2024 Volume 39 Issue 3 Pages 229
本書は「メディア効果論」と呼ばれる、マスメディアが人々にもたらす影響を実験や社会調査を通じて科学的に検証する研究分野が、1930年代から今日に至るまであげてきた成果を学説史的な視点も積極的に取り入れながら概観した書籍である。新書ということもあり、事前に専門知識を持たない初学者でも理解できるように執筆されている。
第1章はナチスと『宇宙戦争』の事例からメディアの効果がそれほど強力でないことを説く。第2章はメディアの効果が限定的だとする限定効果論を説明し、そのもととなる選択的接触とそのメカニズムを説く。第3章では、われわれがメディアの効果を大きく認知してしまうバイアスについて第三者効果と敵対的メディア認知を扱う。第4章は現実認識を作り出すマスメディアに注目し、議題設定理論、プライミング、フレーミング、培養理論といった新しい強力効果論を解説している。第5章はインターネットを個人の選好を強化するメディアとして、その効果について考える。第6章はまとめとなっている。
本書の特徴は、理論の核となるような研究の研究法や結果が詳細になされていることであり、この分野の研究者なら必読とも言える文献が数多く紹介されている。第2章から第5章の冒頭には、章全体を見通す図が掲載されており理解の助けになっている。また、書籍全体を通じ、メディアの強力効果と限定効果という観点をめぐって、著者のストーリーが巧みに展開されており、理解の助けになっている。メディアに関心を持つ人々にとって必読の書といえよう。
本書は教科書ではないが、授業で利用したいという教員も多いと思う。そこで、近年出版されたメディア効果論や政治コミュニケーションの概説書との内容の比較を試みたい。
Bryant & Finklea(2023)は書名の通りメディア効果論の概説書であり、3部構成となっている。第1部は概観と歴史であり、研究法や効果概念の変遷を扱っている。第2部が理論と概念と題され「社会的認知理論」「プライミング」「議題設定」「フレーミング」「培養」「利用と満足」「説得」という章で構成されている。第3部は主要な研究領域を扱い、「暴力」「性」「恐怖や不安」などのテーマを取り上げている。第1部と第2部が本書と深く関連する。
「プライミング」「議題設定」「フレーミング」「培養」は本書でも中心的なテーマとして取り上げられており、「説得」は第3章で言及されている。「社会的認知理論」「利用と満足」は取り上げられていない。本書が政治を中心にしているため、これらの理論が取り上げられないのは十分納得できる。
Perloff(2022)は政治コミュニケーションのテキストであり、3部構成となっている。第1部は「政治コミュニケーションの基礎」、第2部は「政治コミュニケーションの概念と効果」、第3部は「コミュニケーションと大統領選挙キャンペーン」である。第2部が本書と関連が深く、「政治コミュケーション研究」「メディアと政治知識」「現代の政治的社会化」「議題設定と議題構築」「フレーミング」「党派性の心理」の章が立てられている。
一見、重複が少ないようだが、「敵対的メディア認知」や第5章の内容は党派性の章で、「培養」は扱いが小さいものの政治的社会化の章で扱われている。一方、第三者効果についてレビュー論文もあるPerloffの書籍であるにもかかわらず第三者効果は取り上げられていない。
評者は本書を演習形式の授業で教科書として使用した。上述した本書の特徴のおかげで、学生の理解が進み、章の内容を踏まえた議論も活発になされた。HandbookやAnnual Reviewなどや学術論文などにあたることで、さらに理解を深めることができる。
また、日本における政治コミュニケーション研究の現状を知るには著者に刺激を受けている若手研究者が近年出版した書籍にあたるとよいだろう(金子,2023; 大森,2023; 横山,2023)。
本書をきっかけにメディア効果研究に関心をもつ学生、大学院生、研究者が増えることを望むことを期待したい。