1928 年 41 巻 7 号 p. 647-655
從來細菌性毒素を用ひて小動物に活動性免疫を賦與する事は殆んど不可能と思惟せられ大動物に於てすらも毒素の幾万分の一といふ極微量より初めて長時日を要し漸く免疫し得たに過ぎない故に毒性を減弱し然かも抗元性を保持する樣な抗元を作らんとして幾多の研究業蹟が發表されたが何れも毒力の減弱は抗元性の減弱を伴ひ所期の効果を收め得なかつた此方面に於ては奉天獸研奧田氏のルゴール・トキシンに依る興味ある研究がある最近佛國ハストール研究所のRamonはエチールアルデヒイド・クロトンアルデヒイド・アクロレイン等のアルデヒイド類を用ひ研究中「フオルマリン」と熱との二のフアクターを用ふる事に依り毒素の毒性を全く消失せしめ然も免疫元性を完全に保持する物質を作る事に成功し之を「アナトキシン」と命名した「アナトキシン」が果してラモンの稱する如き特性を有する者とせば免疫學上甚だ興味多きのみならず畜産學上軍事上甚だ重要な意味を有する故余はラモンの方法に依り破傷風「アナトキシン」を作り追試せるに予期以上の効果を收め得たるに付報告する