應用獸醫學雑誌
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犬の定型的腹式帝王截開術
原 晴
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1933 年 6 巻 10 号 p. 708-711

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抄録

一、生殖管の無菌的なること。故に分娩前より帝王截開術を豫定する場合は内診及び膣洗滌を禁忌とする。
二、胎胞の保存又は破水後長時を經過してはならぬ。破水後長時を經過し、生殖器感染の恐れあるか或は巳に發熱、脈摶頻數を呈する場合は絶對的適症に於てはポルロ法を、比較的適症に於ては寧ろ穿顱術を行はなくてはならない。
三、比較的適症に於ては胎兒の生存を必要とする。
四、手術室の設備及器械の整頓を要する。
家畜の帝王截開術殊に犬のそれは比較的容易に行はれると雖も、學生時代の産科學の講義でノートの二、三頁位の筆記で其の大要を修得した丈けにては實地開業に當つて實に隔靴掻痒の感があるのである。これ此種の産科實習など思ひもよらぬからである。
臨床獸醫家としても犬の如き、畜主が經濟問題を第一に置くので此の種の難産に遭遇するも之れを實施することは比較的稀で、最近五ヶ年間に於ける自家診療簿による犬の帝王截開術は僅かに二一例に過ぎない。
今此處に其の一例を記することゝする。
患畜。牝犬ボストンテリヤ種二才虎毛チビ號。
初診。昭和八年六月十三日。
本犬は交尾後六三日目の午後五時頃より産氣付き出血、羊水の如き下りものあり、それより胎膜の一部を膣外に現はし二時間を經過するも未だに分娩しないと云ふので往診を乞はる。
患畜は不安疼痛を訴ふるものの如く時々叫鳴呻吟する。觸診に於て胎兒の運動するを、手を以て感知し聽診に於て胎兒の心音を聽取する。母畜の心衰弱を虞りカンフオロイド二。。を皮下注射する。内診せるに胎兒の過大なることが判明した。即ち胎兒體の全部特に其の種類よりして頭部が過大にして産道通過に適せない。因つて多量の消毒せるオレーフ油を注入し腹部に温罨法及び按摩法を施し強き陣痛を催起せしめ、やうやく一胎兒を牽引挽出した。然るに他の胎兒が數時間を經過するも分娩しないので分娩不可能と見て定型的帝王截開術を行ふことゝした。

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