Japanese Journal of Social Psychology
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Article
Where does the cultural difference in rejection avoidance come from? The role of relational mobility and reputational expectation
Haruno KusakabeYugo MaedaMasaki Yuki
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2024 Volume 40 Issue 1 Pages 1-10

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抄録

Contrary to traditional cultural psychological theories, cross-cultural studies have found that East Asians are not more interdependent than North Americans. Addressing this anomaly, Hashimoto and Yamagishi (2013) proposed that, from an institutional approach, cross-cultural differences should exist in rejection avoidance rather than harmony-seeking tendencies. They argue that this is because, in low relational mobility societies like Japan, where the cost of social exclusion is high, it is adaptive to be attentive to possible negative reputation and behave in a manner that accommodates other people’s expectations through the use of rejection avoidance tendencies. However, it has not been confirmed empirically whether or not cultural differences in relational mobility and the expectation of negative reputation underlie these differences in rejection avoidance. We conducted three online surveys in the US and Japan to test this hypothesis. Results showed that, consistent with our predictions, lower relational mobility among Japanese, compared to Americans, was associated with higher negative reputational expectation, and higher negative reputational expectation was associated with higher rejection avoidance tendencies.

背景・目的

相互協調的自己観

文化心理学では,文化的自己観(Markus & Kitayama, 1991)が日常のさまざまな場面で人々の思考や行動に影響を及ぼしていることが明らかにされてきた(Heine et al., 1999; Kim & Markus, 1999; Kitayama et al., 2010)。文化的自己観とは,ある文化において歴史的に共有されている自己についての前提(北山,1995)であり,自己を他者から独立した存在として捉える相互独立的自己観と,自己を他者との関係の中に埋め込まれた存在として捉える相互協調的自己観の2つに大別される(Markus & Kitayama, 1991)。前者はアメリカやヨーロッパをはじめとする欧米文化において優勢であるとされ,後者は日本をはじめとする東アジア文化や,アフリカ,中央および南アメリカ文化において優勢とされている。

文化的自己観理論では,東アジアのような相互協調的自己観が優勢な文化の下で暮らす人々は,欧米のような相互独立的自己観が優勢な文化の人々と比べて,仲間と協調的であることや,仲間との調和を維持することを積極的に求める傾向があるとされてきた(e.g., Heine et al., 1999; Kitayama et al., 2009; Ohashi & Yamaguchi, 2004)。ところが,自己概念の文化差を質問紙調査で検討した先行研究では,文化的自己観理論の予測に反し,東アジア人は欧米人よりも相互協調的であるという強い証拠は得られてこなかった(Levine et al., 2003; Matsumoto, 1999)。

拒否回避傾向—制度アプローチによる説明

この問題に対してHashimoto & Yamagishi(2013, 2016)は,相互協調的自己観に文化差が見られない原因は,従来の文化的自己観理論が「調和追求(harmony seeking)」と「拒否回避(rejection avoidance)」という,相互協調性の2つの側面を区別していなかったことにあると指摘した。その上でHashimotoらは制度アプローチもしくは社会的ニッチ構築アプローチ(Yamagishi, 1988a, 1988b, 2011; Yamagishi et al., 1998; Yamagishi & Hashimoto, 2016; Yamagishi et al., 2008; Yamagishi & Suzuki, 2009)に基づき,東アジア人に優勢とされる相互協調性の主要素は,他者との相互協力関係を積極的に求める調和追求傾向ではなく,悪評によって所属集団から排除されることを避けるための拒否回避傾向であると予測した。

Hashimoto & Yamagishi(2013)の仮説が依拠する制度アプローチとは,人々が暮らす社会環境を,その社会の人々の行動の集合によって作られた制度と捉え,人間の心理・行動を当該制度への適応戦略であるとする考え方である。この理論に基づけば,東アジア社会では拒否回避傾向が重要な適応的役割を担う。東アジアのような対人関係が固定的・閉鎖的な制度が優勢な社会では,北米のような対人関係選択の機会が豊富な社会と比べて,新たに対人関係を構築することが困難なため,対人関係の悪化や,現在所属している集団から排斥された場合のコストが大きい(Thomson et al., 2018)。そのため,既存の関係から排斥される可能性をできる限り低減させるため,周囲の他者からネガティブな評判に注意を払い,回避することが重要な適応課題となる(山本・結城,2019)。よって,他者からのネガティブ評判を恐れ,避けるような行動を取る拒否回避傾向が適応的となるだろう(Hashimoto et al., 2011; 山岸,1998; Yamagishi et al., 2012; Yamagishi et al., 2008)。つまり,拒否回避傾向の文化差の背景には,当該社会の対人関係の開放性の違いと,それに起因する周囲の他者からのネガティブ評判の回避という適応課題が存在すると考えられる。

以上の理論を踏まえHashimoto & Yamagishi(2013, 2016)は,東アジア人と欧米人の相互協調性の差は,調和追求傾向の差よりも拒否回避傾向の差に表れるだろうと予測し,日本人とアメリカ人を対象とした調査を行った。その結果,2013年と2016年のどちらの調査においても,予測通り日本人の方がアメリカ人よりも拒否回避傾向が強かった。一方,調和追求傾向については,2013年の調査では差がなく,2016年の調査ではむしろアメリカ人の方が強いという従来の文化心理学理論からの予測とは正反対の結果であった(Hashimoto & Yamagishi, 2013, 2016)。よって,相互協調的自己観の主要素は,調和追求傾向よりも拒否回避傾向であるという制度アプローチの予測は支持された。

先行研究の課題と本研究の目的

しかし,以上の先行研究には一つの限界があった。それは,拒否回避傾向の違いの背景に存在すると想定されている,当該社会における対人関係の開放性と,他者からのネガティブな評判回避という適応課題の存在は,実証的に検討されていなかったことである。ただし例外として,Sato et al.(2014)は,対人関係の開放性と拒否感受性(rejection sensitivity—重要な他者から拒否されることに対して不安を感じる傾向)という類似概念の関係を検討しているが,ここでもその背後にある適応課題は検証されていない。もしHashimoto & Yamagishi(2013, 2016)の理論が正しいとすれば,対人関係が固定的・閉鎖的な社会環境は,ネガティブ評判回避が重視される社会であり,ネガティブ評判回避が重視される社会では,人々の拒否回避傾向が強いと予測される。そこで本研究では,日本人とアメリカ人の成人を対象に3つの質問紙調査を行い,対人関係の開放性と,ネガティブ評判の回避という適応課題を,社会に対して人々が持つ信念を尋ねることにより測定し,それらが個人の拒否回避傾向の日米差を媒介する要因となっているかを検討する。

本研究の概要

研究1では,人々が暮らす社会環境における対人関係の開放性の違いによって,拒否回避傾向の日米差を説明できるかどうかを検討する。対人関係の開放性を測定する尺度として,関係流動性尺度(Yuki et al., 2007)を用いる。この尺度では,各参加者の周囲を取り巻く社会環境の性質を捉えるために,参加者の周囲の人々がどの程度対人関係の選択の自由度を持っているかの評価を求める。先行研究では,一貫して日本はアメリカよりも関係流動性が低いことが示されている(e.g., 前田・結城,2023; Schug et al., 2010; Thomson et al., 2018; Yamada et al., 2017; 山本・結城,2019)。そこで研究1では,日米の参加者それぞれの関係流動性知覚を測定し,拒否回避傾向の日米差への媒介効果を検討する。もし理論が正しければ,アメリカよりも日本で関係流動性が低く,関係流動性が低いほど拒否回避傾向が強いという結果が得られるだろう。続く研究2では,研究1の結果の頑健性を確かめるための追試を行う。研究3では,関係流動性尺度に加えて,当該社会における他者からのネガティブな評判とポジティブな評判への期待を測定するために作成された称賛・批判期待尺度を用い,拒否回避傾向の日米差を媒介するかどうかを検討する。先述のように,対人関係の開放性が低い社会では,ネガティブな評判を回避することが適応課題である。本研究では,当該社会環境におけるこの適応課題の重要性を評価するために,社会で交わされるネガティブ評判に対する人々の期待を測定する。なぜならば,ネガティブ評判回避という適応課題の達成がより強く求められる社会に住む人々は,ネガティブ評判の存在に対して,より選択的に注意を向けると考えられるためである。Hashimoto & Yamagishi(2013, 2016)の仮説が正しければ,アメリカよりも日本で関係流動性が低く,関係流動性が低いほど当該社会におけるネガティブ評判への期待が強く,さらに,ネガティブ評判期待が強いほど拒否回避傾向が高いという結果が得られると予測される。

研究1

当該社会環境の対人関係の開放性の違いが,拒否回避傾向の日米差を説明するかどうかを検討した。そのために,関係流動性尺度(Yuki et al., 2007)を用いて対人関係の開放性の知覚を測定し,拒否回避傾向の日米差を媒介するかどうかを検証した。

予測された結果は以下の3点である。1)先行研究と一貫して,アメリカ人よりも日本人の方が,拒否回避傾向が強いだろう。2)アメリカ人よりも日本人の方が,関係流動性知覚が低いだろう。3)拒否回避傾向の日米差は,関係流動性知覚によって媒介されるだろう。つまり,関係流動性知覚が低い人ほど,拒否回避傾向が強いという間接効果が見られるだろう。

方法

参加者

2022年10月に,インターネットクラウドソーシングサイト(日本ではLancers, アメリカではAmazon Mechanical Turk via CloudResearch)から参加者を募集し,質問紙調査を行った。募集広告を見て関心を持った参加者は,インターネットアンケートツールQualtrics上に作成されたweb質問紙へ進み,調査内容の事前説明に同意した者のみが回答へ進んだ。全回答者数は,日本人149名,アメリカ人150名であった3)。分析に際し,あらかじめ定めた基準に基づいて,日米両国以外に在住の参加者,母国語が日本語または英語以外の参加者,IPアドレスの重複により同一人物である可能性のある参加者による二度目の回答,回答上の指示を無視している参加者,回答時間が中央値の30%以下であった参加者(cf. Jibunu, 2024; Matjašič et al., 2018)を分析から除外した。最終的に分析対象となった参加者は,日本人140名(男性76名,女性64名;平均年齢44.3歳,標準偏差=10.7),アメリカ人139名(男性83名,女性54名,性別不明2名;平均年齢39.4歳,標準偏差=10.8)であった。

質問項目

関係流動性尺度

Yamagishi & Yamagishi(1994)の信頼の解放理論に基づき作成された,参加者を取り巻く局所的な社会環境における対人関係の開放性を測定するための12項目の尺度である(Yuki et al., 2007)。関係流動性は社会環境変数であるが,その測定方法は,参加者の周囲で暮らす人々に関して,見知らぬ他者との出会いの機会の多寡,所属する集団や対人関係の選択および離脱の自由度などの知覚を尋ねるものである。項目例は,「彼ら(あなたの周囲にいる人々)には,人々と新しく知り合いになる機会がたくさんある。」「彼らは,ふだんどんな人たちと付き合うかを,自分の好みで選ぶことができる。」「彼らにとって見知らぬ人と会話することはそうあることではない。」などがあり,それぞれ6点尺度(1:全くそう思わない~6:非常にそう思う)で回答を求めた。この尺度は,以下の2つの下位次元で構成されている。1つは,それまで面識のなかった他者と新しく出会う機会の多寡,つまり「新規出会いの機会」である。もう1つは,対人関係を個人の意思に基づいて自由に形成・解消できるかどうかという「関係形成・解消の自由度」である。多数の先行研究において,これらの2因子は互いに正の関連を持ち,全体として高い信頼性を持つため,まとめて1因子として扱われている(e.g., Thomson et al., 2018)。本研究でも,全尺度項目の信頼性は日本でα=.85, アメリカでα=.90と十分に高かったため,同様に1因子として扱った。

拒否回避尺度

Hashimoto & Yamagishi(2013)が作成した文化的自己観尺度の下位尺度であり,周囲の他者からの評価に注意を払い,他者の要請に応じた行動を取ろうとする傾向を自己評定する尺度である。「人が自分のことをどう評価しているかと不安になり,つい人の視線を気にする」を含む全3項目に対して,7点尺度(1:全く当てはまらない~7:非常に当てはまる)で回答を求めた。本研究における信頼性は,日本でα=.85, アメリカでα=.87と十分に高かった。

デモグラフィック項目

参加者の性別,年齢,国籍,母国語,現在の居住地域などを尋ねた。

結果と考察

本論文で扱っているデータの分析はすべてR version 4.2.3(R Core Team, 2022)で行った。まず,拒否回避傾向と関係流動性の日米差を検討するため,対応のないt検定を行った。その結果,いずれも先行研究と一貫して,拒否回避傾向はアメリカ人よりも日本人の方が高く(日:M=4.57, SD=1.44, 米:M=3.50, SD=1.72, t(267.65)=−5.65, p<.001, d=−0.68),関係流動性知覚はアメリカ人よりも日本人の方が低かった(日:M=3.57, SD=0.64, 米:M=4.27, SD=0.76, t(268.49)=8.29, p<.001, d=0.99)。

次に,拒否回避傾向に対する関係流動性の媒介効果を検討するため,独立変数を国(日本=0, アメリカ=1),従属変数を拒否回避,媒介変数を関係流動性とした媒介分析を行った。その結果アメリカよりも日本で関係流動性が低く,関係流動性が低いほど拒否回避傾向が強くなるという,予測通りの有意な間接効果が見られた(Figure 1)。

Figure 1 拒否回避に対する関係流動性の媒介効果

Note. 係数は標準化係数 *** p<.001, ** p<.01, * p<.05

以上の結果から,先行研究と一貫してアメリカ人よりも日本人の拒否回避傾向が強いこと,およびその拒否回避傾向の日米差は,本研究の予測通り対人関係の開放性の違いによって媒介されることが示された。なお,以上の基本的な結果のパターンは,年齢,性別,居住地域の規模などのデモグラフィック要因を統制しても変わらなかった4)

研究2

研究1の結果の頑健性を確かめるため,追試を行った。予測された結果は,研究1と同じ3点であった。

方法

参加者

2022年9月に,インターネットクラウドソーシングサイト(日本ではLancers, アメリカではAmazon Mechanical Turk via CloudResearch)から参加者を募集し,質問紙調査を行った。募集方法は研究1と同様である。全回答者数は,日本人150名,アメリカ人150名であった。分析に際し,研究1と同一の基準を満たさなかった参加者を分析から除外した。最終的に分析対象となった参加者は,日本人133名(男性74名,女性59名;平均年齢40.2歳,標準偏差=10.2),アメリカ人141名(男性73名,女性66名,性別不明2名;平均年齢41.7歳,標準偏差=13.4)であった。

質問項目

研究1と同様,関係流動性尺度(Yuki et al., 2007),拒否回避尺度(Hashimoto & Yamagishi, 2013),デモグラフィック項目を用いた。本研究における関係流動性尺度の信頼性は,日本でα=.83, アメリカでα=.85, 拒否回避尺度の信頼性は,日本でα=.85, アメリカでα=.93と,いずれも十分であった。

結果と考察

まず,拒否回避傾向と関係流動性の日米差を検討するため,対応のないt検定を行った。その結果,いずれも先行研究と一貫して,拒否回避傾向はアメリカ人よりも日本人の方が高く(日:M=4.71, SD=1.33, 米:M=3.61, SD=1.86, t(253.44)=−5.68, p<.001, d=−0.68),関係流動性知覚はアメリカ人よりも日本人の方が低かった(日:M=3.51, SD=0.59, 米:M=4.14, SD=0.68, t(270.15)=8.11, p<.001, d=0.98)。

次に,拒否回避傾向に対する関係流動性の媒介効果を検討するため,独立変数を国(日本=0, アメリカ=1),従属変数を拒否回避,媒介変数を関係流動性とした媒介分析を行った。その結果,アメリカよりも日本で関係流動性が低く,関係流動性が低いほど拒否回避傾向が強くなるという,予測通りの有意な間接効果が見られた(Figure 2)。

Figure 2 拒否回避に対する関係流動性の媒介効果

Note. 係数は標準化係数 *** p<.001, ** p<.01, * p<.05

以上の結果から,先行研究と一貫してアメリカ人よりも日本人の拒否回避傾向が強いこと,およびその拒否回避傾向の日米差は,本研究の予測通り対人関係の開放性の違いによって媒介されることが示され,研究1の結果が再現された。

研究3

研究1, 2で媒介効果が確認された対人関係の開放性の違いに加えて,低関係流動性社会におけるネガティブ評判の回避という適応課題が,拒否回避傾向の日米差を説明するかどうかを検討した。そのために,関係流動性尺度(Yuki et al., 2007)に加え,ポジティブおよびネガティブな評判に対する期待を通じて適応課題を測定するために作成された称賛・批判期待尺度(Appendix参照)を用い,それらが拒否回避傾向の日米差を媒介するかどうかを検証した。なお,本研究の従属変数には,研究1, 2とは異なり,Hashimoto & Yamagishi(2016)による改良された拒否回避尺度を用いた。予測された結果は以下の3点である。1)先行研究と一貫して,アメリカ人よりも日本人の方が,拒否回避傾向が高いだろう。2)アメリカ人よりも日本人の方が,関係流動性知覚が低いだろう。3)関係流動性知覚が低い人ほど,批判期待が強く,批判期待が強い人ほど,拒否回避傾向が強いという間接効果が見られるだろう。以上に加えて,称賛期待が拒否回避傾向に関連するかについても探索的に検討した。

方法

参加者

2023年5月に,インターネットクラウドソーシングサイト(日本ではLancers, アメリカではAmazon Mechanical Turk via CloudResearch)から参加者を募集し,質問紙調査を行った。募集方法は研究1, 2と同様である。参加者の募集に先立ち,t検定の有意水準αを0.05, 効果量dを0.5に設定し,検出力(1−β)が0.95になるようサンプルサイズ設計を行ったところ,各国105名のサンプルが必要とされた5)。この設計に基づいて参加者を募集し,日本人150名,アメリカ人150名が調査に参加した。分析に際し,研究1, 2と同様の基準を満たさなかった参加者を分析から除外した。最終的に分析対象となった参加者は,日本人137名(男性90名,女性47名;平均年齢43.8歳,標準偏差=9.0),アメリカ人145名(男性75名,女性70名;平均年齢39.5歳,標準偏差=12.0)であった。

質問項目

関係流動性尺度

研究1, 2と同様,Yuki et al.(2007)を用いた。信頼性は,日本でα=.93, アメリカでα=.88であった。

拒否回避尺度

周囲の他者からの評価に注意を払い,他者の要請に応じた行動を取ろうとする個人の傾向を測定するための尺度で,Hashimoto & Yamagishi(2016)により改良された文化的自己観尺度の下位尺度である。項目は「まわりの人がどう思うかが気になって,自分のしたいことをそのままできないことがある。」などを含む5項目である。それぞれ7点尺度(1:全く当てはまらない~7:非常に当てはまる)で回答を求めた。信頼性は,日本でα=.91, アメリカでα=.89であった。

称賛・批判期待尺度

当該社会で交わされているポジティブ評判およびネガティブ評判に対して人々が持つ期待を測るために作成された尺度である6)。項目は「彼ら(私の身近な社会に住む人たち)は,他の人よりも抜きんでた能力を持つ人や,めざましい活躍をした人について積極的に肯定的な発言をしたり,称賛したりする。」「彼らはほかの人よりも著しく能力の劣る人やひどい失敗をした人について積極的に否定的な発言をしたり,批判したりする。」など,称賛と批判各5項目を合わせた計10項目である(Appendix参照)。それぞれ6点尺度(1:全くそう思わない~6:とてもそう思う)で回答を求めた。確証的因子分析を行い,1因子モデルと2因子モデルの比較を行ったところ,称賛と批判の2因子モデルの妥当性が確認されたため(CFI=.963, TLI=.951),それぞれに分類された項目得点の平均を取り,称賛期待得点および批判期待得点として分析に用いた。因子分析の結果および分析コードはOSFに示している。称賛期待の信頼性は日本でα=.89, アメリカでα=.91であった。批判期待の信頼性は,日本でα=.87, アメリカでα=.90であった。

デモグラフィック項目

研究1, 2と同様,参加者の性別,年齢,国籍,母国語,現在の居住地域などを尋ねた。

結果と考察

まず,拒否回避傾向,関係流動性,称賛・批判期待の日米差をそれぞれ検討するため,対応のないt検定を行った(Table 1)。その結果,拒否回避傾向の日米差は,研究1, 2とは異なり有意傾向にとどまったものの,予測と合致してアメリカ人よりも日本人の方が強い方向にあった。関係流動性知覚は,先行研究と一貫して,アメリカ人よりも日本人の方が低かった。また,批判期待には有意な差は見られなかった。称賛期待は,日本よりもアメリカで有意に高かった。

Table 1 日本人・アメリカ人参加者の関係流動性尺度,拒否回避尺度,称賛・批判期待尺度の平均値(研究3)

日本アメリカtdfd
MSDMSD
関係流動性3.540.824.220.787.12***276.620.85
称賛期待3.770.794.400.936.18***277.510.73
批判期待3.430.873.341.16−0.74266.3−0.09
拒否回避4.201.313.901.54−1.74277.05−0.14

*** p<.001, p<.10

次に,拒否回避傾向に対する関係流動性と称賛・批判期待の媒介効果を検討するため,独立変数を国(日本=0, アメリカ=1),従属変数を拒否回避,媒介変数を関係流動性および称賛・批判期待とした媒介分析を行った。拒否回避傾向の日米差が有意ではないにもかかわらず媒介分析を行った理由は,本研究の主眼が,拒否回避傾向に対する関係流動性と称賛・批判期待の間接効果にあるためである。一般に,全体効果の有意性は必ずしも間接効果の検証の前提ではないため(Rucker et al., 2011),このような分析を行った。その結果,予測と一貫して,アメリカよりも日本で関係流動性が低く,関係流動性が低いほど批判期待が強く,批判期待が強いほど拒否回避傾向が強くなるという有意な間接効果が見られた。なお,称賛期待では,関係流動性と拒否回避の間に有意な媒介効果は見られなかった(Figure 3)。

Figure 3 拒否回避に対する関係流動性と評判期待の媒介効果

Note. 係数は標準化係数 *** p<.001, ** p<.01, * p<.05

以上の結果から,日米間の対人関係の開放性の違いが,ネガティブ評判の回避という適応課題の違いを経て拒否回避傾向につながるという,Hashimoto & Yamagishi(2013)が想定した影響過程を同定することができたと言える。

総合考察

本研究の目的は,制度アプローチに基づき,拒否回避傾向の文化差の背景に存在すると想定された社会生態学的要因を実証的に検討することであった。Hashimoto & Yamagishi(2013)は,東アジア人の相互協調性の主要素は,調和追求傾向ではなく拒否回避傾向であると論じ,実際に東アジア人は北米人よりも拒否回避傾向が強いことを示した。しかし,その文化差の背景にあると想定されていた対人関係の閉鎖性と,それに起因する他者からのネガティブ評判の回避という適応課題は実証的に検討されていなかった。

そこで本研究において,日本とアメリカ合衆国の成人を対象としたオンライン調査を行った結果,拒否回避傾向の日米差については,研究1と2では先行研究と一貫して,アメリカ人よりも日本人の方が強かった。一方,研究3では有意傾向にとどまったものの,やはり先行研究と合致する方向で,アメリカ人よりも日本人の方が強い傾向が見られた。

次に,拒否回避傾向の日米差に対する対人関係の開放性の媒介効果については,すべての研究において,対人関係の開放性が低いほど拒否回避傾向が強いという予測と一貫した効果が見られた。さらに,研究3ではネガティブ評判期待の媒介効果も確認され,対人関係の開放性が低いほどネガティブ評判期待が強く,ネガティブ評判期待が強いほど拒否回避傾向が強いという予測通りの結果が得られた。よって,拒否回避傾向はアメリカ人よりも日本人の方が強く,その背景には対人関係の閉鎖性と他者からのネガティブな評判の回避という適応課題が存在するというHashimoto & Yamagishi(2013)による制度アプローチに基づく仮説の妥当性が確認された。

本研究の結果には2つの意義がある。第一は,文化心理学に対する理論的貢献である。近年,人間の行動に対する社会環境要因の影響に注目する社会生態学的アプローチが,さまざまな心理・行動の文化差を説明するのに有用であることが示されてきた(Oishi & Graham, 2010; Schaller, 2020; Uskul & Oishi, 2020)。このアプローチの利点は,個人の心理・行動を当該社会環境への適応方略と捉えることで,さまざまな心理・行動傾向の文化差を,一般化可能性の高い理論で説明できる点である(Yuki & Schug, 2020)。本研究で検討したHashimotoらの仮説も,人間が集合的に作り出している閉鎖的な社会制度(もしくは社会的ニッチ)と人々の心理的・行動的適応の相互影響関係を扱っており,社会生態学的アプローチの一角をなすものである。特に,社会の閉鎖性に起因するネガティブ評判の回避という適応課題が,人々の拒否回避傾向につながっていることを示した本研究の結果は,このアプローチが,より一般化可能性の高い理論から人間社会と人間行動の多様性を統合的に理解するうえで有効であることを示している。

第二は,人の幅広い社会行動や心理傾向を予測する上で,他者からの評判やそれを支える社会の仕組みを考慮することの重要性を示している点である。評判はこれまで,間接互恵性などに基づく協力を支える人間社会特有のメカニズムの一つとして,精力的に検討されてきた(e.g., Balliet et al., 2020; 岩谷・村本,2017; Nowak & Sigmund, 2005)。しかし近年,他者からの評判やそれに対する期待が,協力行動とは別の心理や行動も規定するとの証拠が多数示されはじめている(e.g., Abrahao et al., 2017; 橋本,2011; Yamagishi et al., 2008; 山本・結城,2019)。対人関係の閉鎖性と,それに起因するネガティブ評判に対する期待が拒否回避傾向に繋がることを示した本研究の知見もその一つであり,人間社会における評判システムの仕組みと役割を解明する今後の研究に,新たな手がかりを提供するものである。

一方で,本研究には残された課題もある。第一に,本研究では,従来の文化的自己観理論で相互協調的自己観の主要素とされていた,調和追求傾向の文化差は検討していない。先行研究では,調和追求傾向について,従来の文化心理学理論による予測とは合致しない結果が見られていた(Hashimoto & Yamagishi, 2013, 2016)。今後の研究では,拒否回避傾向に加えて,調和追求傾向の文化差とその原因に関しても,さらなる検討がなされるべきであろう。

第二に,本研究で扱っている拒否回避傾向は,あくまで質問紙による自己評定により測定されたものであり,実際の人々の拒否回避的行動をどの程度反映しているかには疑問の余地も残る。対人関係が固定的・閉鎖的な社会では,対人関係が開放的な社会の人々より,人々が実際に拒否回避行動を取るのかについては,今後実証的に検討することが必要である。

Appendix
Appendix 称賛・批判期待尺度(研究3)

How much do each of the following statements accurately describe the people in the immediate society (your school, workplace, town, neighborhood, etc.) in which you live? Please indicate how true you feel each statement to be for the people around you.
あなたの身近な社会(学校,職場,住んでいる町,近隣など)に住む人々についてお尋ねします。次のそれぞれの文は,その人たちの日ごろの行動にどれくらい当てはまりますか。各質問について,もっとも適切な数字を選択してください。
項目
English日本語
アンカー
1Strongly disagree全くそう思わない
2Disagreeそう思わない
3Slightly disagreeどちらかといえばそう思わない
4Slightly agreeどちらかといえばそう思う
5Agreeそう思う
6Strongly agreeとてもそう思う
項目
1They (the people in the immediate society in which I live) actively say good things about and praise people who have exceptional abilities or who have made an outstanding achievement.彼ら(私の身近な社会に住む人たち)は,他の人よりも抜きんでた能力を持つ人や,めざましい活躍をした人について積極的に肯定的な発言をしたり,称賛したりする。
2When they realize someone else has a strength, they readily praise that person.彼らは,他人の長所を見つけたら,それをすぐに褒める。
3They actively say good things about and praise people who helped other people in need.彼らは,困っている人を助けた人について,積極的に肯定的な発言をしたり,称賛したりする。
4They actively say good things about and praise people who contributed to the society and groups they belong to.彼らは,社会や所属グループのために貢献した人について積極的に肯定的な発言をしたり,称賛したりする。
5They often talk about the strengths, achievements, and contributions of other people when those people are not around.彼らは,その場にいない他人の長所,業績,貢献についてよく話をする。
6They (the people in the immediate society in which I live) actively say negative things about and criticize people who have markedly low abilities or who have had significant failures.彼ら(私の身近な社会に住む人たち)は他の人よりも著しく能力の劣る人やひどい失敗をした人について積極的に否定的な発言をしたり,批判したりする。
7They readily criticize someone else’s weaknesses when they recognize them.彼らは,他人の短所を見つけると,それをすぐに非難する。
8They actively say negative things and criticize people who behave selfishly towards other people, such as taking credit for things they didn’t do or refusing to help other people when they are in need.彼らは,他人に対して利己的に振る舞う(例:やらなかったことを自分の手柄にする,困っている人を助けることを拒む)人について積極的に否定的な発言をしたり,批判したりする。
9They actively say negative things and criticize others who behave selfishly in society, such as littering and not paying the fare on the subway or a public bus.彼らは,社会に対して利己的に振る舞う(例:ゴミのポイ捨てをする,地下鉄や公共バスの運賃を払わない)人について積極的に否定的な発言をしたり,批判したりする。
10They often talk about the failures, weaknesses, or uncooperative behavior of other people when those people are not around.彼らは,その場にはいない他人の失敗や短所や非協力的なふるまいについてよく話をする。

脚注

1) 以下のリンク先に,研究1~3の質問項目,データ,分析コードをアップロードしている。https://osf.io/degfz/

2) 本研究は,北海道大学社会科学実験研究センター倫理委員会の承認を得て実施された(承認番号「4年度−17」および「5年度−05」)。

3) 研究1, 2は,本論文の第三著者のグループが別の研究目的で実施した調査に含まれていた変数の二次分析であるため,本研究のためのサンプルサイズ設計は行っていない。ただし,Monte Carlo Power Analysis for Indirect Effects (Schoemann et al., 2017)を用いて事後的な検定力分析を行ったところ,研究1, 2ともに,サンプルサイズが十分であることが確認された(研究1:1-β=.87,研究2:1-β=.99)。

4) デモグラフィック項目を含めた各変数の記述統計量の詳細,各変数どうしの相関,デモグラフィック変数を統制した媒介分析の結果は,OSFに掲載している。研究2, 3においても研究1と同様に,デモグラフィック変数を統制しても結果のパターンは変わらなかった。なお,Hashimoto (2021)は拒否回避傾向が年齢と負相関することを示しているが,本論文の3つの研究でも同様の結果が見られた。

5) なお,媒介分析においてもこのサンプルサイズが十分であるかを確かめるため,Monte Carlo Power Analysis for Indirect Effects (Schoemann et al., 2017)による事後的な検定力分析を行ったところ,1-β=.92となり,検定力は十分であった。

6) 本尺度は,当論文の第三著者を含むバイリンガル話者のチームによって日英語版が同時に作成され,張(2018)に収録されたものである。

引用文献
 
© 2024 The Japanese Society of Social Psychology
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