熱帯農業
Online ISSN : 2185-0259
Print ISSN : 0021-5260
ISSN-L : 0021-5260
琉球諸島のスダジイの遺伝的多様性
ビダナアラッチ ビジタR.M.馬場 繁幸村山 盛一
著者情報
ジャーナル フリー

2005 年 49 巻 1 号 p. 53-60

詳細
抄録

スダジイ (C.cuspidate var. sieboldii) は亜熱帯の南西諸島の森林を代表する樹種の一つであり, 三つの主要な諸島の沖縄諸島, 宮古諸島並びに八重山諸島から構成される琉球諸島では, 経済的にも重要な林木であるにもかかわらず, 本種に関する遺伝学的な解析がこれまで行われることは少なかった.本研究では, 沖縄島, 石垣島, 西表島の10集団, 216個体から試料を収集し, マイクロサテライト6遺伝子座を用いて, 遺伝的な解析を行った.その結果, 1遺伝子座に多くの対立遺伝子が見出され, ヘテロ接合度の期待値 (HE) は0.862~0.927であった.解析した6遺伝子座の5遺伝子座でヘテロ接合度の観察値 (HO) は, バーディ・ワインベルク平衡から大きく離れた値を示し, 相対的に高いミスアンプリケーションが3遺伝子座で観察された (12.5%, 11.5%, 7.4%) .集団ごとのヘテロ接合度の観察値 (Ho) も, バーディ・ワインベルク平衡から大きく乖離したが, FISがプラスの値を示したことから, 自殖の可能性が生じていることが示唆された.相対的に高いホモ接合度がいくつかの集団で顕著であった.自殖率も高い傾向であった.集団間には有意な変異が認められたが, それは小さく, 大きな遺伝的変異は集団内にみられた.バーディ・ワインベルグ平衡からの乖離は, 明らかにヘテロ接合の欠如によるものであり, それは自殖, ミスアンプリケーションやヌル対立遺伝子の存在によるものかもしれないと考えられた.八重山諸島の西表島と石垣島での遺伝距離は相対的に小さかった.しかし, それら八重山諸島と沖縄島の間の遺伝距離は, 八重山諸島内や沖縄島内の遺伝距離に比較して大きかった.スダジイの殻斗果は耐塩性がないことから, 島々の隔離が島の間での遺伝子流動の強い制限を生じていることも考えられた.沖縄島の遺伝的多様性は, 八重山諸島の遺伝的多様性よりも大きかった.そのことはスダジイが日本本土から琉球諸島への移住を示唆しているかもしれない.

著者関連情報
© 日本熱帯農業学会
前の記事 次の記事
feedback
Top