2024 Volume 39 Issue 3 Pages 204-211
Incomplete events make individuals pay sustained attention to mitigate feelings of incompleteness. In this study, we investigate how sustained attention, stemming from incomplete events, and the degree of inferred romantic interest impact the motivation to initiate new relationships among both men and women. 198 participants took part in trivia quizzes, with answers divulged to half of them, while keeping the other half unaware, thus inducing a state of incompleteness. Subsequently, participants were exposed to messages from individuals of the opposite sex and were asked to report their intentions regarding relationship formation with them. These messages varied in their potential to be interpreted as conveying romantic interest. Our findings reveal that, in comparison to women, men exhibit a greater motivation to form relationships with the message senders. Importantly, incomplete events consistently heightened the motivation to establish relationships with the message sender. This suggests that although women are cautious about forming relationships with the opposite sex, the inclination towards seeking information triggered by incomplete events may increase their motivation to form relationships with the opposite sex, just like men.
未達成な課題(Zeigarnik, 1938)や結末が不明な物語(木村,2004)など、日常生活にはさまざまな未完結事象が存在する。未完結感を解消するために(Bauer et al., 2022)、人は未完結事象に持続的な注意を払う(Zeigarnik, 1938)。未完結事象に対する注意は他の課題の遂行を阻害し(Leroy & Glomb, 2018; Puranik et al., 2020)、侵入思考や強迫神経症の原因となる(Schwartz, 2018)。一方で、マーケティングにおいては、未完結事象は商品やサービスに対する注意を高めるための手法として利用されている(Daume & Hüttl-Maack, 2020; Hammadi & Qureishi, 2013)。このように、未完結事象は持続的な注意を導くことで、思考や行動に影響を及ぼすと考えられる。
本研究では、未完結事象に対する注意の持続が、後続の無関連な事象に対する反応にも波及的な影響を及ぼす可能性を検討する。感情誤帰属では、先行刺激によって生じた感情が、後続の無関連なターゲットの評価に影響することが報告されている(Payne et al., 2005)。同様に、未完結事象から生じる注意の高まりも、誤帰属によって後続の無関連な対人判断に及ぼす可能性がある。
未完結事象を完結させるためには、情報探索が重要な役割を果たす(Keller et al., 2020)。この情報探索には、2種類の異なる経路の存在が指摘されている(Jach et al., 2022)。1つは不安の解消のために情報探索を行う警戒経路である(Berger & Calabrese, 1975; Bromberg-Martin & Monosov, 2020)。警戒経路は、検査の結果(Baum et al., 1997)や感染症のリスク(Huang & Yang, 2020)など、個人の安全に関する情報が不足する場合に活性化される(Caplin & Leahy, 2001)。もう1つは、新たな情報に対する関心(van Lieshout et al., 2020)を満たすために情報探索を行う関心経路である(Lau et al., 2020)。関心経路は、匿名のポジティブなフィードバックや映画の結末など(Wilson et al., 2005)、個人の安全を脅かす可能性が低い情報が不足する場合に活性化される(Bennett et al., 2016)。どちらの経路も、情報の不足を補うために、対象への持続的な注意を高めることが知られている(Kaneko et al., 2018; Wilson & Gilbert, 2008)。
関心経路を通じた注意の高まりが対人判断に誤帰属された場合、相手に関する情報を積極的に求め、関係形成への動機づけを促進する可能性が考えられる。本研究ではトリビア・クイズ課題(Kang et al., 2009; Marvin & Shohamy, 2016)を用いて、未完結事象に対する注意の高まりの誤帰属が、関係形成への動機づけを高める可能性を検討する。クイズの答えが明示されないことで生じる未完結感は、関心経路の活性化を通じた注意の高まりを引き起こし(Jach et al., 2022)、誤帰属を通じて無関連な他者との関係形成への動機づけを高めることが予測される。
特に異性との関係形成への動機づけには、性差の存在が指摘されている。進化心理学の観点では、男性は女性と比較して交配に伴うコストが少なく(Trivers, 1972)、交配の機会を逃さないことが子孫を残すために重要な方略となる(Haselton & Buss, 2000)。一方で、女性が配偶者や子に投資する意思のない相手と交配することは大きなリスクとなるため、女性は異性との関係形成を警戒することが指摘されている(Li et al., 2012)。社会心理学の観点でも、異性との関係は男性が積極的に形成し、女性は待つのが望ましい、という規範が根強く存在することが指摘されている(Cameron & Curry, 2020)。そのため、男性は異性との関係形成に積極的だが、女性は動機づけられにくいことが予測される。女性の警戒を解き、関心経路を通じた情報探索に向かうためには、配偶者や子に投資する意思があると推測できる相手(Ackerman et al., 2011)、すなわち、相手の恋愛関心が推測できることが重要であると考えられる。
本研究ではトリビア・クイズ課題を実施し、参加者の半数には答えを明かし、残りの半数には明かさないことで、未完結な状態を操作した。その後、恋愛関心を持たれていると推測できる(またはできない)メッセージを提示し、関係形成への動機づけの程度を報告するよう求めた。男性は恋愛関心が推測できる程度にかかわらず、クイズの答えが明かされていない場合、明かされていた場合よりも、関係形成への動機づけが高まると考えられる(仮説1)。女性では、クイズの答えが明かされず、相手の恋愛関心が推測できる条件においてのみ、その他の条件よりも関係形成への動機づけが高まると考えられる(仮説2)。
本研究は2022年7月に約1週間にわたって実施された。心理学の講義を受講する大学生240名は、オンライン上の質問フォームに回答した。性別がその他であった2名、性的指向性が不明な1名、恋愛対象に異性を含まなかった1名、回答に不備があった18名、トリビア・クイズの答えをすでに知っていた15名、努力の最小限化(Krosnick, 1991; 三浦・小林,2015)の観点から質問フォームに適切に回答していないと判別された5名を除外し、198名(男性61名、女性137名、Mage=19.46(SD=1.22))のデータを分析の対象とした3)。実験デザインは未完結事象(未完結・完結の2水準、参加者内)×マーク(恋愛・対照・統制の3水準、参加者間)×性別(男性・女性の2水準、参加者間)の3要因混合計画であった。
手続き本研究は所属機関における倫理審査委員会の承認を受け(承認番号KH22037)、オンライン上の質問フォームを用いて実施された。参加者は、実験への参加や中止の自由、データの保管方法や利用について説明を受け、参加に同意した上で質問に回答した。
トリビア・クイズすべての参加者は、トリビア・クイズ(「段ボールは、なぜ名前にボールがつくの?」、「なぜ、ウナギの刺身は売られていないの?」)を出題され、答えをすでに知っているかどうか、知らなければ答えを知りたい程度について、1(全く知りたくない)から5(非常に知りたい)までの5件法で回答を求められた(段ボールM=3.63(SD=1.33);ウナギM=3.23(SD=1.47))4)。その後、完結条件の参加者にはクイズの答えが提示された。未完結条件の参加者には答えが提示されなかった(同様の手続きは、Jach et al., 2022参照)。2問ともすでに答えを知っていると回答した参加者は分析から除外された。
恋愛関心の推測の程度の操作すべての参加者は、大学で初対面の異性の学生とペアで作業を行った後、スマートホンでメッセージを受け取ったという内容のシナリオをメッセージ画面とともに提示された(Figure 1)5)。メッセージ画面は、提示されたマークによってメッセージの送り手の恋愛関心の推測の程度が操作された。恋愛条件の参加者のメッセージ画面には、メッセージの送り手の恋愛関心を推測させる目的で(関沢,2013)、ハートマークが付与されていた。対照条件の参加者のメッセージ画面には、星マークが付与されていた。統制条件の参加者のメッセージ画面には、マークは何も付与されていなかった。
参加者は、自分が実際にその状況を経験した場面を想定しながら、メッセージの送り手の異性の学生との関係形成への動機づけを測定する7項目(特別な相手である、なんとなく気になる、プライベートでも会いたい、魅力的である、好ましい、仲良くなりたい、今後も連絡を取り続けたい)について、それぞれ1(全くそう思わない)から7(非常にそう思う)までの7件法で評価するように求められた。これらの項目は、恋愛の分類や恋愛関係の開始に関する研究(for review, Aron et al., 2008)を参考に選定された。また、参加者はメッセージの送り手の恋愛関心の推測の程度を測定する項目(相手が自分に恋愛感情を抱いていると思う)について、1(全くそう思わない)から7(非常にそう思う)までの7件法で回答を求められた。
トリビア・クイズ(2回目)参加者は、1回目の操作に用いられたものとは異なるトリビア・クイズ(「なぜ、野球は一試合9回なの?」、「なぜ、ジーンズは青いの?」)を出題され、答えをすでに知っているかどうか、知らなければ答えを知りたい程度について、1(全く知りたくない)から5(非常に知りたい)までの5件法で回答を求められた(野球M=3.34(SD=1.32);ジーンズM=3.25(SD=1.48))。未完結事象の操作は被験者内要因であり、参加者は1回目の操作とは逆の条件に割り振られた。1回目の操作と同様に、2問ともすでに答えを知っていると回答した参加者は分析から除外された。
関係形成への動機づけの測定(2回目)参加者は、1回目のシナリオとは異なる異性の学生とペアで異なる作業を行った後、スマートホンでメッセージを受け取ったという内容のシナリオをメッセージ画面とともに提示された。参加者は、自分が実際にその状況を経験したと想定しながら、メッセージの送り手の異性の学生と関係形成への動機づけを測定する7項目に回答を求められた。恋愛関心の推測の程度の操作は被験者間要因であり、1回目のシナリオと同様のマークがメッセージ画面に提示された。シナリオの内容、登場人物の名前、メッセージの文言の組み合わせとそれらの提示順序は、参加者ごとにカウンターバランスをとった。また、参加者は1回目の操作と同様に、メッセージの送り手の恋愛関心の推測の程度について、1(全くそう思わない)から7(非常にそう思う)までの7件法で回答を求められた。
注意の高まりの測定参加者は40秒間、トリビア・クイズやシナリオについては考えないようにするように求められた。その後、参加者はシナリオについて考えた程度について、1(全く考えなかった)から7(非常によく考えた)までの7件法で回答を求められた。
ペア選択参加者は、実際に他の学生とペアで実験に参加する場合、1回目のシナリオの学生を希望する、2回目のシナリオの学生を希望する、他の初対面の学生を希望する、誰も希望しない(実験者にペアを決めてもらう)の4つの選択肢から1つを選ぶよう求められた。
最後にデブリーフィングを行い、実験の目的やトリビア・クイズの答えが明かされた。実験にかかった時間は全体で20分程度であり、実験参加に対する不満や苦痛を訴えた者や、データの利用を拒否した者はいなかった。
分析にはR version 4.2.2を使用した。
注意の高まり待機時間中に各シナリオに関することを考えた程度について、対応のあるt検定を行った。その結果、完結条件(M=1.68, SD=1.36)と未完結条件(M=1.96, SD=1.62)の間に差は認められなかった(t(383.17)=1.85, p=.065, d=0.19)。よって、未完結事象に対する注意の高まりは確認されなかった。ただし床効果が見られているため、解釈には注意を要する。
メッセージの送り手の恋愛関心の推測の程度メッセージの送り手の恋愛関心を推測した程度について、マークを要因とする分散分析を行った。その結果、マークの主効果が有意であり(F(2, 195)=11.42, p<.001, η2p=.10)、恋愛条件(M=2.56, SD=1.31)では、対照条件(M=1.87, SD=1.00)や統制条件(M=1.73, SD=0.84)と比較して、メッセージの送り手の恋愛関心を推測した程度が高かった(対照条件:t(195)=3.70, p<.001; 統制条件:t(195)=4.50, p<.001)。対照条件と統制条件の得点には、有意な差は認められなかった(t(195)=0.76, p=.45, n.s.)。
メッセージの送り手との関係形成への動機づけ関係形成への動機づけを測定する7項目(クロンバックのα=.92)の得点を平均して、未完結事象×マーク×性別の分散分析を行った。その結果、未完結事象の主効果(F(1, 192)=20.48, p<.001, η2p=.013)、ならびに性別の主効果(F(1, 192)=13.25, p<.001, η2p=.055)が有意であった。未完結条件(M=3.74, SD=1.17)では、完結条件(M=3.48, SD=1.09)と比較して、メッセージの送り手との関係形成への動機づけが高かった。また、男性参加者(M=4.00, SD=1.30)は、女性参加者(M=3.44, SD=1.01)と比較して、メッセージの送り手との関係形成への動機づけが高かった。条件ごとの記述統計量をTable 1に、分散分析の結果をTable 2に示す。
恋愛(n=63) | 対照(n=66) | 統制(n=69) | ||
---|---|---|---|---|
男性 | 未完結 | 4.12 (1.51) | 4.40 (1.26) | 3.99 (1.29) |
完結 | 4.08 (1.21) | 3.98 (1.16) | 3.55 (1.32) | |
女性 | 未完結 | 3.87 (0.89) | 3.46 (1.24) | 3.37 (0.89) |
完結 | 3.54 (1.00) | 3.21 (0.99) | 3.20 (0.90) |
性別 | マーク | 未完結事象 | 一次交互作用 | 二次交互作用 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
主効果 | 主効果 | 主効果 | 性別×マーク | 性別×未完結事象 | マーク×未完結事象 | ||
F | 13.25*** | 1.99 | 20.48*** | 0.76 | 0.19 | 0.58 | 1.97 |
η2p | .055 | .016 | .013 | .0062 | .00010 | .00070 | .0024 |
***p<.001
ペアを組みたい相手に関する回答を、未完結条件のシナリオの学生、完結条件のシナリオの学生、初対面の学生、誰も希望しない、の4つに集計し、χ2検定を行った。その結果、どのセル間にも差は認められなかった(性別:χ2(3)=1.83, p=.61; マーク:χ2(6)=3.40, p=.76, n.s.)。条件ごとの回答人数と割合をTable 3に示す。
未完結 | 完結 | 初対面 | 選択しない | 合計 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
性別 | 男性 | 10 | (16.4%) | 10 | (16.4%) | 5 | (8.2%) | 36 | (59.0%) | 61 |
女性 | 16 | (11.7%) | 28 | (20.4%) | 7 | (5.1%) | 86 | (62.8%) | 137 | |
マーク | 恋愛 | 8 | (12.7%) | 12 | (19.0%) | 3 | (4.8%) | 40 | (63.5%) | 63 |
対照 | 6 | (9.1%) | 13 | (19.7%) | 6 | (9.1%) | 41 | (62.1%) | 66 | |
統制 | 12 | (17.4%) | 13 | (18.8%) | 3 | (4.3%) | 41 | (59.4%) | 69 | |
全体 | 26 | (13.1%) | 38 | (19.2%) | 12 | (6.1%) | 122 | (61.6%) | 198 |
本研究では、未完結事象が関係形成への動機づけに及ぼす影響について検討した。これまでの研究では、未完結事象に持続的な注意が払われることで、判断や行動が影響されることが報告されてきた。本研究では、このような注意の持続が当該の未完結事象だけでなく、後続の無関連な対人判断にも波及的な影響を及ぼす可能性について検討した。異性との関係形成への動機づけには性差があることから、男性は相手の恋愛関心が推測できるかどうかにかかわらず、未完結事象に対する注意の高まりによって関係形成への動機づけを高めるが(仮説1)、女性は相手の恋愛関心が推測できる場合にのみ、関係形成への動機づけを高める(仮説2)と予測された。
実験の結果、参加者の性別や相手の恋愛関心が推測できる程度にかかわらず、未完結事象は一貫して関係形成へ動機づけを高めていた。また、男性は女性よりも異性との関係形成への動機づけが高いことが確認された。よって、仮説1は支持されたが、仮説2は支持されなかった。これらの結果は、男性は女性と比較して異性との関係形成に積極的であることを指摘する先行研究の知見と整合している(Cameron & Curry, 2020; Haselton & Buss, 2000)。社会心理学における恋愛研究は対人魅力に端を発し(立脇他,2005)、温かい人柄(Valentine et al., 2020)や身体的魅力の高さ(Regan et al., 2000)など、関係形成に寄与する個人特性が明らかにされている。しかし、親密な関係性が成立する前の段階に焦点を当てた研究は比較的少ない(青山,2022)。未完結感を解消しようとする情報探索経路の活性化が、無関連な対象の判断にも波及的に影響する可能性を示した点は、本研究の重要な意義である。また、女性は異性との関係形成において相手を警戒することが指摘されている(Li et al., 2012)。それにもかかわらず、未完結事象が関心経路の活性化を伴う情報探索を導くことで、女性も男性と同様に異性との関係形成に動機づけられる可能性が示唆された点は、本研究の重要な知見である。もっとも、未完結事象が情報探索経路の活性化を規定する要因や、それらが関係形成に及ぼす影響については、さらなる詳細な検討が必要である。
本研究では未完結事象に対する注意の高まりは観察されず、注意の高まりの誤帰属によって関係形成への動機づけが高まったと結論づけることは難しい。本研究で注意の高まりの指標として用いた侵入思考の自己報告には床効果が見られており、適切な指標ではなかった可能性がある。注視時間(Frischen et al., 2007)など、より精度の高い注意指標を用いた検討が必要である(Jones et al., 2009)。また、トリビア・クイズは、情報探索に伴うポジティブ感情を活性化させることが指摘されているため(Jach et al., 2022)、ポジティブ感情の誤帰属を反映した結果である可能性も考えられる。さらに、未完結事象が潜在的な脅威や不安を予期させたために、他者との親和性やソーシャルサポートの希求が促進され(Mikulincer et al., 2003)、関係形成への動機づけが高められた可能性もある。未完結事象に伴う異なる感情の測定や、関心経路と警戒経路との比較検討によって、これらの可能性について明らかにすることが必要である。
また、マークの主効果やマークと性別との交互作用効果は認められず、恋愛関心の推測の程度がもたらす影響は本研究では確認されなかった。本研究で用いられた恋愛関心のシグナル(ハートマーク)は、恋愛関心を推測させる刺激として弱かった可能性がある。恋愛条件のハートマークが、メッセージの送り手の恋愛関心を推測させた程度は、他の条件よりは高かったものの、その値は7件法で3点未満であった。魅力的な異性とのデートについて考えること(Griskevicius et al., 2007)など、恋愛関心を想起させるようなより強力な操作を用いた再検討が必要である。
さらに、本研究はオンライン上で架空の相手を想定して行われたため、この結果が実際の対人場面にも般化されるかどうかは定かでない。場面想定法と現場実験では、未完結事象がもたらす影響が異なることも指摘されている(Wilson et al., 2005)。未完結事象が関係形成への動機づけを高める、という本研究の結果の生態学的妥当性や、実際の対人場面における恋愛関心の推測の程度ついては検討の余地がある。
未完結事象に直面した際にどのように対処するかは、個人の特性とも深く関わることが知られている。たとえば、情報の不足のような不確実性に対する寛容さや好奇心の高さは、未完結事象に対する反応や情報探索への動機づけに影響することが知られている(Carleton et al., 2012; Litman, 2010)。不確実性に対する寛容さが低い個人は、ネガティブな感情に基づいた情報探索に従事しやすいことや(Carleton et al., 2007)、特性的な好奇心が高い個人はポジティブな感情に基づいた情報探索を行いやすいことも指摘されている(Kashdan et al., 2018)。好奇心は開放性とも関連していることや(Silvia & Christensen, 2020)、不確実性に対する寛容さの低さは神経症傾向と関連することも報告されている(Hirsh & Inzlicht, 2008)。本研究では、パーソナリティについて取り扱うことはできなかった。今後の検討では、未完結事象に直面した際にどのように対処するかを規定する、個人の特性について検討していくことも重要な課題である。
限界点はあるものの、本研究は未完結事象が関係形成に及ぼす影響について、未完結感を解消しようとする動機づけがもたらす情報探索経路の活性化と、その性差によって整合的に説明できる可能性を検討した、初めての試みである。未完結感によって生じる情報探索経路の活性化が、後続の情報処理に波及的な影響を及ぼし、他者との関係形成への動機づけに影響するという一連の心理プロセスについて検討することは、情報探索の研究、関係形成の研究、感情誤帰属の研究などの知見の拡張をもたらした。さらに、一対一の異性どうしに限定されないような、親密な関係形成の多様化という現代社会においても重要な問題にも、有益な示唆をもたらす可能性がある。
1)本研究結果の一部は日本心理学会第87回大会で発表された。
2)本研究は同志社大学において実施された。
3)本研究では性別が男性であると回答した者を生物学的なオス、性別が女性であると回答した者を生物学的なメスであると仮定して分析、解釈を行った。各参加者が回答した性別と身体的な性別が一致しているかどうかは確認しなかった。
4)実験に先立ち、この実験の参加者とは別の大学生68名(男性26名、女性42名、Mage=20.15歳(SD=0.89))が、各トリビア・クイズの答えを知りたい程度、登場人物の名前から受ける印象、シナリオの内容とメッセージの文言の組み合わせから受ける印象について評価した。各トリビア・クイズの答えを知りたい程度について対応のない分散分析を行った結果、差は認められなかった(答えを知りたい程度の平均値:段ボール:3.38(SD=1.49);ウナギ:3.41(SD=1.49);野球:3.43(SD=1.34);ジーンズ:3.47(SD=1.35), p=.97, n.s.)。また、登場人物の名前から受ける印象やシナリオの内容とメッセージの文言の組み合わせから受ける印象についても、各刺激間で差は認められなかった(ps>.05, n.s.)。
5)性別がその他であると回答した学生に対しては、シナリオの登場人物の性別が男性であるものと女性であるもののどちらかが、ランダムに提示された。