2024 Volume 40 Issue 1 Pages 28-34
This study investigated in which group tasks (disjunctive/additive) the “80/20 rule” was observed. The “80/20 rule” refers to an empirical rule where a group or organization is composed of some active members and many inactive members. The situation that follows the process of the “80/20 rule” is little known in human social behavior. Thus, we examined whether the behavioral equilibrium according to the “80/20 rule,” where the workload of a few active members increases and that of other inactive members decreases, could be observed using two types of group tasks. Seventy-five undergraduates participated in an experiment. They completed five trials of a mathematical task in groups of four or five. The participants were told that the experimental reward would be determined either by the score of the group member who solved the most answers (disjunctive task) or by the average of the scores of all members (additive task). The results showed no behavioral equilibrium following the “80/20 rule” in both tasks. The limitations of this study were discussed.
集団の生産性を促進/抑制させる要因の特定について,これまで多くの研究が行われてきた。例えば,集団での作業では,単独でのときよりも一人あたりの作業量が低下する社会的手抜き(Latané et al., 1979),他者の不足分を補うように努力量を増大させる社会的補償(Williams & Karau, 1991),他者の存在によって作業量が向上する社会的促進,逆に低下する社会的抑制(Zajonc, 1965)である。これらの先行研究から,集団での協同作業では必ずしも全員が協力するとは限らないことも知られている(e.g., Kameda et al., 2011)。その例の一つとして「二八の法則」がある。「二八の法則」はパレートの法則とも呼ばれ(e.g., Chen et al., 1994),少数が集団全体の生産を支える現象を指す。この現象は社会性昆虫であるアリでも観察されている(Ishii & Hasgeawa, 2013)。本研究では「二八の法則」を,集団や組織が一部の活動者と多数の非活動者によって構成されている経験的観察(石橋・亀田,2007)4)と定義する。「二八の法則」が観察される状況下では一部の成員に過度な負担がかかる可能性が高く,過労という社会問題につながる(e.g., 岩田,2009)。そのため,成員の資源(e.g., 労力,時間)配分の偏りがいかに集団の生産性へ影響するかを明らかにする出発点として,集団生産場面において「二八の法則」が観察される状況を特定する必要がある。そこで本研究では,集団課題の種類(Steiner, 1972)に着目し,「二八の法則」に基づく集団内の行動均衡に至る過程を実験室実験で検討した。
課題の種類と集団の生産性Steiner(1972)は集団課題を分離型,接合型,加算型などに分類した。分離型課題では最も作業量の多い成員,接合型課題では最も作業量の少ない成員,加算型課題では各成員の作業量の合計で集団成果が決まる(大坪他,1996)。この課題の違いは集団生産性に影響する(e.g., Worchel et al., 1998; Zaccaro & Lowe, 1988; Zaccaro & McCoy, 1988)。例えば,Littlepage(1991)は,加算型課題では成員数が増えると集団成果が直線的に上昇する一方,分離型課題では,積極的な課題への参加を促す条件でのみ,成員数と集団成果の関係が逆U字型になることを示した。また,Kerr & Bruun(1983)は,課題遂行能力が不必要感(i.e., 集団には自分は必要ないと感じること)や努力に及ぼす影響が課題の種類に依存すると主張した。実験の結果,分離型課題では成績が低いと教示された者の方が不必要感を抱き,努力を怠ったが,接合型課題では成績が高いと教示された者が不必要感により努力を怠った。加算型課題では,教示によって不必要感および努力に違いが見られなかった。
「二八の法則」では,Steiner(1972)の課題のうち,どの課題で「二八の法則」に基づく均衡が生じやすいのか。まず,「二八の法則」に代表される均衡が理論的に成り立つのは,集団成果が協力者の増加に対して限界逓減する(増分が次第に縮小する)場合である(Motro, 1991)。限界逓減型の利得構造下では,集団内の協力者と非協力者が安定して共存することが実証的に示されている(Kameda et al., 2011)。石橋他(2006)は,限界逓減型の課題において,集団内の協力者数が多い(少ない)場合に非協力(協力)の行動パタンが観察されるかを検討した。実験の結果,予測した行動パタンのみならず多様な行動傾向が見られた。しかし,観察されたそれらの行動傾向を抽出したシミュレーションを行うと,集団内で協力者と非協力者が安定して共存した(石橋・亀田,2007)。また,協力者(非協力者)のみの集団で課題を行うと実験後半に協力率を下げる(上げる)者が現れた(石橋他,2010; Kim et al., 2019)。限界逓減型では「二八の法則」の均衡が示唆される協力率の分散が生じたのである。
また,理論上,Steiner(1972)の課題分類のうち,限界逓減型の特徴を持つ課題は分離型である。分離型課題では,協力者数が増えるほど,その中で最も能力の高い者の成果の期待値(i.e., 集団成果の期待値)は上昇するが,その増分は小さくなる(cf., Steiner & Rajaratnam, 1961)。この状況では,意欲が向上する活動的な者と低下する非活動的な者が共存する安定的な均衡に至る(cf., Kameda & Tindale, 2006)。よって,分離型課題では「二八の法則」に示唆されるように,集団内で相対的に作業量が多い成員と少ない成員に分かれる過程が見られるだろう。
本研究の目的本研究では,繰り返し行う分離型課題により「二八の法則」の均衡に至る過程を検討した。課題の設定はKerr & Bruun(1983)の実験に倣った。彼らの実験結果では,課題成績が高いと教示された者は,低いと教示された者よりも高い遂行を示しており,これは「二八の法則」の行動パタンと整合する。しかし,「二八の法則」を検証する上で彼らの実験には二つの限界がある。第一に,彼らの実験は架空の集団を用い,偽のフィードバックを用いて成員の遂行能力を操作したため,生態学的妥当性に疑問が残る。そのため本研究では,実際の集団を用いて各成員の課題成績のフィードバックを行った。第二に,試行を通じた作業量の変動が検討されておらず,集団内で安定的な均衡に至る過程が検証できていない。そのため,本研究では,集団課題を繰り返し行い,各成員の作業量を定量的に測定した。
以上の改善を踏まえた実験を通じて「二八の法則」に従う行動パタンが観察されるかを検討した。石橋・亀田(2007)によれば,限界逓減型の課題において,社会的手抜きに基づき遂行が抑制される者(非活動者)と社会的補償に基づき遂行が促進される者(活動者)の安定した共存によって「二八の法則」が観察されると予測している。また,石橋他(2010)は,試行を通じて成員間の行動分散が拡大する均衡に至る過程を示唆している。本実験では試行ごとに成績をフィードバックするため,実験状況の学習に伴い,次第に「二八の法則」に基づく均衡に至る過程,すなわち,少数の活動者は作業量を増加させ,多数の非活動者は作業量を減少させる過程が観察されると期待される。以上の議論に従い,本研究では「二八の法則」に基づく行動パタンを以下のように操作的に定義した。
以上の定義に基づき,本研究では分離型課題において「二八の法則」の行動パタンが観察されるとの仮説を立てた。しかし,通常,課題にかかわらず,遂行時の作業量にはその能力や動機づけに応じて個人差が生じる。そのため,分離型課題で「二八の法則」を検証しようとしても,得られた分散が分離型課題の性質によるものなのか,能力や動機に応じた個人差によるものかが不明である。そこで本研究では,Steiner(1972)の課題分類の一つである加算型課題での遂行と比較することで仮説を検証した。加算型課題は全成員の作業が集団成果に反映されるため,協力者が増えるほど集団成果が直線的に増加する構造を持ち(Steiner, 1972),その構造の存在はすでに検証されている(Littlepage, 1991)。つまり,加算型課題は分離型課題よりも限界逓減になりにくい構造だろう5)。よって,本研究では,分離型課題において「二八の法則」の行動パタンが相対的に生じやすいと予測した。
さらに本研究では,課題の種類が成員の動機づけに影響を与えることで「二八の法則」の行動パタンが観察されると考え,成員の作業量と動機との関連を検討した。本研究では,Kerr & Bruun(1983)の知見に基づき,分離型課題でのみ,集団内の相対的に作業量の少ない成員は多い成員よりも不必要感を強く抱くと予測した。
本実験では,計算課題における解答数を作業量と操作的に定義した。実験参加者は,分離型か加算型の課題を4名か5名の集団で行った。各課題は5試行あり,各試行が終わると成績が教示された。この実験を通じて「二八の法則」に基づく行動パタンが観察されるか否かを検討した。
実験参加者大学生75名(男性36名,女性39名,Mage=19.69歳,SD=1.07)を分析の対象とし6),1グループあたり4名または5名(それぞれ10集団と7集団)であった。実験では各条件に無作為に割り当てられ,分離型課題が36名(8集団,男性19名,女性17名),加算型課題が39名(9集団,男性17名,女性22名)であった。集団内の性比は統制されなかった。
手続き参加者は匿名性保持のためのID番号を受け取り,扉が開いた個室に案内された。扉を開けて他の参加者の存在を示すことで,集団で課題を行う状況にあることを強調した。実験はQualtrics XMのフォームを用いて実施された。全員集まると,参加者はPC上のインフォームドコンセントを読み,参加の同意を行った。ID番号を入力した後,同一化尺度(中川他,2015)に回答した。次に,参加者は集団課題を行った(後述)。課題終了後,個室の扉が閉められ,PC上で事後質問(フィードバックに関する質問,課題に取り組む際の動機,課題の理解度の確認などの項目,同一化尺度,デモグラフィック項目)に回答した7)。課題に取り組む際の動機は,「自分の報酬ができるだけ多くなることを目指した」など15項目であり,5件法(1:全くそう思わなかった–5:非常にそう思った)で回答した。その後,PC上で提示されたデブリーフィングを読み,データ利用の事後同意を行った。最後に,実験報酬として課題の成績に応じた図書カード(1,000円か1,500円)を渡され,退室した。
集団課題参加者は,百マス計算(i.e., 縦10マス×横10マスの左側と上側に10–29の数字が無作為に並べられ,交差するマスで足し算をして解答する課題)を行った。課題では,1試行あたり3問の百マス計算が用意され,制限時間5分で行うよう教示された。このとき,注意事項(e.g., 計算せずにマスを数値で埋める行為はしない)が教示された。説明を読んだ後,参加者は練習問題(5分間,3問)を行った。制限時間はPC上のタイマーで表示された。
練習問題の後,同様の課題を何試行か繰り返し行うと教示され,実験報酬が解答1マスあたり1円と教示された。金銭報酬を設けたのは,参加者が真剣に課題に取り組むようにするためだった。各個人が得る最終的な報酬の教示は課題条件で異なっていた。分離型課題では,成員の中で最も多く解答した参加者の解答数で全成員の報酬が決まると教示された。加算型課題では,全成員の解答数の平均値で決まると教示された。
説明の後,課題の理解度を確認するため,5問の確認問題(e.g., 百マス計算は,1回の課題あたり何問ありますか)を解き,解答の正誤と解説が提示された。その後,全員同時に本試行を開始した。試行が終わる度に成績がフィードバックされ,各成員のID番号,現時点での報酬金額,試行ごとの解答数,累積解答数が提示された。なお,フィードバックでは一人一人の集団成員の実際の成績が全員に知らされた。ただし,個人はID番号で表示されたため,成績の個人識別はできなかった。フィードバックは4試行目まで行われた。
分析には,R 4.2.1(R Core Team, 2022)とHAD 17_202(清水,2016)を使用し,有意水準は5%で統一した。
操作チェック課題の前後に確認問題を行った結果,百マス計算に関する問題(e.g., 百マス計算は,1回の課題あたり何問ありますか)は一部の分析対象者が誤ったが,課題の種類を問う問題(e.g., 今回の課題では,あなたの報酬はどのように決まりますか)ではすべての分析対象者が正解であった。
仮説の分析方法本研究では,分離型/加算型課題において「二八の法則」に基づく行動均衡に至る過程を検討した。そのため,第1試行での解答数に応じて順位をつけた後,集団内の1位/2位以下の解答数の差と,試行を通じたその差の変動を検討した。第1試行の順位,各試行の解答数の平均値と標準偏差をTable 1に示す。個人の解答数(作業量)を従属変数とし,順位(0:2位以下,1:1位),試行(1–5試行,反復測定因子),課題(0:加算型,1:分離型),それらの交互作用項を投入した一般化線形混合モデル(GLMM)8)を実施した。順位のカテゴリは「二八」に従って2 : 8に近い割合で分類した。順位,試行は集団平均で中心化し,課題は全体平均で中心化した。また,個人ID,集団ID,集団サイズ(0:4人集団,1:5人集団)を変量効果として投入し,ポアソン分布(log)を用いた(Rのlme4パッケージ)。上述した「二八の法則」の操作的定義を満たす結果は,(a)順位に正の主効果が見られ,かつ,(b)順位×試行の交互作用が有意になり,試行が進むと1位は解答数が増加し,2位以下は解答数が減少するパタンが見られることと予測される。
課題 | 第1試行の順位 | 第1試行 | 第2試行 | 第3試行 | 第4試行 | 第5試行 | 総合解答数 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
M | SD | M | SD | M | SD | M | SD | M | SD | M | SD | ||
分離型 | 第1位(N=8) | 117.00 | 23.45 | 131.25 | 18.77 | 132.50 | 26.20 | 134.13 | 28.12 | 142.88 | 34.06 | 657.75 | 124.39 |
第2位(N=8) | 93.00 | 11.26 | 103.13 | 10.38 | 106.88 | 15.25 | 112.50 | 11.90 | 114.38 | 16.23 | 529.88 | 54.42 | |
第3位(N=8) | 83.38 | 9.88 | 89.38 | 22.15 | 86.88 | 12.76 | 90.50 | 21.73 | 91.00 | 15.13 | 441.13 | 55.89 | |
第4位(N=8) | 69.50 | 13.36 | 75.50 | 22.10 | 79.13 | 20.86 | 80.00 | 20.63 | 81.00 | 25.09 | 385.13 | 100.24 | |
第5位(N=4) | 64.75 | 13.84 | 71.25 | 11.81 | 86.00 | 29.70 | 88.50 | 27.74 | 82.25 | 33.81 | 392.75 | 111.10 | |
合計(N=36) | 87.83 | 23.45 | 96.64 | 27.77 | 99.64 | 28.15 | 102.53 | 29.23 | 104.53 | 33.73 | 491.17 | 135.33 | |
加算型 | 第1位(N=9) | 103.44 | 21.61 | 119.44 | 26.56 | 112.89 | 22.76 | 114.11 | 21.44 | 118.44 | 22.27 | 568.33 | 105.90 |
第2位(N=9) | 82.44 | 9.59 | 88.89 | 9.43 | 97.44 | 18.21 | 97.44 | 15.88 | 95.11 | 20.58 | 461.33 | 67.78 | |
第3位(N=10) | 76.30 | 11.90 | 88.90 | 15.74 | 87.90 | 16.32 | 92.10 | 13.64 | 91.70 | 16.45 | 436.90 | 64.96 | |
第4位(N=8) | 58.88 | 17.30 | 69.00 | 14.26 | 74.50 | 10.36 | 82.63 | 13.21 | 83.13 | 17.03 | 368.13 | 63.39 | |
第5位(N=3) | 58.67 | 10.50 | 69.00 | 7.81 | 67.00 | 9.17 | 83.67 | 18.61 | 67.00 | 21.00 | 345.33 | 33.08 | |
合計(N=39) | 79.05 | 21.82 | 90.33 | 24.50 | 91.51 | 22.24 | 95.82 | 19.39 | 95.00 | 23.64 | 451.72 | 103.88 |
注)加算型課題の第3位でN=10,第4位でN=8となっているのは,第1試行で同数3位がいるグループがあったためである。
分析の結果,順位と試行と課題の3要因交互作用(b=0.03, ns),課題の主効果(b=0.07, ns)は有意ではなかった。順位(b=0.35),試行(b=0.04)の主効果は有意に正だったが,順位と試行の交互作用は有意ではなかった(b=−0.01, ns)。すなわち,分離型課題と加算型課題では集団内の1位と2位以下の間で解答数に差が見られ,その差は試行を通じて変化しなかった(Figure 1)。また,全員が試行に伴い解答数を増加させる傾向にあったことから,試行が進んでも2位以下の解答数は下がらず,むしろ上昇していたと言える9)。よって,予測(a)は支持され,(b)は支持されなかった。
さらに,集団内の1位と最下位の解答数の差の推移を検討した。操作的定義に従えば,試行を通じて1位と最下位の解答数の差は拡大するはずである。試行ごとに,各集団内における1位と最下位(4人集団:4位,5人集団:5位)の解答数の差を算出した。そして,解答数の差を従属変数とし,課題(0:加算型,1:分離型),試行(1–5試行,反復測定因子),それらの交互作用を独立変数としたGLMMを行った。試行は集団平均,課題は全体平均で中心化し,集団ID,集団サイズ(0:4人集団,1:5人集団)を変量効果として投入した。また,ポアソン分布を用いると過分散が生じたため,負の二項分布(log)を用いた(RのglmmTMBパッケージ)。その結果,課題と試行の交互作用(b=0.05, ns)と課題の主効果(b=0.27, ns)は有意ではなく,試行の主効果(b=0.04)が有意であった。よって,分離型課題も加算型課題も,試行が進むほど1位と最下位の差が拡大する傾向が示唆された10)。
作業動機の検討分離型課題と加算型課題で参加者の動機づけに違いが見られるかを検討した。動機を従属変数とし,順位(0:2位以下,1:1位),課題(0:加算型,1:分離型),それらの交互作用項を投入した一般化線形モデル(GLM)の分析を行った11)。順位は集団平均,課題は全体平均で中心化し,ポアソン分布(log)を用いて分析した(Rのstatsパッケージ)。なお,多重性の問題を避けるために15項目でBonferroni法によるp値の補正を行った。その結果,必要感(自分はこの課題で必要とされていると思った;b=0.48),得意さ(自分は計算が得意だと思った;b=0.54)では順位の主効果が見られ,1位の方が2位以下よりも得点が高かった。しかし,課題と順位の交互作用は有意ではなかった(bs<0.38, ns)。
続いて,「二八の法則」の背後にある心理過程を探るため,参加者の解答数と動機との関連を検討した(Bonferroni法によるp値の補正済)。その結果,必要感(自分はこの課題で必要とされていると思った;r=.51),得意さ(自分は計算が得意だと思った;r=.50)は,得点が高いほど解答数が多かった。一方,ただ乗り(他のグループメンバーの働きに任せようと思った;r=−.38),評価懸念(他のグループメンバーから悪く評価されないように,課題に取り組もうとした;r=−.37),同調(他のグループメンバーが達成するであろう解答数に自分も合わせようとした;r=−.37)は,得点が高いほど解答数が少なかった。他の動機は関連が見られなかった(−.20<rs<.31, ns)。
本研究では,2種類の集団課題(分離型/加算型)において「二八の法則」に基づく集団内の行動均衡に至る過程を観察した。実験では4–5人からなる小集団で百マス計算を繰り返し行った。この実験で,成員間に作業量の差が見られ,少数の活動者の作業量が増加し,多数の非活動者の作業量が減少する「二八の法則」のパタンが見られるかを検討した。その結果,分離型課題と加算型課題の両方で1位と2位以下の作業量の差が見られたが,その差は試行経過に伴って変化しなかった。一方,1位と最下位の作業量の差の推移を検討すると,試行が進むにつれて差が拡大していた12)。しかし,両課題で全員が試行に伴い作業量を増加させる傾向にあり,2位以下の作業量は試行が進んでも下がらず,むしろ増加していた。よって,本研究では「二八の法則」の行動パタンは観察されなかった。
Kerr & Bruun(1983)の結果では,分離型課題とは異なり,加算型課題では高順位と低順位の遂行の差が見られなかったが,本研究の結果では加算型でも同様に差が見られていた。この理由の一つとして順位の割り当て方の違いがある。Kerr & Bruun(1983)では,偽りのフィードバックに基づき高順位群/低順位群に無作為に割り当てたため,両群の遂行能力分布に差がないとの前提を置くことができた。一方,本研究では,第1試行の実際の作業順位に基づいて1位/2位以下に分類したため,両群の遂行能力分布の差異が直接結果に反映され,1位と2位以下との作業量の差が生じた可能性がある。
また,作業量と動機との関連を検討すると,両課題で作業量の少ない成員の方が自分を不必要だと感じていた。この結果は,Kerr & Bruun(1983)の加算型課題で順位による不必要感の差がないとの知見とは異なる。これは課題内容の違いによるものだろう。Kerr & Bruun(1983)が用いた課題はパイプに空気を送る作業であり,作業量に個々の努力量が反映される。本研究で用いた計算課題は努力量よりも個人の計算能力が作業量に反映されやすい。この課題性質が,計算が苦手だと自覚する者に不必要感を生じさせた可能性がある。また,質問項目の表現も影響した可能性がある。Kerr & Bruun(1983)の「あなたの集団の成功は,あなた個人にどのくらい依存していたか」との項目は,集団の成功への努力の不必要性の知覚に焦点が当たっていた。本研究の項目は「自分はこの課題で必要とされていると思った」であり,そもそもこの集団課題への参加自体が必要とされていないとの解釈も可能である。作業量が少ないことは,分離型課題では自分の貢献が報われず,加算型課題では足を引っ張ることになるため,両課題で不必要感が促進されたのかもしれない。
限界と展望本研究の限界は五つある。一つ目はSteiner(1972)が提唱した他の課題を検討していないことである。例えば接合型課題での追試も必要だろう。二つ目は,課題遂行の能力と努力を区別していない点である。本研究では各成員の作業量のみを指標として行動均衡の過程を検討した。そのため,均衡の過程が能力差,努力差,その両方(e.g., 集団内で能力の高い者ほど努力をする)のどれと関連するのかが不明である。よって,「二八の法則」を今後検討する上では,実際の作業量だけでなく,各成員の遂行能力と努力量を独立に測定できる課題の開発が必要だろう。三つ目は,課題の種類に基づく誘因の強度である。本研究では加算型課題と分離型課題で動機の差は見られなかった。本研究では時間的な制約により試行数が少なかったため,集団成果の決まり方の重要性が参加者に認識されなかった可能性がある。これが実験的リアリティの乏しさを生んだ結果,課題の違いによる参加者の動機に差が見られなかったかもしれない。そのため,試行数の増加や,作業への対価の改定(e.g., 1問解答につき10円)などの改善が可能だろう。四つ目に,「二八の法則」が検出されるには集団サイズが小さかった可能性がある。集団サイズが十分に大きい分離型課題では,作業しないことが合理的となる成員が生まれ(cf., Littlepage, 1991),結果として「二八の法則」に基づく均衡が生じやすくなる可能性がある。最後に,「二八の法則」を示す代表的な行動均衡のパタンが特定されていない点である。集団内の作業量の拡大パタンには,(a)少数の成員は上がって多数の成員は下がる,(b)少数の成員は上がるが多数の成員は横ばい,(c)少数の成員は急激に上がるが多数の成員は緩やかに上がる,(d)少数の成員は横ばいで多数の成員は下がるなどが想定される。本研究では相対的に厳しい基準である(a)を検証したが,どのパタンが「二八の法則」と言えるかは理論的な検討が必要である。加えて,本研究では少数の活動者/多数の非活動者の均衡過程を検討したものの,最終的な比率の均衡が2 : 8で収束したのかは厳密に検討できていない。均衡の比率はさまざまな要因(e.g., コスト)に影響されるため(e.g., Laury & Holt, 2008),その効果を追試することで「二八の法則」の更なるメカニズムの解明に寄与できるだろう。
本研究の知見から分離型課題でも加算型課題でも「二八の法則」が観察されないことが示唆された。だが,上述のように検討すべき問題は多い。「二八の法則」が観察される要因は十分に明らかでなく,その状況下では多数の非活動者が活動したくても抑制されているとのジレンマを抱えている可能性もある。よって,単純に活動者を好意的,非活動者を非好意的に評価するのではなく,各個人の活動が正当に評価され,個々人の能力が十分に発揮される環境を探求する必要があるだろう。
1) 本研究の結果の一部は,日本社会心理学会第63回大会(2022),日本人間行動進化学会第15回大会(2022),Annual Conference for the European Human Behaviour and Evolution Association 2023で発表された。
2) 本研究は,広島修道大学における研究倫理審査専門委員会で承認されたものである(承認番号2021-0005)。
3) 論文の執筆にあたり,石橋伸恵氏より有益なコメントを頂きました。記して感謝申し上げます。
4) 「二八の法則」はさまざまな分野で検討されている現象であり,研究者によって異なる定義づけがなされている(e.g., Chen et al., 1994; 石橋・亀田,2007)。その中でも本研究では,「二八の法則」を集団内の行動均衡として捉えている石橋・亀田(2007)の定義を採用した。彼女らによる定義に基づけば,「二八の法則」は,集団内が少数の活動的な者と多数の非活動的な者の行動均衡になることを意味しており,必ずしもその割合が2 : 8になるとは限らない。
5) ただし,加算型課題は,分離型課題と同様に限界逓減型の構造を持つとの主張もあり(e.g., Kameda et al., 2011),どのような構造を持つのかには議論がある。そのため,加算型課題では,限界逓減型の利得構造など,さまざまな課題の性質を考慮した上で「二八の法則」が成立するかを今後検討する必要があるだろう。
6) 本研究の分析方法(GLMM)と類似の設定で検定力分析(G*Power3.1; Faul et al., 2007)を行った。具体的には,繰り返しのある分散分析で設定し,2(順位:1位/2位以下)×5(試行:反復測定)×2(課題:分離型/加算型)の混合要因計画で参加者数を推定した結果,80名と算出された(Effect size=.15, α=.05, 1−β=.80, N of group=4, N of measurement=5, Correlation among measurements=.50, Nonsphericity correlation=1)。よって,本研究で集めた参加者数は妥当な範囲内であると判断した。また,実験を行う際にフィードバックのミスが生じたため(具体的には,4人集団の加算型課題で第1試行のフィードバックを行う際,本来は4人の解答数を平均する必要があるのに,5人(そのうち1人は0マス)の解答数を平均した),その実験の4人分のデータは除外した上で分析した。
7) 本研究では,同一化尺度(中川他,2015),日本語版拒否に関する感受性尺度(本多・桜井,2000),独自に作成した課題に取り組む際の動機に関する項目,フィードバックに関する質問などを用いた。紙面の都合により,本研究で用いたWeb質問紙,R script,追加の分析結果などの詳細はOpen Science Framework (https://osf.io/y3u8x/)に公開する。
8) 従属変数である解答数に過分散が見られた。そのため,本研究では過分散を避けるため,GLMMを用いることで仮説を検証した。
9) ただし,Table 1では一部の試行において解答数の平均値が減少している順位があったため(e.g., 分離型課題で,3位が第2–3試行にかけて解答数が減少している),各順位の解答数が上昇していたとは限らなかった。本研究では1位/2位以下に分類することで集団内の均衡過程を検討したが,今後はよりマイクロな行動レベルにも注目することで「二八の法則」の詳細なグループダイナミクスを検討する必要があるだろう。
10) 各課題で,第1試行で1位だった参加者の順位が維持されていたかを検討した。その結果,1位が維持された集団は分離型課題で8集団中6集団(75.0%),加算型課題で9集団中4集団(44.4%)であり,分離型課題の方が1位と2位以下の順位変動が見られなかったが,課題間で有意な集団数の違いは見られなかった(χ2(1)=1.63, ns)。ただし,分析する上でのサンプルサイズが十分でなかったことに注意されたい。
11) 従属変数である各項目の動機には過分散が見られなかったため,GLMで検証した。
12) 集団単位の分析であるため,サンプルサイズが不十分である点に留意が必要である。