2024 Volume 39 Issue 3 Pages 192-203
Not In My Back Yard (NIMBY) issues indicated that a facility should be sited at only one location. However, locating facilities in multiple sites is worth considering from the perspective of reducing inequity. The protected values are known as the blocking factor of public acceptance, which contains the feature of insensitivity to quantity. We hypothesized that multiple locations could mitigate the protected values and lead to public acceptance as a result of reducing inequity, not because of the reduction in burden. To examine the hypothesis, this study conducted a hypothetical scenario experiment using the siting of geological disposal of high-level radioactive waste (HLW). We manipulated the number of sites and the amount of HLW, and measured inequity, protected values, and acceptance. The results revealed that the participants who read the scenario with multiple sites showed less inequity and greater acceptance than those who read the single site scenario. On the other hand, the amount of HLW had no significant effect. Furthermore, the results of mediation analysis indicated that the number of sites reduced inequity, which mitigated the protected values leading to acceptance.
本研究は、高レベル放射性廃棄物(High-Level Radioactive Waste: 以下HLWとする)の最終処理場の候補地選定を題材に、忌避施設立地(Not In My Back Yard: 以下NIMBYとする)問題の社会的受容の阻害因として保護価値に着目し、それらに影響する要因を検討することを目的とする。NIMBY問題とは、社会的に必要性が認められたとしても、自分の近隣には建設してほしくないという施設立地問題を指す用語である(Burningham et al., 2006)。NIMBY問題では、施設立地の利益は社会全体に広く分配される一方、そのリスクやコストは立地地域が狭い範囲で負担するという分配の不公正が生じる(籠,2009; 中澤,2008)。従来のNIMBY研究はどこか1か所に施設立地することを前提として議論が行われてきたが、本研究ではNIMBY施設を複数か所に立地するという提案を試み、そのことが不公平感や保護価値の改善を通じてNIMBY施設の受容を高める可能性を検討する。
NIMBY問題としてのHLW地層処分場原子力発電(以下、原発とする)に伴い発生する使用済み核燃料の地層処分は原発のある国共通のNIMBY問題の1つである。日本においては、使用済み核燃料からウランやプルトニウムを回収したあとに残る高い放射能を含む廃液をガラスと混ぜ合わせて固体化したものをHLWと呼んでいる。HLWの放射能レベルを低下させるには長い時間が必要であり、その間、人が近づかず、廃棄物の放射能が外部に影響を与えないように管理する必要がある。そのため、ガラス固化体を金属製の容器に納めるなどして、300 m以深の地層に埋めて処分することとされている。現在までに発生した使用済み燃料をガラス固化体に換算すると2万6千本相当にのぼる(日本原子力文化財団,2021; 武田,2013)。
日本では2000年に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」を制定し、2002年から最終処分場の設置可能性を調査する区域の公募を始めた。しかし、2007年に高知県東洋町が応募し、住民の反対によって撤回されて以降は、応募する自治体は現れなかった。そこで、国は2015年にHLWの最終処分の基本方針を改定し、自治体からの応募を待つだけではなく、自治体に協力を申し入れるプロセスを追加した(経済産業省資源エネルギー庁,2020)。
2020年に北海道の寿都町と神恵内村で、地層処分地選定の最初のステップである文献調査が開始された。しかし、住民や周辺自治体から強い反対や懸念も表明されている(「社説 核ごみ処分場」, 2021)。地層処分候補地選定は市町村と都道府県それぞれの首長の承認がなければ次の段階に進むことができないが、北海道知事は反対を表明している(「核ごみ処分場」, 2020)。HLWの地層処分事業を行う原子力発電環境整備機構(NUMO)は文献調査を全国10か所で行いたいとしているが(「核ごみ条例」, 2020)、候補地選定が今後どのように進むかは不透明である。
HLWは高い放射性を持つため、これを適切に管理することは社会的利益に適う。一方、地層処分の立地地域では、HLWを持ち込むことによる事故や放射能汚染のリスクが懸念され、またスティグマや風評による被害も予想される。このような側面から、HLWの地層処分場には、社会全体に利益があるものの負担が一部の立地地域に集中するというNIMBY問題としての性質があるといえる。
NIMBY施設の受容を妨げる不公平感NIMBY施設の受容を妨げる要因の1つとして、不公平の存在が指摘されている(Kuhn & Ballard, 1998; Pol et al., 2006)。衡平理論を唱えたAdams(1965)はFestinger(1954)の社会的比較を踏まえ、人々が他者との比較によって公正を判断することを指摘している。この理論から考えると、同じ日本という国に暮らしているはずなのに、一方で多くの地域に住む人々が施設の利益を享受している反面、自分たちの暮らす地域のみが負担を引き受けるならばそれは不公平であり、NIMBY施設を容易には受け入れられないのは当然であろう。
不公平感を解消する素朴な方法として、負担に応じた補償を行うことがある。しかしながら、補償は必ずしも社会的受容に繋がるとは限らないことが多くの研究で指摘されている(e.g., Frey et al., 1996; 飯野他,2019; ter Mos et al., 2012; Zaal et al., 2014)。例えば、Zaal et al.(2014)や飯野他(2019)は、金銭的補償や社会福祉面での補償の提示はいずれも施設立地の受容に正の効果をもたらさないことを実験的に示した。また、Frey et al.(1996)はスイスにおける放射性廃棄物処分場の選定に関する事例調査により、当初は半数が支持していたにもかかわらず、金銭的な補償を申し出たら支持する割合が半減したこと、補償額を増やしても支持が増えなかったことを示した。Frey et al.(1996)は受け入れを支持しない理由として8割以上の回答者が賄賂を受け取ることはできないと回答したことを挙げ、公益の観点から受け入れを支持していた人々が補償金により地域が買収されたと受け止めたためと考察している。
Di Nucci & Brunnengraber(2017)は、欧州各国の核廃棄物地層処分の事例を比較調査し、補償が受容を高めるのは実施主体や国への信頼が高いときのみであることを示した。日本では実施主体や国への信頼が低いことが再三示されており(Kim et al., 2014; 大友他,2014)、少なくとも日本において補償の提示がそのまま受容に繋がることは考えにくい。
負担を埋め合わせる補償が受容に繋がらないのであれば、不公平感を解消するためには負担そのものを分かち合う必要がある。もし負担が1か所に集中することで不公平感が生じるのであれば、その負担を複数か所に配分すれば負担の集中という偏りは解消されると考えられる。
これまで、NIMBY問題は負担を1か所に集約することを前提としてきた。HLWの地層処分であれば、例えばフランス、スイス、イギリスのいずれにおいても、候補地選定のプロセスはさまざまであるが、基本的には候補地から1つの処分地を決定することを目指している(大澤他,2014, 2019)。このような考え方は、コストやリスクを最小化し社会全体の利益を最大化するという功利主義によるものである。HLWの地層処分であれば、地層処分地を1か所に定めるほうが、HLWの管理コストや事故のリスクを最小にできると期待される。しかし、少なくともNIMBY問題においては、功利主義だけが唯一絶対の価値ではない。功利主義の観点から合理的な計画であったとしても、不公平感があれば社会的には受容されず、計画が実現されることもない。このことから、籠(2007)はNIMBY問題において社会的受容を重視すべきであると指摘している。
こうした観点から、横山他(2021)は除去土壌再生利用を題材に、再生利用を行う自治体の数が再生利用の受容に与える影響を検討した。除去土壌は福島第一原子力発電所の事故によって発生した放射性廃棄物の付着した土であり、それらのうち線量の低い土壌を道路などの基礎に使用するのが再生利用である。横山他(2021)は、再生利用が回答者の住む自治体のみで行われる条件と、再生利用が回答者の住む自治体に加えほかの自治体でも行われる条件を比較した実験を行った。その結果、単独の自治体で再生利用を行う条件より、複数の自治体で行う条件のほうが不公平感が低く、再生利用の受容も高いこと、また、再生利用を行う自治体数が不公平感に影響し、それを介して再生利用の受容に影響を及ぼすことを明らかにした。このことから、地層処分場を複数か所に立地するという負担の分配は実験参加者の不公平感を改善する要因になったと考えられる。
負担の量か配分の不公平かしかしながら、負担の配分が受容に及ぼすメカニズムには、未だに明らかでない部分がある。それは、負担の配分そのものが不公平感を緩和し立地の受容を高めるのか、負担の配分に伴う負担の量の減少が不公平感を緩和し立地の受容を高めるのかという点である。NIMBY施設を複数に立地すれば、必然的に1つの施設に持ち込まれる負担の量が減少することになる。例えば、除去土壌の再生利用を行う自治体が2つあれば、それぞれに持ち込まれる除去土壌の量は単純計算で2分の1となる。仮に、横山他(2021)の実験参加者が負担の配分そのものではなく、配分によって減少した量に反応したとすれば、「再生利用を行う自治体は1つだけで、自分の自治体に持ち込まれる除去土壌は50トン」という条件より、「再生利用を行う自治体は複数だが、自分の自治体に持ち込まれる除去土壌は100トン」という条件のほうが受け入れがたいと考えられるはずである。
人々が負担の配分そのものに反応するか、量の減少に反応するかを明らかにすることは、実務上も意義のあることである。仮に、人々が量の減少に反応するのであれば、技術的な手法を用いてHLWや除去土壌の量を減らしさえすれば、地層処分場や再生利用が受容されやすくなるはずである。しかし、負担の配分そのものに反応するのであれば、HLWや除去土壌の量を減らしても、負担の集中が地層処分場や再生利用の受容を妨げると考えられる。社会的受容の阻害要因が異なれば、その対処方法も変わることになる。
このような背景から、本研究は負担の配分が不公平感を緩和しNIMBY施設の受容に影響するという横山他(2021)と同様の結果が、負担を配分したときだけではなくHLWの負担の量の多寡が変化したときにもみられるかを検討することとした。
保護価値の量的非感応性しかし、本研究では、負担の量が受容に影響するとは予想しない。これはNIMBY施設の受容を妨げる要因である保護価値が有する性質の1つに基づく。そもそも保護価値とは、ほかの価値から守られる譲れない価値のことであり、ほかの価値とのトレードオフを拒否し特定の対象を守るべきとする義務感に基づくものである(Baron & Spranca, 1997; 羽鳥・梶原,2012)。例えば、自分の住む自治体にHLWを持ち込ませるべきではないという保護価値の強い人は、地層処分がどのような理由で行われるか、地層処分によって補助金を得られるかといった要素とは関係なく地層処分に反対すると考えられる。このことから、保護価値はなすべきではない行動をその結果にかかわらず規定する義務論的ルールであると指摘されている(Baron & Spranca, 1997)。
保護価値とNIMBY施設の受容については、羽鳥・梶原(2012)や大沼他(2015)がその関連を指摘している。羽鳥・梶原(2012)はダム建設を取り上げ、どのほどの便益をもたらすものでもダム建設に反対するという保護価値を有する回答者は、ダム事業が採択された理由にかかわらず保護価値を有していない回答者より建設を受容しないことを明らかにした。また、大沼他(2015)は幌延町の深地層研究センターを題材とし、施設の存在をいかなる理由があれ許さないという保護価値の高さは施設の受容の低さを予測することを明らかにした。
保護価値にはいくつかの性質があるが、そのうちの1つに、結果の量に影響されないという量的非感応性がある(Baron & Spranca, 1997; 羽鳥・梶原,2012)。例えば、前述のような地層処分に否定的な保護価値を持つ人は、処分されるHLWの量が1万本であろうが5千本であろうが同程度に否定的な反応をするのであり、HLWの本数が少なくなっても拒否が弱くなるわけではないと考えられる。
保護価値がNIMBY施設の受容を妨げているとすれば、保護価値が量的に非感応であるため、保護価値に導かれる否定的な反応も量的に非感応であると予想される。そのため、負担の量そのものを減らしても受容は促進されないと考えられる。そのため、本研究では、負担の量は受容に影響せず、負担の分かち合いのみが受容に影響すると予想する。
保護価値を低減する方策先行研究は、保護価値がNIMBY施設の受容を妨げることを指摘している(羽鳥・梶原,2012; 大沼他,2015)。そのため、本研究では、保護価値を低減する要因を明らかにすることをもう1つの目的とした。本研究では不公平感に着目し、不公平感の低下が保護価値の低下を導くかを検討する。
保護価値の定義と性質から、保護価値は強固で変容が困難な考え方であるように見えるが、実際には変容しうるものである。例えば、Baron & Leshner(2000)は自然破壊への懸念からダム建設に反対する人々が、ダム建設によってかえって生物の絶滅を防止できる場合といった反例を考えることで保護価値が緩和されることを示した。同様に、羽鳥・セティアワン(2019)や羽鳥・梶原(2014)は、NIMBY施設を建設する場合としない場合のメリットとデメリットや受け入れられる状況を内省し記述することが保護価値の緩和を導くことを指摘した。こうした知見は、当該問題について新たな事実に気づき異なる視点から捉え直すことが保護価値の緩和に繋がるとまとめることができる。羽鳥他の研究(羽鳥・セティアワン,2019;羽鳥・梶原,2014)は、固定的な視点に囚われている参加者に別の視点から考えさせることで保護価値を低減させたと解釈できる。
本研究は、これまで1か所に建設することが前提とされていたHLWの地層処分場を、複数か所に建設することを提案し、これが地層処分場の社会的受容に与える影響を検討する。この提案は、1か所への集中が前提とされてきた負担を複数の地域で分散するという新たな視点を提供するものであり、自地域のみが負担を負いそれ以外の地域が利益のみを得るという構図を崩すことで、自地域と他地域の社会的比較によって生じる不公平感の低減を試みるものでもある。いわば、イヤなものを押しつけ合う問題から負担を分かち合う問題であると、リフレームすると考えることができる。つまり、NIMBY施設の立地は人口の少ないどこか1か所に押しやるものであるという認識を多くの都市住民が有しているという前提に立てば、その前提そのものを捉え直す、すなわち再解釈するきっかけを与えることになる。そして、不公平感の低減はこうしたリフレームが参加者に受け入れられたことの表れであると解釈することができる。この点は、NIMBY問題は一般に不公平という信念が強く、負担の分配情報が公平フレームの着目を引き起こすことからも説明できる(福野・大渕,1997)。よって、複数か所での立地という提案は、負担を分かち合うことでまず不公平感の低減に繋がり、さらにそれを介して保護価値を低減し、そのことが地層処分の受容に繋がると予測できる。一方、HLWの量の多寡はあくまで自地域で処分される廃棄物の量の問題であり、他地域との比較とは関係がないため不公平感に影響せず、また、量的非感応性があるために保護価値に影響することもなく、地層処分の受容にも影響しないと予測できる。
以上を踏まえ、本研究では、地層処分施設の立地地域数が不公平感を低減し、そのことが保護価値を低減することを通じて地層処分の受容を高めるという仮説を立てた。
本研究の目的と仮説本研究の主な目的は2つある。1つ目は、HLWの地層処分地の立地地域数とそこに持ち込まれるHLWの量が不公平感、保護価値、地層処分場の受容にそれぞれ影響を与えるかを検討することである。この検討のため、本研究では地層処分地の立地地域数とHLWの量を操作したシナリオを実験参加者に提示する質問紙実験を行う。本研究の仮説として、地層処分施設を複数か所に立地するというシナリオは不公平感や保護価値を低減し地層処分施設立地の受容を高める一方、HLWの量はこれらの従属変数に影響しないと予想した。
2つ目の目的は、地層処分の立地地域数やHLWの量の操作が参加者の不公平感に影響し、そのことが保護価値の緩和を導き、そのために地層処分地の受容が高まるという一連のモデルを検討することである。本研究の仮説として、立地地域数の操作は不公平感と保護価値を介して地層処分施設立地の受容に影響する一方、HLWの量の操作は不公平感に影響がなく、保護価値や立地の受容にも影響しないと予想した。
Webモニターによる仮想シナリオ実験を実施した。2020年10月にインターネット調査会社を介して実験参加者を募集した。実験参加者は18歳以上100歳未満の824名だった。回答の信頼性を担保するため、参加者のうち後述する条件操作の手続きで資料の内容を確認する問題に2回以上誤答した者とすべての質問項目に同じ数字で回答している者は不適切な回答として除外し、最終的に分析に使用したのは760名分のサンプルとなった(男性362名、女性398名;平均年齢50.25歳(SD = 16.84))。参加者には報酬として、調査会社が付与するポイントが与えられた。
なお、実験参加者は、首都圏および関西圏の居住者のみを対象とした。これは、原発立地県とそうでない県で地層処分に対する態度や関心が異なると予想されるものの、居住地域による影響は本研究で検討する要因ではなく、剰余変数を排除する必要があったためである。
実験参加者は、それぞれの条件で年齢と性別が同数となるように、実験条件のうち1つにランダムに割り当てられた。実験条件は、2(地層処理地の立地地域数:1か所または複数か所)×2(HLWの量:5千本または1万本)の4条件だった。質問紙への回答はWeb上で行われた。
手続きまず、実験参加者はスクリーニングのために年齢と性別を回答した。また、後続の実験操作のために、居住地域も回答した。その後、参加者は各実験条件で共通の資料を提示され、これを読むように指示された。資料は3ページに分かれており、1ページ目でHLWについて、2ページ目でHLWの処分方法について、3ページ目で地層処分場の選定方法についてそれぞれ説明するものだった。このとき、HLWはガラス固化体の本数に換算して約2万6千本存在することになるという説明が明示された。実験参加者は各ページを読むごとに「300メートル以深の地下では、地震や台風といった天災やテロや戦争といった人災の影響が及びにくい」など説明の内容を確認する質問項目に回答し、これが正答であった場合のみ次のページに進むことができた。誤答した場合は再度同じ資料を提示された。実験参加者は資料の各ページが表示されてから15秒以上経過しないと確認の質問に回答することができなかった。資料の内容を確認する同じ質問項目に2回以上誤答した回答者は分析から除外された。
次に、実験条件ごとに、実験参加者の居住地域で地層処分が行われることが決まったという架空のシナリオを提示した。シナリオには「あなたの住む地域(○○)」というように、実験参加者が回答した自身の居住地域名を含め、地層処分施設の立地に実験参加者の居住地域が含まれることを明示した。
シナリオは実験条件ごとに4つのパターンを用意し、立地地域数について述べている部分とHLWの量について述べている部分をそれぞれの条件に合わせて作成した(Appendix 1)。立地地域数が1か所の条件では、「候補地の選定を進めた結果、あなたの住んでいる地域(○○)一か所だけに、高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)を地層処分することに決まりました」と説明した。立地地域数が複数か所の条件では同様の箇所を「あなたの住んでいる地域(○○)だけでなく複数の地域に」とした。また、HLWの量が5千本の条件では「高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)5,000本相当分を地層処分することに決まりました」と説明し、1万本の条件では同様の箇所を「10,000本」にした。参加者はシナリオを読んだ後、シナリオの内容を確認する質問項目2つに回答した。参加者はこれらの質問にすべて正答しなければ次のページに進むことができず、1つでも誤答があればシナリオのページが再度表示された。シナリオを提示するページも、表示から15秒以上経過しないと確認の質問に回答できないようになっていた。
シナリオの内容を確認する質問に回答した後、実験参加者はHLWの処分に関する認識、保護価値や量的非感応性、不公平感、施設立地の受容について回答した。なお、これらの設問では、質問項目の冒頭に「もしあなたの住んでいる地域(○○)一か所だけ(もしくは複数箇所)に、高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)5,000本(もしくは10,000本)相当分を地層処分することに決まったならば」のように実験参加者に提示したシナリオの要約を提示し、実験参加者の置かれている条件が常に明確になるようにした。
質問項目質問項目は内容理解の確認を除き「1: 全くそう思わない」から「5: 非常にそう思う」の5件法で尋ねられた。
内容理解の確認シナリオの内容を理解しているかを確認する質問を2項目で尋ねた。項目の内容は地層処分地の地域数について「地層処分地は、あなたの住んでいる地域一か所だけに決まった」か「地層処分地は、あなたの住んでいる地域だけでなく複数か所に決まった」のいずれかを選ぶものと、自分の住んでいる地域で処分されるHLWの量について「高レベル放射性廃棄物10,000本相当分を処分することに決まった」か「高レベル放射性廃棄物5,000本相当分を処分することに決まった」のいずれかを選ぶものだった。回答者は自身の読んだシナリオに合致する選択肢を選ぶことを求められた。
HLWの処分に関する認識本研究では、地層処分地の地域数と処分するHLWの量に関する実験参加者の認識をシナリオを用いて操作することを試みたが、参加者が実験者の意図通りにシナリオを理解しない可能性も否定できない。特に、地層処分地の地域数と処分するHLWの量は交絡しうる。1か所に立地する条件の参加者がシナリオで割り当てられた以外のHLWも自分の地域で処分される恐れがあると考え実質的なHLWの量をさらに多く認識する可能性や、反対に複数か所に立地する条件の参加者が複数か所で負担を分かち合うために自分の地域に割り当てられるHLWの量をシナリオより少ないと誤解する可能性が否定できない。そこで、参加者のHLWの処分に関する認識を尋ねた。この認識は「残りの高レベル放射性廃棄物も自分の地域で処分することになると思う」「ひとたび自分の住む地域で高レベル放射性廃棄物を受け入れたら、今後他の地域で処分することはないと思う」の2項目で尋ねた。なお、2項目の一貫性が高くなかったため(α = .65)、分析はそれぞれの項目で行った。
不公平感不公平感は「自分の住む地域が地層処分地になることは、不公平であると感じる」「自分の住む地域に高レベル放射性廃棄物が持ち込まれることは、不公平であると感じる」の2項目で尋ねた。
保護価値と量的非感応性保護価値は大沼他(2015)を参考に、「いかなる理由であれ、自分の住む地域が地層処分地になることを受け入れることは認められない」「いかなる理由であれ、自分の住む地域に高レベル放射性廃棄物を持ち込むことは許しがたい」の2項目で尋ねた。本研究の質問項目は、メリットの有無にかかわらず受け入れないという側面を強調して尋ねていたBaron & Spranca(1997)や羽鳥・梶原(2012)のものと異なり、無条件の否定というニュアンスに変更されている。これは地層処分地というメリットが想定しにくい題材を扱ったシナリオと質問項目との整合性を保つため、メリットやデメリット以外の側面から保護価値を検討した大沼他(2015)を踏襲したためである。
量的非感応性は「5,000本であれ10,000本であれ、自分の住む地域に高レベル放射性廃棄物を持ち込むことは受け入れられない」「5,000本であれ10,000本であれ、自分の住む地域に高レベル放射性廃棄物を持ち込むことは、認めがたいものは認めがたい」の2項目で尋ねた。
施設立地の受容施設立地の受容は「私は自分の住む地域が地層処分地として決まったことを受け入れる」「私は自分の住む地域が地層処分地に選ばれたことを受け入れられる」の2項目で尋ねた。
分析方針仮説検証のため2つの分析を行った。まず、操作した要因が不公平感や保護価値、施設立地の受容に与える影響を検討するため、実験条件を独立変数とし、年齢と性別を共変量とする共分散分析を行った。次に、それぞれの実験条件が不公平感や保護価値を介して施設の受容に影響するかを検討するために媒介分析を行った。共分散分析までの分析にはHAD(清水,2016)を用い、媒介分析にはIBM SPSS Amos version 21を用いた2)。
分析に先立って、実験参加者が実験者の意図通りにシナリオを理解したかを検討した。まず、HLWの処分に関する認識を尋ねた2項目について、条件ごとの平均値と標準偏差をTable 1に示した。そして、それぞれの項目について実験条件である立地地域数とHLWの量を独立変数とした分散分析を行った。その結果、「残りの高レベル放射性廃棄物も自分の地域で処分することになると思う」については立地地域数の主効果が有意であり、1か所に立地する条件の参加者のほうが残りのHLWも自分の地域で処分することになると考えていた(F(1, 757)= 10.301, p = .001, ηp2 = .013)。一方、HLWの量の主効果は有意ではなかった(F(1, 757)= 0.832, p = .362, ηp2 = .001)。「ひとたび自分の住む地域で高レベル放射性廃棄物を受け入れたら、今後他の地域で処分することはないと思う」については立地地域数の主効果は有意ではなく(F(1, 757)= 2.335, p = .127, ηp2 = .003)、HLWの量の主効果も同様に有意ではなかった(F(1, 757)= 0.089, p = .766, ηp2 < .001)。
残りの高レベル放射性廃棄物も自分の地域で処分することになると思う | ひとたび自分の住む地域で高レベル放射性廃棄物を受け入れたら、今後他の地域で処分することはないと思う | |||
---|---|---|---|---|
1か所 | 複数か所 | 1か所 | 複数か所 | |
5千本 | 3.13 (1.02) | 2.96 (1.02) | 3.18 (1.04) | 2.93 (1.04) |
1万本 | 3.05 (1.07) | 3.00 (0.96) | 3.25 (1.03) | 3.00 (1.03) |
注.括弧内は標準偏差を示す。
それぞれの従属変数の測定に使用した項目の内的一貫性を検討した。その結果、不公平感と立地の受容については、項目間のα係数がそれぞれ.90以上(αs > .94)であったので一貫性に問題はないと判断し、2項目の平均をその変数の得点として分析に使用した。保護価値と量的非感応性については、当初はこの2つを区別して尋ねていたものの、4つの項目の相関係数がすべて.86を超えていたので区別できないと判断し、4つの項目の平均を保護価値の得点として合成し、分析に使用した(α = .97)。以上により作成された尺度について、条件ごとの平均値と標準偏差をTable 2に示した。
不公平感 | 保護価値 | 立地の受容 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
1か所 | 複数か所 | 1か所 | 複数か所 | 1か所 | 複数か所 | |
5千本 | 3.40 (0.94) | 3.11 (0.98) | 3.33 (1.03) | 3.18 (1.06) | 2.76 (1.04) | 3.00 (1.04) |
1万本 | 3.29 (1.03) | 3.23 (1.02) | 3.31 (1.13) | 3.25 (1.08) | 2.72 (1.09) | 2.85 (1.07) |
注.括弧内は標準偏差を示す。
不公平感、保護価値、立地の受容をそれぞれ従属変数とし、実験条件である立地地域数とHLWの量を独立変数に、年齢と性別をともに共変量として同時に投入した共分散分析を行った。
その結果、不公平感を従属変数とした分析では、立地地域数の主効果が有意だった(F(1, 754)= 6.528, p = .011, ηp2 = .009)。一方、HLWの量の主効果は有意ではなく(F(1, 754)= 0.002, p = .963, ηp2 < .001)、交互作用も非有意だった(F(1, 754)= 2.663, p = .103, ηp2 = .004)。このことから、複数の地域に地層処分施設が立地する条件のほうが1か所に立地する条件より不公平感が低かったが、HLWの量は不公平感に有意な影響を与えなかったことが明らかになった。
保護価値を従属変数とした分析では、立地地域数と量の主効果は有意ではなく、交互作用も非有意だった(立地地域数:F(1, 754)= 2.469, p = .117, ηp2 = .003. HLWの量:F(1, 754)= 0.105, p = .746, ηp2 < .001。交互作用:F(1, 754)= 0.502, p = .479, ηp2 = .001)。このことから、立地地域数やHLWの量は保護価値に影響を与えなかったことが示唆された。
立地の受容を従属変数とした分析では、不公平感と同様に立地地域数の主効果が有意だった(F(1, 754)= 6.635, p = .010, ηp2 = .009)。一方、HLWの量の主効果は有意ではなく(F(1, 754)= 1.431, p = .232, ηp2 = .002)、交互作用も非有意だった(F(1, 754)= 0.552, p = .458, ηp2 = .001)。このことから、複数の地域に地層処分場が立地する条件のほうが1か所に立地する条件より受容されやすく、HLWの量は立地の受容に有意な影響を与えなかったことが明らかになった。
媒介分析による立地地域数とHLWの量が受容に影響する過程の検討媒介分析に先立って、各変数について相関分析を行った。その結果をTable 3に示した。その結果、不公平感は立地地域数と保護価値に有意な相関がみられた。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | |
---|---|---|---|---|---|
1. 立地地域数(0 = 1か所、1 =複数か所) | 1.000 | ||||
2. HLWの量(0 = 5千本、1 = 1万本) | .008 | 1.000 | |||
3. 不公平感 | −.087* | .001 | 1.000 | ||
4. 保護価値 | −.051 | .011 | .774** | 1.000 | |
5. 立地の受容 | .086* | −.041 | −.621** | −.745** | 1.000 |
注.** p < .01, * p < .05.
それぞれの実験条件が不公平感や保護価値を介して立地の受容に影響するかを検討するために、ブートストラップ法(バイアス修正法,2,000回のリサンプリング)を用いた媒介分析を行った。その結果をFigure 1とFigure 2に示した。
注.係数はすべて標準化係数。括弧内は95%信頼区間。** p < .01, * p < .05. 立地地域数から立地受容へのパス係数は前者が総合効果、後者が直接効果を示す。直接効果は媒介変数の影響を除いた効果を示すものであり、総合効果は媒介変数の影響を含んだ効果を示すものである。
注.係数はすべて標準化係数。括弧内は95%信頼区間。** p < .01, * p < .05.
立地地域数を独立変数とするモデルに関しては、まず、不公平感を媒介変数として保護価値へ向かう間接効果は有意だった(β = −.068, 95% CI(−.120–−.012), p = .015)。また、不公平感から保護価値を媒介変数として受容へ向かう間接効果も有意だった(β = −.513, 95% CI(−.578–−.458), p = .001)。立地地域数から不公平感と保護価値を媒介変数として受容へ向かう間接効果は有意ではなかったが(β = .043, 95% CI(−.007–.099), p = .096)、総合効果は有意だった(β = .086, 95% CI(.016–.162), p = .022)。これらのことから、立地地域数は総体的に、不公平感や保護価値を介して施設の受容に影響していたことが示された。
HLWの量を独立変数とするモデルについては、まず、不公平感を媒介変数として保護価値へ向かう間接効果は有意ではなかった(β = .001, 95% CI(−.520–.055), p = .962)。一方、不公平感から保護価値を媒介変数として受容へ向かう間接効果は有意だった(β = −.510, 95% CI(−.573–−.454), p = .001)。HLWの量から不公平感と保護価値を媒介変数として立地の受容へ向かう間接効果は有意ではなく(β = −.007, 95% CI(−.061–.044), p = .812)、総合効果も非有意だった(β = −.041, 95% CI(−.109–.028), p = .260)。これらのことから、HLWの量は不公平感や保護価値に媒介されることがなく、立地の受容にも影響を与えないことが示された。
本研究の目的は、HLWの地層処分場の立地地域数とそこに持ち込まれるHLWの量が、地層処分施設立地の受容に与える影響を検討することであった。本研究の結果から、立地地域数が複数か所である場合、1か所である場合よりも不公平感が低くなり、立地が受容されやすいことが示された。この結果は横山他(2021)と一貫するものであり、本研究の仮説とも整合する。
ただし、直接的には保護価値に影響せず、仮説は支持されなかった。この結果は、保護価値は不公平感や受容に比べれば容易に変容しにくいものであるためと考えられる。本研究の想定では、保護価値は問題の新たな視点に気づくことで変容しうるものとしていた。しかし、本研究の結果からは、少なくともシナリオを読むという操作では変容しない可能性が示唆された。羽鳥・梶原(2014)はダム建設において、保護価値を持っていた者でダム建設を受容できる条件を想像できたとする22名のうち保護価値が変容した者が8名であったことを明らかにしている。このことは内省という比較的強い操作を実行できた者であっても、半数以上は保護価値が変容しないことを示しており、保護価値が強固で変化しにくいものであることを示唆するものであろう。
媒介分析により、仮説で予測した通り、立地地域数が不公平感を低減し、そのことが保護価値を低減して立地の受容を高めるという一連のモデルが示された。この結果は、NIMBY問題は負担をどこへ押しつけるかという問題ではなく、地域間で負担を分担し合う問題であるとリフレームすることで不公平感が低減され、それが保護価値緩和に繋がるという解釈を可能にするものである。
一方、HLWの量は不公平感や保護価値、立地の受容のいずれにも有意な影響をもたらさなかった。この結果は保護価値に量的非感応性があるというBaron & Spranca(1997)や羽鳥・梶原(2012)の知見とも一貫する。これらの結果は、複数か所のほうが地層処分施設立地が受容されやすいという結果が、自分の住む地域で受け入れるHLWの量が減るために生じるものではないことを意味している。つまり、処分場を複数か所に分散すれば自地域で負担する量が減るから受容に繋がるという問題ではないということである。このことから、HLWの量を減少させても、負担が1か所に集中するのであれば地層処分場の受容が進まない可能性も示唆された。
ただし、本実験のパラダイムでは、単に参加者が5千本と1万本の違いを認識できなかった可能性もあるという別解釈にも留意する必要がある。回答者は当該問題への関与度や当事者性が低い人が多数を占めていると考えられることから(日本原子力文化財団,2022)、量の多寡を区別できなかっただけかもしれない。また、本数の差異は理解していたものの、回答者にとってHLWが1万本であることと5千本であることの心理的意味に差がなかった可能性もある。しかし、操作チェックは有効であったこと、1か所か複数か所かでは不公平感などに差が出たことから、関与度や当事者性の低さだけでも説明がつかない。
また、操作チェックにおいて、「残りの高レベル放射性廃棄物も自分の地域で処分することになると思う」という項目は立地地域数の有意な主効果がみられた。この結果は、実験参加者が主観的に推測したHLWの処分量が立地地域数によって左右されており、HLWの量の認識がシナリオで示した本数だけではなく立地地域数にも影響されていた可能性を示唆している。ただし、もう1つの「ひとたび自分の住む地域で高レベル放射性廃棄物を受け入れたら、今後他の地域で処分することはないと思う」という項目では立地地域数の主効果は有意ではなく、本研究では一貫してHLWの量の主効果もみられていないため、本研究の結果だけではこの解釈の妥当性は明らかでない。これらの点については、今後、より操作を洗練化させて検証する必要がある。
以上をまとめると、NIMBY問題は一地域だけを取り上げてそこで負担する量を問題にするのではなく、地域間での負担の分かち合いの問題として扱われるべきであるという主張を補強する結果が得られた。本研究の知見は、NIMBY問題において負担配分の公平性を重視すべきだとする議論(Kuhn & Ballard, 1998; Pol et al., 2006)と整合するものである。また、これまでの研究ではそうした問題の指摘に留まっていたが、本研究では具体的な提案を実証的に検討したことで、現実の場面にも援用可能な対応策を提示した。さらに、本研究では横山他(2021)の知見を拡張し、NIMBYの立地地域数が除去土壌の再生利用だけではなくHLWの地層処分施設立地の受容にも影響することを明らかにしたともいえる。
本研究の限界と今後の展望本研究には方法論上の限界も存在する。まず、本研究では仮想のシナリオを用いた質問紙実験を行ったが、架空のシナリオでは実験参加者が地層処分施設の立地を真に自分事と考えて回答したと保証することができない。つまり、本研究の知見の適用範囲が、他人事としてNIMBY問題に反応した場合に限られる可能性が否定できない。本研究では、シナリオや質問項目の提示の際に、実験参加者が回答した自身の居住地域を提示することで当事者性の喚起を試みたが、回答者は大都市住民であり、HLWの地層処分場候補地として地域名が浮上したり、HLW中間貯蔵施設や関連研究施設、原発などが近くにあるなど身近に現実的な課題として実感せざるを得ない環境には居住したりしておらず、架空のシナリオだけでリアリティを持って回答できたかは留保せざるを得ない。
当事者性は回答者の反応に大きな影響を及ぼす可能性がある。例えば、中谷内他(2010)は沖縄における赤土流出問題を取り上げ、赤土の流出の被害を直接被っている漁業関係者とそうではない一般住民ではリスク管理組織に対する信頼を規定する要因が異なることを示している。こうした知見も踏まえれば、今後の研究では、当事者を取り上げた研究を行うなどして知見の信頼性や一般化可能性を確かめる必要があるといえるだろう。
また、本研究ではHLWの量を5千本と1万本で操作し、量に有意な主効果がないことを明らかにしたが、この結果は保護価値の量的非感応性以外の要因によるものである可能性が排除できない。回答者は5千本の時点で十分受容を否定しており、HLWが1万本に増えてもその態度が変わらないという状態であった可能性もある。こうした解釈の妥当性を検討するために、今後の研究ではHLWが1本の条件を設けるなど、極端な比較を行う必要があるだろう。
加えて、実際の事例ではシナリオによる操作では保護価値を低減させられないほど強固に信念を持つ市民も想定し得えるが、本研究は一般的なサンプルを募ったものであり、容易に変容しないほど強固に保護価値を持つ参加者が少なかった可能性もある。本研究の知見を現実場面に適用するためには、こうした市民の態度変容を検討するのも重要であろう。
以上の点は、保護価値の研究としても、概念の精緻化が求められる。本研究のようなリフレームにより変化するような対象者は保護価値が真に強いとはいえないかもしれない。当該問題に強い関心を有し、熟慮の上で強固な態度を変えない人は、母集団全体の中では少数なのかもしれない。このような対象者に有効な処方を検討するには、本研究のパラダイムでは限界があり、事例調査など別の観点から明らかにする必要がある。
本研究には、NIMBY施設の受容にかかわると指摘されている多くの要因を検討しきれていないという課題もある。保護価値に限っても、量的非感応性だけではなく道徳的な義務感や怒りといった特徴もあることが指摘されており(Baron & Spranca, 1997)、NIMBY施設を複数か所に立地するという提案がこうした要素に与える影響は検討していない。本研究では保護価値と量的非感応性を区別して尋ねていたが、項目分析の結果区別できないものと判断し、1つの尺度として分析に使用した。本来、両者は概念的に区別されるが、本研究の質問項目ではどちらも理由や本数といった条件によらずHLWを拒否するという内容で尋ねている。アドホックな解釈にはなるが、こうした質問項目の類似のためにどちらの内容もほとんど差のないものとして実験参加者に受け止められ、本研究の結果に繋がった可能性がある。今後の研究では、量的非感応性の測定方法を見直すとともに、保護価値の他の側面も交えて検討する必要があるだろう。
加えて、野波他(2016)は、NIMBY問題では受益圏に含まれるが受苦圏からは外れる域外多数者の無関心が不公平感と怒りの感情を増幅させると述べている。彼らは保護価値については言及していないが、複数か所にすることが域外多数者の無関心を低減させ、それが不公平感や怒りの感情を低減させ、保護価値を緩和するという可能性も検討する意義があるだろう。NIMBY施設の受容には分配的公正も重要であると指摘されており(横山他,2021; Nakazawa, 2017)、分配的公正は不公平感も包含する大きな概念だが、NIMBY施設を複数か所に建設するという提案と分配的公正の諸要素との関係もさらに検討の余地がある。
HLWの地層処分の問題に立ち返れば、地層処分地を複数か所にして管区別に処理するという方式は現実的にありうる選択肢として考えられる。また、候補地選定のプロセスにおいては、候補地の調査が進んだ段階で地下深くの活断層に遭遇し、その断層の活動性が評価できず立地選定が頓挫する可能性も指摘されている(日本学術会議,2015)。このような問題を避けるという観点からも、幅広い候補地から立地を絞り込むことは合理的である。国土すべてを含む幅広い候補地から地層処分場の立地を選定する手法はフィンランドやスイスなどでとられており(大澤他,2019)、公募によって立地を選定するイギリスの事例(大澤他,2019)や、数少ない候補地から立地を絞るフランスの事例(大澤他,2014)に比べ、大規模な反対運動への発展は報告されていない。これらの事例は、複数か所の候補地で調査を開始することが保護価値緩和に繋がった側面があったと解釈することも可能かもしれない。このことは、幅広い候補から選ぶこと自体が立地の受容を高める可能性があることも示唆している。以上の知見を踏まえれば、あらかじめ候補地を1か所に絞り込まずに地層処分地選定を行い、最終的に1か所に限定せずに立地するという提案が人々の保護価値や施設の受容に与える影響の検討を続けることに意義があるといえるだろう。
1か所・5千本条件のシナリオ |
以下は、もし仮にという仮想の話です。文章をよく読んでください。 |
高レベル放射性廃棄物の地層処分候補地は、地質学的特性など科学的根拠に基づき、安全性の確認を繰り返しながら、選定を進めていきます。 |
候補地の選定を進めた結果、あなたの住んでいる地域()一か所だけに、高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)5,000本相当分を地層処分することに決まりました。 |
複数か所・1万本条件のシナリオ |
以下は、もし仮にという仮想の話です。文章をよく読んでください。 |
高レベル放射性廃棄物の地層処分候補地は、地質学的特性など科学的根拠に基づき、安全性の確認を繰り返しながら、選定を進めていきます。 |
候補地の選定を進めた結果、あなたの住んでいる地域()だけでなく複数の地域に、高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)10,000本相当分ずつを地層処分することに決まりました。 |
注.4パターンある実験条件のうち2パターンのみの抜粋。地域の後ろの括弧には回答者が回答した自身の居住地域が入る。
1)本研究はNUMO社会的側面に関する研究支援事業の支援を受けた。
2)HADは清水(2016)が指摘するように、商用ソフトではなく開発者はその分析結果にいかなる責任も負わない。そのため、HADを用いた分析はIBM SPSS Amos version 28を用いて検算を行い、分析結果に問題がないことを確認した。