Japanese Journal of Social Psychology
Online ISSN : 2189-1338
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ISSN-L : 0916-1503
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Development of the Multi-Dimensional Measure of Online Disinhibition and examination of its validity and reliability
Ruohan WenAsako Miura
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2023 Volume 39 Issue 1 Pages 1-14

Details
Translated Abstract

This study aimed to develop the Multi-Dimensional Measure of Online Disinhibition (MMOD), which has a multi-dimensional perspective on online disinhibitive psychological states and related cognitions, and to evaluate its validity and reliability. In Study 1, 73 items related to online disinhibition were generated from 20 semi-structured interviews. The wording of the items was modified repeatedly according to two preliminary surveys to construct a 25-item preliminary MMOD. In Study 2, 4- and 3-factor solutions were compared using exploratory and confirmatory factor analysis. Finally, a 3-factor structure (unique perspective on online environment, change of alienation cognition, and change of relationship cognition) with 12 items of the MMOD was confirmed. Correlation analysis with scales from previous studies showed that MMOD has good validity.

背景

「オンラインのような仮想世界では、人は現実社会ではしないようなことをしてしまう」という言説がよくある。例えば、対面場面ではあまり話さないような自分の秘密をオンラインで開示する人がいたり、匿名のSNSで炎上事件の渦中にある人に現実社会では到底口にできないような過激な批判をする人がいたりする。 Suler(2004)は、このようにオンラインで現実社会とは異なる振る舞いが現れる現象を「オンライン脱抑制効果(Online Disinhibition Effect)」によるものとして説明した。 Suler(2004)は、このオンライン脱抑制を2つに分類し、心理的な防御が弱まることで他人と打ち解け対人関係の問題解決につながるような場合を「良性的脱抑制(Benign Disinhibition, 以下、BDとする)」、実質的な懲罰を受ける恐れがないために攻撃的言動をするような場合を「有毒的脱抑制(Toxic Disinhibition, 以下、TDとする)」とした。また、脱抑制を導く要因としてオンライン環境とそれがもたらすComputer-Mediated Communication(以下、CMCとする)の6つの特質(「解離的匿名性(Dissociative Anonymity)」、「不可視性(Invisibility)」、「非同期性(Asynchronicity)」、「解離的想像性(Dissociative Imagination)」、「唯我独尊な取り込み(Solipsistic Introjection)」、「地位や権力の最小化(Minimization of Status and Authority)」)を挙げている( Barak et al., 2008; Suler, 2004)。CMCが人々の日常生活に浸透するとともに、 Suler(2004)によるオンライン脱抑制に関する理論は、オンラインでの人間の行動や心理の特徴を指摘するものとして、近年の行動・社会科学研究、情報学研究などで大いに存在感を放ってきた。Google Scholarによると、 Suler(2004)を引用している論文数は2021年11月13日現在で4,795件に達している。

しかし Suler(2004)は理論を提出する際、オンライン脱抑制について具体的で明確な定義を行っておらず、それゆえ後続研究におけるその定義は非常に多様なものになった。温・三浦(2022)は、これまでの先行研究のオンライン脱抑制の捉え方には、「発生」(主にSulerの指摘した6要因に源を発する、オンライン脱抑制効果を発生させるオンライン環境やCMCの客観的な性質)、「行動」(主にネットいじめ、ネット荒らし、オンラインでの自己開示といった具体的で典型的な行動)、そして、「発生」と「行動」の両者をつなぐオンライン脱抑制的な「心的状態」(個人において発生・経験する抑制が解除される心的状態)という3つの視点があり、視点によって構成概念の捉え方が異なることを指摘している。こうしたオンライン脱抑制の構成概念の錯綜は、測定ツールの開発を複雑な課題にさせる。

既存研究の限界点

オンライン脱抑制の測定を試みた研究の端緒は Schouten et al.(2007)である。この研究で測定されたのは、オンライン脱抑制を「ある行動を取るかどうかが意識的にコントロールされていない心理状態」(本稿における「心的状態」はこのことを指す)という視点で捉え、その認知を問う3項目(例えば、「インスタントメッセンジャーでは、対面より言葉遣いの制限が少ないと感じる」)からなる尺度である。その後 Udris(2014)は、 Suler(2004)によるオンライン脱抑制理論を踏まえた2因子11項目のOnline Disinhibition Scale(以下、ODSとする。日本語版のODS: Table S1)を作成し、脱抑制とネットいじめとの相関関係を示した。近年、オンライン脱抑制の測定において最も頻繁に使用されているのはこのODSである。しかしODSには、(a)オンライン脱抑制の概念定義が明確でない、(b)項目にダブルバーレルが含まれている、といった問題点がある( cf., Stuart & Scott, 2021; 温・三浦,2022)。例えば、ODSの「インターネットは匿名なので、本音や感じたことを表現しやすい」という項目では、「匿名」というオンライン環境の客観的な特徴と「本音や感じたことを表現しやすい」という結果が混在してしまう。近年、匿名性などのオンライン環境の特徴は必ずしもオンライン脱抑制、あるいは脱抑制的行動につながらないと指摘した研究もあり( e.g., Lapidot-Lefler & Barak, 2012; Lapidot-Lefler & Barak, 2015)、それに対して、 Stuart & Scott(2021)はオンライン環境の特徴や脱抑制的行動などとオンライン脱抑制それ自体を弁別した上で、オンライン脱抑制を捉える重要性を強調している。

この状況を踏まえ、 Stuart & Scott(2021)は、 Udris(2014)とは異なりオンライン脱抑制に明確な定義を与え、 Schouten et al.(2007)より多面的な尺度を作成した。彼女らが作成したのは、 Schouten et al.(2007)と類似した「オンライン環境で人が経験・知覚する抑制の低下という心的状態」というオンライン脱抑制の定義に基づく、1因子12項目のMeasure of Online Disinhibition(以下、MODとする:Table S2)である。そして、ネット荒らしやオンラインでの自己開示との正の関係を見いだしてこの尺度の構成概念妥当性を確認した。MODは、ODSと非常に強い相関関係を持ちながら、ダブルバーレル問題を解決し、また明確な概念定義に基づくものである。

しかし、MODは的確にオンライン脱抑制的な心的状態を測定できる尺度である一方で、次のような限界点もある。MODの項目は、20名の参加者による8回のグループディスカッションを通して把握したオンライン脱抑制の実態に基づいて作成されたが、その構成概念が「心的状態」であること(つまり、「心的状態」と見なしえないものを一切排除すること)を追究したために、最終的な項目は非常にシンプルなものになった。MODの半数程度の項目は「オンラインの方がオフラインよりタフ/用心深くない/自己主張が強い/競争心が強い/自信がある/外向的である」かどうか、残る半数の項目はおおむね「オンラインではオフラインと振る舞いや言い方が違う」かどうかを問うている。このようなシンプルな内容は、ほぼODSの良性的脱抑制因子のみを踏襲した単一因子構造であるのに加えて、人をオンライン脱抑制的な心的状態に至らしめる具体的な認知変化の過程についての言及を含んでいない。 Suler(2004)によれば、CMCの特徴がオンライン脱抑制的な心的状態をもたらす過程は、コミュニケーション環境の変化によるさまざまな社会的事象に対する認知の変化を伴うと考えられる。単一因子構造のMODにはこうした認知の変化の記述がなく、オンライン脱抑制的な心的状態に関する検討を深めることが難しくなる可能性がある。

具体的には次の通りである。 Suler(2004)を踏まえると、現実世界では人々は自らの社会的アイデンティティに従って振る舞うが、匿名のオンライン環境に入ると、社会的アイデンティティに関する認知が曖昧になるので脱抑制につながる。あるいは互いの姿が見えないCMCでは、自らの外見や声を表出することそのものや、相手からの反応に懸念を抱く必要がないので、意見の表出が促進される( Suler, 2004)。自らの社会的アイデンティティや、自分に対する他者からの反応などに関する意識といった社会的事象に対する認知が、現実の場面では人の行動を抑制する役割を果たしているが、オンライン環境ではそれらの抑制が効かなくなる( cf., 温・三浦,2022)。認知による行動抑制機能の解除(つまり自らの社会的アイデンティティに縛られなくなること、あるいは、外見や声への懸念、相手の反応への懸念が払拭されることなど)は、オンラインコミュニケーションにおいてより自己主張が強い/自信がある/外向的である(つまり、MODが測定するものの)ようにさせる可能性があるが、ただ表層的な心理状態の変化を問う項目からなる単一因子構造のMODでは、どのような認知による行動抑制機能の解除が発生するかを具体的に検討できない。

実際、上記の社会的アイデンティティや自らの外見と声への懸念などにとどまらず、社会的事象に対するさまざまな認知(例えば、公的自己意識、社会規範意識など)が日常的な行動を抑制する役割を果たしている(温・三浦,2022)。つまり、こうした認知による行動抑制機能の変化という視点から見れば、オンライン脱抑制的な心的状態は複数次元にわたる可能性があると考えられる。MODを作成した Stuart & Scott(2021)もこの点を指摘している。したがって、より深くオンライン脱抑制的な心的状態を検討するためには、MODの構成概念が表す心的状態の深層に、どのような社会的事象に対する認知の変化があるかを考察する必要がある。

以上の議論より、本研究ではオンライン脱抑制的な心的状態とそれに関連する認知の多次元構造を探索し、多次元オンライン脱抑制尺度(Multi-Dimensional Measure of Online Disinhibition: MMOD)を開発する。具体的には、温・三浦(2022)による「心的状態」の捉え方に基づき、 Stuart & Scott(2021)の研究を参考にしながら、人の社会的事象に対する認知の視点を加味して、オンライン脱抑制を「オンライン環境において、さまざまな社会的事象への認知の持つ行動抑制機能が弱まったり消えたりする心的状態」と定義する。まず研究1では、上記の公的自己意識や社会規範意識などを含む脱抑制に関わる社会的事象の認知をなるべく広範囲に探索する。そして研究2では、オンライン脱抑制的な心的状態に関わるさまざまな社会的事象の認知を最大限反映した尺度を作成して、妥当性と信頼性を検討する。

研究1 予備尺度作成

概要

研究1では、ネット利用者を対象とする半構造化インタビューを通じて脱抑制に関わる社会的事象の認知をできる限り幅広く探索した上で、それらを踏まえてオンライン脱抑制的な心的状態を測定しうる項目をできるだけ多く作成する。そして、複数回の調査を経て予備尺度を構成する。

半構造化インタビューと項目作成・翻訳

ネット利用経験を持つ一般市民を対象として、オンライン環境における経験や行動について半構造化インタビューを行った。前半では、参加者の基本的なネット利用状況を尋ね、利用頻度の高い場面について具体的なエピソードを聴取した。後半では、あらかじめ設定したオンライン脱抑制現象が多発する場面を描写した複数のシナリオ(Table S3)のうち、前半で聴取した各参加者のネット利用状況を踏まえて想像しやすいと考えられるテーマを2つ程度選択し、その場面に遭遇したらどのような行動をするか、どのようなことを考えるかを聴取した。

インタビューを依頼したのは第1著者の知己の中国人ネット利用者4)で、2021年1月4日から3月2日に20名(うち女性11名、日本在住の留学生4名、 Mage=22.14, SD=3.08)に対してインタビューを行った。実施時間は1時間程度とし、謝礼は30から50人民元(450円から750円相当)/1時間とした。この金額は2020年上海市の最低時給(22人民元)を参照して決めたものである。インタビュー調査は中国で一般的に利用されている即時通信ツール「QQ」を使用し、オンライン・音声のみで実施した。

文字起こししたデータの内容分析に際しては、「脱抑制的行動」と「オンライン環境の特徴」を厳密に区別しながら、心的状態としてのオンライン脱抑制に関わる社会的事象の認知を抽出した。膨大なデータをなるべく効率よく、ただし重要な側面の取りこぼしのないよう精査するために、先行研究を参考にして、オンライン脱抑制的な心的状態に関する認知の種類について、あらかじめ8つのカテゴリーを便宜的に設定し分類を行った。ただしこれは、オンライン脱抑制的な心的状態の多次元や尺度の下位因子として想定したものではない。8つのカテゴリーはそれぞれアイデンティティに関する認知の低下( cf., Suler, 2004)、社会的ネットワークに関する認知の低下( cf., Suler, 2004; Wu et al., 2017)、現実モードの低下( cf., Suler, 2004)、不道徳認知の低下( cf., Paciello et al., 2020)、行動の制御可能性( cf., Schouten et al., 2007)、社会的リアリティの低下( cf., Schouten et al., 2007; Suler, 2004)、思いやりの低下( cf., Terry & Cain, 2016)、疎遠さ認知の低下( cf., Suler, 2004)である。

内容分析結果に基づき、予備尺度項目を作成した。まず中国語話者である第1著者が中国語で73項目(各カテゴリーにつき7から15項目)を作成した。次に、第1著者は中国語の項目を日本語に翻訳し、本研究の目的と手続きを知らない一方で、中国語が母語で、日本語かつ校閲なしで博士学位論文を執筆した経験を持つ社会心理学者による逆翻訳を経て、日本語の表現の妥当性を検討し確認した。その際、日本語話者である第2著者がすべてのインタビューログの日本語訳を確認して、中国に特有で日本にはないサービスや利用規制などについての言及が項目に含まれないようにした。さらに、第2著者および複数の社会心理学者の意見と合わせて、日本語表現がより自然なものとなるように修正した。いずれにおいても、汎用性の高い尺度を目指して、オンライン脱抑制の発生場面を限定する表現をなるべく含まないようにした。

予備尺度項目の修正

第1回予備調査

第1回予備調査では、内容分析に基づいて作成した項目が心理尺度として適切かどうかを検討し、必要な修正を行う。判断基準は、多数の参加者にとって答えやすいことと、天井効果や床効果がないことである。項目数が非常に多いため、回答者の負担を軽減し、努力の最小限化(三浦・小林,2018)を抑止することを意図して、全73項目をランダムに項目セットA(37項目)と項目セットB(36項目)に分け、参加者をいずれか1つにランダムに割り当てることにした。調査票の構成は以下の通りである(本研究のすべての調査のプレビューURLは付録Table S5に記載する)。以降すべての調査において、複数項目からなる心理尺度の項目は、参加者ごとにランダムな順番で呈示した。

  • 1. 調査主旨を説明し参加同意を求めた。
  • 2. 回答者の日常生活においてネット利用が占める割合を「1. ほとんどない」から「10. ほぼすべて」の10件法で回答を求めた。次に、ネットだけで連絡を取る友人の有無、ネット上でトラブルの当事者になった経験の有無を尋ねた。トラブルを経験したことがある回答者には、具体的内容の記述を求めた。以下ではこれらをまとめて「ネット利用状況」とする。
  • 3. オンライン脱抑制予備尺度項目の項目セットAあるいはBの各項目に、「1. まったくそう思わない」から「6. 非常にそう思う」の6件法で回答を求めた。回答者の認知を問うことを意図した質問であることを明示するために、「ある特定の場面や人を限定せずに、あなたは普段どう思うかをお答えください。他の人たちがどう思うかは考慮せずに、あなたご自身のお考えでお答えください。」と教示した。それ以外に、回答者のネット利用状況に合致しないなど判断が難しい項目は「自分には該当しない」を、日本語が理解しにくい項目は「項目の意味が分からない」を選択するよう求めた。なお、努力の最小限化(三浦・小林,2018)状況を確認する注意力チェック項目(「ここでは必ず『そう思う』を選択してください。」)を各セットに1項目含めた。この項目で「そう思う」以外の回答を選択した回答者のデータは分析対象から除外した。
  • 4. パーソナリティとの関連を探索的に検討するため、TIPI-J(小塩他,2012)を使用してBig Fiveを測定した。10項目に「まったく違うと思う」から「強くそう思う」の7件法で回答を求めた5)
  • 5. 年齢、性別、最終学歴に回答を求めた。
  • 6. 意見や質問の自由記述を求めた。

2021年7月6日に、クラウドソーシング事業者(株式会社クラウドワークス:以下、事業者とする)に業務委託し、18歳以上の日本語話者を対象として1,000名を募集した。回答所要時間は12分程度と想定し、謝礼は100円6)とした。項目セットAについて553名、項目セットBについて551名が調査票にアクセスし、回答に着手した。回答を途中でやめたもの、注意力チェック項目で誤答したもの、性別や年齢が報告されていないもの、すべて回答が同じ選択肢だったものをリストワイズ削除し、項目セットAは501名(うち女性316名、 Mage=40.93, SD=10.38)、項目セットBは494名(うち女性298名、 Mage=40.04, SD=10.39)のデータを分析対象とした。

本研究のデータ分析には清水(2016)によるHADon17_202を使用した。「項目の意味が分からない」あるいは「自分には該当しない」を回答した割合が10%を超えないという基準で項目の答えやすさを、平均値+1 SD>6あるいは平均値−1 SD<1という基準で項目の天井効果あるいは床効果の有無を検討した結果、8項目を削除した。また、答えにくい項目に対して、より簡潔で平易な表現に修正した。

第2回予備調査

第2回予備調査では、第1回予備調査を経て修正・選定された65項目について再度データを収集し、因子分析によってその構造を探索的に検討した上で、オンライン脱抑制予備尺度を作成する。第1回調査票から、削除された8項目とTIPI-Jを除外したものを第2回予備調査票とした。

因子分析を実施するための適切なサンプルサイズは、「最低数は100で、できるだけ多く」( cf., Gorsuch, 1983; 清水,2018)を参考に500とした。2021年8月20日から21日に、事業者に業務委託して回答者を募集した。以降のすべての調査において、それ以前に実施した調査の参加者は対象から除外した。回答所要時間は20分程度と想定し、謝礼は168円とした。合計547名が調査票にアクセスし回答に着手した。第1回予備調査と同じ基準で合計23名のデータをリストワイズ削除し、524名のデータ(うち女性362名、 Mage=41.04, SD=11.53)を分析対象とした。そして、項目の答えやすさと天井効果/床効果の有無を検討し、基準に抵触した2項目は表現を修正した。

次に、探索的因子分析(最尤法・プロマックス回転)を行って、構造を検討した。項目作成時に用いたカテゴリーを踏まえた8因子解の他、5、6、7因子解の探索的因子分析を行い、どの解でもすべての因子負荷量の絶対値が.35未満となった15項目、事前の想定とは異なる方向の因子負荷量を示した1項目を削除した7)。そして、残された49項目から、概念構成上の重要性と回答しやすさを基準としてカテゴリーごとに2から5項目を抽出し、25項目をオンライン脱抑制予備尺度( Table 1)とした。

Table 1 オンライン脱抑制予備尺度(研究1)
以下の項目は、ネット社会やネット上での発言や行動に関するさまざまな考え方を示したものです。
それぞれの項目について、ある特定の場面や人を限定せずに、あなたは普段どう思いますか。他の人たちがどう思うかは考慮せずに、あなたご自身のお考えでお答えください。
項目 カテゴリー
MMOD1 ネット上で何をしても現実の自分のイメージには影響しにくい。 アイデンティティに関する意識の低下(2)
MMOD2 ネット上での発言や行動は、現実社会での身分や地位に縛られることは少ない。
MMOD3 ネット上では、たとえ良くないことをしたと思っても、それほど大きな罪悪感を抱かない。 不道徳認知の低下(6)
MMOD4 ネット上では、現実社会では守れるようなモラルを守れない時もある。
MMOD5 ネット上の人間関係は希薄なので、いつでもそこから抜け出すことができる。 社会的ネットワークに関する意識の低下(6)
MMOD6 ネット上の人間関係には浅いものが多く、深いつながりはあまりない。
MMOD7 ネット上でできる友人や知り合いは、現実社会では接点がなさそうな人がほとんどだろう。
MMOD8 ネット上で他の人に好き勝手なことを言っても仕返しされることはないだろう。
MMOD9 ネット上では、流行している人や物を自由に批評することができる。 社会的リアリティの低下(3)
MMOD10 ネット上では、ものごとの善悪の判断が現実社会ほど複雑ではない。
MMOD11 ネット上では、人や物の流行を自分の思い通りに動かすことができる。
MMOD12 現実社会よりネット上の方が、自分の期待に沿う人に多く出会える。 疎遠さ認知の低下(8)
MMOD13 ネット上で接している人たちは、現実社会の知り合いより自分と似た価値観を持っていると感じる。
MMOD14 ネット上には、現実社会での挫折や苦しみを理解してくれる人がいる。
MMOD15 ネット上で見知らぬ人たちに親近感を抱くことはない。(逆転項目)
MMOD16 ネット上のパブリックな場所での発言や行動が、他人に不快感を抱かせないようにといつもよく考えている。(逆転項目) 思いやりの低下(8)
MMOD17 ネット上では、自分の発言や行動が友人や知り合いとの関係にどう影響するかを常に気にしている。(逆転項目)
MMOD18 ネット上で見知らぬ人にDMすることになったら、相手の迷惑になるかどうかを考える。(逆転項目)
MMOD19 ネット上で発言したり行動したりする時、いつも家族がどう思うかを気にかける。(逆転項目)
MMOD20 ネット上で私の発言や行動を誤解する人がいても仕方がない。
MMOD21 ネット上では、現実社会のさまざまな制約を受けずに自分の好きなようにふるまうことができる。 現実モードの低下(7)
MMOD22 ネット上では、現実社会とは異なるルールに従って行動することがある。
MMOD23 現実社会では見せたくないような自分の一面でも、ネット上では出せる場所がある。
MMOD24 ネット上で対話している時の自分の状況は、相手には分からないだろう。 行動の制御可能性(9)
MMOD25 ネット上では、相手との関係を続けたくないと思ったら、いつでも終わりにすることができる。

注)MMOD: Multi-Dimensional Measure of Online Disinhibition。「カテゴリー」列のカッコ内の数値は、抽出前の項目数、すなわち探索的因子分析を経て残された49項目が各カテゴリーに含まれていた数である。

研究2 尺度作成および妥当性と信頼性の検討

概要

研究1で作成したオンライン脱抑制予備尺度を基に、より洗練された尺度を作成し、妥当性と信頼性を検討する。複数回の調査を行い、いくつかの因子構造を探索し、確認的因子分析で適合度を比較しながら最終的な尺度の確立を目指す。妥当性は、収束的妥当性(各因子の平均分散抽出(Average Variance Extracted, 以下、AVEとする)による検証、これまでオンライン脱抑制の尺度として幅広く使用されてきたODSの日本語版( Udris, 2016)との相関関係による検証)、弁別的妥当性(AVEと因子間相関の平方との比較による検証)、および本尺度作成のベースとしたMOD( Stuart & Scott, 2021)との相関関係による基準関連妥当性(併存的妥当性)を検討し、信頼性は各因子の内的整合性(α係数)と合成信頼性(Composite Reliability, 以下、CRとする)を検討する。

第1回調査

まず第1回調査では探索的因子分析を行い、さらなる項目選択を行うとともに、尺度の因子構造を定めるための手がかりを得る。

調査票の構成

調査票は次のような構成とした。

  • 1. 調査主旨を説明し参加同意を求めた。
  • 2. ネット利用状況に回答を求めた。
  • 3. オンライン脱抑制予備尺度25項目に、予備調査と同じ教示を与えて「1. まったくそう思わない」から「6. 非常にそう思う」の6件法で回答を求めた。回答者のネット利用状況に合致しないなど判断が難しい項目には、なるべく想像して回答するよう求め、それでも回答不能な場合は「分からない」を選択するよう依頼した。また、注意力チェック項目1項目を含めた。
  • 4. MOD( Stuart & Scott, 2021)を第1著者の許可を得て全12項目を日本語に翻訳したものに「1. まったく当てはまらない」から「5. 非常に当てはまる」の5件法で回答を求めた。
  • 5. 日本語版ODS( Udris, 2016)全11項目に「1. 当てはまらない」から「4. 当てはまる」の4件法で回答を求めた。
  • 6. 年齢、性別、最終学歴に回答を求めた。
  • 7. 意見や質問の自由記述を求めた。

参加者

2021年9月10日に、事業者に業務委託し、500名程度の参加者を募集した。回答所要時間は11分程度と想定し、謝礼は100円とした。合計539名が調査票にアクセスし、回答に着手した。研究1と同基準で合計71名のデータをリストワイズ削除し、468名のデータ(うち女性316名、 Mage=38.26, SD=10.90)を分析対象とした。

結果

天井効果や床効果に該当する項目はなかった。そこで、全項目を対象に探索的因子分析(最尤法・プロマックス回転)を行った。予備尺度が含む構成概念を考えながら、スクリー・プロット(Figure S1)を参考に、4因子解と5因子解を検討したが、5因子解は不適解となったので、4因子解を採用した。そして、全因子に対する因子負荷量の絶対値が.40未満となった5項目(MMOD2, MMOD7, MMOD20, MMOD22, MMOD24)を削除した。

残された20項目に対して、再び4因子解の因子分析を行ったところ、単純構造(すべての項目がある1つの因子に.40以上の因子負荷量の絶対値を持つ一方で他の3因子に.40以上の因子負荷量の絶対値を持たない構造)が得られた。次に、回答者の負担を考慮して、項目数を必要最小限にするために、予備尺度作成時の想定構成概念との対応などを考慮しながら、3項目—MMOD15(二重否定を含み、直感的には答えにくい)、MMOD10(表現の抽象度が高い)、MMOD4(内容が類似するMMOD3より因子負荷量の絶対値が低い)—を削除した。

さらに17項目を対象に4因子解の探索的因子分析を行い、因子負荷量の絶対値が.40未満の2項目(MMOD9, MMOD18)を削除して再度4因子解の探索的因子分析を行った結果、 Table 2の構造(以下、構造Aとする)を得た。ここでも単純構造が得られたが、MMOD16は因子1への負荷量も比較的高く、多重負荷の可能性がある。そこで第2回調査を行い、新たなサンプルによるデータで構造Aに基づく確認的因子分析を行い、因子構造の妥当性を確認する。

Table 2 オンライン脱抑制予備尺度の探索的因子分析(構造A、研究2)
項目 因子
F1 F2 F3 F4
MMOD8 ネット上で他の人に好き勝手なことを言っても仕返しされることはないだろう。 .69 −.07 −.01 .04
MMOD3 ネット上では、たとえ良くないことをしたと思っても、それほど大きな罪悪感を抱かない。 .65 .03 .01 −.06
MMOD1 ネット上で何をしても現実の自分のイメージには影響しにくい。 .53 −.07 .05 −.02
MMOD21 ネット上では、現実社会のさまざまな制約を受けずに自分の好きなようにふるまうことができる。 .49 .13 .09 .04
MMOD11 ネット上では、人や物の流行を自分の思い通りに動かすことができる。 .45 .11 −.04 .19
MMOD13 ネット上で接している人たちは、現実社会の知り合いより自分と似た価値観を持っていると感じる。 −.02 .72 .01 .00
MMOD12 現実社会よりネット上の方が、自分の期待に沿う人に多く出会える。 .09 .67 −.07 −.06
MMOD14 ネット上には、現実社会での挫折や苦しみを理解してくれる人がいる。 −.09 .53 −.02 .05
MMOD23 現実社会では見せたくないような自分の一面でも、ネット上では出せる場所がある。 .12 .51 .03 −.03
MMOD5 ネット上の人間関係は希薄なので、いつでもそこから抜け出すことができる。 .03 .01 .81 .00
MMOD25 ネット上では、相手との関係を続けたくないと思ったら、いつでも終わりにすることができる。 −.01 .09 .73 −.07
MMOD6 ネット上の人間関係には浅いものが多く、深いつながりはあまりない。 .04 −.21 .45 .08
MMOD17 ネット上では、自分の発言や行動が友人や知り合いとの関係にどう影響するかを常に気にしている。(逆転項目) −.01 .08 −.02 .69
MMOD19 ネット上で発言したり行動したりする時、いつも家族がどう思うかを気にかける。(逆転項目) .19 −.12 −.04 .62
MMOD16 ネット上のパブリックな場所での発言や行動が、他人に不快感を抱かせないようにといつもよく考えている。(逆転項目) −.34 .06 .12 .43
因子間相関1 .21 .30 −.49
2 .00 −.10
3 −.23

注)MMOD: Multi-Dimensional Measure of Online Disinhibition

第2回調査

調査票の構成と参加者の募集

第1回調査票のオンライン脱抑制予備尺度から、探索的因子分析で削除された10項目を除外したものを第2回調査票とした。2021年9月17日から19日に、事業者に業務委託し、500名を募集した。回答所要時間は8分から10分程度と想定し、謝礼は91円とした。合計567名が調査票にアクセスし、回答に着手した。第1回調査と同じ基準で合計92名のデータをリストワイズ削除し、475件のデータ(うち女性310名、 Mage=36.76, SD=10.53)を分析対象とした。

結果

構造Aに基づく確認的因子分析を行った結果(Table S4)、適合度指標はCFIが.85(>.90, cf., Harrington, 2009)、GFIが.91(>.90, cf., 狩野・三浦,2020)、AGFIが.87(>.90, cf., Bagozzi & Yi, 1988)、RMSEAが.08(0.077…<.08, cf., Harrington, 2009; Lai & Green, 2016)、AICが393.94、BICが543.82、CAICが543.89で、AGFIとCFI以外の指標は大まかには許容範囲内にあった。収束的妥当性と弁別的妥当性を検討するため、AVEを算出したところ、第1因子から順に.32, .45, .48, .30といずれも収束妥当性の基準とされる.50を下回った。一方で、どの因子間相関の平方(最大値:第1因子と第4因子の相関係数の平方.27)をも上回ったので、弁別的妥当性は認められた( cf., Fornell & Larcker, 1981)。各因子の内的整合性(α係数)は.68、.75、.69、.56、CRは.69、.76、.72、.56で全体的に低く、特に第4因子でかなり低かった。

さらに、ここで改めて項目内容を検討し、第4因子の2項目(MMOD17とMMOD19)に問題点があると考えた。それは、両項目は、ネット上での発言や行動に回答者の現実社会のソーシャルネットワークがどの程度影響するかを尋ねるものであるため、回答者ごとに想定する状況が異なる可能性があるという点である。そこで、改めて第1回調査と第2回調査を合併した943件のデータを分析対象として、MMOD17とMMOD19を削除した13項目を対象に3因子解の探索的因子分析を行った。因子負荷量の絶対値が.40未満となったMMOD11を削除した12項目を対象に再度3因子解の探索的因子分析を行った結果、 Table 3に示す構造(以下、構造Bとする)を得た。そこでこの構造Bの妥当性を確認するために再度データを収集し、構造Aと構造Bを比較しながら、最終的な因子構造を確定させることにした。

Table 3 オンライン脱抑制予備尺度の探索的因子分析(構造B、研究2)
項目 因子
F1 F2 F3
MMOD3 ネット上では、たとえ良くないことをしたと思っても、それほど大きな罪悪感を抱かない。 .73 .02 .02
MMOD8 ネット上で他の人に好き勝手なことを言っても仕返しされることはないだろう。 .64 −.07 −.03
MMOD16 ネット上のパブリックな場所での発言や行動が、他人に不快感を抱かせないようにといつもよく考えている。(逆転項目) −.55 .10 .14
MMOD1 ネット上で何をしても現実の自分のイメージには影響しにくい。 .47 .03 .11
MMOD21 ネット上では、現実社会のさまざまな制約を受けずに自分の好きなようにふるまうことができる。 .43 .21 .09
MMOD13 ネット上で接している人たちは、現実社会の知り合いより自分と似た価値観を持っていると感じる。 −.05 .74 −.04
MMOD12 現実社会よりネット上の方が、自分の期待に沿う人に多く出会える。 .05 .70 −.04
MMOD14 ネット上には、現実社会での挫折や苦しみを理解してくれる人がいる。 −.13 .61 −.03
MMOD23 現実社会では見せたくないような自分の一面でも、ネット上では出せる場所がある。 .12 .52 .04
MMOD5 ネット上の人間関係は希薄なので、いつでもそこから抜け出すことができる。 −.04 −.01 .86
MMOD25 ネット上では、相手との関係を続けたくないと思ったら、いつでも終わりにすることができる。 −.04 .11 .71
MMOD6 ネット上の人間関係には浅いものが多く、深いつながりはあまりない。 .06 −.25 .48
因子間相関1 .26 .40
2 .13

注)MMOD: Multi-Dimensional Measure of Online Disinhibition

第3回調査

調査票の構成と参加者の募集

第2回調査票のオンライン脱抑制予備尺度から3項目(MMOD11, MMOD17, MMOD19)を除外したものを第3回調査票とする。2021年9月23日に、事業者に業務委託し、500名を募集した。回答所要時間は7分から8分程度と想定し、謝礼は82円とした。合計550名が調査票にアクセスし、回答に着手した。これまでと同基準で合計87名のデータをリストワイズ削除し、463名のデータ(うち女性301名、 Mage=36.06, SD=9.78)を分析対象とした。

結果

構造Bに基づく確認的因子分析を行った結果を Table 4に示す。適合度指標はCFIが.87、GFIが.94、AGFIが.90、RMSEAが.08、AICが255.70、BICが367.42、CAICが367.48であった。つまり、構造Aを検討した際と同じ基準で構造Bも許容範囲内にもあり、さらに総合的に見て適合度指標が構造Aよりややよい( Table 5)。第1因子から順に、各因子のAVEは.33、.43、.43で、やはり収束妥当性の基準値の.50を下回ったが、どの因子間相関の平方(最大値:第1因子と第3因子の相関係数の平方.13)をも上回ったので弁別的妥当性は認められた。また、各因子のα係数は.69、.74、.66、CRは.70、.75、.68であった。これらを前述の構造Aと比較して、構造Bを多次元オンライン脱抑制尺度の最終的な因子構造とした。そして3つの因子を、インタビューの内容分析と予備尺度項目作成時に設定したカテゴリーを参考にした上で、それぞれどのような社会的事象の認知が変化するのかをよく表現できるよう勘案して、第1因子「オンライン環境の特別視」、第2因子「疎遠さ認知の変化」、第3因子「つながり認知の変化」と命名した。

Table 4 構造Bに基づく確認的因子分析の因子負荷量(研究2)
項目 因子 Mean SD
F1 F2 F3
MMOD3 ネット上では、たとえ良くないことをしたと思っても、それほど大きな罪悪感を抱かない。 .67 2.38 1.15
MMOD8 ネット上で他の人に好き勝手なことを言っても仕返しされることはないだろう。 .65 1.98 0.93
MMOD1 ネット上で何をしても現実の自分のイメージには影響しにくい。 .56 4.82 0.89
MMOD21 ネット上では、現実社会のさまざまな制約を受けずに自分の好きなようにふるまうことができる。 .53 2.79 1.11
MMOD16 ネット上のパブリックな場所での発言や行動が、他人に不快感を抱かせないようにといつもよく考えている。(逆転項目) −.41 3.23 1.22
MMOD12 現実社会よりネット上の方が、自分の期待に沿う人に多く出会える。 .77 3.59 1.10
MMOD13 ネット上で接している人たちは、現実社会の知り合いより自分と似た価値観を持っていると感じる。 .72 3.40 1.15
MMOD14 ネット上には、現実社会での挫折や苦しみを理解してくれる人がいる。 .57 3.99 1.02
MMOD23 現実社会では見せたくないような自分の一面でも、ネット上では出せる場所がある。 .54 4.04 1.26
MMOD5 ネット上の人間関係は希薄なので、いつでもそこから抜け出すことができる。 .83 4.01 1.09
MMOD25 ネット上では、相手との関係を続けたくないと思ったら、いつでも終わりにすることができる。 .60 4.28 1.05
MMOD6 ネット上の人間関係には浅いものが多く、深いつながりはあまりない。 .49 4.07 1.13
因子間相関1 .18 .36
2 .06

注)MMOD: Multi-Dimensional Measure of Online Disinhibition

Table 5 構造Aと構造Bの確認的因子分析の適合度指標(研究2)
CFI GFI AGFI RMSEA AIC BIC CAIC
構造A .85 .91 .87 .08 393.94 543.82 543.89
構造B .87 .94 .90 .08 255.70 367.42 367.48

次に3回の調査を合併した1,403件のデータを分析対象として構造Bの各因子の合成変数を作成して記述統計量を算出した。第1因子から順に、平均値は2.48( SD=0.72)、3.72( SD=0.85)、4.14( SD=0.86)であった。相関係数は、第1因子と第2因子は.20、第1因子と第3因子は.27、第2因子と第3因子は.01であった。全12項目のα係数は.71、平均値は3.31( SD=0.54)であった。また、尺度全体、各因子の箱ひげ図とバイオリンプロット、各項目の得点の箱ひげ図をFigure S2, Figure S3に示す。

基準関連妥当性を検討し、さらに収束的妥当性を確認するため、MMODと3つの因子と、MOD日本語版( M=2.65, SD=0.66, α=.86)、ODSのBD( M=2.50, SD=0.47, α=.66)、TD( M=1.24, SD=0.35, α=.60)とその合計得点( M=2.04, SD=0.36, α=.69)の相関関係を求めた( Table 6)。その結果、MMODの合計得点と各因子のいずれも、MOD日本語版、ODS, BD, TDと有意な正の相関が認められた。

Table 6 多次元オンライン脱抑制尺度および下位因子と他尺度との相関(研究2)
Mean SD MMOD オンライン環境の特別視 疎遠さ認知の変化 つながり認知の変化 MOD ODS BD TD
MMOD 3.31 0.54 1.00
オンライン環境の特別視 2.48 0.72 .78** 1.00
疎遠さ認知の変化 3.72 0.85 .65** .20** 1.00
つながり認知の変化 4.14 0.86 .56** .27** .01 1.00
MOD 2.65 0.66 .52** .41** .51** .06* 1.00
ODS 2.04 0.36 .55** .44** .47** .15** .69** 1.00
BD 2.50 0.47 .50** .32** .53** .11** .67** .94** 1.00
TD 1.24 0.35 .37** .48** .08** .14** .37** .60** .30** 1.00

注)MMOD: Multi-Dimensional Measure of Online Disinhibition, MOD: Measure of Online Disinhibition, ODS: Online Disinhibition Scale, BD: Benign Disinhibition, TD: Toxic Disinhibition. ** p<.01, * p<.05

考察

研究2の目的は、多次元オンライン脱抑制尺度を作成し、その妥当性と信頼性を検討することであった。研究1で作成したオンライン脱抑制予備尺度を基に、複数回の調査データにより、確認的因子分析の適合度指標の比較や構成概念の検討を行った結果、最終的に「オンライン環境の特別視」、「疎遠さ認知の変化」、「つながり認知の変化」の3因子構造を得た。CFIが基準値の.90よりやや低い値であったのは、各因子の間にそれほど強い相関がないことによる結果だと考える。ただし、そもそも膨大な社会的事象に対する人の認知は複雑であり、必然的に高い関連性を持つとは限らない。そのため、わずかに低いCFIはこの尺度の妥当性を大きくは毀損しないと考えられる( Lai & Green, 2016)。各因子の内的整合性(α係数)は全体的に十分に高いとは言えない値であったが、合成信頼性の指標のCRは許容範囲内(≥.60)に収まった( cf., Bagozzi & Yi, 1988)。一方、本研究は人間の非常に膨大で複雑な社会的事象に対する認知に注目して脱抑制を詳細に検討することを目的としており、信頼性を多少犠牲にしてでも、意味の豊かな項目を集めることが重要だと考えた( cf., 村山,2012, p. 124)。

尺度の収束的妥当性を検討したところ、各因子のAVEが基準値よりやや低かったが、ODSと相関分析で、MMODの合計得点と各因子がODSおよびその下位因子と有意な正の相関があることが分かった。ODSの一部の項目には、構成概念の厳密さが十分ではないという限界があるものの( Stuart & Scott, 2021; 温・三浦,2022)、尺度全体はこれまでの数多くの心理学研究で用いられており、「オンライン脱抑制」に関する経験を測定する尺度としては認められている。したがって、本尺度とODSの相関関係は収束的妥当性を支持する証拠になりうると考えられる。ただし、TDには床効果が見られたので、MMOD、MOD日本語版、ODS、BDとTDの順位相関分析の結果をTable S6に添付する。また、AVEは各因子間の相関係数の平方より高かったことから、本尺度の3因子は互いに弁別できる構成概念であると考えられる。

最後に、MMODの全項目および各因子の平均値と改良元のMODの間には有意な正の相関が認められた。したがって、本研究で作成された尺度は、オンライン脱抑制的な心的状態を、それをもたらす社会的事象の認知を踏まえてより網羅的に測定可能であると同時に、MODと同様の妥当性を持つと考えられる。

総合論議

研究の意義

本研究では、オンライン脱抑制に至る心的過程に関わりうるさまざまな社会的事象の認知を踏まえて、オンライン脱抑制的な心的状態の測定尺度を作成し、妥当性と信頼性を確認した。研究1では、半構造化インタビューを手がかりに、オンライン脱抑制的な心的状態とそれに関連する認知に関わる予備尺度項目を数多く作成した。研究2では、予備尺度を使用し、複数回の調査に基づく探索的・確認的因子分析によって、回答しやすいと同時に多面的な最終版の多次元オンライン脱抑制尺度を構成した。先行研究のMODと有意な相関関係が得られ、本尺度は十分な基準関連妥当性を持つと考えられる。

本尺度は、オンライン脱抑制を3因子—「オンライン環境の特別視」、「疎遠さ認知の変化」、「つながり認知の変化」—で捉えた。この点が、単一因子構造のMODと比較して最も重要な弁別的特徴である。こうした多次元構造により、オンライン脱抑制に対する検討がより深まることが期待できる。各項目は、MODの測定する心的状態の変化に伴う、より具体的な社会的事象への認知の変化を含意するものとなっている。

第1因子「オンライン環境の特別視」は、当初設定した8つのカテゴリーのうち5つにまたがる項目を含むもので、人間が現実社会で形成するさまざまな社会的事象に対する認知—不道徳意識、行動の結果に対する意識、自らのイメージに対する意識、規範意識、他者への共感など—がオンライン環境では低下するという認識を測定するものである。この因子は幅広い意味を含み、オンライン世界と現実世界でイメージが乖離すること、現実世界の一部の規範がオンラインで機能しなくなることなどの、人々のオンライン環境に対する一般的な印象と整合する。具体的には以下の通りである。MMOD1は、人々の自らのアイデンティティに対する意識と関係し、 Suler(2004)の指摘したオンライン環境の「匿名性」や「不可視性」によって社会的アイデンティティが曖昧になることを反映した項目である。MMOD3とMMOD16は、 Suler(2004)の指摘した「不可視性」の高いオンライン環境で相手の反応や気持ちなどを実感することの難しさや、 Terry & Cain(2016)の指摘したオンライン環境における思いやりの低下を反映した項目である。MMOD8は、Sulerの指摘した「匿名性」、「地位や権力の最小化」による対人的影響の変化を反映しており、ネット上で他人に過激な発言を無責任にしたり、誹謗中傷をしたりする現象( cf., 総務省,2020)とも関係する。また、一方的に好き勝手なことを言っておいて逃げることができるというのはSulerの「非同期性」に関する指摘とも整合する。MMOD21は、Sulerの指摘した「解離的想像性」において、現実社会の規範がオンラインで不適用になる状況を反映している。これら5項目が1つの因子としてまとまり、全体として「オンライン環境を現実場面とは異なる空間と見なす」程度を表すものとなっている。こうした測定を行えば、ネット上での逸脱的な行為(例えば、有名人への誹謗中傷)の背後にある心的状態を分析する際、「オンラインの方がよりタフ/自己主張が強い」かどうかや「オンラインではオフラインと振る舞いや言い方が違う」かどうかなどしか測定できないMODよりも、逸脱的な行為を支える認知の変化を精緻に捉えることができ、正確に問題のキーポイントを把握できるだろう。

第2因子はオンラインで他者に対する疎遠さ認知が変化する程度を測定するものである。この因子は、「オンライン環境はリラックスした雰囲気なので、互いに率直で親切になり、より容易に親しくなれる」という人々のオンライン環境への好意的な印象を反映している。これはおおむね「匿名性」や「不可視性」の所産だと考えられ、各項目はJoinson(2002 三浦他訳 2004)が整理したネットを介したやり取りの魅力(「自己呈示」、「類似性」、「自己開示と相補性」、「理想化」)とも整合する。具体的に言えば、匿名性と不可視性ゆえに、印象形成の重要な手がかりとなる外見、声、目線などの非言語的メッセージが、相手と出会ってもすぐには伝わらない。メッセージの送り手は、コミュニケーションが深まっていく過程でそれらを選択的に呈示する、つまり自己呈示を戦略的に行うことができる(MMOD23)。一方、SNSなどでも検索機能を使用することで他人からのメッセージに選択的に接触できるので、自分と同じ趣味や価値観を持った人と容易に知り合える(MMOD13)。さらに、ネット上では基本的に文字コミュニケーションが主であるため、「自己開示と相補性」(MMOD14, MMOD23)が促され、それらにより相手を「理想化」(MMOD12, 第2因子全体)するに至る( cf., 加藤,2013)。以上より、第2因子はオンライン環境でのやり取りの魅力的な一面をMODより緻密に示すものだと考えられる。

第3因子はオンラインでの対人関係の脆弱性認知が変化する程度を測定するものである。この因子は、 Suler(2004)の指摘した「解離的想像性」と「唯我独尊な取り組み」の交互作用による結果—オンラインでの人間関係は、そこから逃げてもその結果を懸念する必要がない—だと考えられる。つまり、現実社会での対人関係ネットワークは複雑に絡み合い、長期的・潜在的な影響をもたらす可能性があるが、オンラインではそれがない。そのため、それらに対する認知による抑制は解除されてしまうと考えられる。ここで注目すべきは、第3因子は第2因子と正反対の意味を持つ一方で両者はほぼ無相関であり、またMODとの相関係数が非常に低い点である。リラックスした雰囲気が作り上げられれば、より簡単に深い社会的絆を築けたり、対人関係の問題を解決したりできるというオンライン環境のポジティブな特徴は幅広く注目を集めてきた。しかし、ネット上で築いた人間関係は実質的な関係性(例えば利害関係)がないことによって、親しいように見える社会的絆が瞬く間に切れる可能性もある。この点は、 Suler(2004)が指摘したオンライン環境での対人関係の特徴であるが、MODでは検討されていない側面である。本研究で作成したMMODにおいては両因子が併存することで、オンライン脱抑制的な心的状態とそれに関連する認知の構造の複雑性を示唆すると同時に、オンライン環境の対人関係の特徴をMODより多面的に示すことができる。

限界と展望

本研究の限界として、以下の4つがある。

第一に、構成概念妥当性(収束的妥当性と弁別的妥当性)の検証が十分とは言えない点である。本研究では、MODの改良尺度として3因子が含まれる尺度を作成して、確認的因子分析の因子構造に基づいて収束的妥当性と弁別的妥当性を検討した。さらに、ODSおよびその下位因子との相関分析によって尺度全体の収束的妥当性を検討した。しかし、本研究で新たに発見したオンライン脱抑制の3つの下位因子の妥当性は十分に検討できていない。例えば、本研究で想定した、オンライン環境のさまざまな客観的な特徴(例えば匿名性や不可視性)が脱抑制的な心的状態とそれに関連する認知に影響をもたらすという因果関係は検証していない。したがって、オンライン環境の特徴や、 Suler(2004)の指摘したオンライン脱抑制の6要因と本尺度との因果関係や相関関係を精査して、新たに追加した次元の構成概念妥当性をさらに検証することが課題として残されている。

第二に、本尺度は汎用性の高さを重視して、一般的なオンライン場面でのオンライン脱抑制の測定尺度を目指したがゆえに、CMCの中でも場面を限定する表現を含む項目を敢えて割愛したことである。そのため、オンラインゲームやSNSなど特定のサービス、あるいはスマートフォンなど特定の端末の特徴に顕著に依存する脱抑制があるならば、その測定には適さない。しかし、例えば、世界中で広く用いられているインターネット依存度テスト( Young, 1998)は、オンラインゲーム( Demetrovics et al., 2012)やSNS( Wu et al., 2013)、スマートフォン(戸田他,2015)依存の測定尺度に翻案されている。多くのネット利用者へのインタビューによってさまざまなネット利用場面でのオンライン脱抑制をなるべく広範囲に詳しく検討し、それを引き起こす心的過程を多角的に捉えることを試みた本尺度も、「ネット」を特定のサービスや端末に置き換えることによって、場面を超えて共通する脱抑制を測定すること、またそれらを比較することが可能だと考えている。

第三に、本尺度がオンライン脱抑制的な心的状態とそれに関連する認知を測定するために未だ十全なものとは言えない可能性がある。まず、収集した語りの文化的な差異に由来するような偏りや、調査におけるサンプルの属性の変動が、因子構造や各因子を構成する項目群に影響し、結果としてオンライン脱抑制を構成する重要な構成概念の一部が本尺度に含まれていない可能性は否定できない。また、 Suler(2004)の挙げたオンライン脱抑制の6要因のうち、バーチャルなオンライン社会で発生した社会的リアリティの低下に関連する「唯我独尊な取り込み」や「解離的想像性」はかなり抽象的な概念であるため、平易かつ端的に表現すること、さらには一般市民にその評定を求めることが難しい。今後は、文化的な差異の比較によって尺度構造の妥当性を確認したり、臨床心理学やパーソナリティ心理と連携して抽象的な概念の測定方法を検討することが望まれる。

最後に、質の低い回答を識別する手段の不足である。そもそもオンライン調査に回答する人々は「オンライン脱抑制的な心的状態」になりやすく、信頼性の低い回答をする可能性があるかもしれない。本研究では、努力の最小限化(三浦・小林,2018)状況を確認するためにDQS項目を使用していたが、意図的に回答を歪曲したり、不正な回答をする回答者は検出できていない。このような質の低い回答を識別する方法も今後検討すべきである。

本尺度を用いてオンライン脱抑制的な心的状態を測定すれば、これまで未解決のまま蓄積されてきたいくつかの難題を打開できる可能性がある。例えば、これまで一貫した知見が得られていないオンライン環境の匿名性とオンライン脱抑制の関係( e.g., Clark-Gordon et al., 2019)について、本尺度を用いて多次元的な視点からオンライン脱抑制の仕組みを検討すれば、匿名性が脱抑制のどの下位因子にどのような影響を及ぼすかを具体的に解明でき、より説得力の高い証拠を提供できる可能性がある。また、温・三浦(2022)による動機づけ・オンライン脱抑制モデル、あるいは Kurek et al.(2019)Stuart & Scott(2021)の理論構造をより一般化した「オンライン脱抑制・行動モデル」などの検証に実証的証拠を提供することで、心的状態としてのオンライン脱抑制が脱抑制的行動につながるメカニズムに関するより精緻な理論モデルの構築に結びつけられる可能性がある。

脚注

1) 本研究の実施に際して、電気通信普及財団調査助成「『オンライン脱抑制』再考:心理尺度作成とメカニズムの検証」(研究代表者:三浦麻子)を受けた。記して感謝の意を表する。

2) 研究2のデータとマテリアル、本文中で番号にSを付した図表は付録としてOpen Science Framework: https://osf.io/uab5e/で提供する。

3) 本研究のインタビューの内容分析と項目作成にご支援を頂いた趙心語さんに心より感謝申し上げます。

4) 半構造化インタビュー対象者を中国人の若者としたのは、より正確で精緻な情報収集のために、第1著者の母語で実施するのが適切だと判断したからである。一方で、次の段階である項目作成においては、「社会的事象に対する認知」のみに注目するために、なるべく具体的な状況に依存しないように項目を作成した。つまり、国籍や年代によるネット利用の具体的な態様の影響は「具体的な状況」として除外された。さらに、日本人を対象とすることを考慮して項目を洗練した。このような項目作成の流れを考えて、オンライン環境での体験をより豊かに持っている若者を対象にすることと、インタビューを実施者の母語で実施することが、利便性と有効性を両方高める方法だと判断した。以上より、本研究のインタビュー参加者には属性の偏りがあるとはいえ、結果的には脱抑制の実態を十分に反映できるだけの質のデータを確保できたと考える。なお基礎的な情報収集が若者を対象として行われた点は先行研究でも同様で、本研究が改良元としたMODを作成した Stuart & Scott(2021)の研究でも、項目作成に際するグループディスカッションの参加者の平均年齢は25.70 ( SD=5.56)歳であった。

5) Suler(2004)がオンライン脱抑制とパーソナリティ特性の関連を指摘していることを踏まえ、本調査でもTIPI-Jを調査票に入れた。ただし、この関連を検討することは本論文の目的とは異なるので、その結果については言及しない。

6) 本研究では、1時間あたりの単価を500円として調査協力の謝金額を算出した。

7) ただし、どの解でもすべての因子負荷量の絶対値が.35となった項目のうち「ネット上での発言や行動は、現実社会での身分や地位に縛られることは少ない。」は、 Suler(2004)の指摘した、オンライン脱抑制の発生要因の中で最も注目されるオンライン環境の「匿名性」に深く関わる内容なので、オンライン脱抑制を測定する上で非常に重要と考えて削除しなかった。

利益相反

本論文に関して、開示すべき利益相反関連事項はない。

References
 
© 2023 The Japanese Society of Social Psychology
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