2009 年 28 巻 2+3+4 号 p. 117-128
Wnt は生物種を越えて保存されており、動物の発生に必須な分泌蛋白質である。Wnt シグナル経路に関する研究はショウジョウバエの遺伝学に端を発し、アフリカツメガエルを用いた発生生物学や細胞生化学においても解析が進み、多様な研究領域に展開した。Wnt は、細胞膜受容体に結合することにより(1)β-カテニン経路、(2)平面内細胞極性経路(PCP 経路)、(3)Ca2+ 経路の3種類の細胞内シグナル経路を活性化する。β-カテニン経路は細胞の増殖や分化を制御し、その異常は種々のヒト疾患を引き起こす。PCP 経路と Ca2+ 経路は β-カテニン非依存性経路であり、細胞の運動や極性、形態形成に関与する。この総説では、最近明らかになりつつある β-カテニン非依存性経路の活性化機構とその生理的意義について概説する。