熱帯農業
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ベトナム北部におけるタロイモ: その利用, 栽培および遺伝的変異
松田 正彦縄田 栄治
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キーワード: 農業生態, 倍数性
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2002 年 46 巻 4 号 p. 247-258

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抄録

ベトナム北部の紅河デルタと山地部において, タロイモ数種の利用と栽培について調査した.その現状や変化を農業生態・社会・経済的な側面から考察し, また, 異なる生態地域間での比較をおこなった.さらに, 収集した30系統のタロイモについては, 形態・倍数性・リボゾームDNAにおける制限酵素断片長多型 (RFLP) の調査から遺伝的変異を明らかにした.本研究ではColocasia esculenta var. esculenta, C.esculenta var. aquatilis, C.gigantea, Xanthosoma sagittifolium, X.violaceum, Alocasia macrorhizaおよびA. odoraが観察された.デルタの調査地では C. esculenta var. aquatilis (2n=2x=28) が灌漑水路脇や池の周囲に頻繁に群生しており, その葉柄や匍匐枝は野菜やブタの飼料として利用されていた.このvar. aquatilisはデルタの農業生態系で機能していることがわかったが, 近年, 水路や池の舗装や飼料の多様化などにより、その重要度が低下していた.C. esculenta var. esculenta (2n=2x, 3x=28, 42) はデルタでは商品作物として栽培され, 一方, 山地部では自給用に焼畑で栽培されていた.リボゾームDNAのRFLP分析より, デルタ地域あるいは山地部の調査地内ではそれぞれ遺伝的に近縁なvar. esculentaの品種がみられた.しかし, 両地域に分布する近縁な品種はみられなかった.この分布の傾向は, アジアにおけるC. esculentaの複数の伝播経路がこの地域に影響した結果と考えられた.Xanthosoma spp. (2n=26) はすべての調査地に分布し, その利用や栽培に類似性がみとめられた.収集したXanthosoma系統も遺伝的に均一であった.Colocasia gigantea (2n=28) もそれほど頻繁ではないが野菜として広く複数の調査地に分布していた.Alocasia odoya (2n=28) は薬用として用いられ, A. macyoyyhizaは山地部でブタの飼料として頻繁に採集されていた.

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© 日本熱帯農業学会
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