2024 Volume 40 Issue 2 Pages 139-151
The present study used voluntary panel Web surveys to investigate the validity of the Multidimensional Perfectionism Cognition Inventory (MPCI: Kobori & Tanno, 2004). We conducted a two-wave panel survey of 520 Japanese adults in the Tokyo metropolitan area from March to April 2022. The results revealed the following: (1) Exploratory factor analysis (EFA) supported the three-factor structure congruent with previous studies. Still, EFA supported the two-factor structure using the Kaiser and Scree criteria. (2) Correlation analyses and partial correlation analyses between MPCI and two existing scales (ATQ-R and I-PANAS-SF) confirmed the validity of the two subscales of MPCI, “personal standard” and “concern over mistakes.” (3) Structural equation modeling with a cross-lagged effects model showed that the “pursuit of perfection” was related to the subsequent two factors. However, the other two factors were unrelated to the subsequent “pursuit of perfection.” These findings suggest that MPCI measures three factors with high inter-factor correlations and has sufficient validity in Japanese adults and that the “pursuit of perfection” is the factor corresponding to the abstract goal.
本研究の目的は,成人男女における多次元完全主義認知尺度(Multidimensional Perfectionism Cognition Inventory: MPCI; 小堀・丹野,2004; Kobori & Tanno, 2005; Kobori et al., 2011)の妥当性について検討することである。
MPCIによって測定される完全主義認知は,「自己志向的完全主義がセルフ・スキーマとして活性化した結果,意識化された思考であり,できごとの解釈や注意に影響を与えるもの」と定義される(小堀・丹野,2004, p. 34)。この定義に基づくと,完全主義認知はセルフ・スキーマとして個人内に記憶されている知識によるものであり,これらの知識は意味記憶ネットワーク内で活性化および活性化拡散の影響を受けるものと考えられる。この活性化拡散の影響を受け,自動思考が生起し,この自動思考に基づいて認知的評価が生じ感情が生起すると考えられる。スキーマの活性化には状況手がかりが必要であり,完全主義認知も,状況手がかりによってセルフ・スキーマが活性化することで意識化するものと捉えられる。この想定と一致してMPCIは思考の頻度を尋ねており,自己スキーマを形成する命題表象の活性化の程度を測定していると考えられる。
MPCIは3つの下位尺度によって構成されており,高目標設置(personal standards),完全性追求(pursuit of perfection),ミスへのとらわれ(concern over mistakes)からなる。これらは完全主義に関わる認知であり,互いに独立した次元を構成すると同時に,セルフ・スキーマ内の連合によって相互に活性化しあうと考えられる。小堀・丹野(2004)によると,高目標設置は,高い目標を設定し追求しようとする認知と定義され,適応的性質を持つとされる。対照的にミスへのとらわれは,ミスや失敗に対して自己批判する認知と定義され,不適応的性質を持つとされる。これらに対し完全性追求は,完全性を衝動的に追求する認知と定義される(小堀・丹野,2004)。完全主義に関する多くの研究では,完全主義の中核的な2側面として高目標設定とミスへのとらわれに相当する因子が設定されており(Stoeber & Otto, 2006),そうした設定はMPCIにおいても同様である。その一方,MPCIでは第3の下位因子として完全性追求が追加されており,設定の根拠として摂食障害や強迫障害に関する研究で完全性追求が取り上げられていることへの言及がある(小堀・丹野,2004)。こうした完全性追求のような下位因子の設定はMPCIだけに見られるものではなく,たとえば,完全主義尺度の1つである新完全主義尺度(Multidimensional Self-oriented Perfectionism Scale: MSPS; 桜井・大谷,1997)でも,完全でありたいという欲求(desire for perfection)が下位因子として設定されている。このように,MPCIの各因子は先行研究からも理論的に想定しうるものである。
こうしたMPCIは課題遂行や精神的健康との関連を示す有益な心理尺度として,また,完全主義の心理過程を検討するツールとして,これまで多くの研究において使用されてきた(e.g., 荒木,2013; 八田他,2020; 城,2011; 松田・山﨑,2021; 緒方他,2022; 小野寺・成田,2017; Sasaki et al., 2022; 指方他,2021; 高野他,2017; 高瀬・河野,2018, 2019, 2020; 坪田・石井,2017; 坪田他,2016; 矢澤他,2008, 2010, 2013; 吉江・繁桝,2007)。MPCIの英語版(MPCI-E)も作成されており,海外での研究で用いられている(Stoeber & Damian, 2014; Stoeber et al., 2010)。
しかし,MPCIについては結果の一般化に関する検討が必要とされており,この点について小堀・丹野(2004)は「本研究の調査協力者はすべて日本人大学生であったため,本研究で得られたMPCIの3因子構造が他の年代や他の文化で追認できるかを検討する必要がある」(小堀・丹野,2004, p. 41)と述べている。こうした小堀・丹野(2004)の指摘にも拘わらず,その後の研究における対象者のほとんどは大学生,大学院生,専門学校生,看護学生などの学生であり,看護師(高瀬・河野,2018)や音楽家(Kobori et al., 2011)などを対象とした研究もあるものの,成人を対象とした研究は必ずしも十分とは言えない状況である。
また,MPCIには妥当性検証の余地がある。検証すべき点は,MPCIの因子間相関が一般的に高いことと,一部研究において特定因子間のみに相関が強く見られることである。まず,MPCIは一般的に因子間相関が高い傾向にある。3因子間の相関については,小堀・丹野(2004)で.27~.52, Kobori et al.(2011)で.35~.67と,尺度開発者の研究において中程度の正相関がある1)。他研究では,松田・山﨑(2021)で.56~.71,高瀬・河野(2018)で.51~.69,荒木(2013)で.50~.67など比較的強い正相関を示す研究も存在し,総じて.20から.70程度の正相関を示している。こうした因子間相関は,MPCIが測定する完全主義認知を形成するセルフ・スキーマが記憶ネットワークにおいて連合しており,互いの活性化拡散の影響を受けたり,セルフ・スキーマを活性化する手がかりが各認知に対して同時に存在したりすると想定することで理論的に説明可能な特徴ではある。その一方で,因子間相関の高い場合の探索的因子分析では,カイザー基準に基づく因子数決定で因子数の過小推定が生じる可能性があり(堀,2005),カイザー基準に基づく限り,MPCIにおいても先行研究の想定よりも少ない因子数が示される可能性や,実際にはより多くの因子数を想定すべきであった可能性も考えられる。MPCIにおいても,カイザー基準による因子数決定では,理論的に想定される3因子ではなく2因子解が示唆される可能性がある。
また,MPCIの特定因子間のみで強く相関が見られることがある。たとえば,八田他(2020)では,完全性追求とミスへのとらわれが.67と比較的強い正相関を示す一方,完全性追求と高目標設置とで.19,高目標設置とミスへのとらわれとで.01と無相関であった。他の研究においても特定因子間の相関が他の因子間相関よりも相対的に低い場合がある(指方他,2021; 矢澤他,2010)。このような研究間における因子間相関の相違は,MPCIの各認知を形成するセルフ・スキーマの選択的活性化の結果とも考えられる。サンプルによってどのセルフ・スキーマが相対的に強く活性化される状況かが異なり,特定の因子間相関のみが高くなる可能性が考えられるのである。そのため,探索的因子分析における因子数決定時に,理論的に想定される3因子解が必ずしも推定されず,それよりも少ない因子数が推定される可能性がある。先行研究では探索的因子分析を改めて実施していない場合もあり,実際には2因子解が妥当であった可能性もある。つまり,理論的にはMPCIは3因子構造であると考えられるが,因子分析時の基準の問題やサンプルが置かれた環境の特殊性により想定通りの因子解が得られない可能性がある。
このような因子間相関の一般的な高さ,および,研究によっては特定因子間のみに相関が強く見られることは,MPCIの因子的妥当性(factorial validity)の問題としても捉えられる。因子的妥当性は,特定因子を測定するよう設定した項目が実際にその因子を測定している程度と定義される(Byrne, 2010)。MPCIは理論的に考えうる3次元の認知を測定していると想定できるが,因子間相関の高さ,および場合によっては特定因子間のみに相関が強く見られることは,下位尺度2つが特定の1因子を反映していると推定されるなど,理論上想定される3因子解が得られない可能性を生じさせる。
これまでの先行研究における研究対象者は,学生や看護師・音楽家など,完全性を求められる度合いが相対的に高いと考えられる特定の環境下にあると考えられる。そうした人々は常に何らかの課題遂行を求められ,さらには特定の課題遂行方略を求められる存在である可能性がある。これに対し,一般的な成人男女サンプルは,課題遂行を求められる程度ならびに選択した課題遂行方略の個人差が大きいと考えられ,全員が特定因子間にのみ相関が見られる環境下にあると想定するのは困難である。そのため,MPCI因子的妥当性を成人男女サンプルを用いて検討することは,特殊状況下を想定しない一般的な結論を導くと考えられる。さらには,MPCIの因子構造と因子間相関について成人男女を対象に一般傾向を確認することは,特定サンプルにおいてMPCIの下位因子が同時に活性化している程度を検討することにつながり,先行研究における因子間相関のあり方について推測する手がかりを提供するだろう。
また,因子間相関の高さは,他変数との関連を用いた基準関連妥当性の検証時における直接的関連と間接的関連の混在に関わる可能性がある。セルフ・スキーマの観点から考えると,その因子間相関の高さの一部は完全主義のセルフ・スキーマ間に連合があり活性化と活性化拡散が生じているからだと考えられるが,外部基準との関連を検討する際にMPCIが測定する各認知から外的基準への直接的関連と,特定のセルフ・スキーマからの活性化拡散により生じた,他のセルフ・スキーマの活性化の影響である間接的関連の両方が混在する可能性がある。これまでは小堀・丹野(2004)をはじめとして,MPCIと他変数との単相関を検討することで各下位因子の妥当性が検証されたが,活性化拡散による間接的影響という他経路の可能性を取り除いたうえで他の外部基準となる変数との関連を検討することで,妥当性検証がより精緻になると考えられる。
さらに,こうした因子構造の再検討において,完全性追求の位置づけの再考が有益だと考えられる。上述の因子間相関の高さを考慮すると,完全性追求がどのような特徴を持つかについては議論の余地があるからである。先述の通り,MPCIでは完全性追求の設定根拠として摂食障害や強迫障害に関する研究で完全性追求が取り上げられていることへの言及があり(小堀・丹野,2004),MSPS(桜井・大谷,1997)でも,完全でありたいという欲求(desire for perfection)が下位因子として設定されている。ただし,桜井・大谷(1997)は,MSPSの完全でありたいという欲求を「完全主義のどの側面にも共通する基本的な性質」(桜井・大谷,1997, p. 182)であるとし,相関分析の結果から「この性質のみをとりあげた場合には適応・不適応と関連がほとんどないと言えよう」(桜井・大谷,1997, p. 184)とも述べている。同時に,桜井・大谷(1997)や小堀・丹野(2002),大谷(2004)では,完全でありたいという欲求が時系列的に先行して他の因子を促進する可能性を指摘しており,これと類似する関係がMPCIにおける完全性追求と他の下位因子との間に認められる可能性も考えられる。このことは,完全性追求と他の因子が共変する可能性を示しており,完全性の求められ方によっては高目標設置もしくはミスへのとらわれのいずれかのみが完全性追求と連動して活性化する可能性を示唆する。つまり,完全でありたいという欲求が時系列的に先行して他の因子を促進する可能性は,MPCIにおいて一般的に因子間相関が比較的強く,場合によっては特定の因子間にのみ相関が見られることを説明しうるかもしれない。その場合,MPCIは完全性追求という下位因子を有することにより,完全主義認知という心理状態について,特定状況下での状態の変化や,心理状態の生起過程に関する貴重な情報をもたらしうると考えられ,そうした点に研究上の意義と有用性があると考えられる。
MPCIが完全性追求を含む3因子構造を示すことは多くの研究で仮定されているが,そうした研究においては尺度化に先立つ因子構造の検討の有無や因子間相関などの結果が明示されていないことも多い。また,MPCIの完全性追求だけ分析に使用されていない研究があることや(Kobori & Tanno, 2005),他の変数との相関分析の結果,完全性追求の特徴が明らかでないとの報告(Kobori et al., 2011)があることなどを考慮すると,完全性追求については妥当性の検討が改めて必要だと考えられる。具体的には,従来の研究でなされた単相関分析に加え,他の完全主義認知を形成するセルフ・スキーマの間接的影響を踏まえて,MPCIの他の下位因子を統制したうえでの偏相関分析による検証,さらには桜井・大谷(1997)や小堀・丹野(2002),大谷(2004)を参考にして,MPCI下位因子の時系列的関係の検討が必要だと考えられる。
そこで,本研究は,成人男女を対象とした場合のMPCIの因子的妥当性の検証を目的として,公募型Web調査のパネルデータを用い検討を行う。これまでの議論から,MPCIについては,先行研究とは性質が異なる成人サンプルにおいても,高目標設置,ミスへのとらわれ,完全性追求の3因子構造が得られ,これらの因子は比較的強い因子間相関を示すと予想される。またこれに関連して,各因子の基準関連妥当性について小堀・丹野(2004)の議論に基づき以下の仮説を検証する2)。先述した通り,高目標設置は高い目標を設定し追求しようとする認知と定義され,適応的性質を持つとされる(小堀・丹野,2004; 桜井・大谷,1997)。高目標設置は,完全主義における肯定的で適応的な認知なので,肯定的な自動思考を示す他の指標と正相関を示すと考えられる。対照的に,ミスへのとらわれは,ミスや失敗に対して自己批判する認知と定義され,不適応的性質を持つとされる。ミスへのとらわれは,完全主義における否定的で不適応的な認知であるので,抑うつスキーマと関連する否定的な自動思考を反映した他の指標と正相関すると考えられる。それぞれ活性化した自動思考は状況の認知評価に影響を及ぼし,自動思考の感情価(valence)に沿った感情を生起させると考えられる。つまり,肯定的な自動思考である高目標設置は肯定感情を生起させ,否定的自動思考であるミスへのとらわれは否定感情を生起させると考えられる3)。これらの検証にあたっては,まず先行研究に従い単相関分析を用いた検証を行う。その後,MPCIの下位因子間の因子間相関を考慮して他の2因子を統制した偏相関分析を実施する。
さらに桜井・大谷(1997)や大谷(2004)に鑑みると,完全性追求の尺度得点の高さが他の2因子の尺度得点の高さを予測する可能性も考えられる。そこで,交差遅延効果モデルによる共分散構造分析を探索的に実施することとした。
本研究では2波のパネル調査を実施した4)。1回目調査(以下,時点1)では,一都三県在住の男女20~69歳が公募型Web調査(調査会社委託・ポイント報酬制)に回答した。令和2年度国勢調査に基づく一都三県全体の性年代別人口構成比を用い,総数500名を目途として割当法により調査会社の登録モニターから回答者を選定した。事前調査(スクリーニング調査)を2022年3月2日(水)~3月4日(金)に実施し,89,909名に配信して4,177名から回答を得た。ここから,無効回答,回答に利害の影響が懸念される特定業種の従事者(家族に従事者がいる者を含む),および,ダイヤルアップ接続者を除外して3,228名を抽出した。そこから1,036人をランダムに抽出した後,本調査を2022年3月4日(金)~3月5日(土)に配信し,割当人数分の回答回収時点で調査を終了して,最終的に520名(男性264名,女性256名;平均年齢45.16歳,SD=13.43)の有効回答を得た。2回目調査(以下,時点2)では,時点1の有効回答者520名に対し,約6週間後の4月15日(金)~4月22日(金)に調査を依頼し,最終的に487名(男性251名,女性236名;平均年齢45.68歳,SD=13.19)から回答を得た。パネル調査の回収率は93.7%であった。
手続きと質問項目オンラインで回答を求めた。調査では1画面に1質問を表示し,警告表示により無回答を許容しない仕様とした。ただし,回答者自らの意思による回答の中止は可能であった。各尺度の項目提示順序は,Web調査システムのプログラム制御により,回答者ごとにランダム化した。
まず,時点1および時点2の両方でMPCIの15項目に回答を求めた。小堀・丹野(2004)に従い,「全くなかった(0日)」「ときどきあった(1日~2日)」「しばしばあった(3日~4日)」「いつもあった(5日~7日)」の4件法で回答を求めた。時点2ではMPCIの他にATQ-R(Automatic Thoughts Questionnaire-Revised)とI-PANAS-SF(The International Positive and Negative Affect Schedule Short Form)への回答を求めた。これらのうちATQ-Rは,ある特定の状況で引き起こされた内的反応パターンである自動思考について,肯定的な自動思考と否定的な自動思考を測定する目的で開発された尺度である。本研究では短縮版(大植他,2012)のうち,将来に対する否定的評価因子(「私の将来は暗い」「とても絶望感を感じる」など)と肯定的思考因子(「私は元気だ」「たいていの人より幸運である」など)の各6項目を用いた。回答ラベルは「まったくそう思う」から「まったくそう思わない」までの5件法であった。一方,I-PANAS-SFは,言語や社会文化的な要因による影響を受けずに肯定感情と否定感情を測定することを目指した尺度である。本研究ではI-PANAS-SF(Thompson, 2007)10項目を独自に翻訳し回答を求めた5)。具体的項目は,「うろたえた」「敵意のある」「機敏な」「恥ずかしい」「やる気がわいた」「ぴりぴりした」「固く決意した」「気遣いのある」「恐ろしい」「活気に満ちた」であり,「全く感じていない」「たまに感じている」「ときどき感じている」「よく感じている」「いつも感じている」の5件法で尋ねた。
不正回答・不良回答の除外分析に先立ち,回答デバイスを「スマートフォン・携帯電話・その他」と回答した者(時点1:23名,時点2:30名)を分析から除外した。次に,尺度ごとに不正回答が疑われる超短時間回答者を分析から除外した(江利川・山田,2015; Smyth et al., 2006)。具体的には,分析対象となる尺度項目の回答時間を自然対数変換した後に,平均値から−2SD未満の回答者を超短時間回答者と見なし除外した。なお,本研究では,パネル調査の時点1と時点2のデータを同時に分析する際には,分析に使用するすべての変数に欠損値のない回答者のデータを分析対象とした。また,本研究では,パネル調査の時点2における欠測が生じているがランダム欠測(Missing at Random: MAR)と見なせると判断した6)。
時点1におけるMPCIの15項目への回答(N=494)に対し探索的因子分析(最尤法・プロマックス回転)を実施した。その結果,固有値の降順推移は8.58, 2.05, 0.86, 0.51, 0.39…であり,カイザー基準およびスクリー基準に基づくと2因子解が妥当だと判断された。その一方,堀(2005)は,カイザー基準に関して因子間相関が高くなる場合に因子数を過小推定する可能性,およびスクリー基準に関して因子数を過小・過大のいずれの推定も起こりうる可能性を批判して,対角SMC平行分析とMAP(Minimum Average Partial:最小偏相関平均)を用いた挟み込み法を推奨している。そこで対角SMC平行分析を行ったところ,対角SMCの推移は8.25, 1.72, 0.53, 0.15, 0.06…と推移したのに対し,乱数対角SMCの推移は0.37, 0.29, 0.23, 0.18, 0.14…と推移して4因子目で逆転し,3因子解が妥当であると判断された。また,MAP値の推移は,.07, .03, .02, .03, .04, .05, .07…と推移して3因子目で最小となり,3因子解が妥当と判断された。対角SMC平行分析とMAPがいずれも3因子解を示唆していることから,堀(2005)の方法に基づくと3因子解が妥当であると判断された。
カイザー基準とスクリー基準に基づいた2因子解ではすべての項目で1つの因子のみが.40以上の負荷量を示す因子パターンが得られた(Table 1)。因子1は10項目に高い負荷量を示しており,それらの項目は原尺度の完全性追求5項目とミスへのとらわれ5項目であった。このことから因子1を便宜的・暫定的に「回避的完全性」と命名した。因子2は5項目に高い負荷量を示しており,小堀・丹野(2004)において高目標設置を反映する項目に負荷していた。このことから因子2は高目標設置であると判断された。因子間相関は.62と比較的強い正相関を示した。各因子項目尺度におけるα係数は,回避的完全性で.94,高目標設置で.92であった。
項目 | 2因子解 | 3因子解 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
因子1 | 因子2 | 共通性 | 因子1 | 因子2 | 因子3 | 共通性 | ||
回避的完全性 | 高目標設置 | 完全性追求 | ミスへのとらわれ | 高目標設置 | ||||
目標は高いほどやりがいがある | −.12 | .87 | .64 | −.19 | .08 | .92 | .69 | |
高い基準を自分に課すことが大切だ | −.01 | .87 | .74 | .20 | −.09 | .76 | .74 | |
基準が高いほど,自分のためになるだろう | −.06 | .89 | .74 | −.03 | .03 | .88 | .76 | |
目標は高ければ高いほどいい | −.07 | .89 | .72 | .00 | −.01 | .86 | .73 | |
最高の水準を目指そう | .13 | .74 | .68 | .29 | −.03 | .62 | .68 | |
完ぺきにやらなければ安心できない | .70 | .17 | .66 | .83 | .08 | −.05 | .74 | |
完ぺきにやらなければ,どうしても気がすまない | .64 | .22 | .63 | .82 | .05 | −.01 | .71 | |
わたしは“完ぺき”でなければならない | .57 | .31 | .64 | .61 | .13 | .15 | .66 | |
“完ぺきにやること”に意味がある | .59 | .33 | .70 | .80 | .01 | .10 | .77 | |
不完全ではいけない | .69 | .17 | .65 | .79 | .11 | −.04 | .71 | |
ミスがあると,自分が惨めに思えてくる | .94 | −.19 | .70 | .08 | .84 | −.07 | .76 | |
ミスがあると,自分を責めたくなる | .93 | −.19 | .68 | .08 | .82 | −.07 | .73 | |
失敗したら,私の価値は下がるだろう | .78 | −.02 | .60 | −.07 | .81 | .14 | .68 | |
ここでまちがえるなんて情けない | .85 | −.12 | .61 | .00 | .81 | .02 | .67 | |
うまくできなければ,人並み以下ということだ | .75 | .04 | .59 | .32 | .48 | .04 | .58 | |
因子寄与 | 7.48 | 6.42 | 7.33 | 6.29 | 6.01 | |||
因子間相関 | 因子1 | 1.00 | .62 | 1.00 | .73 | .66 | ||
因子2 | 1.00 | 1.00 | .45 | |||||
因子3 | 1.00 | |||||||
α係数 | .94 | .92 | .93 | .91 | .92 |
注)数値列のうち左側3列はカイザー基準およびスクリー基準に基づく2因子解の結果であり,右側4列は小堀・丹野(2004)に基づき求めた3因子解の結果である。数値の太字は因子負荷量の絶対値が.40以上であることを示す。
これに対し3因子解では,小堀・丹野(2004)と同様の因子パターンを得た(Table 1)。すなわち,因子1は「完ぺきにやらなければ安心できない(.83)」などに高く負荷しており,完全性追求と解釈された。因子2は「ミスがあると,自分が惨めに思えてくる(.84)」などに高く負荷しており,ミスへのとらわれと解釈された。因子3は「目標は高いほどやりがいがある(.92)」などに高く負荷しており,高目標設置と解釈された。因子間相関は,完全性追求とミスへのとらわれとの間で.73,完全性追求と高目標設置との間で.66,ミスへのとらわれと高目標設置との間で.45とそれぞれ中程度もしくは比較的強い正相関を示した。なお,各因子項目尺度におけるα係数は,完全性追求で.93,ミスへのとらわれで.91,高目標設置で.92であり,先行研究と同様であった。
時点2においても同様にMPCIの15項目への回答(N=455)に対し探索的因子分析(最尤法・プロマックス回転)を実施した結果,固有値の推移は9.24, 1.70, 0.79, 0.43, 0.37…であった。時点1と同様,カイザー基準およびスクリー基準では2因子解が妥当だと判断された。時点1と同様に対角SMC平行分析を試みたところ,対角SMCの推移は8.94, 1.37, 0.51, 0.09, 0.05…と推移したのに対し,乱数対角SMCの推移は0.38, 0.30, 0.24, 0.21, 0.16…と推移して4因子目で逆転し,3因子解が妥当であると判断された。また,MAP値の推移は,.06, .03, .02, .03, .04, .06…と推移して3因子目で最小となり,3因子が妥当と判断された。対角SMC平行分析とMAP基準がいずれも3因子解を示唆していることから,時点2においても堀(2005)の方法に基づけば3因子解が妥当であると判断された。
2因子解における因子パターンは時点1とほぼ同様であり,因子1は回避的完全性,因子2は高目標設置と解釈された(Table 2)。因子間相関も.69と比較的強い正相関を示し,各尺度のα係数も回避的完全性で.95,高目標設置で.91であった。同様に時点2で3因子解を求めた結果,小堀・丹野(2004)と同様の因子パターンが得られ,各因子は完全性追求,ミスへのとらわれ,高目標設置と解釈された。ただし,「最高の水準を目指そう」という項目には,高目標設置(.51)と完全性追求(.46)が同程度に負荷していた。因子間相関は,完全性追求とミスへのとらわれとの間で.76,完全性追求と高目標設置の間で.71,ミスへのとらわれと高目標設置との間で.56とそれぞれ中程度もしくは比較的強い正相関を示した。各因子項目尺度におけるα係数は,完全性追求で.94,ミスへのとらわれで.92,高目標設置で.91であり,時点2においても先行研究と同様であった。
項目 | 2因子解 | 3因子解 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
因子1 | 因子2 | 共通性 | 因子1 | 因子2 | 因子3 | 共通性 | ||
回避的完全性 | 高目標設置 | 完全性追求 | ミスへのとらわれ | 高目標設置 | ||||
目標は高いほどやりがいがある | −.15 | .91 | .66 | −.14 | .02 | .93 | .72 | |
高い基準を自分に課すことが大切だ | .02 | .79 | .65 | .07 | .04 | .73 | .66 | |
基準が高いほど,自分のためになるだろう | −.01 | .84 | .69 | .07 | .02 | .77 | .69 | |
目標は高ければ高いほどいい | −.13 | .92 | .70 | −.04 | −.03 | .90 | .74 | |
最高の水準を目指そう | .16 | .72 | .69 | .46 | −.10 | .51 | .69 | |
完ぺきにやらなければ安心できない | .68 | .23 | .73 | .95 | .04 | −.09 | .85 | |
完ぺきにやらなければ,どうしても気がすまない | .64 | .25 | .70 | .89 | .04 | −.04 | .79 | |
わたしは“完ぺき”でなければならない | .61 | .32 | .74 | .58 | .21 | .15 | .75 | |
“完ぺきにやること”に意味がある | .57 | .34 | .71 | .77 | .05 | .08 | .76 | |
不完全ではいけない | .65 | .26 | .71 | .63 | .21 | .07 | .73 | |
ミスがあると,自分が惨めに思えてくる | .97 | −.24 | .68 | .03 | .89 | −.11 | .74 | |
ミスがあると,自分を責めたくなる | .95 | −.21 | .68 | .05 | .86 | −.09 | .73 | |
失敗したら,私の価値は下がるだろう | .82 | .02 | .69 | .02 | .77 | .12 | .74 | |
ここでまちがえるなんて情けない | .85 | −.06 | .65 | −.06 | .85 | .08 | .72 | |
うまくできなければ,人並み以下ということだ | .74 | .06 | .61 | .17 | .59 | .10 | .62 | |
因子寄与 | 8.19 | 7.22 | 7.98 | 7.22 | 6.69 | |||
因子間相関 | 因子1 | 1.00 | .69 | 1.00 | .76 | .71 | ||
因子2 | 1.00 | 1.00 | .56 | |||||
因子3 | 1.00 | |||||||
α係数 | .95 | .91 | .94 | .92 | .91 |
注)数値列のうち左側3列はカイザー基準およびスクリー基準に基づく2因子解の結果であり,右側4列は小堀・丹野(2004)に基づき求めた3因子解の結果である。数値の太字は因子負荷量の絶対値が.40以上であることを示す。
以上の結果は,成人男女を対象とする公募型Web調査において,MPCIは探索的因子分析における従来多用されてきた因子数決定法によっては2因子解が得られる可能性があるものの,堀(2005)が推奨する方法においては先行研究通りの3因子解が得られることを示した。また,2因子解,3因子解いずれにおいても因子間相関が比較的強い傾向にあった。そのためカイザー基準で示唆された2因子解は比較的強い因子間相関がもたらした結果である可能性もある(堀,2005)。このような想定に加え,本研究では完全性追求を含む3因子構造が有する上述の研究上の意義と有用性を踏まえて,3因子解に基づく各因子の尺度得点を算出し変数間の関連を検討することとした。
MPCI下位尺度得点間の相関時点1および時点2両時点のMPCI項目に回答した者からそれぞれの超短時間回答者を除いた439名に対して,MPCIの各下位因子の尺度得点を求めた。得点は各因子の尺度項目の合計を項目数で除して算出した。各得点の記述統計量ならびに相関係数をTable 3に示す。時点間の相関係数を確認すると,高目標設置では.63(p<.001, 95%CI: .57~.68),完全性追求では.62(p<.001, 95%CI: .56~.67),ミスへのとらわれでは.65(p<.001, 95%CI: .60~.70)となり,それぞれ比較的強い正相関が見られ,小堀・丹野(2004)と類似した結果が得られた。
Mean | SD | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 高目標設置(時点1) | 1.49 | 0.67 | 1.00 | |||||
2 | 高目標設置(時点2) | 1.53 | 0.66 | .63*** | 1.00 | ||||
(.57~.68) | |||||||||
3 | 完全性追求(時点1) | 1.57 | 0.73 | .64*** | .44*** | 1.00 | |||
(.58~.69) | (.36~.51) | ||||||||
4 | 完全性追求(時点2) | 1.62 | 0.77 | .42*** | .72*** | .62*** | 1.00 | ||
(.34~.49) | (.68~.77) | (.56~.67) | |||||||
5 | ミスへのとらわれ(時点1) | 1.65 | 0.73 | .48*** | .29*** | .75*** | .49*** | 1.00 | |
(.41~.55) | (.20~.37) | (.71~.79) | (.41~.55) | ||||||
6 | ミスへのとらわれ(時点2) | 1.71 | 0.76 | .35*** | .56*** | .55*** | .78*** | .65*** | 1.00 |
(.26~.43) | (.50~.63) | (.48~.61) | (.74~.81) | (.60~.70) |
*** p<.001
注)カッコ内は95%信頼区間
MPCIの各因子の基準関連妥当性について検討するために,その他の個人差変数の測定が行われた時点2において,MPCIの各因子項目得点とその他の個人差変数との相関係数を算出した(Table 4)。算出に際しては,それぞれの尺度の超短時間回答者を除いた(N=447)。各尺度の得点は項目合計を項目数で除して算出した。その結果,自動思考に関わるATQ-Rの各因子に対して,高目標設置は,将来に対する否定的評価因子(α=.94: 以下,将来否定)と無相関(r=.03, p=.55, 95%CI: −.07~.12),肯定的思考因子(α=.91: 以下,肯定思考)と弱い正相関(r=.18, p<.001, 95%CI: .09~.27)を示した。対照的にミスへのとらわれは,将来否定と中程度の正相関(r=.46, p<.001, 95%CI: .39~.53),肯定思考と弱い負相関(r=−.29, p<.001, 95%CI: −.37~−.20)を示した。完全性追求は,将来否定と弱い正相関(r=.28, p<.001, 95%CI: .19~.36),肯定思考と無相関(r=−.09, p=.06, 95%CI: −.18~.002)であった。一方,I-PANAS-SFについては,肯定感情(α=.83),否定感情(α=.88)に対して,高目標設置,完全性追求,ミスへのとらわれのいずれも有意な弱いもしくは中程度の正相関を示した。
将来否定 | 肯定思考 | 否定感情 | 肯定感情 | |
---|---|---|---|---|
高目標設置 | .03 | .18*** | .27*** | .49*** |
(−.07~.12) | (.09~.27) | (.18~.35) | (.41~.55) | |
完全性追求とミスへのとらわれを統制 | −.28*** | .37*** | −.12* | .41*** |
(−.36~−.19) | (.29~.45) | (−.21~−.03) | (.32~.48) | |
完全性追求 | .28*** | −.09 | .47*** | .30*** |
(.19~.36) | (−.18~.002) | (.40~.54) | (.22~.38) | |
高目標設置とミスへのとらわれを統制 | .03 | −.01 | .13** | −.01 |
(−.07~.12) | (−.11~.08) | (.03~.22) | (−.10~.08) | |
ミスへのとらわれ | .46*** | −.29*** | .56*** | .20*** |
(.39~.53) | (−.37 ~−.20) | (.49~.62) | (.11~.29) | |
高目標設置と完全性追求を統制 | .42*** | −.37*** | .35*** | −.07 |
(.34~.50) | (−.45~−.29) | (.26~.43) | (−.16~.03) | |
M | 2.45 | 3.01 | 1.92 | 2.24 |
SD | 1.08 | 0.84 | 0.81 | 0.78 |
* p<.05; ** p<.01; *** p<.001
注)太字は単相関を示す。カッコ内は95%信頼区間である。「将来否定」ならびに「肯定思考」は,ATQ-Rにおける将来に対する否定的評価因子と肯定的思考因子の尺度得点であり,「否定感情」と「肯定感情」は,I-PANAS-SFの尺度得点である。
ただし,探索的因子分析において示された因子間相関により,各因子と他の個人差変数との相関において直接的関連と間接的関連の混在があるかもしれない。そこで,3つの因子のうち残りの2因子を統制変数とした偏相関係数を他の個人差変数との間で求めた(Table 4)7)。その結果,高目標設置は,完全性追求とミスへのとらわれを統制すると,将来否定と弱い負相関(rp=−.28, p<.001, 95%CI: −.36~−.19),肯定思考と弱い正相関(rp=.37, p<.001, 95%CI: .29~.45)を示した。さらに,否定感情と非常に弱い負相関(rp=−.12, p=.01, 95%CI: −.21~−.03),肯定感情と中程度の正相関(rp=.41, p<.001, 95%CI: .32~.48)を示した。対照的にミスへのとらわれは,高目標設置と完全性追求を統制すると,将来否定と中程度の正相関(rp=.42, p<.001, 95%CI: .34~.50),肯定思考と弱い負相関(rp=−.37, p<.001, 95%CI: −.45~−.29)を示した。感情に関しても,ミスへのとらわれは否定感情と弱い正相関(rp=.35, p<.001, 95%CI: .26~.43),肯定感情と無相関(rp=−.07, p=.15, 95%CI: −.16~.03)を示した。
完全性追求は,高目標設置とミスへのとらわれを統制すると,自動思考における将来否定(rp=.03, p=.57, 95%CI: −.07~.12),肯定思考(rp=−.01, p=.80, 95%CI: −.11~.08)と無相関であった。さらに,完全性追求は,否定感情と非常に弱い正相関(rp=.13, p=.01, 95%CI: .03~.22)を示したが,肯定感情(rp=−.01, p=.86, 95%CI: −.10~.08)とは無相関であった。
MPCI下位因子間の相互影響MPCI各因子の相互影響過程について探索的に検討するために,交差遅延効果モデルに基づく共分散構造分析を実施した(完全情報最尤法,N=491)。具体的には,各時点における3因子間に共分散を仮定したうえで,時点1の各因子得点から時点2の各因子得点への影響過程を仮定した(Figure 1)。時点1から時点2への同因子間のパス係数(標準化係数)は,完全性追求で.57(p<.001, 95%CI: .44~.70),高目標設置で.58(p<.001, 95%CI: .48~.67),ミスへのとらわれで.57(p<.001, 95%CI: .46~.68)と有意な正の影響を示した。Figure 1の結果を見ると,時点1の完全性追求は時点2のミスへのとらわれに.14(p=.02, 95%CI: .01~.26),時点2の高目標設置に.14(p=.03, 95%CI: .01~.27)の有意な正の影響を示した。他のパスは有意ではなく,時点2の完全性追求に時点1の高目標設置とミスへのとらわれは影響を示さなかった。
本研究では,まず,多次元完全主義認知尺度(MPCI)の因子構造について検討した。その結果,探索的因子分析でカイザー基準ならびにスクリー基準に基づくと2因子解が支持されたが,対角SMC平行分析ならびにMAP基準による挟み込み法に基づくと3因子解が支持され,高目標設置,完全性追求,ミスへのとらわれからなる3因子構造が得られた。ただし,いずれの因子解においても因子間には比較的強い正相関が認められた。また,以上の結果はパネル調査のいずれの時点でも同様であった。なお,MPCIの下位尺度のα係数はいずれも高く,先行研究と同様であった。さらに,MPCIの各下位尺度得点は,小堀・丹野(2004)と同様に時点間で比較的強い相関を示した。しかし,MPCIで測定しているのはセルフスキーマの活性化の程度であるため,尺度得点の真値が時不変的であるとは想定できない。このような状況で比較的強い相関が見られるのはサンプルが置かれている状況がある程度安定しており,完全主義認知を形成するセルフ・スキーマを一定水準で活性化しているからかもしれない。
以上のことから,MPCIは,公募型Web調査における成人男女においても理論的想定通りの3因子構造を示しうることが示された。これらの結果は,MPCIが学生や看護師,音楽家のみならず成人男女においても同様の因子構造を示し,小堀・丹野(2004)の結論を一般化しうることを意味している。ただし,MPCIは因子間相関が比較的強く,従来用いられてきた因子数決定基準では因子数が過小評価され,複数因子が統合された解が求まる場合があることも示された。また,本研究のような成人サンプルでは特定の因子間にのみ強い相関が見られることはなかった。これは,成人サンプルでは,課題遂行を求められる程度や課題遂行方略の選択に大きな個人差があるからだと考えられる。もし特定因子間のみ強い相関が見られた場合には,特定の方略によってのみ課題遂行が達成される状況など,回答者が置かれた集団状況のようなサンプル特性を考慮すべきかもしれない。
次に,MPCIの各因子の基準関連妥当性について検討するために,時点2のデータについて単相関分析を行った結果,高目標設置は肯定的な思考と正相関を示して仮説1が支持され,ミスへのとらわれは将来否定と正相関を示して仮説2が支持された。その一方,MPCIのどの下位因子も否定感情,肯定感情と正相関を示し,単相関分析では仮説3,仮説4は支持されなかった。ただし,こうした分析においては,セルフ・スキーマ間の連合と活性化拡散により直接的関連と間接的関連の混在が生じている可能性がある。つまり,高目標設置と否定感情との正相関,ミスへのとらわれと肯定感情との正相関には,他の完全主義認知を媒介とした間接的関連が生じている可能性がある。そこで,他の2因子を統制変数とした偏相関分析を行った結果,高目標設置では肯定的な思考や感情と正相関を示す一方,否定感情とは負相関を示し,仮説1,仮説3が支持された。ミスへのとらわれでは,将来への否定的評価,否定感情と正相関を示す一方,肯定感情とは無相関を示し,仮説2は支持,仮説4は部分的に支持された。これらのことは,高目標設置とミスへのとらわれが完全主義認知の中核的な2次元として対照的であることを示し,原尺度の理論的想定とも整合する結果であった。このように,高目標設置とミスへのとらわれの各下位尺度は,セルフ・スキーマの連合と活性化拡散から想定される間接的関連を取り除くことで理論的予測と更に整合することが示された。本研究で実施した偏相関分析による統制は,今後MPCIを利用するうえで参考になると思われる。
その一方,完全性追求は,単相関では将来への否定的評価および否定感情と正相関を示したが,高目標設置とミスへのとらわれを同時に統制すると,否定感情との正相関が見られるものの非常に弱い相関であり,自動思考や感情と基本的に無相関となった。また,MPCIの下位因子間の相互影響過程について交差遅延効果モデルに基づく共分散構造分析による探索的検討を行ったところ,完全性追求得点が高い場合,後続する高目標設置とミスへのとらわれの得点が高いことを予測したが,高目標設置とミスへのとらわれの得点の高さは,いずれも後続する完全性追求の高得点を予測しなかった。この結果は,完全性追求得点の高さが,後の高目標設置やミスへのとらわれの高得点を予測する先行要因になることを示唆していた。なお,この結果は桜井・大谷(1997)や大谷(2004)が示した完全でありたいという欲求に関する知見と整合する結果であり,完全性追求が完全でありたいという欲求と類似する特徴を持つ可能性を示唆していた。これは,完全性追求と他の因子との関連について,ひいては多次元完全主義認知について理論的整理を促すものである。
多次元完全主義認知における完全性追求の位置づけ完全性追求は,「完全性を衝動的に追求する認知」と定義されるが(小堀・丹野,2004, p. 36),具体的な思考,行動傾向は定義に含まれておらず,他の変数との相関分析の結果,特徴が明らかでないともされている(Kobori et al., 2011)。本研究においても単相関分析ではミスへのとらわれと類似した相関パターンを示す一方,高目標設置とミスへのとらわれを統制すると自動思考や感情と相関しなかった。単相関分析における相関は他の認知,本研究ではミスへのとらわれの活性化拡散による間接的関連を示すものであったと考えられる。他方,完全性追求を統制変数に含めても他の2因子と自動思考や感情の関連は減衰せず示されていた。これらを総合すると,完全性追求自体は自動思考,感情のそれぞれについて肯定的な要素,否定的な要素を含まないと考えられる。完全性追求は,定義通り自己に関わる完全性への衝動性であり,認知スキーマとして捉え直すと完全性に対する目標(goal)と言えるかもしれない。これに対し,高目標設置やミスへのとらわれは,完全であるための方略をその定義に含んでおり,高い目標を設置してそれに到達しうる行動を選択したり,目標からの乖離を回避するためにミスを予防するような行動を選択したりする手段的要素を内包している。完全性追求と比して高目標設置とミスへのとらわれは,具体的であり,行動特定的なセルフ・スキーマであると考えられる。
そもそも完全主義は目標追求に関わる認知傾向であり,自己制御過程に関わる個人差であると考えることもできる。一般的に自己制御過程において目標と手段を表象するセルフ・スキーマは階層構造をなすと考えられており(Emmons, 1989),さらには目標を表象するセルフ・スキーマの方が抽象的,手段を表象するセルフ・スキーマの方が具体的であると考えられている。そのため,完全性追求は目標として,高目標設置やミスへのとらわれは手段として互いに連合しているのかもしれない。このような階層構造的な連合と活性化と活性化拡散を想定すると,MPCIの下位因子については,それぞれ独立した概念と考えられつつも一定以上の正相関が生じること,および状況によっては特定の複数因子のみで相関が高いことが説明可能となる。何らかの課題遂行が求められる状況下にあると,連合している各完全主義認知が活性化しその時点での高い因子間相関が構成されるのだが,課題によっては特定の目標手段関係のみが活性化されると考えられるのである。
このようなMPCIの下位因子における階層構造と各完全主義認知の特性(目標,手段)の仮定により,自動思考や感情との関連についても説明が可能となる。高目標設置は肯定思考や肯定感情との関連を示したが,このことは,高目標設置が適応的であるとする従来の知見と整合すると同時に,高目標設置が楽観主義や促進焦点(Higgins, 1998)といった自己制御の方略に関連しうることを示唆している。同様に,ミスへのとらわれは否定思考や否定感情との関連を示したが,このことはミスへのとらわれが不適応を招くとする従来の知見と整合すると同時に,ミスへのとらわれが悲観主義や予防焦点といった自己制御の方略に関連しうることを示唆している。
対照的に,完全性追求は他の2因子に比して手段的要素を含まない,社会的認知領域で言うところの抽象的目標だと考えられる。この結果は,桜井・大谷(1997)が,MSPSの完全でありたいという欲求を「完全主義のどの側面にも共通する基本的な性質」(桜井・大谷,1997, p. 182)であるとし,完全でありたいという欲求と適応・不適応とが関連しないと考えたこととも整合する。完全性追求は,完全でありたいという欲求と類似した完全主義の基本性質を示していると考えられる。このような再解釈に基づけば,完全性追求と自動思考や感情との単相関,偏相関のパターンは理論的に解釈しうるものであり,完全性追求はMSPSの完全でありたいという欲求と類似した概念を測定したものだと考えられる。
さらに,パネルデータに基づき探索的に実施した交差遅延効果モデルからは,事前に完全性追求の尺度得点が高い場合,高目標設置およびミスへのとらわれの得点の高さを予測する可能性が示唆された。セルフ・スキーマの議論を援用すると,完全性を追求させる目標の活性化が具体的な手段の活性化を招いたと解釈しうるが,活性化と活性化拡散の影響は短期的なものであると考えられるため,活性化拡散に関わる理論を完全性追求から約6週間離れた高目標設置およびミスへのとらわれへの影響の解釈に適用することは現実的ではない(Wentura & Rothermund, 2014)。また,高目標設置やミスへのとらわれから完全性追求への影響は見られなかったことからも,単純な活性化と活性化拡散によっては説明できない。ここでの結果については,完全性追求が事前に高かったことにより方略の意識的選択もしくは環境の制約による特定方略への方向づけがなされた可能性が考えられる。たとえば,回答者が新年度に新しい環境に入ったことによって完全性追求が高くなっている中で,職業的特徴から高目標設置もしくはミスへのとらわれといった具体的な方略が採用されるに至った可能性が考えられる。
ただし,この交差遅延効果モデルの解釈には注意が必要である。近年,2波の交差遅延効果モデルには個人間効果と個人内効果が混在しており,影響過程を考えるうえで適切ではないとの批判がなされている(Usami et al., 2019)。これらの効果を弁別するにはランダム切片を導入した交差遅延効果モデルを適用することになるが,そのためには3波以上のパネルデータを必要とする。今後,より大規模な縦断調査データを取得し,時系列的な影響過程を検討する必要がある8)。
結語本研究は,MPCIが完全主義認知を測定する尺度として因子的妥当性を有し,MPCIが3因子からなるという理論的想定が成人サンプルに適用できることを示した。ただし,MPCIの因子間相関がセルフ・スキーマの連合と活性化拡散によりもたらされると考えると,サンプルが置かれた状況によっては選択的活性化が生じ,特定因子間においてのみ相関が強く生じる可能性もある。さらには,セルフ・スキーマの連合による間接的関連から,各下位因子の単独の影響を単相関分析では十分検討できない可能性がある。また,高目標設置やミスへのとらわれは手段に相当するセルフ・スキーマであることが想定される一方,完全性追求は桜井・大谷(1997)が想定する完全でありたい欲求と類似した概念であり,抽象的な目標となるセルフ・スキーマである可能性がある。本研究の知見をもとに,どのような状況が特定の下位因子間相関を高めるのか,特に完全性追求と高目標設置もしくはミスへのとらわれとの関連を強める状況要因は何かを検討することは,今後の重要な検討課題である。たとえば,否定事象の有無が重視される状況では,完全性追求とミスへのとらわれの相関が高まることが予想される一方,肯定事象の有無が重視される状況では,完全性追求と高目標設置との相関が高まることが予想される。これは,制御焦点理論(Higgins, 1998)にも沿った予測でもあり,完全主義と他理論との接合を促す可能性がある。また,こうした推論が妥当であれば,得られた因子構造が回答者の置かれた状況の特性を示す指標になる可能性もあり,調査サンプルの理解の一助になると考えられる。
1) 相関係数の強さに関する表現は村井(2017)に従った。
2) 本研究では,完全性追求と基準変数との関連に関する仮説を設けなかった。小堀・丹野(2004)では,摂食障害や強迫障害との関連が想定されているが,完全性追求の特徴が明確でないとする研究(Kobori et al., 2011)もある。また,類縁性の高い「完全でありたい欲求」(桜井・大谷,1997)では,適応,不適応との関連が想定されていない。これらのことから,完全性追求については基準変数との関連に関わる仮説を設けず,探索的に検討することとした。
3) 仮説1,2では,高目標設置ならびにミスへのとらわれと直接対応する自動思考との関連のみを予測した。これは,これらのMPCI下位因子が,もう一方の対照的な下位因子を抑制するとする証拠が先行研究から得られていないからである。その一方で,仮説3,4では,肯定感情と否定感情の負相関を想定した予測をした。これは,測定上,一般的に肯定感情と否定感情とは負相関を示す傾向にあることに基づいている。
4) 本研究で行われた調査は東洋大学大学院社会学研究科研究倫理委員会の承認を受けている。
5) ATQ-Rについては作者の使用許可を得た。I-PANAS-SFについては独自に翻訳したものを使用した。翻訳内容とその因子構造についてはSupplement(電子付録)1を参照されたい。
6) 縦断データにおけるデータの欠測によって分析に悪影響が生じることが懸念されたので,パネルデータを用いた交差遅延効果モデルにおける共分散構造分析においては,完全情報最尤法を用い,1波のみに回答して2波では回答しなかった回答者も分析に含めた。この点は,ペアワイズ削除を行った他の分析と異なる。なお,ペアワイズ削除に基づく共分散構造分析も行ったが完全情報最尤法と同様の結果を得た。
7) MPCIの特定1因子を統制した偏相関係数も算出した。詳細な結果はSupplement(電子付録)2を参照されたい。
8) 2波データの限界についてご指摘いただいた査読者の先生に感謝いたします。