抄録
本研究では従来の「習得」という考え方を補完する「専有」という学習観にもとづき、あるEPA介護福祉士候補者が特定の専門用語をどのように捉えているかを1年間の縦断的インタビューによって明らかにすることを試みた。調査協力者にとって当初「不穏」という言葉はある入居者の不可解な状態を表し、取ってあげるべきものとして認識されていたが、就労現場で自らの位置を見いだすに伴い、調査協力者は不穏を入居者の一部を表すものとして意味を変容させ、受け入れるようになっていた。また、「訪室」、「誘導」という言葉に関しても介護記録を書くという行為への主体的な参加によって言葉がどのように用いられるかを自らの経験から解釈し認識するようになっていた。いずれのケースにおいても言葉が具体的な実践と結びつきながら自分のものとなっており、本研究では専門用語に関する課題をEPA介護福祉士候補者の独創的な学習過程として捉える視座を提示した。