じるかどうかを検証するため、独立変数を意図性条件(泣きなし・泣き・意図的な泣き)、従属変数を怒り感情およびサポート意図得点とする、対応のある1要因3水準の分散分析を従属変数ごとに行った。なお、予備調査においてアルバイトとゼミの間にシナリオの種類の違いによる効果はみられなかったため、本調査ではシナリオの種類は要因に含めなかった。自由度はGreenhouse-Geisser法で修正したものを使用し、多重比較はすべてBonferroniの修正を用いた。分析の結果、怒り感情において有意な主効果が認められた(F(1.19, 51.23)=49.73, p<.001, η2=.54)。多重比較の結果、意図的な泣き条件は(M=2.39, SD=1.72)、泣きなし条件(M=0.43, SD=0.69)および泣き条件(M=0.59, SD=0.77)と比較して、怒り感情が有意に高かった。また、サポート意図得点においても有意な主効果が認められ(F(1.20, 51.49)=64.25, p<.001, η2=.60)、多重比較の結果、意図的な泣き条件は(M=2.59, SD=1.25)、泣きなし条件(M=4.00, SD=1.00)および泣き条件(M=4.16, SD=0.96)と比較してサポート意図得点が有意に低かった(Figure 1)。

Figure 1 怒り感情とサポート意図の平均値と標準誤差

Note. ***p<.001

考察

本研究では、泣き行動に意図性が感じられた場合に他者からのサポートが抑制されるという、Becker et al.(2018)の主張を検証することを目的とした。1つ目の仮説は、泣きなし条件と比較して泣き条件はサポート意図が高くなるというものであった。2つ目の仮説は、泣き行動に意図性が感じられる意図的な泣き条件は、泣きなし条件ならびに泣き条件と比較して怒り感情が強く喚起され、サポート意図は泣きなし条件と同程度、もしくはより低くなるというものであった。結果として、泣き条件と泣きなし条件との間におけるサポート意図得点に有意な差は認められず、1つ目の仮説は支持されなかった。しかし、意図的な泣き条件は、泣き条件および泣きなし条件と比較して、怒り感情が有意に高くなった上にサポート意図得点は有意に低くなり、2つ目の仮説は支持された。

1つ目の仮説が支持されなかった理由として、本研究のシナリオ内容がネガティブな場面を記述したものであり、そもそもサポートの必要性が高かったことが考えられる。泣きがサポート意図を引き出す効果の大きさは、泣いていない人に対するサポート意図が基準となり、泣いている人に対するサポート意図がどの程度高まるかによって決定される。そして、泣きがサポートを引き出す効果の大きさは、泣きが生じた場面によって異なる可能性が示唆されており、ネガティブな場面よりもニュートラルな場面の方が、サポート意図を引き出す泣きの効果は大きい(Zickfeld et al., 2021)。ニュートラルな場面とは、レストランでサラダを食べている場面、コインランドリーで洗濯をしている場面といったように、登場人物が一般的に悲しみや喜びなど強い感情を喚起していないと考えられる場面を指す。一方、ネガティブな場面は、登場人物が悲しみや苦しみを感じている場面であり、サポートの必要性が高いと推測され、泣きが生じていなくても他者からサポートを引き出すため、泣きの効果が小さくなると推察される(Zickfeld et al., 2021)。本研究では、サポート意図得点は泣きなし条件、泣き条件ともに4点以上で中央値の3点を上回っており、両条件でサポート意図は十分に引き出されていたと考えられる。また、シナリオは他者が激しく怒られているところを目撃する設定であったため、怒られている他者が困窮していることが容易に想像され、泣き行動がなくてもサポート意図が高くなった結果、泣きなし条件と泣き条件との間に差が認められなかったと考えられる。

一方、泣き行動に意図性が感じられると怒り感情を強く喚起し、サポート意図が抑制されることが示され、2つ目の仮説、つまりBecker et al.(2018)の主張を支持した。この怒り感情の喚起は、Becker et al.(2018)が主張した他者に操作されているという感覚に対する怒り以外にも考えられる。大渕・小倉(1984)は、社会的規範に反する行為が強い怒り感情を誘発することを示した。意図的な泣きは他者を操作し自身の利益のために利用しようとする行為であり、向社会的行動の発出を促す不誠実な行動である(Krivan & Thomas, 2020)。換言すると、意図的な泣きは社会的規範に反し、人として誠実な行動とは考えにくい。したがって、他者に操作されているという感覚に加え、社会的規範に反する行為であることが意図的な泣き条件において、怒り感情が喚起された理由であると考えられる。さらに、本研究では泣きなし条件でサポート意図が生じていたにもかかわらず、意図的な泣き条件ではサポート意図が抑制された。この抑制効果は、所在や統制可能性といった他の原因帰属の次元よりも、意図性が顕著に他者の反応に影響を与えるとBecker et al.(2018)が予測したように、泣き行動の意図性は、泣いている人物に対するサポートを抑制する強い効果を有することが示唆された。また、怒り感情はサポート意図の抑制を促すことが示されており(e.g.,西川・高木,1989; Weiner, 1980)、本研究においても意図的な泣き条件の怒り感情が有意に高いことから、泣き行動の意図性によるサポートの抑制効果は、怒り感情に起因すると推察される。

また、泣き行動に意図性を感じる要因として、本研究で使用したサポートの必要性の高い場面であったことが影響している可能性も示唆される。本研究で使用した場面は、他者が目の前で激しく怒られている場面を目撃するというシナリオであり、サポートの必要性が高いと考えられる場面であった。したがって、シナリオの登場人物が他者からサポートを得たいというモチベーションが高いと推測される。そのため、泣き行動により意図性を感じる要素として今回の使用した場面が影響した可能性が考えられる。今後は、サポートの必要性が低い場面であっても、本研究の結果が再現されるか検証する必要がある。しかし、泣き行動に意図性を感じさせる要素としてサポートの必要性が高いという場面が影響するものの、泣き行動に意図性を感じると怒り感情の喚起とサポート意図が抑制されるという主張自体には影響しないものと考える。

さらに、他者が困窮している場面であっても意図的な泣きであると認識されるとサポート意図が抑制されるという結果はシャーデンフロイデと関係している可能性が示唆される。一般的に、人が他者の不幸な場面に遭遇すると同情し、サポート行動が生じる。しかし、逆説的だが時には「ざまあみろ」や「いい気味だ」と感じてしまうことがある。このような他者の不幸を喜ぶ感情はシャーデンフロイデと定義され(加藤・藤森,2021; Smith, 2013 澤田訳 2018)、シャーデンフロイデの喚起を促す要因として正義感があげられる。つまり、社会的に悪い行いをした人物に対して相応の不幸が生じた際に、シャーデンフロイデが生じやすくなる(加藤・藤森,2021; Smith, 2013 澤田訳 2018)。意図的な泣きは、先ほど述べたように人として不誠実な行動であり(Krivan & Thomas, 2020)、社会的正義に反する。したがって、本研究のシナリオのように他者が困窮していると想定される場面であっても、その他者が意図的な泣きをするという社会的正義に背く人物であった場合、シャーデンフロイデ感情が喚起されサポート意図が抑制された可能性がある。

本研究の結果から、感情的な泣きがサポート意図を引き出すというソーシャルサポート仮説には例外が存在する可能性が示された。ソーシャルサポート仮説では、泣くことが不適切と認識されても、泣いている人物へのサポート意図が、泣いていない人物よりも下回ることはないと主張されてきた(Zickfeld et al., 2021)。しかし、本研究では感情的な泣きであっても、意図性が感じられると泣いていない人物よりもサポート意図が抑制され、どのような泣きであっても、とにかく泣きさえすればサポートが引き出されるわけではないことが示唆された。しかし、本研究の結果はすべての場面において適用できるかは明らかではない。本研究ではアルバイトとゼミという場面を使用した。ソーシャルサポート仮説では一貫して泣きが生じた場面を問わず泣きがサポートを引き出すと主張されているが(Zickfeld et al., 2021)、泣き行動に意図性を感じるとサポートが抑制される可能性については職場という特定の場面に限定した議論がなされている(Becker et al., 2018)。本研究で使用したアルバイト場面は、人が仕事を行う物理的な場という意味合いで職場に相当する場面であると考えられる。一方、ゼミは職場とは異なるが、その場に複数の他者が存在する場面であり、これはZickfeld et al.(2021)の分類上、パブリック場面に相当すると考えられる。Zickfeld et al.(2021)は、見知らぬ人を含む複数の他者が存在する場をパブリック場面、1人でいるか恋人や家族など重要な他者が存在する場面をプライベート場面と分類し、泣きのサポートを引き出す効果を検証している。また、本研究では予備調査の結果に基づき、同質性の高いコミュニティと想定されるサークル場面を除いて検証を行った。したがって、本研究の結果はその場に複数の他者が存在し、かつ同質性の低いコミュニティ内において適用可能であると推察される。さらに、予備調査においてコミュニティの違いにより泣き行動の意図性の評価に差が示された点を考慮すると、本研究の結果が恋人や家族などの重要な他者が存在する場や友人など同世代のみで構成される場においても再現されるかは不明である。したがって今後は、プライベート場面や同質性の高いコミュニティ内において泣き行動に意図性が感じられた場合の他者の反応についても調査する必要がある。

最後に、本研究の今後の課題について述べる。本研究では、泣き行動の意図性が、怒り感情の喚起と、サポート意図を抑制する効果を有することが示された。しかし、どのようなプロセスでサポート意図の抑制や怒り感情の喚起が生じたかは明らかにできなかった。今後はBecker et al.(2018)で指摘されていたように操作されている感覚も測定し、泣き行動に意図性が感じられた場合に怒り感情の喚起とサポート意図の抑制が生じるプロセスの解明を行う必要がある。さらに、泣き行動におけるどのような側面が他者に意図性を感じさせるに至るのかは検証できなかった。また、サポート意図を抑制する要因として怒り感情との関係が示唆されたが、サポートの抑制には嫌悪や軽蔑、シャーデンフロイデなど、怒り感情以外の多様な感情の関与が考えられる(西川・高木,1989; Smith, 2013 澤田訳 2018; Weiner, 1980)。したがって、今後は泣き行動に意図性を感じさせる要因について検討すること、また泣き行動の意図性によって生じるサポートの抑制がどのような感情に起因するのか、複数の感情との関連も含め検討することが望まれる。

引用文献
 
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