抄録
MC903の単回投与毒性を検討するため,ラットを用いた皮下および経皮投与,イヌを用いた経皮投与による単回投与毒性試験を実施し,以下の結果を得た。1. LD50値は,皮下投与でラット雄:2.19 mg/kg,雌:2.51 mg/kgであった。経皮投与でラッド雌雄:各15 mg/kg以上,イヌ雄:1.5 mg/kg以上と推定した。ラットでは,投与経路による性差はなかった。2. ラットの死亡例は皮下および経皮投与で,いずれも投与後1日から3日に認めた。死亡例の主な症状は皮下および経皮投与に共通して,体重減少,自発運動減少,眼瞼周囲赤色汚れ,流涙,背湾爪先立ち歩行,被毛失沢を認めた。さらに,皮下投与では雌雄に流涎,鼻汁,立毛,眼瞼下垂,閉眼,下痢,不整・粗大・努力性開口呼吸,間代性・強直性痙攣,雄に鼻出血,体温低下,尿失禁,雌に腔出血,軟便,チアノーゼであった。生存例の主な症状は,死亡例の皮下および経皮投与に共通して認めた症状に加え,皮下投与では鼻周囲・前肢内側赤色汚れ,眼瞼下垂,閉眼,不整・粗大呼吸,立毛および投与部皮膚の褪色・しこり・脱毛・痂皮形成を,経皮投与では軟便,下痢,削痩を認めた。一方,イヌでは死亡例は認めなかった。主な症状は口唇部・耳介部の発赤,眼球充血,眼瞼周囲赤紫色化,皮膚の落屑,嘔吐,食欲不振,無便,眼脂,自発運動減少および削痩であった。3. 剖検所見において,ラットの死亡例では,皮下および経皮投与に共通して腎臓の褪色を認めた。さらに,皮下投与では多数例に胃拡張,少数例に脾臓の褪色,肺の赤色斑・赤色化,腎臓出血,胃の出血斑・粘膜白色化・漿膜白色点・赤色内容物,小腸漿膜白色点,胸腺の赤色斑,副腎赤色化,胸水黒色化,肝臓黒色化・奇形結節など,経皮投与では心臓の白色斑・白色点を認めた。生存例では,皮下投与で腎臓の褪色,精巣の小型化,副脾および投与部皮下に赤色斑を少数例に,投与部皮膚に対照群を含む多数例に痂皮形成,脱毛,皮下に塊を,経皮投与で心臓に白色点を認めた。一方,イヌでは投与部皮膚の落屑,ロ唇粘膜の発赤,腎臓の軽度腫脹と尿細管の走行に沿った淡灰黄色線条,甲状腺の褪色と軽度な軟化を認めた。4. 病理組織学的所見で,イヌの投与部表皮に肥厚と錯角化,真皮に線維細胞の増殖あるいは膠原線維の増加,皮脂腺および汗腺の肥大と分泌亢進を認めた。さらに,最高用量群で,類上皮細胞性肉芽形成,好中球浸潤,尿細管にカルシウム沈着,甲状腺の間質に脂肪細胞浸潤とカルシウム沈着を認めた。5. 以上の結果から,ラットおよびイヌに認めた変化は,MC903による高カルシウム血症に起因し,ラットの死因は,高カルシウム血症による心臓および腎臓障害と推察した。