本号のテーマは「トラウマと報道」である.デジタル大辞泉によれば報道について2つの大意があり,「告げ知らせること.また,その内容.報知.」「新聞・ラジオ・テレビなどを通して,社会の出来事などを広く一般に知らせること.また,その知らせ.」となっている.報道ときいてイメージしやすいのはマスメディアであろう.
「トラウマと報道」という名称は多義的である.例えば,日本トラウマティック・ストレス学会では2022年3月にホームページ上で「惨事報道の視 聴とメンタルヘルス」と題した記事を公開した.これは,前月のロシアによるウクライナ侵攻に合わせた記事で,メディアの視聴者に向けたものである.これは,「トラウマと報道」という文脈においては,「報道されることによって引き起こされるストレス」による精神的影響への懸念に対する対応,と考えることができる.センセーショナルなものを良しとしがちな報道分野において, 人々への心理的衝撃について配慮するということはどのようなことなのかを考えることも重要な視点である.
一方,ジャーナリストが心的外傷的出来事を体験することによる影響もまた「トラウマと報道」の大切な側面である.通常,トラウマを体験する被害者・被災者は意図せずに出来事に遭遇することがほとんどであるが,ジャーナリストは職務として取材地が災害・事件・戦闘等の現場であることを知って赴くという違いがある.事前にある程度の備えができるとはいえ,現地入りしたスタッフが取材中に当事者となる場合も少なくないだろう.
「トラウマと報道」を,「心的外傷的出来事がどのように報道されるべきか」という切り口で見ることは,むしろ王道であるともいえる.個人がSNSを通じて発信する情報も報道であり,発信・受信の双方で情報をどう扱うかが課題となる.
特集名を安直に「トラウマと○○」と名づける傾向には気をつけなければならないが,多面的に捉えることができるという点で,「トラウマと報道」は本号特集には大変ふさわしいタイトルである.