Japanese Journal of Social Psychology
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Exploring individual psychological characteristics associated with unmarried status: Focusing on attachment style
Ayumi KambaraHiroyuki MutoYoshiyuki SodekawaMasahiro Yamada
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Article ID: 2023-020

Details
抄録

In Japan, the percentage of single adults has been increasing steadily since 1990. Although previous studies have identified socioeconomic factors as a reason for individuals remaining single, they have largely overlooked psychological factors. Thus, the present study explored psychological factors associated with singlehood, with a focus on attachment style. We analyzed data obtained from 3,568 men and women aged 29–39 years. Using logistic regression, we examined the effects of socioeconomic variables, which previous research had determined to affect marital experience, and the two dimensions of attachment (i.e., anxiety and avoidance) on marital experience. The results demonstrated that the two dimensions of attachment were associated with marital experience even when controlling for the socioeconomic variables. The study observed that the socioeconomic variables moderated these associations. The findings highlighted the importance of considering not only socioeconomic but also psychological factors as possible determinants of marital experience.

問題

2020年度の国勢調査によると,未婚者の割合は,30–34歳人口で約45%,35–39歳人口で約30%であり,1990年以降,増加の一途である(内閣府,2021)。日本は先進諸国の中で群を抜いて婚外子が少なく,未婚率の高さは少子化の直接的な原因となる(岩澤,2008; 筒井,2015)。

若者が結婚しなくなったからといって,結婚を望まなくなった訳ではない。初婚平均年齢を超えた30代未婚者の約7から8割に婚姻への意志が確認されている(国立社会保障・人口問題研究所,2015; 内閣府,2016)。つまり,結婚を望みつつ結婚に至らない人が多くなったということである。既婚者は,未婚者よりも幸福感や生活満足度が概して高く,抑うつ傾向が低い(例えば,ホメリヒ,2019; Lucas & Dyrenforth, 2005)。したがって,未婚の原因となりうる要因を明らかにすることは社会にとっても一個人にとっても意義があると言える。

未婚者が増えた原因は主に社会学の分野で検討がなされ(国立社会保障・人口問題研究所,2015; 内閣府,2016),男性の経済的脆弱さや,女性の学歴の高さ,経済的自立などが挙げられてきた(例えば,加藤,2004; Raymo & Iwasawa, 2005; 山田,2020)。これらの結果から社会経済的要因と未婚との関連は明らかである。ただし,正規雇用で十分な収入を得ている40代男性でも4割が婚姻未経験であり(佐藤,2019),また女性の婚姻率はどの学歴層でも下がっている(森,2019; Raymo, 2003)。したがって,社会経済的要因以外と未婚との関連も検討する必要があると考えられる(永久・寺島,2015)。しかしながら,婚姻に関する心理的要因は,婚姻に対して前向きか否かという態度についての検討が散見される程度であり(中谷,2018; 山内・伊藤,2008),実際の婚姻経験の有無と関連する心理特性の検討はほとんど見られない。

そこで本研究では,未婚に留まる傾向と関連する心理特性として,自己や他者についての信念である愛着スタイルに焦点を当てる。なぜなら欧米では,不安定な愛着スタイルは長期的にパートナーを持たない傾向(以降,singlehood4))と関連することが報告されており,愛着スタイルの時系列的な変化(Konrath et al., 2014)が近年のsinglehoodの増加を招いているという指摘すらなされている(Pepping et al., 2018; Petrowski et al., 2015)。現在の日本では恋愛結婚が大半であることから(国立社会保障・人口問題研究所,2015),他の先進国においてパートナー,すなわち他者との親密な関係の構築・維持に関わる愛着スタイルは,本邦の婚姻経験とも関連する可能性が考えられる。そこで,社会経済的要因だけでなくこれらの心理特性も未婚と関連するか,またどのように関連するかを本研究では明らかにする。

愛着の2次元

親密な他者との関係の構築・維持に影響を与える心理特性として頻繁に取り上げられるのは,養育者との関係により形成される自己や他者についての信念である愛着スタイルである。子供は危機を感じた時に,主要な養育者との近接性を維持して安心を得ようとする。例えば,怖い目に遭うと泣いて母に駆け寄るというような行動である。Bowlby(1973)は,このような行動を愛着行動と呼んだ。そして,主要な養育者が子供の愛着行動に対しどのように反応するか,その繰り返しにより,子供は他者観「他者(特に,愛着対象)は援助や保護を求めた時に応答してくれる人間であるか(p. 204)」および自己観「自分は誰か(特に,愛着対象)に援助的に応答してもらえる人間であるか(p. 204)」を含む内的作業モデルを形成するとした。

そしてこの内的作業モデルの個人差が青年期以降の親密な対人関係にも影響することに注目がなされ,自己観と他者観の2次元は他者との関係性における特徴から記されるようになった。自己観のネガティブさは,自分は誰かから援助的に応答してもらえるような人間ではないと信じている傾向であるから,他者との関係への不安傾向の高さとして記される。他方,他者観のネガティブさは,他者は私からの支援や保護の求めに応じてくれないものだと信じている傾向であるから,他者との親密な関係を避けようとする傾向の高さとして記される(Brennan et al., 1998)。本稿では,自己観のネガティブさを関係不安傾向,他者観のネガティブさを親密回避傾向と呼ぶ。そして,どちらの傾向も低い人を安定した愛着スタイル,どちらかもしくはどちらもが高い人を不安定な愛着スタイルと呼ぶ。

これら愛着の2次元(関係不安・親密回避)が親密な関係に与える影響については多くの実証研究が行われ,関係不安および親密回避傾向の高さのどちらもがカップルや夫婦関係にネガティブな影響を及ぼすことを示している(Mikulincer & Shaver, 2016)。例えば,関係不安傾向の高さは,見捨てられることへの不安や親密性の希求から,過度な嫉妬や,喧嘩の多さと関連する(Campbell et al., 2005; Collins & Read, 1990; Simpson et al., 1996)。本邦でも,恋愛関係,夫婦関係のどちらにおいても,関係不安傾向の高さは,本人と相手の双方のネガティブ感情を介して関係満足度の低さにつながっている(金政,2010; 金政・大坊,2003)。他方,親密回避傾向の高さは,相手への情緒的コミットメントの低さ,すなわち困った時に相手を助けたり相手に助けを求めたりする傾向の低さや(Birnie et al., 2009; Feeney & Collins, 2001; Mikulincer & Shaver, 2016; Simpson et al., 1992),交際相手にコミットを求められることによる本人の関係満足度の低下につながる(Collins & Read, 1990; 金政・大坊,2003)。長年,愛着研究では既存のカップルや夫婦を対象としてその関係性に与える影響について検討が行われ,その一つ前の段階,すなわちパートナーの獲得や維持に及ぼす影響には注目がなされていなかった(pointed by Petrowski et al., 2015; Schachner et al., 2008)。

近年,欧米ではsinglehoodへの関心が高まり,パートナーの有無と愛着スタイルとの関係に注目がなされるようになった。例えば,愛着スタイルが不安定な人は安定している人よりも,真剣な交際中である確率が低く,また交際相手がいない確率が高いことが示された(Adamczyk & Bookwala, 2013; Bookwala, 2003)。またPetrowski et al.(2015)は,愛着の2次元とパートナーの有無との関連を検討し,愛着の2次元の高さが長期的なパートナーの不在と関連することを示した。これらの研究から,愛着の2次元の高さは交際への至りやすさにも,パートナーとの関係維持にもネガティブな影響を与えていることが伺える。

結婚ありきであった時代とは異なり,現在の日本では結婚には恋愛感情が必要であるという考えが多勢である(谷本・渡邉,2019)。そのため婚姻に至るには恋愛感情を伴う親密な関係の構築・維持が多くの場合に必要とされる。したがって,愛着の2次元の高さが真剣な交際の開始や関係維持にネガティブな影響を及ぼすなら,愛着の2次元は婚姻への結びつきづらさにもつながるだろう。

唯一,愛着スタイルと婚姻の関係を示したものとして,Kirkpatrick & Hazan(1994)が挙げられる。彼らは177名を対象とした1987–1991年の縦断調査において,不安定な愛着スタイルの人より安定した愛着スタイルの人のほうが4年後に交際相手と婚姻に至る確率が高かったと報告した。ただし,この調査が行われたのは先進国の未婚率が高まる前であり,その社会的背景が異なる。それを裏付けるように,例えば近年の研究では安定した愛着スタイルと交際相手を有することの関連が一貫して報告されているが(Adamczyk & Bookwala, 2013; Petrowski et al., 2015),Kirkpatrick & Hazan(1994)では,それらに関連は認められない。さらに婚姻を伴わない同棲にいたっては,不安定な愛着スタイルにその出現率が多い。時代や文化によってその交際ステータスの意味するところが異なるため(Soons & Kalmijn, 2009),現在の日本の未婚を説明する要因を明らかにするには,今改めて本邦において愛着の2次元と婚姻関係について調査をする必要がある。

本研究の目的

そこで本研究は,本邦における未婚と関連する要因を明らかにするために,婚姻経験と,社会経済変数および愛着の2次元との関連を包括的に検討することを目的とする。前述の通り,婚姻経験の有無は主に社会経済的要因によって説明がなされてきたが,個人の心理特性を含めることで婚姻経験の有無についてより多くを説明できる可能性がある。

これらの目的を達成するために,婚姻経験と関連することが多々示されてきた社会経済変数として「教育年数」,「年収」を取りあげる(例えば,加藤,2004)。そしてまず社会経済変数の主効果と交互作用をすべて検討することにより,社会経済変数で婚姻経験を説明できる程度を把握する。心理変数としては,愛着の2次元「関係不安」,「親密回避」を取りあげ,婚姻経験との関連を社会経済変数と同時に検討する。愛着の2次元と社会経済変数を同時に検討するのは,社会経済変数が婚姻経験と関連する可能性があるのはもちろんのこと,愛着の2次元と社会経済変数とにも関連が認められる可能性があるからである(Del Giudice, 2011; Schachner et al., 2008)。したがって,これらを同時に投入し,統制して検討することにより,愛着の2次元が婚姻経験に与える独自の影響を明らかにすることができる。

さらに本研究では,愛着の2次元と社会経済変数との一次の交互作用が婚姻に与える影響についても探索的に検討する。なぜなら,多くの人にとって婚姻は恋愛感情を伴う社会的契約であるなら(谷本・渡邉,2019),愛着の2次元と社会経済変数が独立して婚姻経験に与える効果以外に,それらの組み合わせによる効果も生じていると考えられるからである。例えば,年収の低さはそれだけで未婚と関連するから,愛着の2次元が婚姻経験に及ぼす影響は年収が一定以上の人にのみ認められる可能性も考えられる。このように,愛着の2次元と社会経済変数との交互作用を探索的にではあるが同時に検討することにより,愛着の2次元と婚姻経験との関係をより詳しく明らかにすることが可能となる。そして,これらすべてを通して得られた婚姻経験を説明できる程度が,社会経済変数のみで婚姻経験を説明できる程度よりも高まるのかを確認する。

方法

調査対象者と調査時期

2019年2月14から19日に楽天インサイトの登録者(関東圏5))19–39歳を対象に,婚姻関係についての検討を目的としたWeb調査を行った。性別2区分×年代4区分×未既婚2区分=16割付に層化し,各区分の割合が2015年の国勢調査結果と同じ割合になるよう,該当するモニターからシステムが無作為に抽出したモニターに調査依頼メールを配信し6,000名を集める調査設計であった。

本研究は,その文化における婚姻適齢期となっても未婚に留まることに関連する心理要因を明らかにすることを目的としている。そこで平均的な初婚年齢を超えている人を選択的シングルとすることを推奨しているKislev(2019)などに倣い,収集したデータのうち初婚年齢(中央値28歳,厚生労働省,2020)以上のデータ(29–39歳)を抽出して分析を行った。

倫理的配慮

楽天インサイト株式会社の個人情報保護方針に則り,収集したデータは匿名性を守った形で学術機関などに提供される旨が書面で説明がなされ,その説明に了承した方のみ回答を行った。

調査内容

質問項目は以下のとおりである。性別や年齢などのデモグラフィック変数は,リクルートの際に回答済みであった。

愛着スタイル

成人の愛着の2次元の測定には,すでにその妥当性が確認されている(金政・大坊,2003; 中尾・加藤,2004),Bartholomew & Horowitz(1991)の対人関係尺度(Relationship Questionnaire)の日本語版(加藤,1998)を用いた。Griffin & Bartholomew(1994)に基づき,4つの愛着スタイル「安定型」,「囚われ型」,「拒絶型」,「恐れ型」の特徴を記したそれぞれの文章について,自分に当てはまる程度を「全く当てはまらない(1)」から「非常によく当てはまる(7)」の7段階で回答を求めた6)

婚姻状況・経験

事実婚を含む婚姻経験や状況について,「現在配偶者がいる」,「現在配偶者はいないが,以前結婚していたことがある(離婚・死別など)」,「現在配偶者はおらず,今まで結婚したことはない」の3つの選択肢から回答を求めた。また,結婚している人には結婚時期について数値で回答を求めた。

その他の変数

最終学歴について,「中学校」,「高校」,「専門学校」,「短期大学/高等専門学校」,「大学」,「大学院」から選択を求めた。今年の見込み年収について,「収入はない」,「100万未満」,「100万以上200万未満」,「200万以上300万未満」,「300万以上400万未満」,「400万以上500万未満」,「500万以上600万未満」,「600万以上800万未満」,「800万以上1,000万未満」,「1,000万円以上」,「わからない」から選択を求めた。

結果

分析対象となった回答者は29から39歳の男女合計3,568名であった。なお,部分的な無回答にはペアワイズ除去法を適用した(したがって,分析によってはNが3,568名未満になる)。男性は1,820名(51.0%),女性は1,748名(49.0%)であり,平均年齢は34.2歳(SD=3.19)であった。

予備分析

婚姻経験と婚姻期間の記述統計量

婚姻経験有り(現在配偶者有り)群は2,139名(59.9%),婚姻経験有り(現在配偶者無し)群は132名(3.7%),婚姻未経験群は1,297名(36.4%)であった。本研究は婚姻経験と関連する要因を検討することであること,また婚姻経験有り(現在配偶者無し)群が極めて少なく結果に大きな影響を与えると考えにくいことから,婚姻経験有り(現在配偶者有り)群と婚姻経験有り(現在配偶者無し)群を婚姻経験有り群としてまとめた。結果として,婚姻経験有り群は2,271名(63.6%),婚姻未経験群は1,297名(36.4%)であった。また婚姻経験有り(現在配偶者有り)群において現在の年齢から結婚時の年齢を引き,婚姻期間を算出した。婚姻期間平均値は5.7(SD=3.8)であった。

愛着の2次元の記述統計量

まず,自己観得点および他者観得点を算出する。Scharfe & Bartholomew(1994)Griffin & Bartholomew(1994)に従って,自己観得点は,ポジティブな自己観を持つ「安定型」と「拒絶型」の評点を足したものから,ネガティブな自己観を持つ「囚われ型」と「恐れ型」の評点を引くことで算出した。また,他者観得点は,ポジティブな他者観を持つ「安定型」と「囚われ型」の評点を足したものから,ネガティブな他者観を持つ「拒絶型」と「恐れ型」の評点を引くことで算出した。各愛着スタイルへの評定値が7件法であることから各得点の最高値は12(7+7−1−1),最低値は−12(1+1−7−7)となり,これらの点数が高いほど自己観・他者観がポジティブであり,関係不安傾向・親密回避傾向が低いことを示す。そこで,これら自己観・他者観得点の符号を逆転させ,関係不安および親密回避尺度得点とした。

なお本邦における愛着の次元軸の適応可能性はすでにその妥当性が確認されている(金政・大坊,2003)。関係不安尺度得点は平均値−0.16(SD=3.52),中央値0であり,親密回避尺度得点は平均値−0.26(SD =3.66),中央値0であった。2つの尺度得点のピアソンの相関係数は.09(p<.001)であった。

その他の変数の記述統計量

教育年数については,Crowell et al.(2002)を参照し,中学卒業時から最終学歴を修了するまでに最低必要年数を教育年数得点とした(例えば,「中学校」=0,「大学」=7など)。平均値は男性6.44(SD=1.94),女性5.72(SD=1.76)であった。

年収について,「わからない」を選択した368名は欠損値として扱った。それ以外の回答は,選択肢に記述している年収範囲の中点を10万で除した数をその人の年収値とした(例えば「400から500万」を選択した人は「45」とした)。全体の年収平均値は39.2(SD=28.4)であり,男性の年収平均値は54.1(SD=24.8),女性の平均値は23.2(SD=22.7)であった。

各測定変数間の関連

各測定変数間の関連を検討するために,ピアソンの相関係数の算出を行った。「性別」と「婚姻経験の有無」はダミー変数を作成し分析に用いた(性別:男性=−0.5,女性=0.5,婚姻経験の有無:なし=0,あり=1)。その結果をTable 1に示した。

Table 1 各変数間の相関係数

12345678
1年齢−.01−.06**.05*.18**.43**−.02.01
2性別−.19**−.54**.12**.04.08**−.02
3教育年数.37**.02−.14**−.06**−.01
4年収.02**−.08**−.13**−.05*
5婚姻経験の有無NA−.05*−.16**
6婚姻期間.02.03
7関係不安.09**
8親密回避

Note. N=2,047–3,568 

*p<.05, **p<.01 

性別:男性=−0.5,女性=0.5,婚姻経験の有無:なし=0,あり=1

社会経済変数と心理変数が婚姻経験の有無に及ぼす影響

愛着の2次元が婚姻経験と関連する程度,および社会経済変数に愛着の2次元を加えることで婚姻経験を説明する程度が高まるかについて検討する。分析に先立って,すべての量的変数を標準化した。また,質的変数である「性別」をダミー変数(男性=−0.5,女性=0.5)に変換後,中心化した。そして,従属変数を婚姻経験の有無(なし=0,あり=1)とし,次に記すとおり段階的に独立変数を投入してロジスティック回帰分析を行った7)。その結果をTable 2に示した。

Table 2 婚姻経験を従属変数としたロジスティック回帰分析結果

Step 1Step 2Step 3
b95% CIOdd rationsb95% CIOdd rationsb95% CIOdd rations
(切片)0.290.310.33
年齢0.390.300.48***1.480.400.310.49***1.500.410.320.50***1.51
性別0.540.350.74***1.720.520.320.72***1.690.510.310.72***1.67
教育年数0.04−0.060.131.040.04−0.060.141.040.05−0.050.151.06
年収0.09−0.030.221.100.05−0.070.181.050.03−0.100.161.03
性別×年齢0.200.000.40*1.220.200.000.401.220.19−0.010.401.22
教育年数×年齢0.00−0.090.101.000.01−0.080.111.010.02−0.080.121.02
年収×年齢0.12−0.010.251.130.130.000.251.130.11−0.020.241.11
性別×教育年数0.320.100.53**1.370.300.090.52**1.350.310.090.53**1.36
性別×年収−2.19−2.44−1.95***0.11−2.16−2.42−1.92***0.11−2.18−2.44−1.93***0.11
教育年数×年収0.00−0.120.121.000.01−0.120.131.01−0.01−0.130.120.99
関係不安−0.13−0.22−0.04**0.88−0.14−0.23−0.04**0.87
親密回避−0.27−0.36−0.18***0.76−0.28−0.37−0.19***0.76
年齢×関係不安−0.03−0.120.060.97
年齢×親密回避−0.05−0.140.040.95
性別×関係不安0.01−0.200.221.01
性別×親密回避0.1−0.100.311.11
教育×関係不安−0.06−0.150.040.94
教育×親密回避−0.07−0.170.020.93
年収×関係不安0.03−0.100.161.03
年収×親密回避0.170.040.30**1.18
Nagelkerle’s R2.236***.255***.259***
ΔR2.019***.004
残差逸脱度(−2×尤度比の対数)3,0513,0042,993

* p<.05, ** p<.01, *** p<.001 

性別:男性=−0.5,女性=0.5,婚姻経験の有無:なし=0,あり=1

Step 1では社会経済変数「年齢」,「性別」,「教育年数」,「年収」とそれらの交互作用項を,Step 2ではStep 1に加えて愛着の2次元を投入した。Step 3では,Step 2に加えて愛着の2次元と社会経済変数の交互作用項を投入した。Step 1で社会経済変数の交互作用項をすべて投入したのは,社会経済変数が婚姻経験を説明する割合を最大限に把握するためである。変数が多くなるが,吉田・村井(2021)に基づき全過程において強制投入法を用いた。また全体において1次までの交互作用に限定したのは,モデルが必要以上に煩雑になり解釈が困難になることを防ぐためである8)。なお,モデル比較は同一のデータを用いて行う必要があるため,少なくとも1つの変数に欠損値を含む回答者のデータはすべてのStepで分析から除外した(有効な回答者数は2,836名)。尤度比検定の結果,適合度はStep 1の社会経済変数のみを含むモデル(Nagelkerke’s R2=.236)よりも,心理変数を加えたStep 2(Nagelkerke’s R2=.255)とStep 3(Nagelkerke’s R2=.259)のモデルにおいて有意に高かった。Step 2とStep 3を比較した尤度比検定の結果は有意ではなかったが,本研究ではすべての説明変数をモデルに投入した際の偏回帰係数に関心があるため,以下では社会経済変数と愛着の2次元の交互作用項を含むStep 3における偏回帰係数の検定結果を報告する。Figure 1は,Step 3で有意であったすべての交互作用における単純傾斜分析の結果を示した。

Figure 1 有意であった交互作用項に関する単純傾斜分析の結果。誤差帯は標準誤差を,p値は単純傾斜検定の有意確率を表す

社会経済変数は,性別と教育年数,性別と年収の交互作用が有意であった(Table 2)。単純傾斜分析の結果から,女性においては教育年数が長いほど婚姻を経験する傾向が認められたが(b=0.21, 95% CI=[0.04, 0.37], p=.013),男性には認められなかった(b=−0.10, 95% CI=[−0.23, 0.03], p=.126; Figure 1(a))。年収と婚姻経験率については,男性では正の関連(b=1.12, 95% CI=[0.93, 1.30], p<.001),女性では負の関連が認められた(b=−1.06, 95% CI=[−1.24, −0.89], p<.001; Figure 1(b))。

心理変数においては,関係不安傾向や親密回避傾向が低いほど婚姻を経験する傾向が認められた(Table 2)。さらに,社会経済変数である年収と親密回避傾向との間に交互作用が認められ,親密回避傾向の高さが婚姻未経験と関連する傾向は,年収が高い人ほど弱まることが示された(Figure 1(c))。

考察

本研究は,初婚年齢中央値以上の男女において,愛着の2次元という個人の心理特性と婚姻経験の有無との関連を実証的に検討することを目的として行われた。そして本研究の結果,愛着の2次元の高さは婚姻未経験と関連することが示された。そして社会経済変数に心理変数を加えることにより,婚姻未経験を説明できる程度が高まることが示された。以下に結果の詳細について考察を行う。

まず,社会経済変数が婚姻に及ぼす影響は先行研究の結果と一致していた。したがって,ここでは特徴的な結果のみ考察する。女性では教育年数が長いほど婚姻率が高い傾向が認められた(Figure 1(a))。従来は,女性では学歴の高さが未婚につながると報告するものもあったが(Raymo, 2003; 塩原,2006),近年の研究は,結婚時期は学歴によって異なり,30代になると大卒女性の婚姻率が高まることを指摘している(森,2019; 佐々木,2012)。本結果はこれらの指摘と一致しているといえる。

次に,心理変数について検討する。関係不安傾向と親密回避傾向のどちらの高さも未婚につながることが確認された。欧米では愛着の2次元の高さとパートナーの不在との関連が示されているが(Petrowski et al., 2015),本研究結果から愛着の2次元の高さは,本邦の未婚とも関連することが示されたといえる。

続いて,年収が高いと親密回避傾向の高さが婚姻未経験につながる傾向が弱まることは新たな発見であった(Figure 1(c))。親密回避傾向の高さが婚姻経験を遠ざけると予想したのは,親密回避傾向が高いと本人がその関係に情緒的に依存しない,また情緒的に依存されることを忌避するからであった。これはすなわち相手に情緒的依存価値を求めない上に,相手に情緒的依存価値を提供できないことを意味する。ただし,婚姻の価値は,情緒的依存価値に限らず,社会的承認価値,経済的価値などがあるという(永久・寺島,2015)。婚姻がもたらすこれら複数の価値から,本結果を考察すると以下のように考えられる。

まずは親密回避傾向が高い人が求める婚姻の価値からの解釈である。親密回避傾向の高さは,他者への情緒的依存傾向とは関連しないが,道具的依存傾向とは正の関連が認められている(Alonso-Arbiol et al., 2002)。したがって,婚姻契約そのものや婚姻相手に道具的価値を見出せば,親密回避傾向が高くとも本人は婚姻に前向きになると考えられる。その際に本人の年収が高ければ,道具的価値が高い,すなわち社会的承認価値,経済的価値を提供してくれる相手とのマッチングの可能性は高まるだろう。そのため年収が高いと親密回避傾向の高さが婚姻未経験につながる傾向が弱まるという解釈が可能である。

もう1つは,親密回避傾向が高い人が婚姻相手にもたらすことができる婚姻の価値からの解釈である。親密回避傾向が高い人は,婚姻相手に情緒的依存価値をもたらすことができないことは先ほど述べた通りであるが,年収が高ければその他の2つ,経済的価値や社会的承認価値をもたらす可能性は高まる。したがって,親密回避傾向の高さが未婚につながる傾向が年収の高さによって弱まるのは,情緒的依存価値は提供できなくとも年収の高さが相手に経済的価値や社会的承認価値を提供する可能性を高め,それらに婚姻価値を見出す相手とは婚姻が成立するからであるという解釈が可能である。

他方,関係不安傾向の高さと婚姻経験との関連には年収の調整効果が認められなかったことについて考察する。関係不安傾向の高さは相手への情緒的依存の高さと正の関連がある(Alonso-Arbiol et al., 2002)。そうであるなら,関係不安傾向が高いと本人が相手に対して情緒的依存価値を求めるがゆえ,道具的価値のみの交換による婚姻を望まないだろう。そのため年収の高さによって道具的価値が高い相手とのマッチングの可能性が高まったり,相手にとって自分の道具的価値が高まったりしたとしても婚姻が成立しやすくなることがないと捉えることができるだろう。

婚姻は社会的契約でありつつ恋愛感情が必要であるという考えが多勢であるなら(谷本・渡邉,2019),社会的要因と心理的要因の交絡した影響が容易に想像できるはずである。それにもかかわらず,本邦の未婚に関連する要因は社会経済的要因についての検討がほとんどであり,心理的要因を含めた検討はなされてこなかった。本研究はその一端を明らかにしたといえるだろう。さらに本研究は,社会経済的要因だけでなく心理的要因を含めることによって婚姻経験の有無を説明できる程度が少しでも高まることを実証的に検討したことに意義があるといえる。

また本研究を愛着研究として捉えた際の意義は次のように考えられる。本邦のこれまでの愛着研究は既存夫婦や既存カップルの心理的機能を高めることに焦点を当てており,一部の人がなぜ未婚に留まるのかについては,これほど未婚率が高まった今でも検討がなされてこなかった。本研究は,愛着スタイルが誰かの心理状態に関連するだけでなく,婚姻の有無という社会的状態と関連することを示し,愛着スタイルが社会的構造に影響を及ぼし得ることを初めて示唆したことに意義があるといえるだろう。

未婚と関連する社会経済的要因である年収や学歴は,社会の中での相対的位置づけである。したがって,全員が“高年収”や“高学歴”になることは不可能である。また経済的環境の全体的な底上げを考えるなら,国や自治体レベルでの対策が求められる。それに対し,愛着スタイルは専門家との長期的な関わりによって安定化させることが可能である(岡田,2016)。もちろん愛着スタイルの安定化も容易なことではないが,本研究は,未婚に関わる要因の中でも,個人レベルで対策が可能であり,かつ相対的評価でないがゆえ全体の底上げが可能な要因を明らかにしたといえる。

本研究の制約と今後の課題

本研究の結果を解釈する上で留意すべき点は,すべてのデータを一時点で収集しているため,因果関係が特定できない点である。この点について,本研究の核となる婚姻経験と愛着スタイルの因果関係はどのように考えられるだろうか。愛着スタイルは,基本的に幼年期の家族関係によって形成されるとされている(Hazan & Shaver, 1987)。したがって時間的な前後関係から見て,本研究で認められた愛着スタイルと婚姻経験の有無との関連は,愛着スタイルが婚姻経験に影響を及ぼした結果であると捉えることができる。一方で,パートナーとの良好な関係により愛着スタイルが安定化するという逆向きの因果関係が部分的に含まれている可能性も否定できないため解釈には留意が必要である。ただし,愛着の安定化が生じる夫婦の割合は極めて低いこと(Crowell et al., 2002),また本研究では婚姻期間と愛着の2次元に相関が認められなかったことから,逆向きの影響は仮にあったとしても小さいと解釈できるだろう。

本研究では,愛着の2次元が婚姻経験の有無に関連している可能性を示した。しかしながら,愛着の2次元が,婚姻に至るどのプロセスに,どのように影響を及ぼしているのかについては不明である。例えば,初対面の印象が悪く交際を開始しづらいのか,それとも交際には至るが親密な関係が維持できないのか,親密な関係を維持するが婚姻という形に至らないのか,など。愛着の2次元それぞれがどのプロセスにどのような影響を及ぼしているのかを明らかにすることにより,愛着スタイルが婚姻経験に及ぼす過程に理解が深まるだろう。

さらに,不安定な愛着スタイルは,認知の偏りや,コミュニケーションスキルと関連することが報告されている。例えば,原因帰属の偏り(Collins et al., 2006),葛藤場面における非建設的な対処(Simpson et al., 1996)などとの関連である。そうであるなら,愛着の2次元それ全体というより,それらと関係する認知の偏りや特定のコミュニケーションスキルが婚姻経験の有無に影響を与えている可能性も考えられる。今後,愛着スタイルだけでなく,その人が有するコミュニケーションについての信念・行動・習慣なども含めて測定することにより,愛着スタイルと婚姻経験の媒介要因を特定することが求められる。

脚注

1) 本研究は,山田昌弘(中央大学)を研究代表者とするJSPS科研費(16H03699)の助成によって実施された。

2) 本研究の一部は,日本心理学会第84回大会(2020)で発表された。

3) 現所属なし,退職済み。

4) 本稿におけるsinglehoodの意味は,欧米での愛着研究(例えば,Pepping et al., 2018)での定義「法的な婚姻関係の有無にかかわらず,長期的なパートナーを持たない人」という意味で用いる。

5) 統制すべき社会経済変数が膨大になることを防ぐために調査対象地域を限定する必要があった。本研究の目的を鑑み,若年人口が多く,またその男女比が1対1に近い(内閣府,2023)ことから関東圏が選択された。同時に,本研究の結果の解釈は関東圏に限定されることに留意が必要である。

6) Relationship Questionnaireは,単一項目で測定しているため内的一貫性は算出することができないが,その信頼性はLigiéro & Gelso(2002)などによって確認されている。

7) 独立変数間に相関が認められるものもあったが,その程度はすべて中程度未満であった。また,すべてのステップにおいてVIFの値は最大でも1.58であったため,多重共線性は生じていないと判断した。念の為,婚姻経験有り(現在配偶者無し)群を除外した分析も行ったが,Step 1の年齢と性別の交互作用に有意差が認められなくなる以外,有意となる項目は除外前と同じであった。

8) 事後的に2次までの交互作用を含むモデルの検討も行ったが,2次の交互作用はいずれも有意ではなかった。

利益相反

なお,本論文に関して開示すべき利益相反関連事項はない。

引用文献
 
© 2024 The Japanese Society of Social Psychology
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